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猫を通して繋がりのあるシリーズ

キャットウィッチと弓の名人

作者: キャメルライト

 マーデとカルテが暮らしていた村には、ギザールという弓の名人がいた。


 その腕前は、かなりのもので、獲物を仕留め損なったことがなく、今日も森に分け入り、なるべく大きな獲物を探していた。

 

 しかし、見つかるのは小鳥のような小物ばかりで、もう少し、もう少しと進んでいるうちに、森の奥にまで踏み入ってしまう。


「家……?」


 こんな所に妙だ、と思った次の瞬間には、気が付いた。目の前の家は、森の奥に住むという魔女のものではないか、と。

 村では見ないような立派な家だ。村の人間では、まずない。


 加えてマーデとカルテが森に入ったきり、帰ってきていないと聞かされたばかり。


 村をあげて探し回ったが、見つかることはなく、狼に連れ去られ、食われたのだと思っていた。

 

 ここまで迷い込み、魔女に捕まり囚われているのではないか。


 ふと、そんな気がしてきて、ギザールは足音を立てぬよう慎重に近寄り、扉に耳をあてた。

 

 音はしない。ゆっくり開く。

 誰もいない。なら奥か。


 獲物に忍び寄る時のように呼吸をしずめ、気配を消して廊下を伝っていく。

 いくつかの部屋を見て回るが、もぬけのからだった。


 つきあたりの所にある部屋が、最後の部屋だ。そっと中を覗くと、この辺では見ないような高そうな服を着た女の子と、三匹の猫がいて、黒猫と目が合った。


 ニャーと鳴かれて、思わず顔を戻す。


「誰かいるの?」


 澄んだ声だ。それに子供であった。とても魔女とは思えない。ただ、妙に引っかかる。


 入ってすぐの部屋にあったテーブルについた椅子は、一人分であった。

 こんな所に、たった一人で子供が暮らしているなど、おかしい。


 そう思うと急に怪しく感じ始め、弓に矢を番えながら、ギザールは問いかけた。

 

「娘よ。マーデとカルテという子を知らないか」


「知らないわ」


「そうか。ではお前は魔女か」


 一拍置いて、ええと返ってきて、魔女の前に躍り出る。次の瞬間、脳天目掛け、矢を放った。

 見事に射抜き、座っていた椅子から魔女は崩れ落ちる。血を垂れ流し、即死だろう。


「……仕留めた。この森に住むという恐ろしい魔女を、私が仕留めたのだ」


 ぐっと握った拳を持ち上げ、歓喜の声を上げたその刹那、


         酷 い 人


  と、魔女の声がして、背筋が凍りつく。


 馬鹿な、仕留めたはずだ、と思った時には、両目に映る景色がまったく別のものへと変わって、傾斜のきつい坂の上に何故か立っていた。


 周りには鬱蒼と木々が生い茂り、下の地面は落ち葉に埋もれ、山道であるように思い、上を見上げると、少し先で道がくぼんで空に途切れ、頂上が近いことを示していた。


 そこを目指してきたのだと、不思議とそんな風に思って、歩みを進めようとしたその時だ。


 大岩のように大きな蛇の頭が、頂上から覗く。


 見たこともない大蛇だ。胴は大木よりも太く、薄っすら開いた大きな口から長い舌をちろちろ出し、こちらを見ている。


 獲物を見るような目だ。ギザールはすぐさま矢を番えた。


 次の瞬間、大口開けて、降ってくるように襲い掛かってきて、口の中目掛けて放つ。


 微動だにせず、横っ飛びして蛇の突撃をかわし、着地と同時に次なる矢を番え、ぐるんと大蛇が首を回して向けてくると、今度は右目を目掛けて射かけた。


 突き刺さって、たまらないとばかりに大蛇が苦悶の声を上げた。


 今度は逆側を射る。


 両目を射抜かれた大蛇は、首をのけぞらせて断末魔のような叫び声を上げると、ドスンと首を地面に落とし、動かなくなる。


 仕留めたか。こんな大きな獲物を仕留めたのは、生まれて初めてだ。


 ギザールは興奮冷めやらぬ顔で、倒した証を持ち帰ろうと、大蛇の首の前に行き、解体用のナイフを取り出す。


 鱗を剥ぎ取り、持ち帰ったとしても、落ちていたのを拾ったように思われるかもしれない。

 なら、舌だ。そこなら倒さなければ絶対に持ち帰れない。


 そうと決まれば、早速と、口からはみ出た舌先を持ち帰ろうと、ナイフを振り上げる。


 その時、死んだと思っていた大蛇の口が開き、鋭く大きな牙が覗いた。

 背中と腹に深々突き立てられ、喰い破られる。


 しかし、終わりはこなかった。死ぬこともなく、気が付くとまたナイフを振り上げる自分がいて、また背中と腹に牙を突き立てられ、


 そのたびに、耐え難いほどの痛みを味わい、何度叫んでも枯れない喉で、ギザールは叫び続けた。


 早くこの悪夢から解放してくれと、そう願って。


「あなたは猫にしてあげない。私が戻したページをめくるたび、苦しみ続けるといいわ」


 最後のページをめくるまで、ギザールという弓の名人が、大蛇に食い殺される物語は、終わらない。


ここまでお読み頂き、ありがとうございます。

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