日常、酒場でのエールセット
最初、この話のタイトル「曇りの日、かに玉」だったんです。
書き進めるうちにいつのまにか主人公が動き出して、酒を飲んでました・・・。
「どうも、魔術師さん。今回はわざわざありがとうございます。」
「いえ、こちらこそ。是非お力になれると良いのですが。」
さて、今日呼ばれたのはとある酒場だ。
その名も「酒場 キッド」。
木でできた、こうワイルドな感じの内装。
いかにも冒険者たちが使いそうな、そんな店だな。
しかしそれにしてはここのマスター、つまり今回の依頼主。
穏やかというか、優しげというか。
失礼だが雰囲気に合っていないような気もする・・・?
「すいません、酒場の内装見ると私未熟者にみえますよね。」
「え、いえいえ、そんなことは・・・。」
「はは、隠さなくても大丈夫ですよ。私自身いつも思ってますし。」
何だろう、顔に出ていただろうか。
ちょっと失敗。
「それでですね、今日来ていただいたのは机や椅子の加工についてなんですけど。」
「ほう、どういった感じに仕上げましょう?豪華な仕上げとかにもできますが。」
もっともその分お金もかかるけど。
だがこのワイルドな雰囲気の店にそれは合わないか。
「いえ、豪華じゃなくていいんですけど・・・。その、強度を上げることってできます?」
「強度、ですか・・・。ここにある椅子とか机、十分硬そうに見えますけど。出来はしますよ。」
「本当ですか!いやぁ、それは良かった。いえ、実はこの店ね、私の好みでワイルドな仕上がりにしたんです。でもそしたら当然お客さんもワイルドな方が多くて・・・。」
なるほど、その方たちが机や椅子を壊してしまうのか。
「幸い弁償とかはしてもらってるんですが、こうも立て続けに壊れることが多いと、買い替えの手間とかがかかって・・・。」
「わかりました。強度を上げる加工や紋章の彫りなら任せてください。ですが、どれくらいの強度にするかでお値段も変わりますよ。」
「強度は、一番強いものでお願いします。」
「ええっと、結構お金かかりますが・・・?」
「大丈夫です、何なら前金でお支払いいたしますよ。」
「いえいえ、流石にそれは大丈夫です。・・・では、一回加工したサンプルをお持ちしますね。その後それで良ければ契約して、納品次第お支払いをいただければ。」
最強の頑丈さ、と言っても私ができる範囲で大丈夫かどうかも気になるしな。
一度サンプルを持ってきた方が良いだろう。
「わかりました、是非お願いいたします。あ、そうだ、魔術師さん。折角なので1杯いかがですか?サービスしますよ。」
「いえいえ、そんな訳には。」
「いえ、良ければ是非飲んでいってください。」
「どうぞ、当店の1番人気、エールセットです。」
お、これは中々・・・。
・エール
木でできた、大きさ超ド級のコップ。そこに並々注がれるはエール。なるほど、店に負けないこのワイルドさ。食べ応えならぬ飲みごたえがあるぞ・・・!
・グリルチキン
これまたでかい、骨付きグリルチキン。茶色い表面、そこに齧り付いてもいい、この幸せ。クリスマスとかに食べるやつじゃないか、これ。いやでもクリスマスの時ですらこの大きさ、なかなか食べないか。
・串焼き2本
野菜の串焼き、そして肉の串焼き。これまたでかいじゃないか。というか野菜のみの串焼き、久しぶりに見たな。
・ポテトフライ
ポテトを丸ごとカット、何とも芋芋しいポテト。切って、揚げて、塩を振る。なのに万能な選手、万能なサイドメニュー。
これはまた、軽く1杯かと思ったらとんでもないことになってしまった。
だが、丁度少し腹が減っていた所だ。
食いきれないなんてことは無いだろう。
しかしこのエール。
これ1リットル以上入ってるんじゃないか・・・?
「びっくりしたでしょう。でも、これくらいの量の方がお客さんに喜ばれるんです。」
「いやはや、凄いですね・・・。では、ありがたくいただきます。」
さて、まずは。
やはりこのチキンだろう。
ワイルドなこの店、と、すればこいつもワイルドに食べないと失礼だろう。
では、骨をもって・・・お、重い。
一口、行こうか。
―――ワイルドな見た目、そこから容易に想像できる、このワイルドな美味さ。がっつりチキン、それだけでもはや御馳走・・・!
うーん、ずっしりガツンと来る、この美味さと食い応え。
でも肉は硬いなんてことは無く、むしろしっかり柔らかい。
この見た目通り、予想のど真ん中を突き抜けるチキン、素晴らしい。
こう、骨付きでそのまま出されるからか、自由に食えるのもいいな。
骨を最初にとってもいいし、齧り付いてもいい。
コース料理での食べ方とか、テーブルマナーなんて関係ない。
自由に、それでいて好きなように味わえる、押しつけがましさのないチキン。
・・・まぁもっとも、今は前に店主がいるから綺麗に食べるが。
しかし美味い、本当に美味い。
男の心というか、冒険心、そんな感情をおもいっきりぶつけれる料理だ。
そして、チキンを食べながら!このどでかいエールを呷る!
―――くぅ~、たまらんッ!
持った時の重量感、そこから飲んだときの喉越し。
そして何より、そう簡単にはなくならないこの容量!
しかも、こいつ、キンッキンに冷えてやがる!
豪快な料理、ならば飲み物もそれ相応の立ち振る舞いを求められるという事か・・・。
こりゃ冒険者もこの店に来るわけだ。
この量に対して値段も安いし、飲み物もエール以外に変更できるらしい。
「あ、すいませんね。ずっとここにいて。食べづらいでしょうし奥引っ込んでます。」
「そうですか?なんか気を使わせてしまって申し訳ない・・・。食べ終わったらすぐサンプル持ってきますよ。」
「わかりました、お願いしますね。」
これはありがたい気遣い。
よーし、そうとなれば食べまくろうじゃないか。
そうなれば、次、串焼きに行こうか。
串焼き、こうなると肉の方へ齧り付きたくなるが・・・ここはぐっと我慢。
まずは野菜から行こう。
おお、オニオン、キャロット、こいつらが交互に。
では、いただきます。
―――オニオン、ほっくほくじゃん。何これ、美味しい。
ほくほくのオニオン、こんなの中々食えないぞ。
いや、食おうと思えば家で料理すればいいんだろうが、大体は煮込みとか炒めだもんな。
そしてちょっとした焦げ目、こいつがカリッとしてて、良い。
お次はキャロット。
―――あ、こいつは逆、カリッとしてて甘くておいしい。
こいつは見た目通り、少し硬い。
でも中までしっかり火が通ってて、そこから甘さも感じる。
もし私が馬だったら、生のキャロットじゃなくてこっちを食べるな。
ここでいったんエールを補給。
口の中をさっぱりさせて・・・。
ああ、まだジョッキが重い、この安心感。
そしていよいよ、肉の串。
何とこいつ、牛の串焼き。
もし豚もあったらこれで肉3種コンプリートだった。
さて、そのお味は。
―――ジューシー、おお、ジューシー。牛、その肉の力強さ、串焼きで垣間見た。
串で焼いただけ、味付けもシンプルな、牛の肉。
なのにここまで美味しいその実力、やはり君は肉の王様。
魔物の牛の肉もいいが、普通の牛の肉もまた素晴らしい。
しかもこれを豪快に、串を手で持って食べれる喜びよ。
ステーキとはまた違った良さが、ここにある。
ああ、こいつには本当にエールが合うな。
ステーキだとワインなイメージなのに、串焼きだとエールなイメージ、私だけだろうか?
そして、おつまみポテトフライ。
酒にはこいつ、こいつには酒、もはや最近そんな感じがしてきた。
こいつを1つつまんで、口に運べば。
―――ド定番、安定、安心、この美味しさ。やはり期待を裏切らない。
酒が欲しくなる、ちょうどいい塩加減。
ほくほくとしたポテト、そこにちょっとした食べ応え。
この2つの塩梅がしっかりしてて、酒とポテト、無限ループが成立する。
凄く美味しい!と叫ぶわけでもなく、思いっきりがっつくわけでもない。
なのに誰もが酒を飲む、そんなときにはポテトフライ。
・・・いやまぁ、頼まない人もいるかもしれんが、私の中ではそんな感じなんだ。
さて、1通りメニューを一周したが。
やはりこのエール、只者じゃないこの量。
まだまだ余裕、表面が波打ってそれを教えてくれる。
ワイルドな酒場、そこでのワイルドな食事。
肉にがっつきたい、エールをがぶ飲みしたい、それで結構、いやそれが良い。
このセットはその全てを満たしてくれる。
酒の種類も結構あるし、1人で食事、からの酒。
そんな利用もできる店だな。
こんなことを考えながらもチキンに齧り付く私。
いやでもこのチキンには齧り付かずにはいられないんだ。
オオカミの魔物って、肉食べるときこんな気分なのかなぁ。
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「ありがとうございます、この強度なら大丈夫そうです!」
「いえいえ、こちらも美味しい料理を食べさせてもらいましたし、こっちこそお礼を言いたいくらいです。では、確かにお受けしました。納品までしばらくお待ちください。」
「よろしくお願いしますね。」
あー、美味かった。
家に帰る道のり、それが良い感じの腹ごなしにもなったし。
しかしエール、良くあの量を飲めたな私。
効いたら1リットルどころか1.5リットルらしい。
さて、あとは帰って依頼をこなすだけだが・・・少し、酒を飲みたくなってきた。
これはどこか、バーにでも行こうか。
いやでも、いったん家に帰らなければ。
我慢、我慢だ・・・。
「お待たせいたしました。ジントニックです。」
酒の魅力には勝てなかったよ・・・。
・ジントニック
カクテル、その中でも代表格。マスターの腕が問われる、正に看板メニュー。
だがここは「Bar cleared up」、その実力は知っているし、というか前に飲んだ。
でもまた飲みたくなる、それがジントニック。
いったん家に帰って用意もしたし、今日はもう大丈夫。
あとはこのひと時を思い切り楽しむだけだ。
うーん、ジンの良い香り。
―――エールもいいが、芸術品の様な、このカクテル。こいつもまた格別の味だ・・・。
うーん、沁みる、沁みてくる、この味。
あの量のエールを飲んだからこそ、またこのジントニックが格別だ。
酒に酒を合わせる、これは私も飲んべえの仲間入りだろうか。
いや、だが、酔って支離滅裂にはなっていない、だから大丈夫だ。
お酒は楽しく、美味しく、用量を守って摂取、だな。
しかし、今回の依頼も無事行きそうだし、全部のテーブルと机を加工するんだ。
結構儲かっていい感じだし、祝杯代わり、ジントニックで乾杯!
願わくば、次も美味い店に会えるように。
主人公(男)・魔術師。結局飲みまくって二日酔い。
「Bar cleared up」のマスター(男性)・渋いイケオジ。主人公と一緒に酒を楽しみ、主人公以上に酒を飲んだが、全く酔わなかった。




