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ハッピーエンドがない乙女ゲームの世界に転生してしまったので  作者: 鉤咲蓮
第二部 定められた岐路

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398.罪を数えよ王女様




「おっどろきましたわね~……まさか、わたくし達が成績上位者に載るなんて。」


 放課後の展望デッキ。

 テーブルに両肘をつくわたくしの頬を風がほんのりと撫でていきます。大きな白いリボンで結わえたプラチナブロンドがふよふよと揺れて。


「まだ言ってるんですか、それ。」

 わたくしの向かいに座るラウルはやや呆れ気味な声。

 ゆるゆるとウェーブがかった緑の短髪に、瞳は甘やかな桃色をしています。


 前期試験の成績発表は先週のこと。

 わたくしヘデラ王国第一王女として恥じない《音楽》一位を頂きましたわ。こればっかりは何でか簡単な事ばかりでしたので。

 それ以外ほぼ壊滅的と言えますが…なんと、ななんと!

 《護身術》においてわたくし三位を取り!ラウルも四位に入ったのですわ!!


「だってびっくりなんですもの。確かにわたくし、王女パワーで係の人?をドシンとやりましたけれど。」

「先生、だいぶ笑ってましたからね。加点されたんじゃないですか」

「んまぁ!面白かったで賞ということ!?」

「知りませんけど。」

 ラウルがいつも通り適当を言っていますわ。

 《護身術》の試験は男性一人が試験官。決まった時間逃げ切るか、突破して逃げ出すか、あるいは倒すか。いずれかの手段で身を守りましょうというものでした。

 わたくし試験官の方を引き付けて、エイヤッと王女ボディアタックをかましたのです!今思い出しても素晴らしいヒネりだったと言えるでしょう。見事尻もちをつかせたところ、セッセと走って!


『やりましたわぁーっ!これぞ王女パゥワー!』


 勝利の雄叫びを上げるわたくし。咳き込む先生。

 ラウルは自分の成績のこと、「まぁ俺は他の一年より年上で背があるんで」なんて言うけれど。良いじゃありませんの、何だって。上位に輝いたのは確かなのですから。


 わたくしは背筋を伸ばし、ぐーっと両腕を天に掲げました。

 素晴らしき試験終わり。さらば、試験。また三月まで。吐息とともに力を抜きます。


「ふうっ。近頃、なんだか目まぐるしいですわね。魔獣が結構出たとかで、ギルド…?ができるだとか。それにホラ、シャロン様はホワイト先生に弟子入りなさって。」

「俺はそんなに引っ掛かりませんけど。あの方、《植物学》も《薬学》も満点だったでしょう。」

「そうなのですけれど…」

 でもでも!ゲームではそんなの一言も言っていませんでしたわ。カレンちゃんが知らなかっただけかしら?

 シャロン様、《未来編》の終盤でチートアイテムの【秘薬】くれますものね。アーチャー家のとはおっしゃっていたけれど、薬方面、確かに元々ご興味はあったのかも?



『アロイス、その薬を作れる人ってどれくらいいるんですの?』

『さぁね、ツイーディア王国屈指の薬師は誰かと聞いてみたらどうだろう。違法薬の質問は警戒されるだろうけど、それくらいなら学園の先生も答えてくれるんじゃないかな。』



「……優秀な薬師については。シャロン様を通じて聞くのも良いかもしれませんわね。」


 わたくしあれからホワイト先生を廊下で呼び止め、聞いてはみたのですが……「おまえの言う【優秀】とはどのレベルで聞いている?」に答えられず。

 まさか、違法なおクスリを作れるくらいですわーとも言えず。

 無念の撤退を強いられたというわけですわ。くっ!


「けどあの仮面男、騎士団も調べてるって言ってたじゃないですか。俺達が変に動いて疑われるより、任せた方がいいのでは?」

「う……それはまぁ…わたくしが怪しまれがち王女なのは否定しませんけれど。」

「いったん、お二人に呼び出された方を考えてはどうでしょう。」

「………。」

 わたくし、静かに目を閉じました。

 さわさわと優しい秋風が髪を揺らし――


「殿下。」

「わかっていますわ…」

 現実逃避を許されず、わたくしはシブシブと目を開けました。

 両手をテーブルの上で組み、顎肉の質量を感じながらコクリと重々しく頷きます。


「さて……そろそろ現実と向き合わねばなりませんわね。本日の、シャロン様とウィルフレッド殿下からのお呼び出しについて。」

「向き合うまでだいぶかかりましたね。」

 お二人と別れてから一時間は経ちましたがとラウルが言う。

 そう、わたくし本日サロンに茶会という名のお呼び出しを受けておりました。十二月に予定されている、このドレーク王立学園の女神祭について。

 ピンチですわ。


 よりによって…



 去年わたくしがさんっざん迷惑をかけた、ロベリアのヴァルター殿下がいらっしゃるだなんて!



「どうしましょうラウル。」

「どうしましょうね。」

「わたくしちょっ…と記憶を封&印しておりましたが、結構、なにか、色々やりましたわよね?」

「だいぶやったんじゃないですか?あの方、殿下を突き飛ばしましたから。」

「えぇえぇ、覚えていますわ。そこで今のわたくしに目覚めたみたいなトコありますから。」

「……もしかして、もう一回やったら戻っちゃいます?」

 ラウルが神妙な顔つきでわたくしを見る。

 生まれ変わる事はできても!

 生まれ戻る事はできないとわたくし!思うんですのよっ!


「ともかく、誠心誠意謝らせて頂くにしても会えないにしても、何をしたか思い出さないといけませんわね。ちょっとずつ思い出していきましょう……ラウル、貴方どれくらい覚えていて?」

「はあ。大まかにはわかりますよ。」

「あら本当?ではどうぞ。」

 わたくしの従者ときたら優秀ですわね。

 手をクルリとして両手のひらをラウルに向けました。ささ、お話しになって。


「確かあの王子って、直接触れるのが苦手だから手袋をご容赦くださいみたいな、先に言われてたじゃないですか。すごい丁寧に。」

「そうでしたっけ。」

「まず、挨拶の時はいつも通り相手の言葉遮ったでしょう。」

「なんだか、長いケハイがしたんですのよね。」

 お互いもうちょっとラフで良いかしらと思って。

 あと、お腹が空いてたかもしれませんわね。早くお夕飯食べたいですわって。


「握手で差し出された手の手袋を剥ぎ取って、あちらの素手を鷲掴みに。」

「そんな事したかしら?」

「向こう真っ青になってたじゃないですか、部下含めて。」

「笑顔でいらしたのは覚えてるんですのよ。わたくしに会えて喜んでますわねーって、当時は思っていて。」

「ギリギリ堪えておいででしたよ、あの時はまだ。」

 ニガテだったなんて、それじゃあ悪い事しましたわね。

 心にメモしておきましょう、ヴァルター殿下の手袋は外さな……いえいえ、新生ロズリーヌはメモせずとも、人が身に付けている物を剥いだりしませんが。


「あとは…学園の外観を気取ってると言ったり、駄々をこねて持ち歩いたおやつと飲み物を廊下にこぼしたり。図書館をつまらないと言ったり、適当に取った本に食べかすを落としたのに気付かず棚に戻したり」

「……ちょっと心当たりがありますわね。」

「学園で受けられる授業の説明でぐっすりお休みになったり、絡繰り歴史館を臭そうだから行きたくないと拒否したり。かと思えば、愛用の香水をどうぞとヴァルター殿下に吹きかけたり、それで咳き込んだ殿下に鼻がオカシイのかしらと言ったり。」

 旧時代のわたくし、針の孔ほどの親切心。ただし迷惑。


「城の美術品に無断で触って壊したり、ヴァルター殿下が会議でいない時、私室を見たいと言って兵に止められたり。そこで金切声を上げて部屋の扉を蹴ったり、慌てて会議抜けてきた殿下に、婚約者にしてやってもいいから入れなさいと言ったり。」

「……ラウル、これは誰の行動の話だったかしら?」

「ロズリーヌ・ゾエ・バルニエ王女殿下です。」

 わたくしだったわ。

 もしかしたら人違いかと思ったのに。


「渋々、兵士や侍女が同席の上で見せてもらった私室で、華が無い趣味が悪いと言ったり…ああ、壁に飾られてたアレを壊したの、一番痛かったんじゃないですか?」

「えぇと……床でバラバラになっていた、古臭いガラクタのこと?」

「そうです、殿下が癇癪起こして花瓶投げつけたやつ。落ちる前見てなかったんですか?」

「記憶にございませんわね。」

 わたくし、何やらガシャンと音がして目を向けましたから。

 それまではそちら見ておりませんでした。


「確か何百年前に造られた絡繰りで、壊れてたのを王太子殿下が初めて修理に成功。ヴァルター殿下に譲り、管理を任された物だとか。」

「なんか、大切そうですわね。」

「パーツから壊れましたけどね。」

 それ、直るのかしら。

 わたくしには全然わかりませんわ。


「それで、放心状態のヴァルター殿下を部屋から引っ張り出して。」

「まだ続くんですの?」

「吐き気だか貧血だかでよろめくあの方を引きずりながら……確か軟弱とか、これじゃ留学に楽しみがないとか、絡繰りは油臭い、本は古臭い、学園は辛気臭い…」

 くさくさ言ってますわね。

 ラウルを含めて皆様、くさいのはそちらだと言いたかったでしょうに。わたくしあの頃は香水の重ねがけにどハマりを。


「ともかく、そんなアレコレでヴァルター殿下はとうとうお怒りになって、わたくしをドンと突き飛ばし、貴様呼ばわりして、出て行けと仰ったわけですわね。」

「まぁ、よく耐えたと思います。あの方、最後まで兵は動かしませんでしたし。」

「……謝って、許して頂けるかしら?」

「無理じゃないですか?」

「ぞうでずわよね゛ぇ!」

 思っていた以上にポロポロと堀り起こされた罪っ!

 これが噂の芋づる式、ですの……?ちょっと美味しそう。


「紫芋のタルトが待ち遠し、コホン。わたくし反省しなくてはなりませんわね。ここでの未来の事ばかり考えて、ロベリアで犯した罪は…」

「陛下達が代わりに手を回していたかと。」

「ですわよねぇ………お父様達って、ロベリアに一体幾ら払ったのかしら。」

「俺が知ってるわけないでしょう。」

 そのお金、ちゃんとわたくしの予算を削って出したのかしら。

 城での暮らしを思い返してみると、ナルシスお兄様が寄越す無駄なお菓子や食事の数々、お父様からの宝飾品、他のお兄様や弟達からの贈り物……「我慢」という言葉が、自分でやったダイエット以外ありませんわね。


「さすがに、国費には手を付けてないですわよね……?」

「そこまでバ…いえ、もう少し位は考えてやっておられるかと。ちょっと、真面目に勉強する気になりました?」

「わたくしがこのままだと危ないかもしれない…とは思いましたわ……。」

「国が傾く前に気付けて良かったですね。」

「辛辣っ!けれどその通りっ!!」

 わたくしったら傾国の美姫!

 情けなさに溢れる涙をハンカチに吸わせていると、ラウルはため息をひとつ。


「まぁ、十中八九ご自分達の予算でしょ。それで飢える民はいませんよ、食料(メシ)はやたらあるんだから。俺みたいな孤児でも、残飯にありつけない日はなかったし。」

「慰めをありがとうですわ、ラウル……」

 わたくし卒業して祖国へ戻っても、どこか別のところへ嫁ぐほうが良いかもしれませんわね。

 お父様や兄弟達には、わたくし離れしてもらった方が良い気がしてきましたわ。


「ヴァルター殿下には、ウィルフレッド殿下を通じて謝罪の面会を申し出ましたが……会ってくださるかしら。」

「そればかりは何とも。第一王子殿下が言っていたでしょう、ヴァルター殿下は侍女にほぼ男装を指定するくらい女性が苦手だと。」

「えぇ。不思議だったのですけれど……彼、そんなだったかしら?」

「俺達が行った時は普通でしたよ。つまり殿下、貴女が原因ですね。」


 …絶対会ってくれませんわね、それ。




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