ソースカツ丼とはまた違ったこの佇まい、黄金のカツ丼。
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ありがとうございます!
「おう魔術師、元気そうだな。」
「元気そうだな、じゃないよ本当。何だよいきなり。」
「いやぁ、すまん。でもその分金はしっかり払うからさ。」
全く、こいつは・・・。
今日来たのは顔なじみの工房。
それも学院の生徒の頃からの知り合いだ。
そこが今日、周年イベントだったらしく、パーティーに私も招待されていた。
そんな訳で酒を飲むのもやめて早めに寝たのが、6時間ほど前。
今は早朝、それも日がようやく水平線から顔を出した頃。
何でも周年パーティー用のグラスが用意できないとか。
安い雑貨商に頼んだら何と直前でミスがあったらしい。
そんな訳でいきなり私にその注文が来た訳だ。
だが、本当に良かった。
偶々私がグラスを仕入れたタイミングだったから良かったものの。
もし仕入れてなかったらどうするつもりだったんだろうか。
「全くだよ・・・報酬、上乗せしてくれよ?」
「ははは、しっかり払うよ。パーティーの時には美味い酒注ぎに行ってやる。」
「頼むぞ、高い酒だからな?」
「・・・と、これが最後だ。」
「おう、すまんな。」
「今更だけど、グラスこれで良いんだよな?結構高くつくと思うが・・・。」
「ああ、背に腹は代えられんよ。それに来年以降もこのグラスを使えばいいしな。」
ちなみにこのグラス。
1個で元々顔なじみが頼んでいたグラス4個分。
合計40個はいるらしく、予備も含めかなりの金額になった。
まぁその分デザインも良いし、色映りも凄く良い。
見て楽しみ、飲んで楽しむことのできる実用的なグラスなのは間違いない。
しかし、最近は色々と。
「何というか、最近はそういうミスをする業者。流行ってるのかね。」
「あー、いや、まぁ・・・。価格に目がくらんだ俺も悪いから、何とも言えないが。」
「・・・まぁ確かに、安さだけで危うく周年パーティーつぶしそうになったらなんも言えないよな、ははっ。」
「止めろ、その言葉は俺に効く。」
「はは・・・んじゃ、届けに行くか。」
「え、俺一人で持ってけるぞ。」
「注文受けたんだから、私が持っていくよ。これも仕事のうちだからな。さ、用意終わったら行こうか。」
忘れ物は・・・無いな。
グラス40個、OK。
財布も持った。
「んじゃ、用意できたし向かうとしよう。」
「おし、行くか。」
おっと、出かける前に鍵も閉めないと。
用心するに越したことは無い。
―――――――――――――――――――――――――
「いやー、本当に助かったよ!会場のセッティングまで手伝わせて悪いな。」
「ま、これも仕事の範疇と思っておくよ。それに結構高い金貰ったし、その分は、な。」
「それでも、まさかここまでお洒落になるとは・・・。」
まぁ私、自慢じゃないが色々な店の内装とか手掛けてるし。
それに色んな店に行ってるからな。
・・・行ってるといっても飲食街がほとんどだが。
しかし、今日は朝からよく働いた。
グラス用意して、運んで、会場のセッティングまでして・・・。
ここまで朝から働くと、やっぱり。
―――腹が、減ってくる。
朝飯、全ての人、その1日の源になる飯。
私は抜くことが多いが。
でもこんな時間から働いたんだ、今日は朝飯、食いに行った方が良いよな。
「じゃ、私はこれで失礼するよ。」
「おう、助かった!また夜にな!」
さて、飯屋探しだ。
・・・やはり、朝早いだけあって、この周辺にやっている店はない、か。
だがここから飲食街は正反対。
うーむ、わざわざ歩いていくのは少しなぁ。
いや、でも朝から働いたんだ。
ここは美味い飯を食ってガツンと元気を入れないと。
そうなれば、そうだな。
飲食街まで歩くとしよう。
その途中でやってる店があったらそこに入れば良い。
しかも会場のセッティングである程度時間使ったし。
その内開いてる店もあるだろう。
早速移動開始だ。
パン屋。
やって・・・ないな。
朝から焼きたてのパン、美味そうだったんだが。
居酒屋。
丁度営業終了。
悲しい。
レストラン。
営業時間前、無念。
うーん、やはり無いんだろうか。
丁度飲食街へつくまであと半分といった所。
ここら辺で店を見つけれればありがたいんだが・・・。
お、あの店。
明かりついてないか?
何々、「食堂・レストラン ガイア」。
外からの見た目はレストランなんだが・・・食堂?
何というか、クセの有りそうなお店だな。
しかし今の私には食堂、そしてレストラン。
その文字だけで入る価値があるというもの。
いざ、入店だ。
「いらっしゃいませー。」
「あ、1人なんですが・・・。」
「大丈夫ですよ。好きなお席にお座りください。」
さて、そういわれるとカウンター席に座りたいものだが。
カウンター席が・・・無いな。
全部テーブル席のみか。
それはまた珍しい・・・というか。
普通のテーブルに普通の椅子。
そして壁にかけてあるメニュー。
壁のポスターも何だか少し古い感じで。
これ、完全に食堂だな。
メニューもほら。
・ナポリタン
・ペペロンチーノ
・クリームパスタ
こういうパスタ系から。
・カツ丼
・カレーライス
・ラーメン
・生姜焼き定食
こんな男物、がっつり系も。
それどころか。
・リゾット
・ドリア
こんな変わり種のメニューまで。
この無軌道ぶり、これをレストランと呼ぶのは難しいのでは・・・?
おっと、呼び方はどうでもいいか。
今の私は飯を食いに来たんだし。
それにきっと、店もどう呼ばれても大丈夫なように「食堂・レストラン」、この両方をつけてるんだろう。
さ、適当に・・・そこでいいな。
座って、と。
・・・あ、お冷セルフサービスか。
取ってこよう。
さてさて、食堂とレストランが一体化しているこのメニュー。
この中から何を選んで食べようか。
ガツンと元気は入れたいが。
そうなるとカツ丼辺りが候補になるか?
いや、オムライスもいいよなぁ。
待てよ、朝だし敢えて軽めにしておこうか?
夕方にはパーティーがあるし。
あー、悩む。
悩むなぁ。
メニューが多いから、尚更悩むんだよなぁ。
うーん、どうしよう・・・。
いや、ここはがっつり行くべきだな、うん。
「お待たせいたしましたー!カツ丼とオムレツになります!」
ソースカツ丼はこの前食ったが、普通のカツ丼は食ってなかったからな。
今日ここでいただくことにした。
・カツ丼
見るからにふわふわな卵とじのカツ。そこにライスが組み合わさった、丼ものの王者たる風格。これを朝に食べる、そこに何だか背徳感が・・・。しかしカツ丼、結構なビッグサイズだ。
・オムレツ
カツ丼だけじゃ寂しい、そう思って注文したが。結構大きくて、食べ応え抜群そうだ。
いやはや、我ながら朝からかなりがっつり。
本当は餃子とかもよかったんだが、ガーリック臭がな・・・。
夜にはパーティーもあるし、泣く泣く断念した。
では、いただきます。
まずは、この見事なカツ丼。
ソースカツ丼とはまた違ったこの佇まい、黄金のカツ丼。
ふわふわの卵とじカツ、そしてライス。
そこから漂るこの香り。
食う前から分かる、食べ応えと美味しさの詰まったカツ丼だ。
しかし眺めていても腹は膨れない。
ここは早速食べるとしよう。
というより、私が食べたくて仕方ないんだ。
朝からがっつり男飯。
魔術師、カツ丼、行きまーす!
―――くーっ、美味い!これは食う人を笑顔にさせる、魔法のカツ丼!カツの上がり具合、閉じ込められ具合、最高!
そしてそんなカツと一緒に食べるこのつゆが染み込んだライス。
この組み合わせ、もうどうしようもないくらい美味しい。
こんな美味しいカツ丼を、私は果たして朝から食べても良いんだろうか?
カツ丼、そこで重要なカツ。
しかしここのカツの重ったるくない、最高の揚がり具合。
揚げ物を朝から食べると重そうだが、ここのカツ全然そんな気にならないぞ。
そしてその最高の上がり具合。
そこにこの、最高の卵の閉じ込められ具合が顔を出すんだ。
しっかりと美味しいふわふわの卵、カツとの相性、抜群なんてものじゃない。
朝から揚げ物、食べるたびに腹が膨れるはずなのに。
むしろ食べるたびに腹が減る様な、そんな錯覚にまで陥る。
そんな錯覚、それに私が陥れば。
カツをつゆ染みライスで追いかける、これに尽きるんだ。
―――ああ、ライスまでしっかり美味いカツ丼、素晴らしい。ライスを食っても笑顔になる、そんな魔法のカツ丼だ。
カツ、ライス、その繰り返し。
でもこの繰り返しこそ。
カツ丼を食らう、この神聖な儀式において一番重要な神事。
つゆが染みたカツと卵、それをつゆが染みたライスで追いかけるのだ。
そう、そういえば。
ここのつゆ、これも凄く美味しい。
色んな旨味というんだろうか?
それがまとまって、喧嘩せずに1つになったような、そんな味。
この黄金のカツにはきっと黄金のつゆが使われているのかもしれない。
―――うん、つゆを意識して改めて食えば。やはり奥深くて力強い、素晴らしい味わいがここにある。
ソースカツ丼の時も思ったが。
美味いカツ丼、それには食う人を幸せにし、喋らせないような力があるんだろうか。
唯々延々と、無言でカツ丼を食い続ける私。
朝からこのビッグサイズ、食いきれるかなと思っていたが。
今私は確信した。
このカツ丼、この美味しさ。
これなら私、朝なのにこの大きさを食いきっちゃう。
こんな大きさのカツ丼、それを朝から食いきっちゃう背徳感。
何だかこの感じ、クセになっちゃいそうだ。
深夜のラーメン、早朝のカツ丼。
何か新しい諺になりそうな雰囲気だな。
ああ、美味い、このカツ丼。
素晴らしいカツ丼、素晴らしい男飯。
それに魅了される男が、またここに1人・・・。
おっと、魅了されるのも良いが。
魅了されすぎて、オムレツを冷やすのも良くないな。
この美味しそうなオムレツ、黄金色の巻物。
・・・よく考えたらカツ丼とオムレツ、どっちもふわふわな卵が重要だな。
これは面白い形で被ってしまった、そう思えばいいんだろうか?
まぁ、いいか。
とりあえずケチャップを伸ばして・・・。
箸で切って、良し。
さ、1口行こうか。
おっとっと、ひき肉をこぼしそうになった。
改めて・・・。
―――美味い。ふわふわな卵、そこにぎっしりと詰まったこのひき肉。オムレツ・ザ・オムレツ、その勲章を君にあげよう。
これは美味しい。
美味いカツ丼に続き、美味いオムレツ。
この店、卵の扱いがプロ級だ。
いや、実際に料理店なんだからプロなのは間違いないが。
色々な店、プロたちの中でもプロ中のプロ。
そんなレベルの美味しさがこのオムレツにはある。
特にこの卵のふわふわ加減。
そしてふわふわに包まれた、ひき肉の旨味。
オムレツ、その言葉を思い切り表面に出してきたような、そんな美味しさがある。
というか、なんだろう。
この卵、ケチャップだけの味じゃない。
こう、ほのかに卵に味がついてるというか。
そう、これ。
―――うん、やっぱり。カツ丼のつゆの味がこのオムレツにある。
凄く僅かに、だが。
私の舌、よくこんな細かい味に気が付いたな。
普通のオムレツじゃない、つゆの味が少しついたこのオムレツ。
しかし、これ。
意外や意外、とっても美味い。
中のひき肉の味と卵の味、そしてケチャップの味。
全部が全部、良い感じに巻かれて美味しい、良いオムレツ。
このつゆオムレツ、私凄く好きだ。
凄い、この店。
余程つゆに自信があると見た。
美味いカツ丼には美味いつゆ。
そして美味いオムレツにも美味いつゆ。
きっとこのつゆの縦横無尽な働き、それがこの店の強みなんだろう。
いやー、しかし。
オムレツ、美味しいなぁ。
今まで食べたことのない、新しいアクションの仕方。
それにすっかり魅了された私がいる。
・・・何だか美味い飯に魅了されてばっかりだな、私。
でも、いいんだ。
魅了されても。
こんな朝からカツ丼とオムレツ、美味いつゆのダブル攻撃にさらされても。
いつの間にか半分まで食べていたオムレツ。
これを少しストップして、またカツ丼へ移る私。
ああ、カツ丼は思い切りつゆの美味さが突き抜ける。
それをこのボリュームのある肉、そしてライス。
こいつらが支えてきて、更に美味しくなるから・・・もう堪らんのだ。
そして食い応えがあるでしょう?
ほら、もう。
男にとっての最強飯、丼の王者たる風格。
それを朝から私に思い切り見せつけてくるわけだ。
平伏してたまるか、そうオムレツに逃げたとしても。
つぎはオムレツの優しさ、ふわふわな美味しさとひき肉のダブルパンチ。
そして伏兵のつゆに、私は打ちのめされていく。
ああ、朝から。
ああ、美味しい。
カツ丼とオムレツ、これを朝からがっつり行っている人物。
恐らく今の時間、私1人だけなんじゃないだろうか。
でも、そこには恥ずかしさも後悔もない。
あるのは唯々、満足感と美味しいものを食べている幸せのみ。
美味い、そして凄く幸せ。
朝から良い気分、今日はいい日になりそうだ。
「ありがとうございましたー!」
いやー、美味しかった。
お、もう日が昇っているじゃないか。
でも少し肌寒くはある。
これは今日、快晴で過ごしやすい1日になりそうだな。
猛暑日だとこの時間からもう暑いし。
さて、この後は家に帰って午前中の仕事を終わらせてから。
夕方のパーティーに参加するだけだな。
良し、じゃあ朝飯の後。
気合の一服だ。
火をつけて・・・良し。
・・・ふぅ~。
朝飯の後、朝の一服。
これもまた・・・沁みるな。
さ、家に帰るか。
願わくば、次も美味い店に会えるように。
主人公(男)・魔術師。パーティーではしゃぎまくった。
工房の顔なじみ(男)・学院時代からの付き合い。主に酒を造っている。そのお披露目&周年パーティーが今日だった。中々の敏腕。