いやぁ、美味しい生ハムにカツサンド。
1日遅れの投稿です。
もしかしたら次回はもっと遅れるかも・・・。
「では、失礼します。」
「ありがとうございました、魔術師さん。」
良し良し、今日は順調だ。
その分今日は出ずっぱりだったが・・・。
流石に1日に10件はきついな。
少し詰め込みすぎた。
でも順調に営業が進んだし、次でラストのお客さんだし。
こんな忙しい日も偶には必要に違いない。
まぁ、ラストのお客さんの場合、納品するだけで終わりなんですけどね。
何でも頑張ってる娘さんにサプライズプレゼントをしたいとか。
それで短杖の作成を依頼されてたんだ。
ただ・・・その。
報酬がかなり安いんだよな。
相場の3割くらいしかなかった。
多分短杖の作成を受けてくれるところが無くて私に回ってきたんだろうが・・・最初は私も乗り気じゃなかった。
でもなぁ・・・情に訴えられたというか。
夫を亡くして母1人で3人の娘さんを育てて。
しかも娘さんは学院に通いながらバイト、それを生活費に充ててるらしく。
そんな娘に何かプレゼントをしたい、と訴えられたら、ねぇ。
こういうところに小回りが利くのが私みたいなフリーの魔術師だし、仕方ないって感じで受注。
短杖も色々頑張って、何とか赤字にはならないレベルで製作したが・・・。
報酬と製作費がトントンくらい、儲けは0と言ってもいいだろう。
さて、そろそろ着く頃か。
娘さんが喜んでくれると良いんだがな・・・。
―――――――――――――――――――――――――
「どうも、奥さん。お世話になってます。」
「あら、魔術師さん。どうされましたか?」
「いえ、前にご依頼いただいた短杖が完成しましたので、納品に来たんですよ。」
「あ・・・!ありがとうございます、魔術師さん!」
「とりあえず中に入っても大丈夫でしょうか?一応完成品のお披露目や細かい手直しなどがあるかもしれないので・・・。」
流石に玄関で渡してはい終わり、という訳にもいかない。
しっかり作ったんだし、最後まで面倒は見ないとな。
「え、ええと・・・少しお待ちくださいね。」
「ええ。」
「では、改めてこちらがご依頼いただいた短杖になります。」
あの後2、3分待ってた後家に上がらせてもらった。
「これが・・・凄く立派ですね・・・。」
「自分でも中々の出来栄えだと自負していますよ。どこか気になる所等あれば是非おっしゃってください。手直し等に料金はいただきませんので。」
「いえいえ、気になるところなんてそんな。・・・でも、本当にありがとうございました、魔術師さん。杖って高いんですね。」
「まぁ・・・魔術師や魔法使いの相棒的存在ですからね。良い杖はそれこそ天井知らずの価格ですし。」
実際、私が使っている杖もとんでもなく高い物だからな。
素材だけでも凄い価格になる。
「長女にはずっと苦労掛けて・・・私1人でしっかり稼ぎがあればよかったんですけど。そんな長女に何かプレゼントしたいって思っても、お金が無くて何も買ってあげれなくて。今も長女が使ってる杖、小学生の時に買ってあげたものなんです。」
「それは・・・。この杖、きっと娘さんも喜びになると思いますよ。」
「ふふ、そうだと良いんですけれど。」
「いえいえ、私が長女さんの立場だったら絶対喜びますから。・・・とりあえず短杖、木箱に戻しちゃいましょうか。」
サプライズプレゼントなら、やはり箱のままの方が良い。
そっちの方がこう・・・風情がある様な気がする。
―――――――――――――――――――――――――
「では、これで。」
「本当にありがとうございました、魔術師さん。」
「いえいえ。また何かありましたらお呼びください。では。」
杖を箱に戻した後、軽く談笑をし終了。
娘さんが戻ってくる前に退散しておかないとな。
だが、本当に苦労してるんだなぁ、あの奥さん。
でも大変なだけじゃなくて・・・どこか幸せそうだった。
本当に娘さんたちを愛してるんだろう。
ま、とりあえず今日の営業は終わりだ。
すっかり時間も夜だぞ、夜。
グッと背伸びをして・・・。
―――あー、腹減った。
家族の良い話を聞いてたら、なぜか腹が減る私。
何というか、私らしいな。
いや、昼に軽くサンドイッチしか食べてないし、この時間に腹が減るのも当然か。
良し、今日は酒でも入れるとしよう。
良い家族愛も見れたことだし、この気分のまま飲もうじゃないか。
さ、飲食街へ向かうとしますか。
到着、飲食街。
飲むぞ、今日はたくさん飲むぞ。
今日は・・・そうだな。
屋台も良いが、居酒屋。
居酒屋でじっくり飲みたい気分だ。
そうと決まれば早速店探し、開始!
・・・何気に久しぶりに店まで決まったんじゃないか、今日。
本当だったらここらへんでまだ悩んでるはずだし。
いや、そんなことはどうでもいいか。
とりあえず店を探そう。
食堂。
残念、今回はパスなんだ。
酒を飲みたいからな、次。
焼肉。
あー・・・惜しい。
焼肉、良いんだが・・・今回はパスだ。
今日は肉以外にも色々と食べながら酒を飲みたい。
レストラン。
レストラン・・・ワインを飲みながら舌鼓、これもありだな。
ありだが、かなり高くつきそうだ。
うん、今回はパスで。
さてさて、居酒屋どこかに無いかな~?
どこでも良いからあったらそこに・・・お、あれは。
「酒・肴 オチェーノ」、酒、酒じゃないか!
いいタイミングで出現してくれた、居酒屋君。
これはもう・・・ここに入るしかない。
いざ、入店!
「いらっしゃいませ!御一人様ですか?」
「ええ。」
「かしこまりました!こちらのカウンター席にどうぞ!」
さて、勢いよく入ったここ、オチェーノだが。
お客さんは2組程度?
結構遅い時間だし、他の人たちは帰ってしまったのだろうか。
まぁ何はともあれ、例に漏れず美人な給仕さんに案内されてカウンターへ着席。
明るめの木でできたカウンターとイス、風情があって良いじゃないか。
席はカウンター席の後ろ側にテーブルが4席。
奥は座敷席になってるらしい。
「どうぞ、メニューになります!」
「ありがとうございます。」
「良ければ先にお飲み物だけでもお伺いしますが?」
「あ・・・いえ、一緒に頼むので大丈夫です。」
「かしこまりました!ではお決まりになりましたらまたお声がけください!」
さてさて、それじゃじっくりと第一陣を決めるとしよう。
とりあえず酒は・・・エールで良いな。
とりあえずエールだ。
そして他のメニューを決めるわけだが。
・冷やしトマト
・ポテトサラダ
・鳥皮ポン酢
うん、居酒屋らしいメニュー。
他にも・・・おや。
・切り落とし生ハム
※当店お勧め、おつまみ部門№1!
おお、切り落としか。
という事はどこかに・・・あ、あった。
というかカウンターの縁に生ハムの原木がドドンと置いてある。
これは・・・頼まないとな。
そうだな、喉も乾いてきたし。
一旦先にちょっと頼んじゃおう。
「お待たせ致しました!お通しのぶつ切りマグロ、エール、切り落とし生ハム、ポテトサラダになります!」
おお、第一陣が来た。
赤に黄色にピンクに白、色鮮やかで良いじゃないか。
・ぶつ切りマグロ
マグロの刺身、だがその存在感がゴロッとしてる。これをお通しで出しちゃうこの店、やはり当たりだった様だ。
・切り落とし生ハム
魚のマグロが赤、ならばこの肉はピンク。薄いのにその存在感は分厚いぞ。
・ポテトサラダ
丸く盛られたポテトサラダ。ライスとは違うその白さ、酒呑みの名脇役。肴に良し、取り敢えず食べるも良しだ。
・エール
居酒屋で酒を飲む、となればコイツは外せない。シュワっとした爽快感と喉越しが酒呑みの心を掴んで離さないんだ。
では、いただきます。
さ、先ずはお通しから。
このマグロのぶつ切り、コイツを味わうとしようじゃないか。
小皿にショウユを入れて、ワサビを溶かす。
ワサビは入れ過ぎ厳禁、ただ少し多めに入れまして。
良し、こんなもんだろう。
ではでは、早速・・・。
―――おお、マグロのぶつ切り、確かな食感。シンプルに美味いマグロの刺身、ワサビとショウユの加減もばっちりだ。
薄い刺身と違って、またそれが良い。
ぶつ切りにはぶつ切りの魅力があるな。
今まで薄い刺身しか食べていなかったが、こういうのもありだ。
何て言うか、刺身の新しい一面を見た気分。
大きい身がまた良いんだ。
刺身じゃ味わえない食べ応えをこう、思い切り感じることができる。
マグロって薄くても美味しいのに、分厚くても美味しいんだな・・・。
これは進む、進んでしまう。
思わずもう1口。
―――ああ、分厚い魚の身、そこにワサビショウユが華やかだ。
これは素晴らしいお通し。
お通しは店の看板、もしくは顔ともいうが。
こんなお通し出してこられちゃ、もう。
私も飲むしかないってものよ。
―――くぅー、仕事終わりのこの一杯!これが堪らん、止められん!
美味いお通しに美味い酒。
これを最高、幸せと言わずして何と言う?
まだまだ始まったばっかり、ぶつ切りを2切れとエールを軽く飲んだだけなのに。
どうしてこうも充実しているんだ。
これはこの充実感。
こいつを維持したまま、更なる充実を楽しむしかない。
となればやはり・・・ここは生ハム。
原木切り落としのその力、見せてもらおうじゃないか。
うん・・・こう。
見た目がもう、普通の生ハムとは全然違う。
普通の生ハムより硬そう?
ま、とりあえず食べればわかるか。
いざ、実食。
―――うっほぉ、なんだこれ。普通の生ハムと全然違うじゃないか、この美味しさ。旨味が凝縮してるって、正にこの生ハムの為にある様な言葉では?
凄い、もう。
肉の旨味が凄く濃い。
そして生ハムの脂、こいつが口の中で溶けている。
何より普通の生ハムよりも味が濃い。
これは、これは・・・。
酒が進む、悪魔の肴だ。
―――あー、しょっぱい美味さにエールが進む!こんな美味しさ、家では堪能できるまい。
生ハムの原木、この味を知ってしまうと欲しくなるが・・・無理だな。
あんな大きい奴買ったとしても1人では消費できないだろう。
それに手入れとかもあるんだろうし。
私じゃ管理もろくにできず、腐らせてしまいそうだが・・・。
それでもこの味。
本当に生ハムの原木が欲しくなる美味しさだ。
こう、噛めば噛むほど旨味が出てくる。
脂身はとろけて、旨味が滲み出て。
これを家で味わえたら、どんなに至福な事か・・・。
ぶつ切りマグロからの確かな充実感、見事に私を満足させてくれた。
ふぅ、このままだと生ハムとマグロ、いきなり食いつくしてしまいそうだ。
しかし、その為のアイツ。
心を落ち着けるためのポテトサラダ、私にはこいつがいる。
白く丸い存在感、しかし頼れるその存在。
酒の肴に、一息つくために、いつでもどこでも活躍を選ばない。
さ、とりあえず1口いただきますか。
―――うん、美味しい。シンプルに美味しい、良いポテトサラダだ。
美味いものが口の中に続いていくと。
唐突にこういう、シンプルな美味しさが恋しくなるんだよな。
そしてその期待にこのポテトサラダがしっかり応えてくれる。
これこれ、ポテトサラダはこういうのでいいんだよ。
このねっとりした感じが凄く私好みだ。
ポテトサラダって、店ごとに種類が違うよな。
ペースト状だけの奴もあれば、ごろごろポテトが入ってる奴もある。
店ごとに違う形状、でも同じ名前の料理を食べるのってなんだか楽しい。
もしかしたらポテトサラダもお通しの様に、店の看板なのかもしれない。
そんなことを思いながらもう1口。
―――これこれ。こういう美味しさが今の私には必要なんだ。
シンプルに美味しいポテトサラダ。
コイツで口の中を整えて。
その後エールを一回呷れば、また新鮮な気持ちでこの1人宴会を楽しむことができる。
良し、こいつらで酒と肴を楽しみながら次のメニューを考えるか。
「お待たせ致しました!追加の切り落とし生ハムと特製カツサンド、薬草酒のロックになります!」
来た来た、第二陣。
特製カツサンド、どれほど特製なのか。
その実力見せてもらおう。
・特製カツサンド
ふわふわのパンに・・・見合わないほど分厚いカツ。いやほんと分厚いな、こいつ。軽く行けるかと思ったら思いの外食べ応えがありそうだ。
・切り落とし生ハム
全部食い切ったが、もう少し味わいたいこの美味しさ。中々食べれないし今日一杯食べておかないとな。
・薬草酒のロック
偶に飲みたくなる薬草酒。こう、ちょっとした青臭さが癖になるんだよな。それでいて酒精も高いし安いんだ。
良し、いただこう。
先ずはこのカツサンドに思い切り齧りつこうか。
おお、手に持つとどっしりとしたこの重さ。
カツが分厚いだけあるな。
そこにふわふわのパンの感触がもう、堪らん。
はやる気持ちを抑えながら、それでもドキドキして1口・・・。
―――ふわふわの食感から、いきなり重厚なカツの味!見た目は素直なカツサンド、しかしその実凶悪な美味しさのカツサンドだ・・・!
成程、特製と言うだけはある。
この美味しさ、私は見事に見た目に騙されてしまった。
ふわふわからのザクッとした揚げたてのカツが堪らない。
これ、ダイエット中の人に渡したら怒りながら喜んで食べるんじゃ無いか?
今度先輩に差し入れて見ようかな・・・。
食べたらわかる、この美味しさ。
見た目の三倍は美味しい。
特にこのソース。
パン、カツ、ソースの三種、シンプルなカツサンドなんだが、逆にそれが良いんだ。
カツの断面からなんて、肉汁が思い切りあふれ出てる。
この肉汁の輝き、ダイアモンドにも匹敵するぞ。
咀嚼したカツサンド、しかしその美味しさにすぐもう1口。
―――あー、ジュワっと肉汁が広がって。ソースとパンがカツをカツサンドに仕立て上げている。
私、このカツサンドなら永遠に食べれそうだ。
だって美味しくて、揚げ物特有のあの重さ。
それを全く感じない。
モグモグ、ゴクッと。
うーん、このカツサンド。
お持ち帰りしようかな。
明日の朝にちょうど良さそうだ。
と、カツサンドも美味しいが。
ここは一度、薬草酒も飲んでみよう。
うーん、この香り。
人によってスッとするか青臭いと感じるか、結構分かれるんだが。
私は結構好きなんだよな。
どれ、ゆっくりと1口・・・。
―――スッと広がる薬草の味。おお、ここの薬草酒中々濃いな。
でもこの感じ、嫌いじゃないぞ。
むしろ好きだ、私。
人を選ぶ美味しさだが、好きな人はかなり好き。
そしてここの薬草酒、他の店よりもかなり濃い目。
もしやここの大将も薬草酒が好きなんだろうか?
さて、カツサンドを食いながら次のメニュー・・・いや。
ここはカツサンドをお代わりしても良いかもしれん。
こんなに美味しいんだ、食べれる機会にいっぱい食べとかないと。
と、そんなことを考えながら手は生ハムへ。
―――あー、強烈に美味しい。この美味しさも今のうちに堪能しないとな。
うん、そうだな。
ここはカツサンドに生ハム。
こいつらをお代わりすることにしよう。
そして気になる点が1つ。
「すいません。」
「はい、なんでしょう?」
「このカツサンド、持ち帰りってできるんですか?」
「ありがとうございました!またお越しください!」
「ごちそうさまでした、美味しかったです。」
いやぁ、美味しい生ハムにカツサンド。
思い切り堪能させてもらった。
控えめに言って最高だったぞ。
居酒屋なのにカツサンドが美味いなんて、入る前に分かる訳がない。
いやぁ、良かった、今日この店選んで。
そんなことを思いながらとりあえず煙草で一服・・・。
吸って、吐いて。
―――ああ、美味い飯の後の煙草、どうしてこんなに美味しいんだろう。
この余韻は本当に最高だ。
さて、家に帰るか。
何だか今日はいい夢が見れそうだ。
願わくば、次も美味い店に会えるように。
―――――――――――――――――――――――――
「・・・ごめんくださーい。」
おや、誰だこんな夜更けに。
「はい、どちら様で・・・あ、先輩。どうしたんですか?」
「あ、良かった後輩君。まだ起きてた。」
「ええ、起きてましたが・・・用件は?」
「あのね、実はね、凄く申し訳ないんだけど・・・。」
え、嫌な予感。
「もしよろしければ、来週から出張とか行っていただけたり・・・?」
「・・・はい?」
出張?
しかもルマンス?
確かルマンスって・・・水の都で有名で、観光地として賑わってる都市だよな。
「いやいやいや、いきなりすぎますよ先輩。おやすみなさい。」
「あーっ、待って、待って!お願い!私いけないから、そこの即売会どうしても行ってほしいの!お願いします!」
「そんな急にまた・・・先輩行けばいいじゃないですか。」
「あのね、実はその日・・・お友達の結婚式があって・・・。」
「・・・おやすみなさい。」
「お願いぃぃ!!お願いだよ後輩くぅううん!」
「そんなの知りませんよ「今度仕入れ値3倍で良いから!それに色々お手伝いするし!ね!?」・・・。」
3倍か。
それは少し心が躍る。
確か次回は雑貨の原材料とか卸す予定だったし。
いやでも、出張だぞ?
明日から一気に営業先を回って挨拶に行かないといけない。
即売会とか言ってるが、この様子だと・・・1日じゃ終わらないんだろう。
でも3倍は魅力的だし、先輩に貸1どころか6くらい作れるのは魅力的だ・・・。
うーん、どうしよう。
いや、ここは断ろう。
こっちも仕事があるんだ。
「申し訳ありませんが、「お願いしますぅぅぅ・・・!」」
あー、ついに地べたに座り始めた。
流石にこれは。
「・・・分かりました、分かりましたから!こんな時間に大声で、しかも地べたに座って土下座の用意しないでください!」
「えっほんと?行ってくれるの・・・?」
「いや、行くと決まった訳じゃ・・・。」
「わかった、土下座するね・・・?」
「それは迷惑なんでやめてください。」
えぇ、これ断れないじゃん。
行くの?
私ルマンスへ行くの?
行きたくない、行きたくないけど・・・。
土下座されるよりマシ、かぁ・・・。
主人公(男)・魔術師。実は出張は初めて。急遽出張の用意を始めた。
依頼人の女性・長女の為に自分のへそくりを放出。ちなみに長女=106話で登場した根性ちゃん。