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01 復讐の口紅

ファンタジーの世界でのダーク×復讐×恋模様をお届けできたらなと思います。

よければ応援お願いします!



「お姉様、私、結婚するの」


 妹のジェシカは幸せそうに笑った。


 妹、と言っても私達に血のつながりはない。何故ならここは孤児院だから。親に捨てられ世間から弾き出された可哀想な私達は肩身の狭い思いをしながらお互いを兄妹のように思い思われ力を合わせて生きてきた。


 私たちの絆はきっと本物の家族より強固なものだ。だから私は本物の妹のように可愛がっていたジェシカの結婚話を一番喜んだ。


 ジェシカはどこに出しても恥ずかしくないくらい美しい子だった。


 クリクリのお目目に淡いエメラルドのような優しい瞳。美しいブロンドの髪は光を浴びるとキラキラ輝いて少し癖毛でふわふわな髪はまるで綿飴のように甘く可愛らしい。


 ジェシカを見染めたのは伯爵家の息子らしい。その男は孤児院に多額のお金を寄付してでもジェシカを是非嫁に欲しいと強く強く切願していたらしい。


 孤児院としてもボランティアではないので多額の寄付に喜んで飛びつき、話はトントン拍子に進み、すぐにでも花嫁修行のため屋敷に来て欲しいとのことだった。


「明日ここを出ていくの、いっぱいお手紙を書くわ。大好きなお姉様」


 ジェシカは目に涙を浮かべながら微笑んだ。その笑みは世界一幸せそうで、私は世界一美しいと思った。


 次の日、ジェシカは伯爵家からお迎えが来てこの孤児院を去っていった。毎日毎日、手紙が山のように届いた。


『花嫁修行は厳しいけれど毎日楽しい』

『今日も失敗しちゃった』

『私ってなんてダメな子』

『お姉様、会いたい』


 日に日に届く内容が弱音を吐くものになり、私はジェシカの身を案じていた。


 そしてやがて、ジェシカからの手紙は途絶えた。











 その数ヶ月後、ジェシカは孤児院に帰ってきた。


––変わり果てた姿で。


 ジェシカだったものは既に骨と灰になり、あの美しかった姿はみる影もなかった。伯爵家は自分達の墓にジェシカを入れることはできない。孤児院でなんとかしてくれと遺骨を送り返してきたらしい。


 なんという掌返なのだろう? お前らがジェシカを家に迎え入れたのであれば最後まで面倒を見るべきなのでは? と私は孤児院のママンに訴えたのだがママンは首を横に振った。


 私は悔しかった。私の妹の命はこんなに雑に扱われていいわけがない、と。


「ママン、これだけは聞かせて」


 大粒の涙が頬伝った。


「あの子は、幸せに死んでいったの?」


 もし絶望の中死んでいったのなら……私はなぜジェシカのSOSに気づけなかったのか……


 姉、失格だ。


「それは……わからないわ」


 ママンは目を伏せ、口を閉ざし、それ以上は何も言葉にしなかった。


「でも、これを貴方にって。ジェシカが貴方に最後に残した遺品よ」


 そう言ってママンはビニール袋にしまわれたリップケースを差し出した。中には一枚のカード、メッセージは


 ‘‘私の愛するエレナお姉様へ‘‘


「……ッ!!!」


 私は声をあげて泣いた。一晩中泣き明かしてそれでも泣いて、三日三晩泣いて泣いて泣き明かした。


 やがて涙は枯れ、これ以上泣き喚いてももう埒があかないことを悟るとふとジェシカの残してくれたリップケースを開けてみる。上品で桜のような可憐なピンク色、あの子に似合いそうな色だと私は思った。指ですくい、自分の唇に色を落としてみる。


 すると、不思議なことが起こった。


「これは……?」


 脳内に知らない貴族らしき女の姿が見えた。見えるだけじゃない、声も聞こえる。


『ジェシカ!!! ダメじゃない!!!』


 女は金切声をあげて怒鳴りつけている。菫のような紫色の特徴的な髪色、間違いない。ジェシカが嫁いだアメストス家の伯爵夫人だわ。


『なんてトロイ子なの! 見た目だけ美しくても中身がスカスカじゃあ、私の息子のお嫁さんになんてふさわしくないわ!』


 これは……もしかして、ジェシカの生きていた時の記憶……?


『これだから孤児で教養のない子は嫌いなのよ!』


 脳内に映し出されたアメストス伯爵夫人はジェシカの頭を鷲掴みにし髪の毛を引っ張った。


 痛い痛い!! もうやめてください!! とジェシカは泣き叫んでいた。


『どうやってアデクをたぶらかしたの? 浅はかでずる賢い穢らわしい血の癖に!!』


 泣いて赦しをこうジェシカの声に夫人は全く聞く耳を持たず、その悲痛な叫び声を楽しむかのように悪魔のような笑みで笑っていた。地獄のような映像が突然頭の中に流れて頭の整理が追いつかない。


 ジェシカは……伯爵家に歓迎されて迎え入れてもらったのではないの? これでは……あまりにも……あまりにも彼女が報われない……


「あ……れ?」


 紅を塗って記憶が混濁して気づくのが遅くなったが明らかにもう一つ目に見えた変化があった。


「私……の髪、ジェシカみたいな金髪になってる……?」


 視界の端に映る髪の毛の色がおかしい。私はジェシカのような綺麗な金髪ではなくただの地味な茶色い髪だ。慌てて鏡を見てみると、信じられない光景がそこに映った。


 ジェシカのようなくりくりの淡いエメラルドの瞳。––––私は元は燻んだ青い瞳。


 ジェシカのような光がさすと輝く綺麗なブロンドの髪。––––私の元は地味なダークブラウン


 ジェシカのような緩くふわふわの綿飴のような巻き髪。––––私の元はただの重ったるいストレート。


 そこに映る全てがジェシカの生き写しのような……鏡に映る自分がまるで私じゃないみたい。ジェシカと瓜二つの顔が鏡の向こう側にいる。つまりこれは今の私の顔……ってこと?


「この紅を塗ると……ジェシカの記憶が見れて、ジェシカになれる……?」


 私はそう推測し、徐に塗ったピンク色の紅を洋服の袖で拭ってみた。すると魔法が解けたかのように見慣れた自分の顔が鏡に映し出された。


 こんなことってある……? こんな、こんな非現実的なことが実際に起こりうるだなんて……。


 でも、全てのことに意味がある。私の元にこれが届き魔法のようなことが目の前で起こった、全てきっと意味があるに違いない。


「貴方は、私に何を望むの?」


 鏡に映る自分に問う。すると目の錯覚だろうか? もう紅を拭い、鏡に映る自分は自分自身の姿のはずなのに、一瞬だけ鏡にジェシカが映る。


「ッ! ジェシカ!!!」


 私は頭がおかしくなってしまったのだろうか?


『私の愛するお姉様』


 あぁ、ジェシカの声だ。ジェシカの声がする。


「貴方は……私に何を望むの?」


 もう一度問いかける。するとジェシカは笑う。天使のような微笑みで。


『復讐を』


 でも目は消して笑っていなかった。その瞳に宿る闇は、一体どれくらい深いのだろう?


『私を殺したものに、裁きを』


「えぇ……えぇ、わかったわ。ジェシカ」


 私はもう一度貴方として生きる。貴方の代わりに貴方を理不尽に虐め尽くした人たちへ復讐する。


「ずっと一緒よ」


 私の愛しい妹よ。

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貴方にとって、特別な物語になれますように。

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