番外編3-2 貴女を想う②(ルイゾン視点)
彼女と再会して数日後、オザンファン侯爵領の領主館に文書が届いた。
シャルリエ伯爵家の不正が書かれているものだ。
差出人不明だったが誰が送ってきたのか見当はついた。
トオルだ。
彼がアメリーに妹共々無理矢理仕えさせられて三年、こっそりとだがシャルリエ伯爵邸を探っているのは分かっていた。
見て見ぬふりをしていたが。
惚れていないどころか、不快感しかない婚約者の家を他人がどうしようと興味なかったからだ。
まさか不正の証拠を探していたとは思わなかったが。
人格はトオルでも肉体はヴィクトル・ベルリオーズ、取り潰された公爵家の令息である以上、いくら不正の証拠を持っていても信憑性を疑われるからオザンファン侯爵家の跡取りである私に送ってきたのだろう。私もまたシャルリエ伯爵家の不正を探っているのに気づいていたのだ。
またトオルは私だけでなくシャルリエ伯爵家に敵対する権力のある貴族の家々にまで文書を送ってもいた。保険のつもりなのだろう。
トオルが送ってきた文書と私自身も集めていたシャルリエ伯爵家の不正の証拠も王家に提出した。
元々王家はベルリオーズ公爵家の不正に関連してシャルリエ伯爵家を調べていたのでシャルリエ伯爵家の取り潰しは、あっさり決まった。
名ばかりとはいえ現オザンファン侯爵である父が不正で得た金を受け取っていたので降爵や取り潰しを覚悟していたが、私自身が不正の証拠を集め提出した上、父の罪を隠さなかった事も好印象だったようで、それらはなかった。
さすがに不正に係わった父をそのままにする訳にはいかないので、表向きは病気で隠居、実質田舎にある別邸に幽閉し、私は十八になった誕生日にオザンファン侯爵に襲爵した。
我が家や父への処罰が寛大だったのは、シャルリエ伯爵家やベルリオーズ公爵家の不正にかかわった貴族が多かったので、一々、降爵や取り潰しをしては国が混乱するからでもあるのだろう。
婚約者の家が取り潰しになったので当然ながら今の私に婚約者はいない。
シャルリエ伯爵家の令嬢が婚約者だったとはいえ、私自身は無関係だし父が不正に係わった事も表向きはなかった事になっている。
それでも人の口に戸は立てられない。
侯爵という高位貴族とはいえ不正に係わった我が家に嫁に来てくれる令嬢などいないだろうと覚悟していたし、心の奥深くで結婚できなくていい。いや、したくないと思っていた。彼女以外愛せないのだ。愛せない女性を妻に迎えるのも不誠実だと思うからだ。
結婚できなければ親戚から優秀な子を養子に迎え、その子を次代のオザンファン侯爵にすればいいと考えていたのに。
けれど、公爵家や侯爵家や伯爵家など、高位貴族の令嬢は幼い頃から婚約者を決められているので、それらの家からの婚約の申し込みはなかったが、子爵家や男爵家、果ては裕福な商家からは多くきた。不正に係わった後ろ暗い家でも侯爵家という高位貴族と縁続きになりたいのだろう。
結婚できるのならしなければならない。
結婚し、子を作り、その子を次代の当主にする。
それが貴族の義務だからだ。
吟味に吟味を重ね、母のように侯爵夫人として相応しい才覚を持つのを絶対条件に、夫婦としても愛せなくても信頼できる女性を妻に選んだ。
一年後、息子が生まれた。
素晴らしい妻であり可愛い息子だ。
私にはもったいない大切な家族だ。
それでも、私の心の奥深く聖域とも呼べる場所にいるのは、彼女だけなのだ。
オザンファン侯爵である事と同じくらい、貴女へのこの想いをなくせば、私は私でなくなってしまう。
だから、どうか貴女を想う事だけは許してほしい。
――ジョゼフィーヌ。
次話はミーヌ視点です。