ホルモン焼肉
「孤独のグ〇メ」見ながら書いてます。
魔道学院での罰ゲームのような依頼が終わってしばしの日数。
ここのところは平凡な日々を過ごしていた。
依頼についても魔王際準備の賑わいに反して、非常にありきたりで平凡なものばかり。
ケース1
・マンドラゴラの根っこを10本集めてほしい
私の得意先で安く仕入れたマンドラゴラの根っこをそのまま横流し。
まぁ卸売りと小売りの間に入る問屋みたいなものだ、楽にそこそこ稼ぐことができた。
しかしなぜマンドラゴラはこんなにも人気なのだろうか。
私が自分で作る薬品はマンドラゴラをほとんど使わないが。
ケース2
・シキラ草30本の納品
これはカネラ草を探すついでに摘んできた。
あのドレッシングがあれば私でもカネラ草を食べれると思ったが、ドレッシングの再現がどうにも私にはできなかったのが残念だ。
やはりポーションの組み合わせではドレッシングは作れない。
ケース3
・学院へ触媒の納品
前の依頼で学院側(特にあの新任教師)からそこそこの評判を獲得したらしく、触媒の納品について依頼が来た。
特に前の生徒を腹パンで沈めた行動が高評価らしく、一時期あのクラスでは魔力を込めた腹パンが流行ったとか。
どこの世紀末だ、というかそれを嬉しそうに語ってきたあの教師、いろいろ大丈夫か。
まぁ授業の立ち合いは面倒だが納品系の依頼なら学院は1番今後に良い依頼先といえるだろう。
・・・というか私、平凡な依頼というか納品しかしてないな。
商人の真似事をしている気分だ。
よし、ここはひとつ気分を変えて違う依頼でも見てみるか。
「・・・なるほど、この設計図で魔道具を作ればよろしいんですね?」
「おう!こいつがあればうちの料理の幅が広がるからな!鍋物とかも出せる様になる!」
「鍋、想像つきませんがそれは楽しみですね。丹精込めて制作させていただきます。」
あの後、違う依頼を見に来た私は魔道具の製作依頼を受けることにした。
というのもその制作依頼の依頼主、なんとこの前行った「ヒノキ」の大将だったのだ。
この前東洋の依頼を受けてみよう、そう思ったのもある為引き受けることに。
報酬は相場より少し低め、だがしかしたった今大将が言った鍋という料理が非常に気になる。
私の魔道具で美味しい料理が増える、ならば多少報酬が低くても何ら問題はない。
むしろ魔道具が完成した時点でこの鍋を食うタイミングができる、鍋の最初の権利はは私がもらった。
さて、さらに話を詰めていくとしようか。
あの後依頼や設計の話を6割、のろけを4割聞かされる羽目に。
仲がいいのはよろしいことで。
ただ前も言ったがのろけは犬も食わない。
しかし、火を使う料理、鍋がすごく気になる・・・。
ああ、そんなことを思っていたら
―――腹が減ってきた。
よし、家に帰る前に腹ごしらえだ。
――――――――――――――――――――――――――――――
毎度おなじみ飲食街。
今日は肉料理を食べる。
これは前回刺身定食を食べた後から考えていたことだが、特に今回は依頼の内容が火を使う料理の魔道具ということで余計に腹が減っている。
今日は癒しじゃない、さっぱりもいらない、がっつく、わがままな私の腹を満たす。
その為にもガツッと行ける肉料理を探す必要があるが・・・。
ビーフシチュー。
いや、食べたいが今の私には少し優しすぎる。
ステーキ。
がっつけるが、好きなものを好きなだけ食いたい。
流石にステーキ好きなだけ食うと金が・・・。
焼肉。
焼肉?これだ!!!
前回の候補に入らなかった焼き肉を、ここで食べる、これも運命か何かだろう!
そうときまればいざ焼肉店へ!
「らっしゃい!カウンターへどうぞ!!」
おおう、1人ということを伝える前に案内されてしまった。
しかしそれもいい、今の私は焼肉への情熱がほとばしっている。
あの後焼肉と決めた私は、次に見つけた焼き肉店へ入ると心に決めた。
そして目に入ってきた焼肉屋、その名も「ほるもん しどちゃん」という店。
ほるもんというものが何かはあまり知らないが、肉を焼いている様子だったので焼肉で間違いないだろう。
現に今もいい匂いと音がしている。
「お客さん、ホルモンははじめてかい!?」
「え、ええ。焼肉が食べたいなーって思ったときにこちらの店を見つけたので入ったのですが、ほるもんは食べたことがないですね。」
「なるほど!うちのホルモンは美味いから安心しな!初心者はメニューの☆セットがお勧めだよ!」
「なるほど・・・。ではその☆セットとライスをお願いします。ほるもん楽しみにしてますね。」
応よ!と声をかけて厨房へ戻る店主。
☆セットな、どれどれ・・・。
~本日の☆セット~
・ホルモン(ブルーブルの小腸)
・上ホルモン(ブルーブルの大腸)
・ハツ(ブルーブルの心臓)
・ハラミ(ブルーブルの横隔膜)
・本日のサラダ
・・・小腸?大腸?心臓?
もしや私はとんでもない選択をしてしまったんじゃないか・・・?
聞いたことがないぞ、内臓を食べるなんて。
いや、食わず嫌いは良くない、美味ければいい、そうだ。
実際周りを見てみろ、いい匂いといい音が鳴りまくっているじゃないか。
この匂いだけで分かる、これは美味そうだと。
しかし種類が多いな・・・。
通好み!〇セットとやらは
・レバー(肝臓)
・赤コリ(心臓弁)
・ケッカン(大動脈)
・ミノ(胃)
・・・なるほど、どんなものか全然わからん。
まぁ☆セットが美味しかったら追加注文しちまおう。
「あい、お待たせ!本日の☆セットですよ!右上がホルモン、右下が上ホルモン、左上がハツ、左下がハラミです!あとサラダとライスね!」
こ、これは・・・!
・ホルモン
この店の名前にもあるホルモン。ブルーブル(牛の魔物)の小腸らしい。形がしっかりしていて、思ったよりドロッというか、変な見た目ではない。脂がすごいな・・・!
・上ホルモン
こっちは大腸らしい。皮のような部分がシマシマだな。臭みとかはなく、またぱっと見脂がホルモンより少ない気がする。
・ハツ
これは心臓との事だが、確かに結構見た目が赤赤しい。ただ脂がないのですっと食えそうか?
・ハラミ
これもホルモンということに驚き。見た目全然普通の肉じゃないか。これだけでも美味そうだな。
・サラダ
野菜の千切りサラダ。今回は脂が多そうだからさっぱりとしたこいつは重宝するかも。
・ライス
皆まで言うな、焼肉ライスは至高だ。
「全部タレで味付けしてあります!ホルモンはしっかり焼いて食べてくださいね!」
もはや言葉はない、先ほどまでの不安はどこへやら、今の私は新しい発見に対する好奇心でいっぱいだ。
周りの客の焼いている音、そして香りが好奇心を後押ししてくれる。
いざ、ホルモン!
とはいったものの
「すいません、このホルモンと上ホルモンはどのくらい焼けばいいんでしょうか?」
失敗するリスクは減らしたい。美味いものを美味い様に食いたいのだ。
「ああ、ホルモンと上ホルモンはまずこの皮の部分から焼いて!そこに少し焦げ目がついたか、くらいで裏返してください!割合としては皮8:脂2くらいが目安ですかね!ハツとハラミは中心までしっかり焼いてくださいね!」
「わかりました、ありがとうございます。」
網に肉を乗せていく、それぞれバランスよくだな。
ホルモン、上ホルモン、ハツ、ハラミ・・・。
おお、いい音!
ただまだまだ焼けない、いかんな、これじゃ生殺しだぞ・・・。
少しサラダをつまむことで食欲をコントロール、野菜ファーストで体にも良いだろう。
お、皮に焦げ目がついてきた。
ここでひっくり返すんだよな・・・。
しかしすごい脂だ・・・これはガツッとくること間違いなし!!
脂を少し焼いて、お、少し透き通ってきた?
時間的にも8:2を守っているだろうし、そろそろ大丈夫か。
どれどれ・・・では、実食。
―――うお、この脂・・・噛むほどに・・・美味いッ!!
なんだ、全然美味いじゃないか!
最初びくびくしていた自分がバカらしい。
特にこの脂、甘い上に口の中でとろける感触、最高に素晴らしい!
ライスとの相性も抜群だ。
この柔らかい味ながら肉肉しくてガツンと来る感じ、大好きです。
これ、もしかしてサラダとも合うんじゃないか?
ホルモン、サラダ、そしてライスの三位一体、試す価値は大いにあるな・・・!
ライスの上にホルモン、そしてサラダを乗せて・・・。
ガツガツっとかき込む!!
サラダがホルモンの脂を良い感じに中和して、これもまた別のベクトルで美味い!
最初の不安はやはり杞憂だった、音と匂いは正しかったんだ・・・。
この流れのまま、次は上ホルモンへ移ろうか。
ホルモンがあれだけ美味いなら、上ホルモンも美味いに決まってるよなぁ?
いざ、実食!
―――うむ、やはり、これも、美味い・・・!
ホルモンより脂身が少し少ない分、肉の感じが強い?
肉肉しいことに変わりはないが、女性でも食べやすいんじゃないか、これ。
小腸と大腸でまさかこんなに印象が変わるとは・・・。
見た目が似ているのに不思議なものだ。
それに感触がホルモンとは少し違ってとろり、歯ごたえはコリコリしてるような気がする。
これもご飯のおかずにピッタリ、ほかにもエールのあてにもいいんじゃないか?
エールを豪快に飲み込みながら、ホルモンを食らう・・・素晴らしいな。
今度やってみよう。
ホルモンライス上ホルモンライスサラダホルモン。
こんなことを繰り返している間に次の肉が焼けてきた。
次は・・・ハツにしようか。
この濃い赤だった肉、果たしてどう来る?
肉とって、たれにつけて・・・
―――なるほど、これもまた良き良き。
普通の肉とは違うというオーラを出しつつも、確かに肉!
何だろう・・・淡白なおいしさっていうのか?
味がないわけではないんだが癖がほとんど感じられない、でも美味しい肉。
塩でも美味そう、というか調味料の数だけ化ける可能性もあるんじゃないか。
更にこの独特の歯ごたえ。
これもまたこの肉という存在感を後押ししている、そんな気がする。
心臓の肉といわれても信じられないような、そんなおいしさがこいつにはある。
こいつもエールに合いそうだ、要チェック、と。
そしてラスト、ハラミ。
こいつは他と違って見た目が普通の肉だな。
焼けた感じも、うん、美味そうな肉だ。
では、パクリ。
―――素晴らしい。ジューシー、肉汁、全てが高水準。
これが内臓の肉?信じられない。
私は今までこれを知らなかったのか、そう思えるほど、美味い、肉。
程よい脂の感じ、しかし肉汁がしっかりあり、感触も食べやすい肉。
これもまたハツと同じく、調味料の数だけ正解がある、そんな気がする。
なんだろう、どう表現すればいいのか、いや表現する必要なんてないのかもしれない。
ただただ、美味い。
ホルモン、上ホルモン、ハツ、ハラミ、全て素晴らしい肉じゃないか。
ならば私がとるべき手段は・・・
全て、美味しく、いただくのみ!!
さぁ、一通り味わった今こそ、宴を始めよう。
一人の男の、くだらない、でも最高に美味しいものを好きなだけ食べれる、肉の宴だ!
私は今日学んだのだ。
内臓だから悪い、そうではない。
美味い肉は美味い、それを学んだのだ。
―――すべての肉に、貴賎なし。
「ごちそうさまでした。」
「あいよ!どうだったい、うちのホルモンは?」
「控えめに言って最高でした、また来ますよ。あ、一服してもいいですか?」
ありがとさん!何て言いながら灰皿を渡してくる店主。
この余韻に浸るように、肉の味を忘れない様に、煙を吸って吐く。
この世には、まだまだ私の知らない料理がたくさんあるようだ。
最近は新しい発見ばかり、退屈しなくて良い。
そもそもこの店のホルモンもまだ制覇していない、もう一度ここにきても新しい発見をするのだろう。
でも、今日はここまで。お腹、いっぱい。
肉も堪能したし、次はどんな料理を食べようか。
願わくば、次も美味い店に会えるように。
主人公(男)・魔術師。美味い肉でご満悦。学院で腹パンが流行ったと聞いて軽く引いた。
焼肉屋の大将(男)・最近店を出した。美味いの言葉が何よりうれしい。