26 あなたと生きたい。吾子
王都のとある共同墓地。
そこに今生の母親が眠っている。
この世界は土葬が主だが、ロザリーと一緒に回収したジョセフ(前世のタスク)の遺体は火葬にした。銃創のあるジョセフの遺体を調べられては面倒だったので。
この世界では、まだ銃は開発されていない。ジョセフを殺すあの時一度だけのためにウジェーヌは今生で知り合った前世で一流の銃職人だったその人を脅して作らせたのだ。
「ずっと来れなくて、ごめんなさい。お母様」
ここに来るのは三年ぶりだった。王都からずっと離れていたから。
私は来る途中で買った薔薇の花束を供えた。
来たのは私一人だ。
さすがにロザリーを殺した「彼」を連れてくるのは、どうかと思ったのだ。
タスク自身はその事を何とも思っていないし、私もその事で彼を責めるつもりは毛頭ない。
タスクが私の息子の生まれ変わったからというだけでなくジョセフに殺されそうになっていた私を庇ってロザリーは死んだのだ。祐にロザリーを殺す気はなかった。私の無謀さがロザリーを死なせたのだ。
だから、お母様の死の責任はタスクではなく私にある。
「……今なら貴女の気持ちを理解できるのに」
ずっとロザリーを理解できなかった。
いくらその肉体が自分が産んだ娘であっても、人格が前世でも今生でも母として愛せた彼女が。
けれど、今なら理解できる。
私もそうだから。
望まない行為の結果でも、前世からの宿敵であっても、自分の息子として生まれてきた「彼」を愛している。
腹の中で十月十日育て死ぬ思いで産んだのだ。出来た経緯がどうだろうと、人格が誰だろうと、大抵の女は愛さずにいられないのだ。
「貴女が生きているうちに、ちゃんと貴女と向き合えなかったけれど、貴女が最期に願った通り幸せになるわ。私の中のジョゼフィーヌと一緒に」
消えたと思っていた本来この体で生きる今生の人格。
けれど、彼女は心の奥底にいて私達は一つになった。私は本当の意味で「ジョゼフィーヌ」に、ロザリーの娘になったのだ。
ロザリーを殺した男が彼女の孫として生まれてきた。
それは何とも皮肉な事だけれど、娘の幸せを願ってくれたお母様ならば、きっと見守ってくれているはずだと信じている。
都合のいい考えかもしれない。
それでも今の私の幸せは、息子の存在失くしてありえないのだから。
あなたと生きたい。吾子。
ずっと心の奥底で、そう願っていた。
今生の家族というべき彼らより息子を選んだのだ。いずれタスクが私を殺すまで二人きりで生きようと思っていた。
それはそれで幸せだったけれど。
私を母として慕ってくれていると知り、「いずれ殺される」という懸念もなくなった。前世からの因縁を私にとっては最良の形で決着をつけたのだ。
息子だけではない。今生の家族というべき彼らとも一緒に暮らせる。
今度こそ人生を謳歌する。
前世の記憶があろうと、この体で生きられるただ一度の人生を――。