表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハッピーエンドがない乙女ゲームの世界に転生してしまったので  作者: 鉤咲蓮
第二部 定められた岐路

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

460/525

458.無駄な長文

 



 シャロン


 まずは剣闘大会、よく頑張った。腕の傷は大丈夫か?跡は残らないとノアからも手紙を貰ったが、さぞ痛かっただろう。それでも剣を離さずに戦った君の強さを、私は誇らしく思う。ただ今後も無茶はしないように。

 祝福の乙女には君が選ばれたんだな。もちろん、間違いなくそうだろうと思っていた。おめでとう。送ってくれた記念品のヴェールはメリルに預け、大切に君の部屋へしまっている。


 そして丁寧な報告書をありがとう。天を晴らしたという魔法について、詳細に書いてくれて大変助かった。己の魔法が予想外に発動する経験自体はそう珍しくはない。まだ未確定という事もある、あまり自分を責め過ぎたり、恐れて萎縮してしまう事のないように。

 ルークの考察も尤もだが、そのスキルはまだまだ未知数の部分が多い。黒水晶のブレスレットを忘れず、魔法を使う際はよく注意しなさい。君なら大丈夫だ。

 殿下達に明かすかどうかは、来月に陛下が下す判断を待つこと。


 ところで親としては、祝福の乙女に選ばれた娘がどのように役目を果たしたかも気になるのだが、そちらについてはどうだろうか。君の目から見たアベル殿下の様子や受けた印象なども知りたい。


 重々承知の事だろうが、建国当時からレヴァイン王家の星々を支えるアーチャー公爵家の人間として、我々は殿下達のご威光がどれほどのものか、周囲への影響含めよく理解しておかねばならない。これはそれ故の質問だ。

 客観的でなくともいい、何か思った事があるなら思ったままに書いてほしい。君がどう感じたかをまず、受け止めようと思う。


 ただ父としては、君が家を出るのは二十歳を越えてからでも良いと考えているので、無理に急ぐ必要はないとよく覚えておくように。


 表彰式では気を引き締めて役目をこなしてくれたのだと思うが、流石に緊張もした事だろう。もし、仮に、あくまで仮定の話ではあるが当時、心臓の鼓動が早まるような現象は確認されたのだろうか?あったなら念の為に教えてほしい。


 緊張してしまうのは決して悪いことではない。緊張すると胸が痛くなるものだ。誰しも緊張はする。何もおかしい事ではない。

 緊張すると心拍数が上がり血が巡るため、暑く感じたり顔が熱を持ったりするかもしれないが、もしそのような事があろうとも緊張のせいだ。私はそう確信している。


 ドレーク公爵から役目を聞いた時は驚きもあったのではないだろうか?当日急にただの授与でないと知ったのだから、焦りもあった事と思う。伝統であるが故に、先に言っておいてやれなくてすまない。君が緊張してしまうのもまったく無理はない状況だった。

 殿下も緊張したご様子だっただろうか?


 また、ウィルフレッド殿下の頼みで菓子を手作りするという話について。シャロン、君が友人達と楽しんで作っているのは微笑ましいし、殿下達には妙な噂にならぬよう気を付けて渡している事もわかったが、渡された各々がたはどういった反応をするのだろうか。

 友人関係は大切にすべきものだが、もし、少しでも君にとって違和感のある反応をする者がいたら、その時はすぐ報告するように。


 そちらはもう肌寒い日が増えてきただろうか、風邪を引かぬよう気をつけて過ごしなさい。


 父より




 ― ― ―




 アーチャー公爵


 報告書が全てなので、無駄な長文を寄越さないように。


 第二王子アベル




 ― ― ―




 エリオット・アーチャー公爵


 落ち葉が風に舞う季節となりましたね。貴方から私達兄弟に私信が届くとは驚きましたが、大変嬉しく思います。

 報告書に綴るのは例の魔法の件ばかりとなり、当然、表彰式での二人の様子を伝えきれるものではありませんでした。さぞ気になっている事かと思います。私の目から見た範囲になりますが、当時を振り返って書きますね。


 最初はドレーク公爵の挨拶で始まるため、優勝者と乙女達は舞台袖に控えていました。弟の隣にいるシャロンの姿はとても自然で、かくあるべきだと私は思わず頷いた程です。

 これは弟が可愛くて仕方がない兄の戯言と思われるかもしれませんが、アベルは本当に騎士服がよく似合うのです。彼の常に油断なく堂々とした佇まいが相まって、まさしく完璧な仕上がりと言えます。とても素敵だとシャロンも褒めていました。


 そんな彼女が公爵家の騎士服に身を包んだ姿を見たのは私も初めてでしたが、麗しくも凛々しいという大変な愛らしさで、褒める私の口を止めるのは些か苦しい我慢があったものです。表彰式ではさらに祝福の乙女のヴェールが加わりましたから、まさに女神の如き美しさでした。

 薄紫の髪を白のヴェールで飾り、アベルの手を支えに壇上へと階段を上る姿はまるで騎士に守られる姫君のようで――いえ、王子と姫ですね。


 ドレーク公爵が「祝福の口付け」と言った時には驚きました。貴賓席にいた中で驚かなかったのはダンくらいでしょう、彼は本当によくシャロンへ仕えてくれています。

 弟は流石に騙されなかったようですが、その時シャロンがとても愛らしく微笑んだために、会場はどよめいておりました。アベルすら僅かに動揺させる程でしたから、あの笑顔を貴方にお見せする方法がない事を口惜しく思います。


 その後システーツェの祝福の言葉をなぞらえたと聞いていますが、向かい合って言葉を交わし、微笑み合う姿は胸の奥がぐっと熱くなりました。

 私は二人を己が片割れの如く大切に想っているので、揃っての晴れ舞台を客席側からじっくりと見る事ができて、感激のあまり目の前が滲みそうな程だったのです。

 本当に良い式でした。シャロンの晴れ姿についてアベルが言及する事はついぞなかったのですが、普段にも増して美しい彼女でしたから、弟も内心では見とれていた事でしょう。


 次にシャロンの祝福を得るのは私か、弟か、今から来年が楽しみでなりません。

 私としては、私達以外の者にその座を譲る気は一切ないのです。


 第一王子ウィルフレッド・バーナビー・レヴァイン




 ― ― ―




 シャロン


 何か返事を書きづらい、書いて良いか迷うような箇所があっただろうか。叱る様なことは無いので安心してほしい。

 この数日の間に、とある方が表彰式の様子を語ってくれた。ウィルフレッド殿下だけでなくアベル殿下にも気の合う良き友人として認められているようで何よりだ。信頼関係があるのは素晴らしい。君が両殿下と友情を育むのはとても良い事だと思う。


 時に、表彰式での君はヴェールがよく似合っていただろうと思うが、君の友人達は何か言っていただろうか。じっと見られていただとか、緊張したようだったとか、普段と様子が違って見えたりしたか?

 深く考えずに感じたまま答えてほしい。


 父より




 ― ― ―




 敬愛するお父様へ


 すぐにお返事できず申し訳ありませんでした。どうかお許しください。お父様が目を通してくださると思うと、より丁寧に仕上げたい気持ちが勝ってしまったのです。

 腕の傷はノア叔父様が綺麗に治してくださいました。まるで何もなかったかのようです。叔父様の魔力が沁みていく感覚は穏やかで温かいもので…いつかどなたかを治して差し上げる時、私も斯様にできるよう精進しなければと改めて思いました。


 スキルの件ではご心配をおかけして申し訳ありません、お気遣い頂きありがとうございます。お父様に頂いた言葉を励みに、萎縮してしまう事のないよう気を付けながら努めたいと思います。

 リリーホワイト子爵はとても頼りになるお方ですので、懸念があれば一人で抱える事はせず、胸を借りるつもりで都度ご相談するようにしますね。


 情報の扱いは勿論、陛下のご判断に全て従います。

 来月はあのお方を招きたいと発案した身として、そして勿論アーチャー公爵家の者として、殿下達と共に恙なく学園祭を終えられるよう励みます。お三方の関係は花々の未来の縮図となりましょう。

 もうお一方の事もどうかご安心ください。本当は是非とも沢山お話させて頂きたい所ですが、女性が苦手と聞いておりますので、ご案内は殿下やリリーホワイト子爵の助力を得て、無理なく見回って頂けるように致します。


 表彰式当時の事ですが、魔法の件を除けば特段変わった事はございませんでした。

 アベル殿下は終始落ち着いておられ、誤解という余興を誘うためのドレーク公爵閣下のお言葉も、すぐに事実と異なるものだと察されたようでした。私自身、未熟な演技と一般常識を合わせれば、かの星を一時でも欺く事など不可能であろうとは思っておりましたが、その通りだったという事です。


 心臓がどうだったかは覚えていないのですが、お父様が推測されたように、私は緊張しておりました。やはり見抜かれていたと思った瞬間、気恥ずかしくなり表情が少し崩れてしまった気が致します。

 アベル殿下は呆れていらっしゃったものの、気を取り直した私の言葉遊びに付き合ってくださいました。その時笑って応えて頂けた事で、私の緊張もほどよく解けたように思います。

 あの方が笑ってくださると、大丈夫だと思えるのです。


 ヴェールについてはよく似合っていたと、ウィルフレッド殿下やチェスター様を始め、デイジー様やカレンも褒めてくれました。入学の日も髪飾りは白のサザンカにしていましたが、やはりお母様譲りのこの髪色と白は相性が良いですね。


 また、先日は以前と違う種類のクッキーを皆と作りましたが、渡した際、違和感のある方はおりませんでした。特筆するなら、好きな形に作れると聞いたフェリシア様が少し興味を示された事でしょうか。

 なかなか貴族令嬢がする事ではありませんから、二人での密かな試みにはなるでしょうけれど、最近少し気疲れしているようなので、彼女の力になれたら嬉しいと思います。


 ところで、お気遣いくださるのは大変嬉しいのですが、二十歳を越えるまで嫁がないとなれば少々、アーチャー公爵家の名を貶めかねません。そんな事にはならぬよう、卒業前までには婚約者を決めたいと思いますので、どうかご安心ください。

 もしお父様の方で、今既に候補として考えている方々がいらっしゃるのでしたら、是非早めにお教えくださいね。


 リラでは朝晩の空気が冷え、少しずつ冬の足音が聞こえてきました。身体を冷やさぬよう暖かくして過ごしたいと思います。

 お父様も、夜のバルコニーで長考などされませんように。


 シャロン




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ