最終日、お疲れ様の鍋
鍋いいですよね。戦闘シーンに関しては察してください。
「ううぅ・・・ひどいですあんな戦い方・・・。」
「ああいや、本当はもっとスマートに戦いたかったんですが・・・。何分先生ほどの強さだとああいう方法しかなくてですね・・・はは。」
もうじき夕方。
5日目の模擬戦、無事終了。
まぁ一部無事ではないが。
特に生徒、模擬戦前にもいろいろと先生に対しちょっかいをかけるからつい軽く注意してしまった。
まぁ、何はともあれ終わったんだ。
この解放感、嫌いじゃない。
それに、模擬戦によるもう一つの目的も達成した。
「ちなみにですが・・・生徒の反応はいかがでしたか?」
あの模擬戦の後、何人かの生徒は先生に謝りに来た。
更には初級魔法についてもっと教えてほしいと。
中には実技ということで簡単な模擬戦をお願いしていた生徒もいたが、先生に瞬殺されていた。
まぁ忠告はしたし、これで愚物どもも考えを改めるだろう。
「あっ!あのですね、あの後何人かの生徒は初期魔法について教えてって!興味を持ってくれたんですよ!」
はい、見てたので知ってます。
「それにですね、何人かの生徒は模擬戦してくれって!すごく興味を持ってくれたみたいで!」
それも見てたので知ってます。
というか、あれらは別に初級魔法限定で挑んだわけじゃない。
他の魔法を使用する前に初級魔法の早撃ちで沈んだだけです。
「本当に・・・本当にありがとうございました!」
「いえ、ですが・・・私もつい言いすぎてしまいましたし。」
「・・・それも本当は、私がやるべきだったんです。なのにそれを押し付けるようなことをしてしまい、申し訳ありませんでした。」
シュンとする先生。
しかし、顔をすぐに上げ言葉を続ける。
「でも、もう大丈夫です!」
「・・・それは良かったです。」
先生がどう思っているか、何を考えているか、そんなことは私にはわからない。
所詮他人だからな。
でも、この先生が大丈夫って言ったんだ、なら・・・大丈夫だろう。
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さ、飯だ飯だ。
一応勝利の宴なんだ、今日は良いものを食いたい。
結局私は注意をしたが、私の言葉自体で行動を変える生徒は誰もいなかった。
だが、先生との模擬戦で心構えを変えるやつも確かにいた。
そもそも私の元の案、それは先生と模擬戦、そして惜しくも私が負けて先生に敬意を集める、そんな感じだった。
だが始まってみれば、自分の感情の未熟さにより私が勝ってしまった。
まぁあの先生は喜んでるから依頼としては成功だろう。
だが、自分の未熟さ、これがたまに嫌になる。
またこうやって私の過去が積み重なるんだろうなぁ・・・。
と、いかん、飯屋を探そう。
もう・・・終わったことだ、あれでいい。
さて、今日はどんな飯にしようか。
到着、飲食街。
さぁ店を探そう。
焼肉。
昨日食べた。美味しかった。
定食。
もう少し特殊なものを食べたい。
和食。
・・・あ、そういえばヒノキの大将。
鍋料理とやらは、できたのだろうか。
そうだ、一度行ってみよう。
出来てなかったら、その時は普通に和食を食べればいいんだ。
「いらっしゃいませ。あら、魔術師さん。」
「どうも、1人なんですけど大丈夫です?」
「ええ、もちろん大丈夫ですよ。こちらへどうぞ。」
案内されカウンター席へ。
さて、鍋について確認しなければ。
「大将、この前の鍋についてですが。」
「おう!実は昨日の夜、ついに完成してな。さっそく呼ぼうと思ったんだがその必要もなかったみてぇだな!」
「いやー、楽しみすぎて・・・。では、注文したいのですが。」
「鍋かい!いいぜ!」
「お願いします。」
さて、どんな料理が出てくるのか、楽しみじゃないか。
「お待たせいたしました。こちら寄せ鍋になります。」
おお、これは・・・。
・寄せ鍋
野菜、鶏肉、そして魚のてんこ盛り。きれいな出汁の色がまた私を誘う。浮ついていない、どっしりとしたこの感じ、良いじゃないか・・・。
「こちら、中に火が通ったら食べれますので。それではごゆっくり。」
なんと。
料理が出てくるのではなく、あくまで調理は自分ということか。
ますます良いな。
蓋を開けて生の状態を確認し、魔道コンロに火を入れ、また蓋を閉じる。
火が通った時の出来、楽しみだ。
さて、そろそろ火が・・・通ってないな。
まだの様だ。
・・・仕方ない、卵焼きでも食べて・・・うぉおお。
いきなりぐつぐつ来たじゃないか。
びっくりした。
思わず椅子を後ろに引いてしまったぞ。
だが、これで食えるということなのでは?
火を弱めて・・・蓋を開ける。
―――もう、香りがすごい。
なんだ、この香り。
この香りだけで腹が減ってくる。
これは我慢ならん。
では、いただきます・・・!
まずは・・・魚からだ。
この白い身、箸で持った時に崩れない、だというのに柔らかそうでふっくらとした感じ。
火傷しない様に・・・いざ。
―――染みてる。この鍋、浮つかず、どっしりして、優しい味が魚を引き立てる。
美味い。
これは美味い、そしてあったかい。
魚のふんわりとした感じ、たまらないじゃないか。
更に鍋のこの味付け、素晴らしい。
ここはひとつ、鍋の液を・・・。
熱っ、あ、でも、美味い。
鍋の液が美味い、こんなの具材も美味くなるに決まってる。
と、なれば次は鶏肉だ。
鶏肉、焼肉とはまた違ったこの様子、果たしてどんな味になる?
いただきます・・・!
―――アツ、アツ、うま、アツ、うま・・・美味い・・・。
肉肉しいのにこの優しい感じ、癖になる。
ハフハフしながら、熱いのに、手が止まらない。
すごく、ちゃんと、美味い。
何だろう、味が染みてるというのだろうか。
でも、これは鍋だけの味じゃない、肉の味もある。
私には、答えられない、そんな美味さだ・・・。
おっと、野菜君、君も忘れていないよ。
まずは・・・そうだな。
先日食べたネギ、君から行こうか。
―――甘い。野菜なのに、甘く染みて、美味い。
なんだこれは。
前に食べたネギ焼のネギとは大きさも形も味も違う。
ネギ独特の味はもちろん、鍋の味もしっかり染みている。
次は・・・ハクサイ。
この葉っぱの様な野菜、果たして私にどのような世界を見せてくれる?
箸でつかんだ感じは・・・おお、くたくただ。
ゆでているんだから当たり前だが。
しかしこの見た目、私嫌いじゃない。
では、いただきます。
―――しゃきっとしてて柔らかい。芯まで味が染み渡るこの感じ、鍋と融合している様な、そんな美味さ。
歯ごたえはある。
でも柔らかい。
野菜の感じもある。
そして美味い。
というか、これも優しい甘みを感じる。
なんだ?鍋の野菜はすべて暖かく、優しく、甘いのだろうか。
次、キノコ。
細長く、白い、これはエノキとかいうキノコだろうか。
これもくたくたになっている、でも美味そう。
―――シャキ、コリ、その中間の様な歯ごたえ、そして鍋の液が絡まって、何も言えないようなうまさ。
私は学習した。
鍋の野菜は全部美味い。
鳥も魚も野菜も、すべて鍋が染みている。
温まる、優しい、その2つが究極的に融合した料理。
具材のいろいろな味があるのに、そのすべてが鍋に融合している、美味い味。
魔道コンロで温めているので、ずっと暖かい料理が食べれる。
当たりだ。
この料理は間違いなく、当たりだ。
じっくりと、それでいてガツガツと、温まった優しい味を食べれる料理。
私はもう、箸が止まらない・・・。
「ありがとうございました。」
ああ、美味かった。
様々な具材、そしてすべての具材が美味い。
ただ名残惜しいのは〆の料理とやらを食べれなかったことだろうか。
具材を追加注文して最後の方はお腹がいっぱい、〆を食べることができなかった。
具材が美味いんだ、仕方ないじゃないか。
あの液、あれはどうやって作っているのだろうか。
そんなことを考えながら煙草に火、一服。
鍋の余韻、そして今日の模擬戦、様々な事を思い出しながらの一服、これも体に染みていく。
鍋と言い煙草と言い、今日の私染みてばっかだな。
さ、明日も頑張ろう、そんな気力がわいてくる鍋だった。
願わくば、次も美味い店に会えるように。
主人公(男)・魔術師。鍋大好きになった。鍋料理を自宅の調合窯でできないか真面目に考えた。
学院の生徒・実際に模擬戦を見て驚愕。更に何人かは模擬戦を先生に挑んで瞬殺。先生を舐めるどころか、何人かは畏怖を持つようになったとかならないとか。