いやぁ、新しい食感皿うどん。
ブクマが増えてました、ありがとうございます!
皿うどん、深夜に食いたくなりますよね。
「いやぁ、今日はありがとうございました、魔術師さん。」
「いえいえ、こちらこそ。今後とも是非御贔屓に。では、失礼しますね。」
「ええ、ありがとうございました。」
さて、今日の営業は・・・次で最後か。
もう夕方、天気は雨。
久しぶりの雨だな、しかし。
最近快晴の日や暑い日ばっかりだったし、偶には雨も良いだろう。
農家の人たちや花屋さんなんかはこの雨、喜んでるんじゃないだろうか。
私もありがたいことに今日だけで3件受注したしな。
正に恵みの雨だ。
さぁ最後の営業、頑張るとしますか。
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「・・・という訳で、加工をお願いしたく。」
「ええ、分かりました。大丈夫ですよ。」
やってきたのは工務店。
色々な建築に関わってるこの店、結構評判の店。
特に富豪用の家などに多くかかわっているとの事だ。
そんな店、最後の営業、ここでも無事受注完了。
しかも魔石の加工、結構楽な部類に入る。
だがこの魔石。
何でも大富豪用の風呂に使うものらしく。
凄く大きい。
漬物石でも役目が溢れそうな、そんな大きさだ。
そして魔石で大事な、その輝き。
この大きさでこの輝き、うーん、凄く美しい。
これは私も腕の見せ所だな。
「大きいんですが、本当に大丈夫です?」
「ええ、大丈夫ですよ。任せてください。腕によりをかけて加工させていただきます。」
「良かった・・・。中々この大きさだと加工してくれる人がいなくて。かと言ってギルドとかに頼むと凄くお金がかかるんですよ。」
「まぁ、そうでしょうね。」
ギルドだと・・・私が受けた値段の5倍は取るんじゃないだろうか。
その代わり失敗したらもっと良い魔石とかで保証するし、そもそも失敗なんてしないだろうが。
こんなに大きい魔石だと、ギルドでも結構上の人たちが担当するだろうな。
それにこの大きさ、この輝き。
失敗した時の保証が個人の加工屋や魔術師だと中々恐ろしいことになる。
とはいっても、私の場合これより少し大きいレベルの魔石があるから大丈夫だが。
いや、勿論失敗する気はないけどね?
この魔石の輝き、私の腕でもっと輝かせようじゃないか。
そう考えるとやる気が出てきた。
そして。
―――腹も、減ってきた。
いかん、まだ商談中なんだが。
何だかこう、いきなり腹が減ってきた。
でも昼にパン1つじゃこうなっちゃうか。
仕方ないね。
幸い商談は終わりだし、早く飯でも食いに行こう。
「では、お願いしますね。」
「ええ、分かりました。」
「じゃあ、一応包んでお渡ししま。よいしょ・・・おおっと!」
「危ない!」
セーフ!
危ない、何とかキャッチできた。
「あ、あはは・・・すいません。」
「・・・冷や汗かきましたよ、ええ。」
依頼の前に魔石が無くなるとか、シャレにならん。
嫌な先行きだな、これ。
そうだな、これもって一回家に帰っちゃおう。
腹は減ってるが、依頼の方が重要だからな。
―――――――――――――――――――――――――
あの後、無事に家に到着。
幸い何事もなかった。
あんなことが起きたから最大限に警戒していたが・・・偶々だった様だ。
魔石は家の固定台に置いたし、来る前にゆるみも確認した。
あれならとんでもない地震が来ても大丈夫だろう。
魔石が地震で壊れるより、多分私の家が先につぶれる。
雨も止んだし、かえって幸先良いかもな。
さーて、今日は飲食街で何を食おうかな・・・あ。
「あ、どうも。」
「魔術師さん!どうも。」
「無事、魔石は家に持って帰れましたよ、はは。」
「はは、良かったです。幸先悪くなってすいません。」
「いえいえ、そちらも飲食街へ?」
「いえ、私は今買って帰ってきたところです。妻や娘もいるので。」
何と、妻子持ちだったのか。
そうは見えなかったが・・・。
「そうですか。奥さんや娘さんを待たせるのも忍びないですし、では。」
「ええ、よろしくお願いします。」
そうか、結婚してたのか、あの人。
・・・何買って帰ってきたか、それだけでも聞いとけばよかったか?
私の今日の夕食、その参考になったかもしれない。
ま、いいや。
とりあえず飲食街へ向かうとしよう。
良し、到着、飲食街。
今日は何を食べようか、歩いて考えてはいたが。
うーん、駄目だ。
全く想像が付かない。
あの結婚の下りにやられてしまったか?
もはやガッツリか、それともあっさり。
それすら分からなくなって来た。
どうするべきか・・・いや。
此処で考えていても仕方がない。
結局は歩くんだ、だったら歩いて店を探そう。
いつも通りの直感勝負だ。
レストラン。
うーむ、パス。
何かこう、気分じゃない。
ラーメン屋。
ラーメンかぁ。
いやー、うーん・・・。
居酒屋。
この前行ったしなぁ。
結局歩いてみたものの、まだまだ迷い続ける私。
これは、もうあれだ。
次にグッと来た店、そこに入店しよう。
それしか無い。
さて、少し歩いて・・・ここだ。
さあ、周りには何がある?
「うどん ふくかつ」 、ウドン屋か。
ウドン・・・うん、悪くない。
だが折角だし、少し違うウドンを食いたい所。
そんな私の期待に応えてくれる変わり種を求めて、いざ入店。
「いらっしゃいませ。お好きなお席にどうぞ。」
お、イケメンの給仕。
黒い髪の毛に黒い瞳、クールでミステリアスそうなその見た目。
イケメンのいるラーメン屋は美味しかったが、イケメンのいるウドン屋は果たして。
しかし、お好きなお席と来たか。
ならば4人席でゆったり・・・と行きたい所だが。
1人客なんだ、カウンターの方が良いだろう。
あ、お冷セルフサービスか。
しかもここ。
お冷とお茶が選べるのか。
成る程、ならばここはお茶を選ぼう。
お茶を入れて・・・良し。
さ、カウンター席に座ろう。
うん、この丸椅子と白いカウンター。
そしてそこから見える調理中の厨房。
白い麺が次々と器によそわれていく。
そこからスープが入って、具材が乗せられて・・・。
凄い、鮮やかな手際だ。
次々とウドンができていく。
おっと、それはどうでも良かったな。
私は私の食べるべきメニューを決めなければ。
ウドンの製造工程を見ていたら、うんと腹が減って来た。
だが・・・ここで普通のウドンを頼むのも、何か違う。
此処は何か、ウドンの様でウドンじゃ無いものが食べない所だが。
おや。
壁の短冊メニュー。
そこに書かれた皿うどんの文字。
名前からすると、皿の上に乗ったウドン。
・・・良いじゃないか。
こう、少し面白い。
しかも細麺か太麺を選べると来た。
太いウドンが多い中、そこであえての細麺か。
これはもう細麺、行くしかないな。
皿に乗った細麺のウドン。
果たしてザルソバの様にスープに付けて食うんだろうか。
後は、そうだな。
もう一品くらい頼んどくか。
どれ、何か良さそうなサイドメニューは・・・。
「お待たせ致しました。皿うどんの細麺、揚げ玉おにぎりになります。ごゆっくりどうぞ。」
これは、何とも。
私の想像と全然違う。
・皿うどん
パリパリの細麺、もうこれだけで不思議な感じ。更にそこから具材と餡がドンと乗ってる。ざくぎりのキャベッジ、キクラゲにシュリンプ、イカ。これは美味そうじゃないか。
・揚げ玉おにぎり
シンプルな三角おにぎり、そこに揚げ物がミックスされたこの一品。あ、ライスにワカメも混ざってる。
では、いただきます。
先ずは皿うどんと言う名のコイツ。
この不思議な食べ物を食べてみなければ。
箸で、こう。
下のパリパリを割って、掬う様に・・・。
良し、餡と麺、両方を上手く掴んだ。
後はそれを、口の中へホールイン!
―――美味い、美味いぞ皿うどん。パリパリした麺、ウドンと言うよりラーメンのスープに違いこの餡。それらが弾丸の様に私の食欲を撃ち抜いた。
これは、素晴らしいウドン。
皿うどん、誠に美味。
パリパリの麺、食べる前は不思議だったが。
食べて分かる、分かるぞ。
この麺が有るからこその皿うどんだ。
細くてパリパリした麺、その隙間、合間に餡ががっちりと食い込んでる。
粘り気のある餡が見事、この麺に絡まっているんだ。
そのおかげでほら、もう一度食べると。
―――餡と麺、パリパリの麺ととろっとした餡、それらが一体となって私に突き刺さってくる。
いや、クセになる、この美味さ。
パリパリ麺からのトロトロ餡、これはもう凶器ですよ。
食欲が撃ち抜かれた後、突き刺さるこの美味しさの1撃。
紛れもない皿うどんの美味しさに、私はもうKO寸前。
この餡の味がまた良い。
普通のウドンとはかけ離れたこの味。
どちらかと言うと・・・塩味のラーメン?
いや、違うか。
まぁとにかく、そんな美味しさの餡がパリパリ麺のシンプルな味に凄く合うんだ。
そして噛めば噛むほど主張をしてくる、パリパリ感。
細麺ながら、噛むほどにパリパリぽりぽりと楽しい食感。
硬い麺なのに、美味しい麺。
そんな不思議と魅力を併せ持つこの麺、食べる程に楽しくなってしまう。
餡とここ細麺、それだけでもう。
私の胃袋、そして食欲はスタンディングオベーション。
拍手喝采、素晴らしい料理だと皿うどんを賞賛している。
ステージからはパリパリとした音楽ととろっとした音色が響き渡っているぞ。
そう、そんなに美味しい皿うどん。
しかし、まだ私は皿うどんの全てを味わった訳じゃ無い。
何故ならこの皿うどん。
その具材をまだ一口も食べていないからだ。
危ない、ここで具材の事を思い出さなかったら麺を延々とパリパリ行ってたな。
さてさて、そんな訳で具材と一緒に食べ進む訳だが。
最初は・・・うん。
野菜系、コイツらにしよう。
キャベッジとキクラゲ、こいつらを乗せて、良し。
では、いただきます。
―――大きめ、ざくぎりのキャベッジ。そのほのかな甘さがこの餡にピッタリ。キクラゲはいつも通りのコリコリ感。パリパリ、シャキシャキ、コリコリ、食感の三銃士が今、見参。
美味い、そして楽しい。
この3つの食感、素晴らしいじゃないか。
シャキからのパリパリ、そしてコリコリ。
一度で3回、いや餡の美味しさもあって4回美味しい皿うどん。
しかも野菜の味もしっかりしてる。
こう、素材の味と言う奴だ。
それがまた、この皿うどんの餡にしっかり合ってる。
これは俄然、シュリンプとイカの味も気になるぞ。
さあ、次は海鮮系。
皿うどんに上手く乗せて、いただきます。
―――おお、おお。マーベラス、海鮮の味、これも見事に皿うどん。プリプリのシュリンプ、キクラゲとは違うコリコリ感のイカ。素晴らしい。
野菜とはまた違って、それが良い。
海鮮を邪魔しないどころか、むしろ美味さを融合させる皿うどん。
野菜は大地、ならば海鮮は海。
当たり前なのに、その当たり前をこんなにも美味しく伝えてくれる、皿うどん。
今日、何を食べるか迷った甲斐があった。
私の求める料理はここにあったんだ。
大地と海、それが一皿にまとまった皿うどん。
素晴らしい発見、私の直感よ、ありがとう。
と、皿うどんを前に忘れかけていた。
揚げ玉おにぎり、君も食べてみないとな。
お、持ってみるとずっしり感。
良い重量してるじゃないの、おにぎり君。
コイツはもう、齧り付かないと失礼だな。
大きく口を開けて・・・。
―――美味い、ワカメと揚げ玉、ナイスパンチ。ストレートに美味しいぞ、このおにぎり。
これは、この大きさでもするっと食べれちゃう。
軽いのに美味しい、良いおにぎりだ。
この具材として入ってるワカメと揚げ玉。
コイツら、おにぎりに凄く合うんだな。
こう、至って普通の。
シンプルな、揚げ玉とワカメのおにぎり。
でもそんなおにぎり、私大好き。
食べてる時にこう、ライスだけじゃなくてワカメと揚げ玉。
ワカメが少しシャキッとしてて、ほのかな塩味が良い感じ。
そして揚げ玉は食べるほどにサクサクと、ライスだけじゃ味わえない食感を与えてくれる。
揚げ玉の油もまた良いパンチだぞ。
いや、これは本当にするっと行っちゃう。
するする、食べて、食べ進めて・・・。
ほら、もう食べきっちゃった。
本当はもっと味わって食べようと思っていたのに。
いつの間にかおにぎり、私の手の中から消えてるんだもんな。
仕方ない、無くなった物は仕方がないんだ。
それに私には皿うどん。
コイツがまだまだ残っている。
さぁ、食欲に火をつけろ。
ここから一気に、ガツガツ行こうじゃないか。
おにぎりの弔い合戦、開始!
改めて箸を麺に・・・おお。
パリパリの細麺が、いつの間にかしっとり細麺になってる。
これを食べてみると。
―――さっきまでパリパリ言ってた細麺、それが餡を吸ってしっとりと。それがまた、美味い。パリパリ言わせてた時代を懐かしむかのようなこのしっとり感、素晴らしいじゃないか。
少し出てきたこの弾力のある感じ。
麺の本懐を果たすかのようなこの成長。
まさか皿うどん、時間が経つにつれ美味しく進化していくなんて。
あ、でも所々パリパリしてる。
パリパリ言わせてとがってた時代、それを全部隠しきれていないその姿。
くすっと笑ってしまう。
このパリパリとしっとり、そして皿うどんの餡と具材。
ああ、食べる手が止まらない。
いや、むしろ、加速していくようだッ・・・!
「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております。」
最後までクールなイケメン給仕。
イケメンのいる麺屋、今の所当たりばかり。
そして私、大満足。
いやぁ、新しい食感皿うどん。
しかも1度で2度美味しいんだから、たまらない。
さて、煙草で一服・・・。
ふぅ、美味い皿うどん、それが思い出となって甦ってくるような、この余韻。
目を瞑れば皿うどんが目の前に出てくるようだ。
・・・そりゃ当たり前か、今食ったんだもの。
煙草を吸い終わったら、早速加工の準備でもするか。
とっとと終わらせてとっとと納品してしまおう。
良し、家に帰るか。
願わくば、次も美味い店に会えるように。
主人公(男)・魔術師。ブイブイ言わせてた時代があった・・・かもしれない。
「うどん ふくかつ」・元々中華料理の店。今の店主がウドンの美味しさに憑りつかれウドン屋として再オープン。