おお、漆黒のカツ丼が今目の前に・・・!
少し遅れました。
ブクマ増えてました、ありがとうございます!
「どうも、先生。先日ぶりです。」
「あ、魔術師さん!こんにちはっ!」
さて、昨日の今日ではあるが。
二日酔いで少し痛む頭を押さえ、はるばる魔道学院までやってきた。
あとはポーションの授業について打ち合わせ、だが。
「・・・もしかして今から授業でしたか?」
色々教科書を抱えているその姿。
何というか、小さくて生徒と間違えそう。
「いえいえ、大丈夫ですっ!今日は自習でしたので!」
「自習ですか?そんなに教科書持ってて?」
「えっと、色々な子が分からない事があったら、すぐに教えれるようにって・・・。」
・・・なんというか、痛ましい。
やる気のないクラスを受け持っているとは思えない純真ぶり。
私たちが学院の生徒だった時にこんな先生居たら、もはや皆のマドンナだ。
同じ生徒とかだったら惚れる奴続出だろう。
「まぁ、急ぎではないので自習が終わってからでも大丈夫ですよ?」
「いやいや、魔術師さんを待たせるわけには・・・!」
「いえいえ、大丈夫ですよ。」
「いやいや・・・。」
「いえいえ・・・。」
―――――――――――――――――――――――――
ふぅ、結局あの後押し切られてしまった。
小さいのに押しが強いよな、あの先生。
いや、体の大きさは関係ないか。
しかしまぁ、ポーションの授業について伝えた時。
あの喜び様、良い事をした気分になってくる。
その後の副ギルマスって情報で一瞬動き止まってたが。
いきなり緊張して固まり、その後の慌て様。
少しクスッとしてしまった。
でも副ギルマスの授業なんてのはそうそう受けれる物じゃない。
あのクラスには無駄かもしれないが・・・まぁ、いい経験にしてほしいものだ。
あ、そういや元気ちゃんやクールちゃんのクラスも合同授業にするんだっけ。
先生そんなこと言ってたし。
ま、とりあえず私の仕事は此処で終わりだ。
その為にも休憩という事で、近くにあった「カフェテリア バイオリ」に入ったんだが。
・・・店の名前、「ン」を付ければ完璧だったと思うんだが。
「お待たせいたしました。アップルパイになります。ごゆっくり。」
お、ちょうどいい所に来たじゃないか。
・アップルパイ
長方形のパイ、隙間から見えるのはアップル。この甘い香りに誘われて・・・。
では、いただきます。
このアップルパイ、見るからに甘くておいしそう。
きっと生地もサクサクしてるんだろうな。
これはナイフで切るべきか、いや。
このまま齧り付いちゃおう。
―――サクッとトロっと。程よい甘さが私の口へ流れ込む。トロっと、しかしどこかしゃきっとしたアップルもまた、美味しいんだ・・・!
うん、齧り付いて正解。
このトロっとした感じのアップル、それをダイレクトで味わえる。
何といってもこの齧り付いた時、ダイレクトに伝わるこのサクサク感。
これを楽しむために齧り付いたといっても過言ではない。
そしてサクサク感の後、この至極の甘味。
アップルの奔流が私の口の中を覆いつくすんだ。
サクッとしたパイ、いきなり来るこの甘味。
この落差もまた、アップルパイの魅力なんだろう。
ここのシェフ、良い腕してるじゃないの。
これは飲み物も何か頼むべきだっただろうか・・・?
ま、いいか。
アップルパイが美味しいんだし。
さ、これ食ったら次の仕事だ。
―――――――――――――――――――――――――
あー、疲れた。
アップルパイからもらった元気、もうすっからかんだ。
まぁ、その分しっかり利益はあるからいいんだが。
きっちりお金をもらってきっちり働く。
これ簡単なようで結構難しい。
特に私の様な個人事業だと尚更だ。
大きい所とかたまに下に見てくるし。
と言ってもそういうお客さんの場合拒否してるんだが。
とりあえず、仕事は終わったんだ。
時間ももう夕暮れ、あとは。
―――飯でも食って帰ろう。
胃袋の中、もうすっからかん。
しかも元気もないときた。
となれば何か食って元気を出す、これしかないでしょう。
さ、飲食街へ向かうとしよう。
到着、飲食街。
歩いてる途中、更に腹が減ってきた。
今日は何を食べるかだが・・・。
うーん、どうしよう?
美味しいものなら何でもいいんだが、何か決めろと言われると。
ついつい迷ってしまう、私の悲しき性。
まぁ、結局はいつものように歩いて探す訳だ。
さ、歩いてみるか。
レストラン。
夕食はコース料理のみか。
パスだな。
焼肉。
この前食った。
というか飲食街、焼肉屋多いよね。
儲かるのかな?
洋食屋。
レストランとはまた違う、洋食という名のくくり。
しかし並んでいるため、今回はパス。
と、なれば。
ここは食堂か、はたまた居酒屋か・・・。
お、あそこいいんじゃないか。
「飯処 サケグチ」、暖簾も出てる。
席も空いてそうだし、ここにするか。
「いらっしゃい!おひとり様ですか?」
「ええ。」
「空いてるカウンター席、どうぞ!」
元気の良い女将さんだな。
何というか、元気の良い掛け声をもらうと、それだけで少し元気が出てくる。
さて、お冷は・・・セルフサービスか。
コップに水を注いで・・・良し。
あとは席だが、うん。
端っこ開いてるし、端っこに座ろう。
丸椅子に背もたれのついた、そこらへんで買えるような椅子。
そして真っすぐの白いカウンター席。
奥には厨房が見える、この席。
決してインテリアや調度品が高くないが。
それが逆に、この店の雰囲気に合ってる。
さて、そんな食堂のメニューは。
・ラーメン
・カケソバ
・オムライス
おお、手広い。
さすが食堂。
まとまりのないメニューが、逆に私の食欲を逆なでる。
他には・・・。
・カツ丼
・ソースカツ丼
・麻婆丼
麻婆丼。
そんなのもあるのか。
いや、本当に手広いな・・・おや。
壁掛けのメニューもある。
・麻婆炒飯
・天津飯
おうおう、これはいよいよ。
何を頼めばいいか分からなくなってきた。
いかん、焦るんじゃないぞ、私。
じっくり焦らず、今私が食いたいものを見つけるんだ。
さぁ、私は何が食いたいんだ?
・・・良し、決めた。
「すいません。」
「はい!」
「ソースカツ丼1つお願いします。」
「はいよ!セットのスープ、豚汁にもできるけど!」
「あ、じゃあそれで。」
「はーい!ソースカツ丼、豚汁一丁!」
ついついスープを豚汁にしてしまった。
豚と豚が被ってるが・・・ま、いいだろう。
ソースカツ丼、楽しみだ。
「はいお待たせ!ソースカツ丼と豚汁だよ!」
おお、漆黒のカツ丼が今目の前に・・・!
・ソースカツ丼
食べ応えのありそうなカツ、ドドンと四枚もある。下のキャベッジとライスが見えないぞ。ソースを纏った黒い見た目も、なんだろう、少しドキドキしてくる。
・豚汁
具沢山な味噌汁、そこに豚肉も入ってるから豚汁。ボリューム満点、優しい香り、もう私の食欲を刺激して止まない。
では、いただきます。
さ、先ずはこのソースカツ丼だが。
うん、少しカツを退けて・・・よし。
キャベッジとライス、こいつらを視覚に入れておこう。
そうしたら、後は。
このソースカツ、それに思い切り齧り付くのみ!
―――サク、サク、じゅわあ。柔らかくてしっとり、なのにサクサク。ソースとカツの相性も抜群だ。
これ、これだよ、この美味さ。
私がいま求めていた美味しさ、正にここにある。
ああ、美味い。
美味くて思わず笑顔になってしまう。
ソースとカツの相性抜群。
一口齧り付いただけなのに、もう充実感が漂ってる。
こう、結構薄めの肉。
なのに齧り付くと確かに肉のジューシーさが出てくる。
そこにソースと衣が絡んで、もう。
あー、カツ。
あー、ソース。
このコンビネーション、もう最高。
こんな美味しいカツ、これを。
キャベッジとライスで追いかける、それはどれほど幸福なんだろうか。
さぁ、いざ・・・!
―――あーあー、これは、これはもう。食べれば食べるほど食欲に火が付く奴だよ、これ。
カツ丼ってかなりがっつりした丼ものなのに。
ここのカツ丼、食べれば食べるほど更に食べたくなる。
なるほど、その為のカツ4枚か。
これだけあれば食べ応えも十分だもんな。
もう美味すぎて一心不乱にカツ丼を食べる私。
言葉はいらない。
唯々食べ勧める、その姿で、男の背中で店に伝えるんだ。
このカツ丼、凄く美味しいです、と。
ガツガツ、むしゃむしゃ。
そしてたまに来るシャキシャキ。
キャベッジ、いい仕事してる。
カツとライスの溝、それをキャベッジが埋めているというか。
くどくなりがちな揚げ物。
それをこのキャベッジがさっぱりさせてくれる。
そして、その上で。
ソースカツのソース味、そしてキャベッジ。
この味も凄く、相性が良い。
肉と野菜を一緒に食ったら美味い。
なのにそこにソースと野菜を一緒に食って、それが美味いときた。
ほら、ね?
もう最高でしょ?
ライス、カツ、ソース、キャベッジ。
この4者がそれぞれ良い所を持ち寄って完成したような、そんなカツ丼。
丼もの、その中でも王者クラスのカツ丼。
そんなカツ丼を今私は、噛み締めている。
さて、そんなカツ丼を美味しくいただいてる途中でも。
やはりこう、少し休みたくなる時がある。
こういう時の為の汁物。
そう、豚汁君の出番だ。
味噌の良い香り、そしてゴロゴロ野菜と豚の肉。
まずは良い香りのスープから行ってみよう。
―――豚の脂、それを確かに自分の美味さへ変えている。味噌汁の懐の深さ、御見それいたしました・・・。
味噌汁、奥が深いが。
まさかの懐も深かった。
魚を入れればあら汁に。
豚肉を入れれば豚汁に。
変幻自在、全ての食材をその味と懐の深さで自分の物にしている。
そしてまた、この豚の脂を含んだ味噌汁が。
私にじーんと、沁みるんだ・・・。
何て言うか、夕日の見える丘で。
肩をポンと叩いて、お疲れ様と言ってくれている様な。
そんな優しさが、美味しさから伝わってくる。
優しさ、それを感じながら豚肉を食べれば。
―――ほら、薄切りなのに、薄切りだとは思えない味の深さ。豚肉と味噌汁が、私の両肩に手を添えている。
ソースカツ丼のカツは元気をくれるタイプ。
こう、一緒に遊んで、一緒に元気になるというか。
なのにこの豚汁の豚は、そうじゃない。
穏やかで、笑顔で・・・どこか、味噌汁に似ている感じ。
肩に手を置いて、よく頑張ったと褒めてくれているかのような。
思わず手を止めて、ほう、と一息ついてしまう。
この豚汁、只者じゃないぞ・・・。
さぁ、そんな豚汁で口を癒したら。
また元気いっぱい、ソースカツ丼へ戻るんだ。
豚汁で休んだ私の食欲に、ソースカツ丼で火をつける。
そして火が付きすぎたら、また豚汁で鎮火する。
この永久機関、素晴らしい。
なんかもう、一生こうしていたい。
美味いカツ丼を食いながら、美味い豚汁を飲む。
私の胃が無限だったら、お代わりを頼みながらずっとこうしているかもしれないな。
だが、現実はそういかず。
このボリューム満点のカツ丼、食えば食うほど食いたくなるのに、空腹感は満たされる。
ああ、どんどん食って満腹に近づいていく。
何となく寂しいような、嬉しいような。
美味い飯には人を夢中にさせ、元気を出させる力がある。
しかしそこには満腹に近づく、儚さもある。
私は今日、改めてそれを知った。
また1つ、美味い飯で賢くなったな・・・。
―――ごちそうさまでした。
「ありがとうございましたー!」
ああ、お腹いっぱい。
腹9分目といったところだろうか。
というか今考えたらあのカツ丼、本当にボリューム満点だった。
空腹じゃないと食いきれなかったかもしれない。
さて、煙草に火をつけて、吸う。
・・・ふぅ。
夕暮れに吸う煙草、良い余韻だ。
夕日が良い感じに私を照らして。
こう、ハードボイルドじゃないか?
まぁ実際はお腹いっぱいの お 兄 さ ん が煙草を吸ってるだけなんだが。
さ、帰るか。
家に帰って残りの依頼を片付けよう。
願わくば、次も美味い店に会えるように。
主人公(男)・魔術師。自称まだまだ若いお兄さん。不審者ではない。
学院の先生(女性)・色々大きくなるために早寝早起きも実践している。しかし無駄な努力。