大衆食堂のカレーライス
異世界要素どこ・・・?ここ・・・?
以前に受けたあの依頼、そう酒の代わりとなるポーション。
いや、ポーションにアルコールが入っている以上、もはやポーションの様な酒といった方が正しいのだろうか。
居酒屋に行き、実際に酒を飲み、どんなものがいいかを考えてみた。
しかし、嗚呼、されど。
―――開発が、まったくもって、進まない。
そりゃそうだ。
ポーションとはつまり薬。
薬は体にいろいろな作用をもたらす。
そんな中にアルコールぶち込んでみろ、薬なんざ関係なくなる。
薬草の種類、効果、強さ、それをすべて考えたうえでアルコールをぶち込まなければいけない。
しかも冒険者の体や魔力をケアできる様な効果を考えて。
まだ、非常に重要な問題もある。
そう、味だ。
冒険者が宴会で飲む、あるいは景気づけ、ジンクスもあるかもしれない。
そんな時に薬草ではなく薬品の味がきついアルコール、誰が飲むだろうか。
ただでさえ薬草割酒でさえ好き嫌いが激しいのだ。
精々罰ゲームに使われる、それが良いとこだろう。
アルコールを足せば薬品の意味が、考えても味が、味を何かで上書きするとその効果が、こうして私はポーションのインフレスパイラルへ飲み込まれる。
まぁ、つまり、私が、何を言いたいかというと。
「こういった理由で、非常に納期がかかりますね、申し訳ありません。」
もっと納期をよこせ。
これに尽きる。
できないとは言ってないし言いもしない、だから時間をよこすんだ!!
「うーむ、なるほど・・・。やはり難しい依頼だったか。」
「まぁ、誰も発想しませんし、思いついてもやろうと思いませんし・・・。前例もないので薬草の種類等を洗い出すところからなので・・・。」
「ふむ・・・。難しいものだな・・・。」
「まぁ、新しいポーションを作り出すようなものですので。出来ないとは言いません。時間さえあればいずれ完成はさせますよ。ただし年単位で時間が必要ですが。」
出来ない、とは言わない。
これは私の中の鉄則だ。
出来るけど断る依頼もあるが、私はできないという言葉を口に出さないようにしている。
「年単位、か・・・。なるほど。わかった。いつでもいい、試作品が出来たらまた来てもらえるかね。」
「わかりました。」
とりあえず納期の期限はなくなった。
後は開発を繰り返すだけだが・・・まぁ、事前に費用は大量にもらっている。
薬草自体も高いものではないを使う予定だし、大丈夫だろう。
「・・・ああ、ただ。」
「ただ?」
「私が生きているうちにもってきてくれ給えよ。」
「そうですか、でしたら後100年は生きていただければ必ず間に合わせますよ。」
そんな軽口を言いながら二人で笑い、私はギルドを後にした。
・・・なんとなく、なるべく早いうちに完成させたいところだ。
私の腕の見せ所、頑張ろうじゃないか。
――――――――――――――――――――――――――――――
・・・いかん、もうこんな時間か。
酒ポーションの開発に熱が入りすぎたな。
日も沈んでいる。
あまり根を詰めすぎるのも良くないな。
ただ、熱が入ったからか、結構進んだ気もする。
アルコールとの相性がよさそうな薬草をいくつか見つけることができた。
まぁ、まだまだ道のりは遠いんだが。
そして時間に気づいたら、腹も減ってきた。
・・・ちょうどいい、腹ごしらえで気分転換でもするか。
毎度おなじみ飲食街。
今夜は何を食べようか。
まぁ、実はぼんやりと候補を考えておいた。
というのも酒ポーション、薬草とにらめっこが多いので青臭い。
しかもなんか鼻がスース―する。
そこで今私が食べたいもの、それはずばり良い香りの物だ。
・・・まぁ、美味い料理は総じて香りが良いんだが、その中でもいい香り、なんかこう、そそる様な香りを味わいたい。
というわけで、今日は嗅覚に頼って店を探そうじゃないか。
焼肉。
うむ、第一候補だな。
肉の焼ける音、いい匂いもする。
中華。
香り・・・はあるが、少し弱いんじゃないか。
今回はパス。
カレー。
ああ、そうだ、こいつの存在を忘れていた。
良い香り、食べ応え、速さ、美味さ、全てが高水準で外れを引きにくい料理、カレー。
今夜はカレーで決まりだな。
いかん、意識したら急にカレーがすごく食べたい。
早急に店を探さねば・・・。
よし、次に見つけたカレーのある店にしよう。
「いらっしゃいませ!」
「1人なんですが大丈夫でしょうか?」
「大丈夫ですよ!どうぞこちらへ!」
ふぅ、良かった。
席が空いてて大丈夫だとわかっていても、やはり店に入った時は席に座れるか気になるものだ。
ただ、今回私が入ったのはカレー屋ではない。
「食堂 万全」だ。
そう、普通の街の食堂である。
私も一度はカレー専門店を探そうかとは思ったものの、空っぽになった胃袋が抵抗したのでそのままここへ入ったのだ。
大衆食堂ならカレーも置いてあるだろう、そう考えて。
あとは本当にカレーがあることを祈るだけだが・・・良し、あるな。
「はい、カレーライスお待ち!ごゆっくりどうぞ!」
おお、早速他の誰かがカレーを頼んでいるじゃないか。
・・・ああ、いい匂いがする。
こりゃたまらん。
早く私も頼んで食べて、胃袋のご機嫌を取らなければ。
いや待て、焦るな。
ここは食堂。
カレー以外のメニューもたくさんあるのだ。
まぁカレーは頼むんだが、私が今から見るのはサイドメニューだ。
おお。
卵焼き。
唐揚げ。
サラダ。
しっかりと定番どころを抑えているじゃないか。
ああ、でも腹が減った。
・・・もう頼んでしまおう、うん?
ポークカツ。
良いじゃないか。
ポークカツがサイドメニューにある。
ライスのおかずにも良し、酒のあてにも良し、カレーにも良しだな。
これで行こう。
「すいません、注文をお願いします。」
「はーい!少々お待ちくださーい!」
「お待たせしました!こちらカレーライスの大盛、ポークカツになります!ごゆっくり~!」
おお、来た来た。
・カレーライス
濃い茶色をしたカレールー、そしてそれに埋まるライス。カレーが嫌いな人、あんまりいないのではないだろうか。香ばしい香りが私の胃を刺激してくる・・・。
・ポークカツ
これまた大きなポークカツ。しかしその大きさ、視覚で私に美味しさを訴えてくる。酒、カレー、両方に合う万能おかず。
では、いただきます。
早速カレーを掬う。
おお、濃い茶色のルーに違わず、しっかりルーがドロッとしている。
私、こんなカレーいつぶりだろう。
―――美味い。
結構辛目なカレー。
具材がごろっとしたカレー。
色、感触、そのすべてが何だか懐かしく感じる。
専門店とかでは余りないような、本当にドロッとした感じ、本当に良き。
そう、そうだ。
懐かしい感覚に陥るカレー、それがこのカレーだ。
気取ってない、街の食堂のカレー。
この結構辛目で濃厚な味付けが、またたまらん。
ルーのドロり感、ごろっとしたキャロット、ポテト。
これがまた良い。
私に今カレーを食べている、その事実をしっかり意識させてくれる。
そして食べた時の、この香り。
薬草漬けで疲れた私の嗅覚を、癒してくれるような香り。
これが私の食欲を刺激してくる。
カレーを食べているという事実、食欲を刺激する香り、この2つのせいで、私の手は止まらない。
しかし止めなければ、私にはポークカツが残っている。
断腸の思いで手を止め、ポークカツに動く。
・・・そうだな、まずは少しだけ付け合わせのソースでいただいてみよう。
―――ああ、サクッ、ガツッ、美味い。
噛んだ時の感触、まさにポークカツ。
この1口で私の心をつかんでしまった。
私の月並みな表現で表すならば、厚い肉がジューシーで、サクッとしてて、美味い。
ソースが本当にいい感じ。
ああ、でも、ソースじゃなくても美味しい、そんな気がする。
と、すれば。
この後の行動、誰でも予想ができるだろう?
ポークカツをスライド、カレーの上に、どーん!!
美味いカレーと美味いカツ、美味さ+美味さじゃない、美味さ×美味さになる事間違いなしだろう!
カツカレー、いざ1口・・・。
―――フフッ、美味しい。
いかん、思わず笑いが漏れた。
いやでも、笑いが漏れるくらい美味しいぞ。
ただでさえ非常に高いカツとカレーの相性、美味しいカレーと美味しいカツなら笑いが漏れても不思議じゃない。
カレー専門店のスパイスがどうとか、そんなの知るか!て感じ。
俺がカレーでこいつはカツだ!と主張する感じ。
でも喧嘩はしない、仲良し。
おっと、忘れていないよ、ポテトにキャロット。
君たちもカレーの一員だもんな。
カツが主張するなら、君たちは引き立て役かな?
カレーをしっかり立たせる、そんな感じ。
なんだろう、もう、水何て飲んでる暇はない。
確かに辛い、けど美味い辛さ。
でも、もう、手が止まらないのだ。
「ありがとうございましたー!」
ふぅ、食った。
カレー、お代わりしてしまった。
食堂のカレー、本当に良いじゃないか。
なんだろう、本当にリフレッシュできた感じ。
よほど根を詰めていたのか、それともここのカレーが美味しすぎたのか。
たぶん、両方なんだろう。
タバコを取り出し、一服。
ああ、カレーの余韻、良い感じ。
さて、帰って開発の続きをしてみるか。
もう1踏ん張りだな。
願わくば、次も美味い店に会えるように。
主人公(男)・魔術師。久しぶりにカレーを食べた。中辛が好き。
万全の給仕・万全店長の1人娘。銀髪で活発系。かわいい。