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悪役令嬢(?)視点

わたくし、エスフィー・ザレムルと申します。

ザレムル公爵家の第二子の長女です。

双子の兄の、ルクスルス・ザレムルとこの夏学園に入学致しました。


学園には、わたくしの婚約者であり、将来兄が側近として仕える事となるルークエム殿下や、兄と同じく側近候補である、ハシヴァル様と、幼い頃はよく一緒に遊んでいました。


秋も深まり、冬季休暇の前のテストの為、私と兄は図書室で勉強中です。

そこへ資料を探しに、殿下とハシヴァル様、将来護衛となるファシムス様がいらっしゃいました。


一つと言えど学年が違いますから、幼馴染の四人が揃う事は稀です。

少しばかり話が続いてしまいました。


そこへ、パタパタと駆け寄る足音が…。

話をしていたわたくしが言うのもなんなのですが、図書室内を走るのはよろしくないのでは、と、足音の方を振り向いた瞬間…


「キャーーッ!」


悲鳴と共に、女生徒がわたくしの横で転びました。


大丈夫ですかと声をかける前に彼女は顔を上げて、潤んだ瞳で私を見上げます。


「ひど〜い!足を引っ掛けるなんてあんまりです!」


………え?


「ルーク様〜、エスフィー様が酷いんです〜、私を転ばせたの見てましたよね?」


…………え?

何故彼女はわたくしの名前を……それより、


「貴女、図書室で…いえ、そもそも室内で走ってはいけませんよ」

「だからって転ばせるのはどうかと思いま〜す」

「わたくしそんな事…」

「皆さん見てましたよね?

だって私転けてるじゃないですか、エスフィー様が転ばしたからですよ。

ね、モー様?」


彼女はそのまま床に座りこみ、潤んだ瞳でファシムス様を見上げます。


「モー様?それは俺の事か?

悪いが俺は見ていない」


「え〜、ルクス様、見てましたよね?」

「は?ルクス様?

僕の角度からは机が有るから見えないけど、妹がそんな事するとは思えないな」


「妹だからって庇うのは贔屓だと思いま〜す。

ね、ハー様」


「………………………………………………」


「ルーク様〜、なんとか言ってください〜」


「……………………………………………………………………」


あ…目眩がしますわ。


「あの、貴女、異性の方を勝手に愛称で呼ぶのはよろしくないのでは?」


「え〜、何でですか〜、学園内では身分なんて関係ないですよね?

何でそんな酷いことを言うんですか〜?」

「身分の隔たりなく学びましょうと言うことであって、礼儀を欠く事ではありませんよ」

「そんな固い事言うのはどうかと思いま〜す、仲良くなるには呼び方と話し方を親しくするのが一番だと思いま〜す」


……わたくしの理解力が悪いのでしょうか、彼女の言葉の道理がわかりません。

どうすればいいのかわからなくなってしまい、兄に視線を向けると、黙って首を横に振り、筆記用具の片付けを始めました。

この場から立ち去るのですね。

私も机の上を片付けます。


殿下とハシヴァル様も、出入り口へ向かい歩き始めました。


「え?ちょっと!

何で行こうとしてるんですか?

"私"がここで転けてるのに、何でみんな放置なの?」


床に座ったまま彼女は叫んでいますけど、わたくし達はそのまま図書室を出ました。


「なんなんだ、彼女は?

言葉は話してても意味が通じない。

王国語を話していたか?」

兄が頭を振りながら呟きました。


「あの女性、入学式の日も殿下の前で転んでましたね。

それ以降も殿下の周りをチョロチョロしています」

「大丈夫なのか?」

ハシヴァル様の言葉に兄が問いかけます。


「色々調べましたけど、裏も後ろもありません。

高位貴族の目に留まりたいだけの様ですね」

侮蔑を込めたハシヴァル様に、笑いながらファシムス様が言いました。


「身の程知らずなのか、頭の中身がないのか、その両方なのか。

まあ、礼儀云々の前に色々ダメだろう」


皆さん無言ですけど、心の中で相槌を打っていると思いますよ。

わたくしも関わり合いたくないですね。





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