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さ、天丼、天丼だ。

天ぷら食べたい・・・。

いやー、今日は暑いな。

魔道学院、最近暑い日が多いような気がする。

・・・こんなこと言ってると次雪降ったりして。


だが不思議なもんだ。

暑い日が続いたかと思えばいきなり寒い日になったり。

何よりそれにすっかり順応した私に驚いてる。


まだまだ駆け出しのころは冷房も暖房も用意できなくて苦労したっけ。

でもあの頃って今より猛暑日や極寒の日なかったような・・・。


まぁ、そんなことはどうでもよくて。

今日も今日とて仕事だ仕事。


今回はしっかりクールポーションを飲んできたからな。

長袖ローブでも大丈夫だ。


さて今日は営業とゴブリンのはく製、そのサンプルを持って行かないと。

とりあえずパパっと普通の営業を終わらせて、早いとこ博物館へ向かうとしよう。


―――――――――――――――――――――――――


「どうもどうも、魔術師さん。」


「どうも、お世話になってます。」


「さ、どうぞこちらへ。」


「失礼しますね。」


ふぅ、順調に営業も終わって博物館へ着いた。

あとはここでサンプルを見てもらうだけだが。

結構リアルにできたからなぁ。


久しぶりに作った割には中々の出来。

自信作と言ってもいいだろう。


「では早速サンプルを・・・。」


「ええ、そちらの空いてるスペースに置いていただけますか。」


「わかりました。ではゴブリンから。」


それ、どうだ。


罠にかけて捕獲したから、目立った外傷もなく。

保存や加工もしっかり行って、色の変色などもない。

街に置いとけば本当にゴブリンと見間違えるんじゃないだろうか。


「・・・。」


「いかがでしょう?かなりリアルな出来だと自負しておりますが。」


「え、ええ、これは凄くリアルですね・・・。何というか、今にも動き出しそうというか・・・。」


「実際に少しなら動かせますよ。魔術や魔法を使えば遠隔でも操作可能です。」


「いやはや・・・。はく製という事なので、もう少しデフォルメされた物だと思っておりましたが・・・これほどとは。魔術師さん、はく製作るのお上手なんですね。」


「あはは、昔取った杵柄ですよ。」


本当に。

小遣い稼ぎのはく製が、まさか結構大きなビジネスになるとは思っていなかった。


今回の展示、はく製が目玉の展示ではあるんだが。

即売会も結構な規模だしな。


先輩や顔なじみにはもう連絡してあるし、気合を入れて挑まねば。

尚先輩は売り子までしてくれる模様。

ありがたや、ありがたや。


「では、残りもお見せしますね。」


「ああ、此処だと手狭になるでしょうし、ホールの方へ移動してから・・・。」


「分かりました。」


さぁ、オーガやオーク、ブルーブル。

こいつらも良い出来だからなぁ。

特にオーガ、きっとびっくりしてくれるはず。




「いやぁ、驚きました。あの迫力。あれなら次の展示、大いに賑わうと思います!魔術師さんにお願いして良かった・・・。」


「いえいえ、お力添えできた様で何よりです。では残りもどんどん作っちゃいますね。」


「ええ、お願いします。しかし、オーガのあの迫力・・・子供が見たら泣いちゃうかもしれませんね。」


「あはは、オーガの加工は中々大変でした。加工するより捕まえる方が楽なくらいでしたよ。」


オーガは図体がでかいから、その分加工が面倒なんだよな。

皮の処理も大変だし、その後の保存加工もいっぱいかけないといけないし。


本当に捕まえる方が楽なまである。


「え、魔術師さんが捕まえたんですか・・・?」


「ええ、その方がコストを抑えれますので。他の魔物も基本的には私が捕まえてきましたよ。」


「そうなんですか・・・いやはや、2重の意味で驚きました。でしたらはく製の価格、もっと上げた方が・・・。」


「いえ、今のままでも十分利益出てるので大丈夫ですよ。それに比較的捕まえるの簡単な魔物ばかりでしたし。それに即売会の件もありますからね。」


「そうですか、ありがとうございます。」


「いえいえ。あ、そういえば即売会なんですが、実は知り合いの業者がですね・・・。」


―――――――――――――――――――――――――


「では、失礼します。」


「ありがとうございました、魔術師さん。残りのはく製も是非よろしくお願いします。」


「ええ、任せてください。では。」


よーし、順調に今日の営業が終了。

はく製も追加オーダー来たし、しっかり儲けないとな。

即売会での売り子や販売品の追加も了承取れたし。


しかし、こんなに順調だと。

何というか、漠然と。


―――お腹が、減ってきた。


朝から営業は順調だったが。

そういえばまともに飯食ってないな。

そりゃ腹も減る。


ならば、とるべき行動は1つ。

いざ、飲食街へ向かうのみ。


今日は何を食べようか、歩いてるうちに決まると良いんだけどなぁ。




さて、色々考えてたらいつの間にか到着、飲食街。

今日は何を食おうか考えてはいたが・・・結局決まることは無かった。


まぁいつもの事だししょうがないよね。

重要なのはここからの店探しだ。


私の直感、今日も美味い店を頼んだぞ。


ここは・・・良し、あっちの方へ行ってみよう。

直感の赴くままに、ふらふらっと・・・。



ジンギスカン。

おお、一発目から凄い店を引いたな。

でも・・・残念ながら仕込み中か。

久しぶりのジンギスカン、それも良さそうだったんだが。


ウドン屋。

ウドンかぁ。

いや、ここはもう少しがっつりした料理が食いたい。


レストラン。

あ、凄く良い香り。

正に腹の減る香りって感じ。

なのに・・・貸し切り、だと・・・。


くぅー、何となく悔しい。


仕方ない、どこか別の店を探すしか・・・おや。

こっちからも良い香りがする。


どれ、どれ・・・。


「てんぷら カキヤ」か。

テンプラ、テンプラね・・・。

良いじゃないか、テンプラ。


それに店の外の暖簾。

そこに書いてある「天丼」の文字。


きっとカツ丼みたく、テンプラの丼だろう。


うん、私の食欲も思い切り反応している。

天丼を食えと騒ぎ出した。


ではいざ、入店!




「いらっしゃいませ!」


「あ、1人なんですが・・・。」


「大丈夫ですよ!こちらのカウンター席へどうぞ!」


元気の良い給仕さんだ。

年齢は・・・中等部ぐらいだろうか。

しかしここまで見事な青髪中々見ないぞ。


「・・・あ、これ、地毛なんです。」


「え、あ、いえ。」


しまった、じっと見すぎたか。

これは失礼な事をした。


「すいません、でもお綺麗ですよ。」


「ありがとうございます。お母さん譲りで、私の自慢なんですよ!」


「そうなんですね。あ、席失礼します。」


「あ、すいません!今お冷とメニューお持ちしますね!」


そう言って素早く厨房の方へ戻る給仕。

やれやれ、ちょっとしたアクシデントだが・・・まぁ、こんなのも良いだろう。

あの元気な感じを見ていると、こっちまで楽しくなってくる。


「お待たせいたしました!お冷とメニューです!」


「ありがとう。」


さて、早速メニューを見てみるか。


どれ、おお。


・天丼セット

当店1番人気!※その日の食材の仕入れで内容は変わります。


来た、グッと来たぞ、天丼。


・天ざるソバ


・天ぷら御膳


他のメニューもテンプラ尽くしだ。

おや。


・カツ丼セット


カツ丼もあるのか。

いや、テンプラもカツ丼も種類は違えど同じ揚げ物。

何か通ずるものがあるのかも。


だが今日はもう天丼セット、これにしか目がいかない。

という訳で。


「すいません。」


「はい!」


「この天丼セット、ライス大盛でお願いします。」


「かしこまりました!」




「お待たせいたしました!天丼セット、ライス大盛になります!」


おお、これはこれは。

天丼にテンプラ、どれもこれも美味しそうじゃないか。


・天丼

シュリンプ(エビ)、アナゴ、そして魚のテンプラがどどんとライスの上に積まれてる。綺麗なテンプラ、そこから覗く白いライス、とてつもなく美味そうだ。


・テンプラ

何とおかずもテンプラ。貝とシュリンプの切り身を使ったかき揚げ、シイタケ、ナス、パンプキン。色とりどりより取り見取りだ。


・澄まし汁

透明なスープ、聞いたところ澄まし汁との事。透明なのに、どこかその透き通る見た目に惹かれる私がいる。


では、いただきます。



さ、天丼、天丼だ。

天丼、そのテンプラを思い切り食うんだ。


ここは・・・そうだな。

やっぱり直球、シュリンプ1本行くしかないでしょ。


ほら、箸で持ったらずっしりしてるこのテンプラ。

これを大口開けて、先端から思い切り齧り付くわけですよ。


―――そうするとほら、まっすぐ伸びたシュリンプの美味しさ、思い切り私の喉奥に突き刺さってくる。


美味い、良いテンプラじゃないか。

シュリンプのテンプラ、基本的に外れが無いと思っているが。

やはりテンプラ屋で食うテンプラはこう、1味違う・・・様な気がする。


サクサクの衣、そこからのプリップリのシュリンプ。

天丼にかけられた天つゆがまた素晴らしい。


シュリンプのこう、仄かな甘さと天つゆが凄くばっちり。


こんなテンプラ、これを食べたら。

追いかけライス、これしかないでしょう。


―――うっは、美味い。天つゆ、ライスにもばっちり合ってるじゃないか。


天ぷら、天つゆ、ライス。

この3種の神器を兼ね備えた黄金の丼、天丼。


これは・・・凄い料理を注文してしまったな、私。


どれ、次はアナゴを食べてみるか。

こいつも思い切り、ガブッといっちゃえ。


―――シュリンプはプリプリ、ならばこのアナゴはほわっほわ。柔らかい白身、サクサクの衣との対照的な食感が素晴らしい。


美味い、美味いぞ、テンプラ!

なんだこのアナゴの柔らかさ。

サクサクの衣からほわほわの白身、どうしたらここまで柔らかくできる?


そして言うまでもなく、天つゆとの相性はバッチリ。

もちろん、ライスとの相性も・・・。


―――うん、ばっちり、いやがっちりレベル。アナゴにライス、鬼に金棒。


いやぁ、これは楽しく美味しくバクバクいける。

プリプリのシュリンプ、ほわほわのアナゴ。

そして更に魚のテンプラまであるんだぞ。


そんなテンプラと丼、それをこの天つゆ・・・これがまた、憎いほど仕事してる。


きりっとした味なのに、どこか優しいこのつゆ。

これがライスとテンプラ、その両方を思い切り引き立たせるんだ。


美味いテンプラに美味い天つゆなんてかけられちゃったら・・・私としては、もうバクバク食い進めるしかできない。

私にもっと語彙力があれば、この美味しさを上手く表現できたかもしれない。


・・・というか、味を表現するのって、結構難しいよね。


とにかく天丼美味しい、とりあえず美味しい。

うん、私にとってはこれでいいのかも。



さ、魚のテンプラ・・・は置いといて。

一旦皿に盛られたテンプラ。


その中でも一際目立つ、かき揚げを食べてみようじゃないか。


デデンと一枚、威圧感さえ感じるこのかき揚げ。

これは・・・塩でいただこう。


パラパラっと、塩をかけて・・・。

そのまま箸で持って、齧り付く。


―――貝とシュリンプ、プリッとしてて凄く美味しい。何というか、海を感じるかき揚げだ。


サックサクですよ、このかき揚げ。

しかも具材の貝とシュリンプ、それに野菜。


そう、かき揚げの中に、海の美味しさと陸の美味しさ。

それが1つにまとまった、正に星の様なかき揚げ。

そんなレベルでまとまってるぞ。


ボリューム感があるのに、なんだろう。

1口、そして2口。

更には3口。

食べる手が止まらない。


揚げ物で脂っこいはずなのに、ぜんぜん箸が止まらんぞ。


・・・あ、無くなってしまった。


傍から見たらかき揚げに齧り付くローブの男。

怪しさ全開だな。


しかし美味しかったんだから仕方ない。

かき揚げ無くなったし、次はシイタケでも行こうか。


キノコのテンプラ。

しかもシイタケ。

更に揚げたて。


これが不味いはずがない。


塩をかけて、いざ。


―――うっほ、サクッと肉厚ジューシー。シイタケの美味しさ、そして揚げ物の美味しさをこれでもかというくらいに閉じ込めたテンプラだ。


良い、良いぞシイタケ。

1口でなくなってしまったが、その美味しさは1口では語り切れない。

まぁ語るうんちくも語彙力も私にはないんだが。


ただ、そうだな。

サクサクの衣、そこからもはやプリプリと言えるレベルのシイタケ。

その食感に、更にほのかな塩味。


これを言えば、その美味しさが伝わるんじゃないだろうか。


キノコという部類ながら、その美味しさは魚にも負けない。

圧倒的美味しさとパワーを秘めたシイタケ、誠に美味。



ここで他のテンプラに行っても良いが。

無視できない存在が、私を見つめている。

そう、湯気と香りで私を挑発してくるこの澄まし汁。


澄ましたその見た目から、凄く華やかな香りがするんだ・・・。


うん、とりあえず飲んでみよう。

こんだけいい香りしてるんだ。

絶対に美味しいだろう。


―――あー、澄ましてるだけある。おすまし感満載の上品な味。それなのにどこか優しさも感じる美味しさ、参りました。


何て言うか、そう。

上品なおばあさんの様な。

いや、違うか?


上品なのに、こっちに寄り添ってくれるその優しさ。

奥深い余韻が口に残るのに、味自体はさっぱりと。

体に沁みる、ほっとするこの味、味噌汁ともコンソメスープとも、ポタージュとも違う。


私の中に今、新しい汁物が刻まれた。


澄まし汁、この名前は憶えておかなければ。


・・・しかしこの透明さ、どうやって出しているんだろう。

それに透明なのにここまでしっかり味があるのも凄いよな。

これも出汁の力なんだろうか?


こう、ポーションの開発に活かせないかな・・・。



っと、今は仕事の事は関係ない。

目の前の天丼セット、こいつらを美味しく食う。

それだけ考えていればいいんだ。


次はパンプキンでも食べてみようかな。


こいつはそのまま行こうか。

パンプキンだし、甘いんだろう。


どれ・・・。


―――あ、上品な甘さにサクサクの衣。野菜のうま味をしっかり感じる。


野菜も主役になる、それがテンプラ。

テンプラの懐、深し・・・。


こう、サクッと、ホクッと。

野菜なのに主役、そしておかずでもある。

何て万能なんだ、テンプラ。


こいつもパクパクっと食べ進めて。

あっという間になくなった。


どれもこれも美味い、素晴らしいなこの天丼セット。

色々なテンプラ、丼もの、そして澄まし汁。

これをすべてセットで食える、中々良い発見をした。


やはり良い仕事には美味い飯がないとな。

これで英気を養って、この後も頑張ろう。

美味い飯を食うとそう思えるんだ。


さぁ、がっつり食って、気合を入れよう。

天丼、万歳!




「ありがとうございました!また来てくださいね!」


「ごちそうさまでした。」


あー、美味しかった。

澄まし汁という新しい汁物にも出会うことができた。

そして天丼セット、豪華なテンプラ。


うん、今日の飯は大正解だったな。

こんな満足した気分の時には、とりあえず煙草。

これで更に一服・・・。


ふぅ、煙が身に沁みる。


さて、家に帰るか。

残りのはく製も気合入れて作らないと。

その後の即売会の商品も色々仕入れないとな。


願わくば、次も美味い店に会えるように。


主人公(男)・魔術師。澄まし汁に感銘を受けて透明なポーションを開発。だが何がどのポーションか分からなくなったためすべて廃棄。


博物館の館長(男)・予想より凄く凶悪、そしてリアルなオーガのはく製に腰を抜かしそうになった。何とか耐えた。


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