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転生斡旋所

転生斡旋所#18

作者: 灰色

・元妻を殺した男

・理由は同じ会社で勤務していた元妻から首を言い渡された為

・社内結婚であったが、妻の方が出世が早く、収入にも差が出て劣等感を感じ離婚

・離婚後も劣等感は無くならず、精神的に問題を抱える

・裁判にて、責任能力無しと判断され、無罪に

・転職も思ったように行かず、元娘を頼るも母親を殺した男を受け入れるはずもなく、茫然自失状態で歩いていたところ、信号を見ておらず引かれて死亡


頭を抱えてしまう。

「次は夫の方ですか。夫婦揃って私が担当するとか、勘弁してくださいよ」

そうは言ってもやるしかない。入り口の扉が何度も叩かれており、どんどん音が大きくなって来ている。

「空いているので、どうぞお入り下さい」

そう言うと、顔立ちは良いのに目付きの悪い男が、入って来るなり苦情を言ってくる。

「ここはどこだよ。後、居るならさっさと答えろよ」

「お待たせし、申し訳ありません。ここは、貴方の転生をお助けする場所です」

「は?転生?俺は死んだのか?」

「はい。事故死ですね。恐らく記憶に残っているはずですが」

そう答えると、男は記憶を探り、引かれた事を思い出した様だ。

「ああ、引かれて死んだのか。あの車のやろう、許せねえな」

いや、貴方が赤信号を渡ったのが悪いんですが、と突っ込みたいのを自重し、話を続ける。

「そうです。事故死です。その為、次の転生をお助けする為に、ここに来ていただきました。こちらの資料を一読頂き、その上で可能な範囲でご希望をこちらのアンケート用紙に書いていただきます」

「は?今どき冊子の資料を読めとか。モニターでプレゼンくらい出来ないの?こんな冊子、だるくて読んでられねーんだが。要点だけまとめたマニュアルとか無いの?もっと現代にあった仕事をしろよ。役に立たねえなぁ」

こちらが下手にでた言葉遣いをしている為、どうやら自分の方が上の立場と判断した様だ。もしくは元からか。社会人経験がある人間とは思えない口調で苦情を言ってくる。

「申し訳ございません。プレゼン形式にすると、細かい点を見逃したり、後で見直しをしたい時に戻って見る事がし辛い為、冊子とさせていただいております」

本当はプレゼンも可能だが、団体や冊子を読めない子供を対象としている。それに、無礼な奴に懇切丁寧に説明する気が起きない。こちらにも感情があり、そして希望を叶えるかどうかはこちらが握っていると言う事を予測できないような奴に時間を浪費したくない。

「読み終わり、希望が書けましたら、こちらのベルを鳴らして下さい。宜しくお願い致します」

そう言うと、さっさと部屋を出る。苦情や愚痴を言い続けていたが、相手をしていられないので聞こえないふりをした。


「あの奥さん、本人は出来た人でしたが、男をみる目は無かった様ですね。人事担当なのに人をみる目が無かったから、首を告げる立場を押し付けられたのかも

等と考えていると、ベルがなった。前回の元奥さんよりも早い。私が担当した中でも最速だろう。もしかして速読が可能で決断力もある有能な人物なのか?等と考えていたが、待たせるとまた苦情を聞く事になりそうなので、直ぐに部屋へと向かった。


「お待たせしました。お早いですね。それとも、質問でもありましたか?」

「あんたは遅いね。さっさと来いよ。職務怠慢じゃねーの」

早く来ても遅く来ても、どちらにしても嫌みを聞く事になる様だった。

「要望を書いたから、さっさと叶えてくれ」

そう言いながら、アンケート用紙を放り投げて来た。ヒラヒラと舞いながら、床に落ちる。拾い上げ、内容を確認する。


・一生遊んで暮らせるだけの財力

・チート能力は、不老不死と相手を魅惑出来る魔眼

・レベルは最高、装備や持ち物は伝説級のもの

・顔は超美形で、魔力は世界最高


ここまで読んだ時点で、冊子を一切読まず、適当に希望を書いたアンケート用紙から目を離した。

「資料は読んで頂けましたか?転生のご希望は可能な限り叶えますが、チートは受け付けないと最初の方に書いてあるはずですが」

「読むわけねーだろ、馬鹿。それにチート不可?は?冗談だろ。今時チート無しで転生とか。何の為にお前らがいるの?役に立たねえ。もっと上の権限のある奴を出せよ。部下の不手際は上司がとるもんだろ」

そう言うと、机の上にあるペン立てを持ち上げ、投げつけてきた。私に当たる直前で筆記具やペン立ては停止し、床に落ちる。流石に男もびっくりした顔をしている。

「こちらも冊子に書かれていますが、この部屋の中では他者への暴力行為は不可能となっています」

床に落ちた筆記具等を拾い上げ、元の場所に戻す。

「転生を希望されないのであれば、そうおっしゃって下さい。即座に存在の抹消、若しくは読み書きを必要としない動物への転生を上司へ提案してきますので」

「い、いや、結構だ。上司を呼ぶ必要は無い。もう少し考えたいので、決まったらベルで呼ぶ」

そう言うと、ようやく冊子に目を通し始めた。


部屋から出て、上司に相談する為に連絡を入れる。

「今回の転生者、確実に失敗しますよ。いっそのこと転生させず、このまま次の段階に送りましょうよ」

「そう言うな。一応転生させて更正する機会は与えてやれ。ただし、主要世界ではなく、先が無い末端の世界にして、被害は最小限に押さえるように」

そう言われるとしょうがない。無駄とわかっている作業をするのは苦痛だが、誰かがやらなければいけない事だ。それが今回は自分の番だっただけ。気分を切り替えて、他の作業を進める事にした。


忘れかけた頃、ようやくベルがなった。過去最も遅い記録を更新。あらゆる記録を塗り替えるのが趣味なのだろうか。ゆっくりと準備をしてから、部屋へと向かった。


「お待たせしました。決まりましたか?」

口を開かず、不機嫌さを隠すつもりも無いのか、アンケート用紙を机の上を滑らせて渡してくる。

「では、拝見させていただきます」


・王様

・一夫多妻

・奴隷制度あり

・王様になった段階で前世の記憶が戻り、前世の人格が主体となる


欲望丸出しの希望を見て、苦笑を我慢するのが大変だ。一点だけ念の為確認する事にする。

「成人後に前世の記憶を取り返すと、前世の記憶を用いて子供の頃から鍛練を行いチートの真似事をする事も出来ませんが、よろしいでしょうか?」

「ガキの頃の勉強などやってられるか!王になった所からで十分だ。さっさとしてくれ」

不貞腐れた態度のまま返答してくる。

「承知しました。この内容で転生先を探して見ます」

端末を操作し、該当するものを探す。発見。上司からの指示も満たしている。

「ご希望に沿うものがありました。これから転生を開始します」

こうして、ようやく今日の仕事を終える事が出来た。


この間の転生結果を確認する頃になった。端末を操作する。


〈転生結果〉

・60代で王位を継承する

・転生前の記憶を取り戻す

・既に大量の子供がおり、王位継承権を持つものたちの間で凄惨な争いが始まっている

・酒池肉林を予定していたが、年齢もあり、生殖能力は衰えている

・国を運営するのに必要となる知識はそれまでの生活で得ているが、自分の想定と異なる事態にやる気を無くし、政務をまともに行わず、国内は荒れ、国外から領土を狙われる

・国王を退位の上で幽閉する事が決定し、第一王位継承権を持つ者が即位するが、直ぐに暗殺され、泥沼の争いが繰り広げられる

・全ての王位継承権を持つものが死に絶え、遠縁の子供を擁立し、実権は後見人が握る

・周辺国は国の乱れを見逃さず、攻めこまれ、領土の8割を失う

・数年後、国は滅びる

・幽閉されていた元王は、見せしめとして処刑される


全てが予想の範囲内であったので、失敗例として報告書を作成する事にした。

「神童が成長するとただの人だったり、優秀な後継者が実権を握ると暴君になる。いくつかは今回のような転生が理由かもしれないなぁ」

一応、問題点として報告書にも記載しておくが、恐らく何も対応されないだろう。これまでと同じように。

提出した後、次の仕事へと向かう。次こそは普通の転生希望者に当たるように願いながら。



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