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05 大魔導士とその弟子

「着いた。ここが僕の今の家だよ」


 結局ロキの家につくまで数十分もの間、お姫様抱っこされ続けてすっかり茹蛸のようにのぼせてしまったエレナはようやく優しく地面に下ろしてもらった。


 何度かもう自分で歩けると抗議したのだがロキはにっこりと笑ったまま絶対に降ろしてくれなかったのだ。


(これは心臓に悪いわ……)


 ドッドっと早いリズムで動く心臓よ、早く沈まれと心の中で問いかけた。


 今まで孤児院にいた子達を異性として見てきたことはなかったし、この醜い容姿のせいで異性に優しくされたこともなかったエレナにとってこんなに胸が高まったのは初めてのことだった。


「はい。紅茶でも飲んで落ち着いてね」


 反対にロキは何事もなかったかのように恥じらうこともなく落ち着いていた。熱々のカップを差し出され受け取り、落ち着かせるようにほんのり薔薇のジャムが浮かぶ紅茶を一口啜った。


 なんだか、聞いていた話と違ってちょっとだけ悔しいなとエレナは思った。


 昔から私はやんちゃな子でロキやジェシカ、他の子達を守るために何でも身を張っていたとママン達に聞いていたけど、今じゃ逆にロキに守られる立場になっていた。


 何よりジェシカのことだって私は守ってあげられなかった……こんな弱い自分が嫌になる……


「ロキ、お客様かえ?」


 不意にどこからか老婆のような声がした。他に人がいるのかと思い、辺りを見渡してみるけどそれらしき姿が見えないので気のせいかと首を傾げていたらもう一度「お客様かえ?」と同じ台詞がどこからか聞こえてきた。


「ここですよ」


 ロキは笑いながらテーブルの下を指差す。その先には4歳くらいの子供と同じくらいの身長の白髪頭の老婆らしき女性がヘタっと地面に座りながらこっちを見ていた。びっくりして思わず小さく悲鳴を上げるとその声に驚いたように老婆はビクッと体を震わせた。


「僕のお師匠様、ムギ大魔導師様です」


 ムギ大魔導師。世間に疎い私でもその名は聞いたことがあった。王宮専属の国家の魔導士。伝説の龍さえも何匹も従わせてきたと言われるすごい人だ。その生きる伝説の人がまさかこんな老婆のような方だとは思ってもいなかった。ごつい噂ばかりだったのでてっきり屈強なムキムキの大男とか想像してた……。


「久々のお客様、嬉しいねぇ〜」


 おもてなーしをしっなくっちゃねー♪と謎の歌を口ずさみながら指をパチンっと鳴らすとムギは桃色の煙に包まれた。


「はぁーい! ようこそ」


 モクモクと立ち込めていた煙が徐々に晴れると中には一人の美女が魅力的なウィンクを投げながらテーブルの下から出てきた。


 美しい銀髪を靡かせ、こぼれ落ちそうな豊満な胸を手で支え、大きく魅力的なお尻がテーブルの足に引っかからないように、よっこらしょっと見た目にそぐわないかけ声と共に立ち上がると身長は180センチを超える手足の長いスラッとした美女がエレナを見下ろしていた。


 目の前で起こった出来事に頭の処理が追いつかなくてパクパクと金魚のように口を開けたり閉めたりして驚いているとムギはニカっと清々しく笑った。


「あーんた、その火傷の跡、よく見たらあん時のガキかー! 顔の傷はまだ治ってないみたいだねぇ」


 見た目にそぐわないガハハという豪快な笑い方で腹を抱えると空いていた椅子を引いてムギはドスンと勢いよく座った。


「ムギさんは7年前の紅龍の事件の時、孤児院を救って頂いた魔導士様なんですよ。僕はこの人にお願いして魔導士の弟子にしてもらったんです」


「弟子なんかいらなかったんだけどロキが本当にしつこくてねぇ〜。まぁ今じゃそこそこの魔導士に育ててやったと自負してるよ」


 にゃははは! とムギは笑った後、一呼吸おいてから鋭い目でエレナを睨み、指差した。


「で、そのポケットに入れてるものはなんだい?」


テーブルに頬杖をつき、出してみなともう片方の手でテーブルをトントンと叩いて催促した。どうしてそんなことを言うのだろう? 今、私のポケットには既に先ほどの大量のお金などはもう残っていなかったし、あるのはジェシカの形見のリップケースだけ……。


 訳がわからなかったが逆らうのはあまり利口な判断とは思えず、ひとまず大人しくテーブルの上にリップケースを指し出した。


 それをみるなりムギは「触っても?」と聞いてくれたものの、とても断れるような雰囲気ではなくエレナはおとなしくどうぞと返した。


「随分珍しいものを持ってるね。アンタこれをどこで?」


「……頂いたものなのでどこで入手したかはわかりません」


 私は正直に答えた。ジェシカがこの不思議なリップをどこで手に入れたのかは本当にわからなかったから。もしかしたら何かの魔法アイテムだったのだろうか……? ムギはその答えに納得した様子で言葉を続ける。


「これがどう言うものか、わかって使っているのかい?」


「……いえ。何か問題でもあるのでしょうか?」


 彼女がこのリップを見ただけでどこまで理解しているのだろう? その境界線がわからない以上、必要以上の情報をこちらから提示する必要はないだろうとエレナは口を閉ざした。二人の険悪なムードを察し、ロキはオロオロした様子で交互に顔を見ながら問いかけた。


「お師匠様、何をそんなに気になされているのですか?」


「アンタ、何も感じないのかい? まだまだ青二才だねぇ」


 ふーっと大きくため息をつくとムギはあろうことかリップケースをエレナに投げて寄越した。エレナは悲鳴混じりで何するんですか! と言い、慌ててそれを落とさないように急いでキャッチしてムギを睨みつけた。


「つけてみな」


 今度は唇を指でトントンと叩いてみせる。今ここで紅をつけろと言っているのだ。でもこの二人にこの紅の秘密を知られてしまうことになる……ここまで指示されると言うことはもしかして全てお見通しなのだろうか……。


 エレナは少し考えたが結局諦めることにした。大魔導士様を敵にまわすのはけして良い判断ではないと思ったから。それにいつまでも隠し通せるわけがないのだ。なら早めに観念した方が無駄な骨が折れなくてすみそうだ。


 紅を指ですくい、目を閉じて唇に塗る。サァッと耳元で風が髪を撫でると一瞬でエレナはジェシカの姿へと変わっていた。

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貴方にとって、特別な物語になれますように。

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