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501.ばっちりどんどんお任せあれ




 女神祭二日目、午前――…わたくしロズリーヌは、ラウルを連れて南東校舎へ赴いておりました。


 この時間帯、昨日は昼に行われたコンサートの準備をしていましたが、ダンスホールの使用予定が今日は逆なのです。昼は歌劇、夜にコンサート。

 ですから今は自由時間…というわけですわ。


「狙うは《占いの館》!今はサロンの一つを使っているわけですからいわば《占いの部屋》ッ!行きますわよラウル!」

「もちろんお付き合いしますけど、踊り出すほど楽しみにされてるとは思いませんでした。」

「踊っている、わたくしが……?いつの間に!!」

「さっきからです」

 さっきとは果たしていつなのか、それは人によって異なるもの……。

 危ないですから、せめて階段を上がってからだったと信じたいですわね。時と場合とイベントによっては階段を落ちかける存在、それがわたくし。

 ゆらりゆらりと動いていた身体を落ち着かせ、淑女らしく微笑みます。


「ええ、ええ。それはもう踊るほど楽しみに決まっていますわ!」


 ――だって《占いの館》の女主人と言えば、ゲームに出てきた登場人物(キャラクター)の一人ですもの!!


 カレンちゃんにルート攻略のヒントを与える存在、すなわち的中率が高い事はお墨付きなのです。

 わたくしこれまでも幾度か、彼女の店に行こうとした事はあるのですが……メインストリートに漂う魅惑の香り、気まぐれな閉店、突然の空腹、イベントの見張…見守りに、期間限定メニューの呼び声……


「数多の困難に見舞われ、今まで行く事が叶いませんでしたが…ようやく、ようやくですわ、ラウル。」

「主に食欲に負けていただけの気もしますけど、来られてよかったですね。」

「ええ本当に!いざ占って頂きますわよ~っほっほっほ!」

 機嫌よく笑いながら入店致しました。

 どうせなら聖地巡礼…きちんと《占いの館》で最初に受けたかった気もしますが、女神祭のイベント中もカレンちゃんはここへ来る選択ができるのです。

 つまりこれもまた聖地巡礼。しかも期間限定ですわ。


「じゃあ、やってる間は俺は待合に…」

「あら、貴方も次の番で占ってもらったらどう?せっかくの機会ですわよ?」

 ラウルはピンとこない顔で瞬きましたが、わたくしのススメですからね。

 一応そうしますとばかり頷いて、受け付けに名前を書きました。しばしの待ち時間、そしてわたくしが呼ばれます!

 いざ!例の《占い師》に会う時、ですわ~!!


 続き部屋へ出て案内された先は、天井から垂れる紺色の布で覆われていました。

 「っぽい」ですわ~!めくって入れば、暗色のクロスをかけた丸テーブルの向こうに立ち絵通りの女性!

 長い黒髪に黒のドレス、蔦模様のアイメイクにフェイスベール…思わずごきゅりと唾を飲んでしまいましたわ。テーブルに置かれた燭台と水を張った盆がまた、「っぽい」ですわね……!

 見えるもの全てを目に焼き付けながら座ると、占い師がにこりと微笑みました。余裕っ!わたくしと違ってこの場に慣れていますわ。店主なのだから当たり前ですけれど。


「来て頂けて光栄です。ここでの会話も占い結果も、私からどなたかに伝える事は一切ありませんので、どうぞご安心ください。」

「ええ……当然、他言無用でお願いしますわね。」

「今日は何を見ましょうか?」

 きっましたわ~ゲームでお馴染みのセリフ!!

 画面に選択肢が現れるのが目に浮かびますが、今は現実ですからそんなもの出てはこない。店内専用BGMもないですわね、ちょっと寂しい。

 とはいえ緊張もしますしテンションも上がりますし、どきどきする胸を押さえて一度、深呼吸を。


 わたくしが占ってほしいのは、もちろん…

 そう考えた途端、つい。口元がにやっと笑ってしまいました。


「推しカ…ぎゅふっ、えふっ。失礼……シャロン・アーチャー様が、恋する乙女の表情をするところなど…スーッ…遠目からでいいのですけれど、んふっ、見た……いえ、そんな時が、どこかであるかしら?」

「……、では見てみましょうか。かのお方が、恋をしている時を――」

「お願いしますわっ!」

 神頼みをするように両手のひらを合わせます。

 アベル殿下の名まで出すと、たとえ他言無用と言っても何がご迷惑になるかわかりませんからね。この質問でしたらきっと!ちょっと重度なシャロン様のファンという事で許される気がしますわ~!


 占い師が盆に手をかざして目を閉じ、ベールの内側で何か呟いて……くっ、聞き取れませんわね。

 少しだけ風が吹いて、わたくしのプラチナブロンド・ポニーテールも占い師の黒髪も揺れています。水面には波紋が生まれ、燭台の火は踊り出す。さっきのわたくしみたいですわね!


 カレンちゃんも、こんな風にどきどきしていたかしら。

 そんな事を考えながら待つ内に、占い師が目を開けて……にこりと、微笑みました。


「着飾る夜には、学園の裏庭へ向かうと良いでしょう。」

「う、裏庭ですって!」

 そっ……そんな人気のなさそうなところでシャロン様が恋する乙女…ななな何が起きると言うんですのーッ!!?

 思わずふらりとよろめきそうでしたが、椅子に座っていたので事なきを得ました。


「一体……一体そこで何が…」

「ふふ、そこまでは私にもわかりません。何も無い可能性ももちろんありますが、何か起きる可能性もある……占いとは、そのようなものでございます。」

「可能性で充分ですわ、フゥ、フゥ……着飾る夜…んふっ、ふふふ」

 それってつまり、明日の夜に行われる舞踏会じゃありませんの?

 そうですわわたくし!着飾ったお二人が並ぶところそしてあわよくばダンスをするところまで、明日!この目で見られるというのに!

 加えてシャロン様がときめいちゃうような隠しイベントまで、発掘できてしまうんじゃありませんのーッ!!!?


「はひゅっ、ふひゅっ、な、なんということ……!」

「…大丈夫ですか?」

「元気いっぱいですわ!えへへうへ、ありがとうございます占い師のお方。」

「喜んで頂けて何よりです。それでは、またのご来店をお待ちしております。」

「また来ますわーっ!」

 踊り出すどころか羽ばたきながら部屋を飛び出してしまいそうなわたくし、そう、新☆生☆ロズリーヌ・ゾエ・バルニエ!!

 満面の笑みでステップを踏みながら退室すると、ラウルがすぐさま立ち上がり「落ち着いてください」と窘めてきました。


「落ち着いていますわ、ラウル。かつてないほど冴えわたる頭脳と澄み渡るこの瞳。どう?」

「素晴らしいですが、俺が戻るまで待っていてくださいね。静かに。」

「ばっちりどんどんお任せあれですわ~っ!!」

「静かに」

 今ならわたくし、何でもできてしまいそう!

 案内されていくラウルを見送り、待合の人々に「貴方がたもきっと素敵な話が聞けますわ」と微笑んで、わたくしは裏庭で何が見られるかと胸を膨らま…


 ……裏庭?


 女神祭期間中は普段より照明を多くしている、裏庭。

 おまけに舞踏会でしたら、わたくしもまたドレスで……今回もちろん、暗色迷彩柄のドレスをオーダーしているわけもなく。

 この幸福とささやかな脂肪が詰まったボディを隠せるほどの木など少ない中で。


 わ、わたくし一体どうやって、推しカプを見守る《壁》になるんですの!!?


「まずいですわ、これはっ!」

 恐らく明日の晩に起きる出来事ですのに、わたくしときたら何の準備もできてない!

 座ったばかりの待合の椅子からすっくと立ち上がり、ともかく辺りを見回して、同じフロアに《パット&ポールの雑貨店》があった事を思い出す。

 賭けるしかありませんわ、《雑貨》という言葉の幅広さにっ!


「貴方がた、すみませんがわたくしの従者が出てきたら『雑貨店へ行った』と!そうお伝えくださいな!」

 目を丸くした数人が頷くのを横目に駆け出しました。

 これでもヘデラに居た頃より遥かに健康的なヘルシーヌ・ゾエ・バルニエことわたくしっ!移動速度は格段に上がっているのです、きっと。

 輝く汗を一粒垂らしながら、扉が開け放たれている雑貨店へ。


「ハァイ、いらっしゃいませ!」

「いらっしゃいましたわ、わたくしが!」

 パット君とポール君は接客中のようで、店主が出てきましたわね。ゲームでは立ち絵も名前もない男。

 ユーリヤ商会お揃いの制服に、襟足で結った長い黒髪、室内でもサングラスをかけていて――おっと、そうでした。わたくしもかけないとね。


 変装用に買ったサングラスをかけ、ローブのフードをササッとかぶります。

 手を口の横に添えて目を細める。こういう時に格好良い雰囲気を出せるのも王女パワーというもの。


「店主…少し相談がありますわ。用意できるのなら金額は…」

「ほほう?もちろん承りますとも、当店にお任せください。ささ、どうぞこちらへ…」

 他の客から距離を取るように店内の隅に寄り、「付近の棚を案内されている感」を出しながらこそこそと密談を。

 着飾ったわたくしに惹かれる方々がいらっしゃるだろう事は仕方ありませんが、その目立ちを乗り越えて――…わたくしは、壁になりたい。

 いえ、今回は木とか草の方がいいのかしら。


「ふーむ?ここの裏庭でコッソリ忍べるようなもの、それも衣服ではなく、ですかァ……」

「時間帯は夜ですわ。わたくしが隠れられるようなものを。」

「用意のしようはありますが、お嬢様。一人で夜にコッソリは、大人としてはお勧めできませんねェ。」

「もちろん供の者を連れますけれど、人が多いと見つかりやすいでしょう?見失わない程度に離れてもらうのですわ。だから隠れるのはわたくし一人…ああ、一人分を二つの方がいいかもしれませんわね。」

 なにせ相手はアベル殿下。

 全力で隠れないといけないのだから、ラウルもパッと見ではわからないようにしておくべきですわ。わたくしの冴えわたる頭脳が導き出した名案。

 店主は困り顔で首をひねりました。


「確実なのは魔法で隠れる事ですが…」

「わたくし達はまだまだ魔法初心者……そんな高度な魔法は使えませんわ。目撃でき……目的まで、どれくらいかかるかも不明ですし。」

「そうですねェ……外部から魔法使いを雇うなら、先生がたに説明しないとですし。生徒の誰かに協力を頼む手もありそうですが……ま、ここは当店でご用意しましょう。でないと売上もありませんしね。」

「ええ、お願いしますわ!サッと華麗に隠れられる物を――…」

 話がまとまったところで走ってくる足音が聞こえて、何かしらと店の入り口を見やる。

 少し髪を乱したラウルが店内を見回していて、目が合いました。わたくしはにっこりと笑って手を振ります。


「ここで…――すわっ!?」

 なぜか怒った顔のラウルが勢いよくこちらへ歩いてきました。

 貴方、勢いが!王女に近付くにしては勢いがありますわよっ!不敬!!店主が笑顔のまま「準備しておきます~」と離れていく!巻き込まれたくない気持ちが見え見えですわね!

 ラウルはわたくしの前で立ち止まり、いつ見ても綺麗な桃色の瞳がじとりとこちらを見下ろします。


「俺が戻るまで待ってるようお願いしたはずですが。貴女はっ、何で勝手に移動してるんですか!」

「小声でその迫力、素晴らしいですわラウル!わたくしが小声で盛り上がる様子を見て学んだのね?」

「話聞いてますか。」

「あんまりですわね。ところでわたくし、さっきの占いでなんとっ!シャロン様が恋する乙女なお顔をする未来を知ったのです!明日の晩、裏庭に張り込みますわよっ!アベル殿下との何やかやを目撃するのです、えいえいおー!」

 小声で話しながら拳を突き上げてみせたけれど、いつもなら乗ってくれるラウルはじっとわたくしを見下ろしている。なんですのその微妙な顔は。

 ぱちぱちと瞬いて、ラウルの周りを歩くわたくしは三百六十度さまざまな角度から観察を。


「具合でも悪くって?大丈夫ですわよ、休憩をとっても。まだ時間はありますから」

「……色々と言いたい事はあるんですけど。」

「もちろん言って良いですわ、許可します。」

「…仮にシャロン・アーチャー様が、占いの通りそういうお顔をされたとして……相手が殿下だとは、限らないのでは?」

「ごふっ!」




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