蒸し暑い日の冷しゃぶ
少し文字少ないかもしれません。ブクマ1増えててウレシイ。
ん・・・もうこんな時間か。
今日は昨日みたいにギラギラとした太陽はないが・・・すごく、こう、蒸し暑い。
そんな天気ということもあって今日は冷房の効いた部屋で大口の案件を進めていたんだが。
まぁ、結構進んだな。
のんびりやったが、それでもいい感じだろう。
そしてもう少しで最初の200が完成する。
うん、納期は余裕でクリアできそうじゃないか。
だがこう、不思議と。
もう少しで終わる、そう思うと。
最後の最後まで思い切り突っ走りたくなる。
仕事、後ろに残すの嫌な人も多いんじゃないだろうか。
そんな訳で昼飯は・・・食べたい。
いや待て、たった今このまま突っ走りたくなると言ったばかりだ。
幸い軽食のお菓子をつまみながら仕事をしていたからか、猛烈に腹が減っているわけでもないんだ。
・・・うん、良し。
勢いで仕事を終わらせてしまおう。
――――――――――――――――――――――――――――
うーん、あらかた終わった。
この調子なら明日にでも残りの200台の作成に取り掛かれるな。
でも納品は・・・少し置いておこう。
まとめて納品した方が見栄えが良いし。
何より早くできると分かれば無茶を言われそうだ。
最近この大口の依頼しか手を付けていないし、他の依頼にも手を付けたい所。
ここで無茶を言われて更に200台増加、何てことになったら他の依頼が終わらせれない。
いやまぁ、200いきなり追加は余程の事が無い限り大丈夫だとは思うが。
あーでも、できた分だけ先に納品するといってしまったなぁ。
しまった、まとめて納品するって言えば良かった。
うーん・・・仕方ない、時間も良いしやっぱり200台先に納品しちゃおう。
――――――――――――――――――――――――――――
「あらあら、魔術師さん!もしかして・・・?」
「ええ、先にできた200台、納品にきました。」
「まぁ!ありがとうねぇ!」
「いえいえ、むしろこちらの方がお礼を言いたいですよ。ただ・・・残りの200はもう少し後になりそうです。」
「あら、そう?・・・ちなみにだけど追加ってできるかしら?」
おっと、これは。
「えーと、何台くらいでしょう・・・?」
「申し訳ないんだけどねぇ・・・あと100欲しいの。お願いできるかしら?」
100、100か・・・。
200じゃないし、できるといえばできるが・・・。
「そう、ですねぇ・・・。でしたら残りの200の納品と合わせてなら、恐らく。」
「あら、そう!じゃあお願いするわ!ごめんなさいねぇ、手間をかけさせて。」
・・・100、追加。
嬉しいが大変、いや、嬉しいんだ。
ウレシイ、ウレシイ。
――――――――――――――――――――――――――――
あー、結局ゴブリンの魔石をかき集めてたらもう遅い時間だ。
こりゃ明日は出ずっぱりになるだろう。
明日の天気がちょうどいいことを祈るしかないな。
だが、それでも。
追加が来てうれしいやら、複雑やらで。
―――腹が、ぺこぺこ。
・・・良し、飯だ。
降ってわいた100台、気合を入れなおさなければ。
そんな訳で夕食、毎度の如く飲食街にて。
というかほとんど毎日飲食街に来ている私、飲食街なかったら餓死でもしてるんじゃないか。
しかし・・・やっぱり夜でも蒸し暑い。
昨日の様なからっとした暑さも参るが、こう、真綿で首を絞めるような、そんな暑さも困る。
かと言って寒すぎるのも嫌いなんだが。
さてさて、こんな蒸し暑い今日、どんな料理を食べようか。
考えろ、感じ取れ、今の私は何が食べたい?
・・・なるほど、昨日に引き続き冷たい料理、あるいはさっぱりした料理を求めている様だ。
でも2日連続でソバは、ちょっと微妙だな。
うん、とりあえず店探しだ、行動しよう。
良さそうな店を見つけてからメニューを考えればいい。
立ってるだけでもジメジメしてくる。
さ、移動開始だ。
レストラン。
混んでる、次。
鍋。
お、もう広まりつつあるのか。
・・・でも今日暑いし、汗かきながら1人で鍋は、さすがにパス。
食堂。
ま、無難か。
今日はここでいいだろう。
正直暑くてこれ以上歩きたくない。
「いらっしゃいませー。お好きなお席にどうぞー。」
お、店内冷房効いてていい感じ。
「お食事処 キラメキ」、名前の通り内装もこう、少しお洒落な具合だ。
こんな暑い日、まず最初にすること、それは。
おしぼりで顔を拭き!
冷えた水を飲む!
―――あー、正にこの水、命の水。とりあえずエールならぬとりあえず水!
うーん、生き返る!
暑い中歩いて熱を持った体、しっかりと冷却された。
クーリングして冷静になった体と頭。
この状態で初めてメニューを攻略できる。
さ、メニューを見よう。
・・・おー、定食、ラーメン、色々とある。
おおよそ普通の食堂にある物が揃っている感じ。
そして、パスタ。
こいつは食堂にしては珍しい。
だが今日の私が食べるべき料理では無さそうだ。
何というか涼しげな・・・そうだな、定食とかあれば文句なし。
・・・とか言ってたら見つけたよ、涼しげな定食。
豚の冷しゃぶ定食、もう文字が涼しげ。
はい、決定!
「お待たせ致しましたー。冷しゃぶ定食ですー。」
お、肉から湯気が立ってない。冷えてるんだろうか。
・冷しゃぶ
敷き詰められた野菜、その上には敷き詰められた豚肉。しっかり火が通っているのに、その温度は涼しげ。
・ライス
暑い時でもこいつからは湯気が立つ。
・冷や汁
これは・・・味噌汁の冷たいバージョンか。温度以外はオーソドックスなのに、その温度の要素だけで凄く魅力的に見える。
・冷やしトマトの小鉢
冷たいトマト、ただそれだけ。だがこれがいい。
さあ、実食開始だ!
先ずやはりメインディッシュ、冷しゃぶだろう。
この薄い豚肉、こいつで野菜を巻けば・・・準備完了。
いただきます。
―――冷えてる、冷えてやがる、この肉。例えるなら、そう。豚と野菜が海辺でバカンス。日焼け止めがこのソースだ。
しっかり冷えて、されど凄く美味しい。
肉は硬くないし、むしろ薄いのにジューシー感がある。
豚肉、何故薄くて冷たいのにこんなに美味いんだろう。
まるでこれぞ熟練の技、この店のコックの腕前、冷えた肉を絶品料理に作り替えた。
そして豚肉が薄いからこそできる、この巻食い。
巻食いができる定食や料理、外れはないような気がする。
野菜を巻いて食うだけでその後味が綺麗さっぱりあっさりだ。
更に巻食いならでは!肉のジューシー感を一瞬味わった後の、ザクッとした野菜の食感、堪りませんな。
冷えてあっさりジューシー、冷しゃぶ、見事。
だが忘れてはいけない、このソース。
濃厚じゃなく、サラッとした、さっぱりで少し酸っぱいソース。
こいつがまた・・・肉にも野菜にも合っている。
正に日焼け止め、どんな肌でも綺麗にコーティング。
肉には酸っぱさを、野菜にはその味を、しっかり纏わさせている。
そしてそんな美味い冷しゃぶ、こいつをライスと一緒に食べれば・・・ほら。
―――豚と野菜、ソースで輝く肌を見せ付けながら、ライスの水飛沫ではしゃぐ。
冷たいメインと湯気登るライス、しかし喧嘩は全くしない。
いや、寧ろ冷しゃぶがライスを歓迎している。
うん。
間違いなく、これこそ今日の私が食べたかった料理。
良し、一通り舌鼓を打ったあと、次は冷や汁と洒落込もうじゃないか。
その名の通り、奇も変哲もない冷えた汁。
しかしその冷えた汁だからこそ今の私を大いに魅了する。
ひと啜り、ひと啜り・・・。
―――あ、そっか。スープって、冷たくてもいいんだ。透き通る様な、そんな喉越し。
しみじみと、体に沁み込んでいく味。
冷たく、喉越しが気持ちいいレベルだ。
だが、それに反して私の食欲は飲むたび飲むたび、熱い熱を持っていく。
冷しゃぶとライスが海のバカンス、ならばこの冷や汁は穏やかな川の流れと言ったところだろうか。
冷や汁を飲むその嚥下、その一つ一つが川のせせらぎ。
そしてライスと合わせれば。
―――涼しげな森、冷や汁の川とライスの林、穏やかな涼しさ。
まさにヒーリング、癒される味だ。
そしてラスト、冷やしトマト。
もう見た目がトマト、そのまんま。
だがこのシンプルさが最高なんだ。
小鉢だし・・・1口で行っちゃえ。
―――森で食べるおにぎり、或いは海辺のウォーターメロン。あると嬉しい、その存在。
このさっぱりとした酸っぱさ、これだよこれ、トマトだ。
口直しにも最適だな。
・・・まあ小鉢だから一口で終わったが。
だが皿一杯にでても困るし、きっとこの小鉢の量が最適なんだろう。
さあ、再びのメインディッシュに戻ろうじゃないか。
ああ、美味くて涼しい、まさかの定食。
豚と野菜で、あるいはライスも混ぜて。
そこに流れ込むは冷や汁、口の中を癒やしてくれる。
食べれば食べるほど感じるのは爽快感、そして涼しい定食とは真反対、熱くたぎる私の食欲。
主食、肉、野菜、水分、全てをバランスよく食べる事で私の体調も整えてくれそうだ。
蒸し暑い日、そんな日に出会えたこの定食。
涼しい定食、私はきっと忘れることはないだろう。
ごちそうさまでした。
「ありがとうございましたー。」
外は・・・やっぱり蒸し暑いな。
だが今の私、気分はさっぱりしてる。
美味い料理と同調できる、この幸せよ。
これもまた美味い料理を食べる、その魅力の一つではなかろうか。
あとは煙草を一本、と。
火をつけて、吸って、吐く。
しかしあの冷や汁、まさかスープの料理に喉越しなんて言葉を使う羽目になるとは。
暑い日にピッタリ、素晴らしいスープだった。
やはり飲食街、私の知らない料理がまだまだあるようだ。
さて、家に帰って続きでもしようか。
そろそろ別の依頼にも手を付けないとな。
願わくば、次も美味い店に会えるように。
主人公(男)・魔術師。後日元気ちゃんにおしぼりで顔を拭くのはおじさん臭いといわれ、絶望。クールちゃんが必死にフォローした。
お食事処キラメキの給仕(女性)・一族経営の食堂。内装の趣味はすべて給仕。もちろん美少女。




