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ハッピーエンドがない乙女ゲームの世界に転生してしまったので  作者: 鉤咲蓮
第二部 定められた岐路

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348.王女の懸念

 



 王女ボディは七十キロ台前半で停滞中、ロズリーヌ・ゾエ・バルニエでございますわ。

 今は放課後、食堂のテラス席でシャロン様とティータイムを楽しんでいます。


「まぁ!シャロン様達も『剣聖王妃』をご覧に?偶然ですわねぇ~!」


 知っていましたけれどね!

 皆様が来週観劇に行かれるとわかっていて、わたくしは「来週はオペラですの」と言ったのです。ゲームシナリオと同じ状況か確かめるために。

 シャロン様はやはり自分達も行くのだと仰いました。ゲームと変わっているのはダン・ラドフォードも一緒だという事、あとはアベル殿下が最初からいるだろう事かしら。


 そしてもちろん、わたくしとラウル!

 別口ですから同じ部屋のはずはありませんが、他の貴賓席に潜む予定です。オペラを楽しみつつ、戦闘シーンで派手に魔法が放たれたら――それはまっすぐ、ウィルフレッド殿下のいる貴賓席へ向かうはず。


 わたくし達は直接向かってくる輩を妨害するなり、さして上手とも言えませんが魔法でサディアス様達の援護、あるいは避難誘導……は、わたくしがいると騎士団の邪魔ではとラウルに指摘されましたわ。


 ともかく…日頃の好感度アップイベントに立ち会えないのは仕方ないにしても、皆様が襲われるとわかっていてジッとしてるのも不安です。展開を見届けるべく早めにチケットを取っておきましたわ。

 ゲームのわたくしはそんな事しなかったでしょうけれどね!えぇ、ロズリーヌが来るなんて一言も出てきませんでしたし。


「この国のオペラは初めて観ますから、わたくしとても楽しみにしているのです。有名なお話だとか?」

「はい。かつて実在した王妃カリスタと、国王アーヴァインの物語ですね。」

「剣聖と言うからには、その方はご自分で戦ったんですのね。」

 感心してふみふみと顎肉を感じながら頷くと、シャロン様が麗しく微笑まれます。心のシャッターッ!


 自分でバッタバッタと敵をなぎ倒す王妃様、それも悪くないですわね。格好良いですもの。

 わたくしが故郷で剣を持とうものなら、あれよあれよと言う間に取り上げられてしまうでしょうけれど。

 えぇ、ただでさえ《護身術》の授業を取ったと書いただけで、お父様やお兄様達から「危ない」「専属医を送ろうか」「これを食べて元気を出して」とモリモリ色々送られてきて…。やめましょう、それについて考えるのは。

 こほん。


「素敵ですわ。でも王妃が剣を持つだなんて、周りは止めなかったんですの?」

「称号を得た時はまだ王妃では無かったのです。彼女は元々騎士団の一員で、その強さで王子殿下に見初められたと言われています。オペラではきっと、出会いの一幕から演じられると思いますから…ふふ、きっと獲物を仕留める姿が見られますよ。」

「エモノを……。」

 山暮らしでもしていたのかしら。

 わたくしが想像した以上にワイルドな女性だったのかもしれませんわね。こう、ムキッ、と。


 それにしても綺麗に整ったティーセットに可愛いシャロン様、そして傍に控える従者――お顔はちょっと怖いですが――何とも目の保養になる光景で、パシャッと撮影したら見事な一枚になりそうですわーっ!

 あわよくばアベル殿下も似た感じでパシャッとして、そっと並べたらあら不思議、お二人がお茶をしているような図になるのです。できればこう、視線は相手を見てる感じに、こう……ンフフフフ


「殿下、呼吸大丈夫ですか?」

「はぁ、はぁ…ふひ……ハッ!?失礼しましたわ。ちょっと想像してしまって興奮を…」

 うっかりシャロン様を凝視しながらにやけてしまいましたが、辛うじてよだれは垂れてませんわね。えぇ、それならギリギリ大丈夫ですわ。

 シャロン様もわたくしに慣れてきたのか、ほんの僅か困ったように笑う程度です。個性派王女としての地位が確立されて参りました、わたくし。

 話を戻しましょう。


「人と戦う場面もあるんですの?」

「えぇ。少々、戦争の話になりますから……。リラの歌劇団は剣舞も上手く、魔法の演出も使いますから見応え充分かと。殿下と一緒に楽しめるなんて光栄です。」

「ふぐっ……!」

 にこりと微笑まれたシャロン様の可愛らしいこと!

 あぁこんな子がゲームでは誰とも知らぬ輩に……くっ、今のシャロン様は剣を手に取る強さがありますから、良き未来を信じたいですわ。


 まずは《学園編》、わたくし達二人とも無事に乗り切りますわよ……!っと、固い握手を交わしたい気持ちになりますが、シャロン様が危険なのはあくまで《未来編》。彼女はこの一年間《学園編》での無事が確約されていますから、乗り切らないといけないのはわたくしだけですわね。


 生き残ります。

 推しを、推しカプを、眺めるためにも……。

 決意を新たにしたわたくしはつい、唇をぐっと噛みしめて俯いてしまいます。神妙に頷く今この時でさえ顎のお肉がほんのり邪魔ですわね。顎肉の効率的な落とし方とは。


「殿下、顔面がやばいです。」

「顔面が!?」

 唖然として振り返ると、ラウルに深刻な顔で頷かれました。そんなにもっ!?

 やはり顎肉が悪いか。片手でムニムニと揉みほぐしつつフォークを手に取りました。マスカットが爽やかなデコレーションケーキ、この子をこれ以上放っておくわけにもいきませんからね。


「んっん……」

 あら?シャロン様笑った?

 いえ違うわね、軽く咳払いしただけですわ……んま~フワッフワで美味しい!クリームにも風味があって美味し……シャロン様の今のお声、吐息混じりでちょっと…ギリギリだったのでは?

 どうにかしてアベル殿下に聞かせられないんですの?それを覗けたならどんな反応だったとしても、いっそ反応がなくても脳内補完しますからご飯が美味しく食べられますわ。


「その、観た後には是非またお話しさせてくださいね。殿下のご感想も伺いたいですし」

「もちろんですわ!楽団の演奏も含めて本当に楽しみにしてますのよ。」

 わたくしが生まれ育ったヘデラ王国は、自由と音楽を愛する国。

 歌劇団も劇団もこの国とは比べ物にならない程たくさん存在しています。もっともわたくし、新生ロズリーヌになる前は歌劇も途中で出てしまったりしたので……観劇経験がそんなにあるわけでもないのです。


 生まれ変わってからはダイエットと勉強三昧でしたしね。

 シャロン様はそんな事知らないでしょうけれど、わたくし実際、かなり久々のオペラですわ。観劇慣れした人としての意見とか聞かれなければ良いのですが。わかりませんからね。トンチンカンな答えしか出せない自信がありますわーあぁどうしましょう。


 ……ラウル、貴方今、「そんな期待されてないと思いますよ」と言いましたか?

 怪訝に振り返ってみましたが、あれは違いますわね。目がそう言ってるだけで声は出ていなかった様子。ならばよろしいとわたくしは顔の向きを前に戻しま……いえ、よろしくはないですわよ!?事実とはいえ不敬ッ!!



 なんて、ふわふわ浮かれている場合でもありませんわね。

 ゲームのシナリオで観劇中に何が起きたか知っているわけですから、一応シャロン様にもちょっぴり緊張感を持って頂いた方が良いのでしょうし。ちらりと聞いてみましょう。

 シャロン様が紅茶をこくりと喉へ流した後を見計らって、わたくしは不安そうな王女アイズを彼女へと向けました。


「街へ出向くにあたって、これはささやかな心配なのですが……わたくし、ウィルフレッド殿下、アベル殿下もいらっしゃるのですから、オペラハウスの警備も万全にされますわね?」


 シャロン様はしっかりと頷いてくださいました。

 彼女のお話によると、当日の騎士団の警備配置はウィルフレッド殿下達もチェックして頭に入れておられるのだとか。


 どうなるのでしょう、今回のイベントは。

 多少面子が違ってもゲーム通り?それとも早く片が付く?あるいは何も起きない?まぁゲームと同様に、襲撃が起きたとしてもこちらに被害は無いと思いますが――…


 不意に、あの晩に聞いた声が脳裏に蘇りました。



『サディアス・ニクソンなら確かに、第二王子すら()()()殺せるかもね。』



 いえ、いいえ。それはまだ先の事。

 今回は関係ないはずです。しかしアロイスはなぜそんな事を?

 魔力暴走事件でアベル殿下を殺すのはたった一本の火槍だと、彼は知っているんですの?



『……ある意味ではそれが、幸福な終わり方(ハッピーエンド)なんだろう。』



 いいえ。


 いいえ、アロイス。

 貴方はわかっていません、アベル殿下の死がもたらすものを。


 誰も幸福になどならないのです。たとえウィルフレッド殿下が、カレンちゃんと一緒に生き残ったとしても。

 二人がジークハルト殿下を()せたとしても。



「ロズリーヌ殿下?」


 いけない、つい考え込んでしまいましたわ。

 眉間に刻んだシワを両手の人差し指と中指でクイッと伸ばし…シャロン様の従者に咳払いされましたわね。マナー違反と思ったのかしら、でもしかめっ面は良くないでしょう?にんまりと王女スマイルを浮かべておきます。


「おほほほ、ちょっと考えごとを。」

「オペラハウスまでは馬車を予約しているのですが、もしご不安なら一緒に…」

「いいぃぃいいえ!?そ、それには及びませんわッ!呼吸が!呼吸が持ちません!!」

「そ、そうですか…」

「コホン……席は…わたくしはラウルと二人、一室で済みますけれど、皆様はどうなさるんですの?」

「私と殿下達で分かれて、二つの予定です。」

 フムフム頷きながらケーキをむしゃり。

 ゲームでは最初アベル殿下がいませんから、ウィルフレッド殿下とサディアス様で一室。チェスター様はカレンちゃんやシャロン様の傍に居たのですわ。

 そうしなかったらレオ一人でお二人を不埒者から守らないといけなかったのですから、女の子と一緒が良いという軽いムーブに見えて、これは実際ナイスだったと言えるでしょう。


 けれど今回はアベル殿下が最初からいらっしゃって、シャロン様は従者を連れた上にご自身も鍛えておられる身。

 人数も四人ずつで妥当ですわね……


 あぁわたくし、叶うならオペラを観るサディアス様を観察したかった。……どうにかして覗けないかしら。

 それか、何かの間違いでシャロン様とアベル殿下二人きりにならないんですの?そしてそれを物陰からジッと見つめるわたくし(とラウル)………バレない未来が想像できませんわね。



 以前のわたくしが殿下達に植え付けたトラウマレベルの悪印象は、少しずつ変えてこられたようではあります。今回も大人しくしつつ、トラブルが起きた時はお手伝いができれば良いのですが……。


 さて、カレンちゃんは誰を選ぶのかしら。





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