まるで黄金の鎧、堅固なオムソバの防御力。
今日は間に合いました。
いつも読んでくれてありがとうございます。
さて、次の営業先で・・・今日の仕事は終わりだな。
しかし今日の営業、殆ど仕事にならなかったなぁ。
どこ行っても世間話がほとんど、仕事の話なんて2~3分で終わってしまった。
まぁ、偶にはこういう事もあるよな。
いつも順調にいくとは限らない。
しかし、うーん。
どこかどんよりとしている私がいる。
いかんな、気持ちを切り替えないと。
次で今日はラストだし、頑張らないとな。
「どうも魔術師さん。お久しぶりです。」
「どうもお久しぶりです。中々顔を出せなくて申し訳ありません。」
「いやいや、魔術師さんお忙しいとお聞きしてますよ。」
「まだまだ未熟なもので、貧乏暇なしです。」
この挨拶合戦。
1日営業していると、もう途中からセリフが同じになってくる。
さて、今回の訪問先。
それは洋服屋だ。
ここの洋服屋では一般着もそうだが、冒険者向けの物も多い。
その為鎧の下に着るインナー、あるいは魔術師や魔法使いが着るローブへの加工等、そういった依頼も来るのだ。
・・・あ、そういえば私のローブ、そろそろ変えないと。
ここで買うと高いから買わないが。
雑貨屋の先輩、もう機嫌直してると良いけど。
まぁそういった訳で今日、ここに来た訳だが。
「そちらはどうです?儲かってますか?」
「いやいや、中々・・・。商品は良いものばかりなんですが、値段と折り合いがつかない人が多くて。」
「あー・・・。」
確かにここの洋服、凄く品質は良いんだが。
その分他の店より2割くらい高いんだよな。
「まぁでも、良い商品ですからね。高くなるのは仕方ないですよ。」
「そうなんですが・・・こうも閑古鳥が鳴いてるとね。あ、そうだ。今度の祭り、私達も出ますので。よろしくお願いしますね。」
「お、そうなんですか。ご参加ありがとうございます。」
「ええ。あの祭りの噂、今でも聞きますし。中には祭りで一躍有名になった店もあるとか。」
「ああ、らしいですね。・・・とはいっても、私はそこまで考えてた訳じゃないんですが。」
うん、これは。
今回の営業、ラストも世間話で終わりそうだな。
「・・・もっと、景気が良くなればいいんですが。それも全部今の大臣が悪いですよ。」
「あはは、そうかもしれませんね。」
「わかってくれます?魔術師さん。」
世間話、未だ続く。
しかも内容が祭りから政治の話へ早変わり。
こういう政治の話、結構難しいんだよな。
表面上は相手と同調しなきゃいけないし。
反対するとそれはそれでお客さんと溝が出来かねない。
かといって、同調しすぎも良くないんだ。
深いところまで突っ込まれると答えれない事もあるし。
あくまで表面上、延々と相手の言いたいことを言わせる。
政治の話になるとこれしか方法が無いんだよな。
「前の大臣の時はこっちもかなり儲けが出てたんですが、今となっては中々・・・。」
「まぁ、大変ですよね。商売って。」
「そうなんですよ、もっと良い政策は無いのかと・・・。」
あー、ダメだこれ。
延々と大臣へのヘイトスピーチを聞かされる。
大臣、どんまい。
私は嫌いじゃないですよ。
好きでもないけど。
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「いやぁ、長々と話をして申し訳ない。」
「いえいえ、こちらもためになりました。」
右から左へ話が流れていたが。
それでも貴重な意見が効けた、このスタンスを崩してはならない。
「では、失礼しますね。」
「ええ、どうもすいませんでした、魔術師さん。また来てください。」
「はい、また寄らせてもらいます。」
・・・ふぅ、ようやく終わった。
しかし今日は収穫が無かったなぁ。
世間話もこう、ピンとくるものなかったし。
ま、明日に期待だ。
今日はこういう日、きっとそれで良いんだろう。
そうと決まれば、後は。
―――飯、食おうか。
うん、そうだな。
こんな日は美味い飯を食って、しゃきっとするに限る。
そうして明日、また頑張ればいいんだ。
良し、早速飲食街へ向かうとしよう。
さて、飲食街に到着した訳だが。
今日は何を食おうかな。
こう、普通に定食でもいいんだが。
ここはこう、少し珍しいというか、元気が出るというか。
そんな感じの何かを食べたい。
具体的に何?といわれると難しいんだが、とにかくそんな気分だ。
その為にもまずは店を探さないと。
元気なうちに歩いて調査だ。
食堂。
うーん、定食か。
いや、まだ元気に余裕がある、パスだ。
レストラン。
レストランかぁ。
ここでもいいなと思ったが。
どうやら満席の様だし、パス。
居酒屋。
鉄板焼きの居酒屋か。
昼からでも営業は・・・してる。
良いんじゃないか、鉄板焼き。
此処なら美味くてがっつり、しかも元気の出るものが食えそうだ。
うん、ここにしよう。
「鉄板焼きと酒 苦楽」、ここに決定!
「いらっしゃいませー。」
「1人ですが。」
「大丈夫です!カウンターにどうぞ!」
カウンター席、どこにしよう。
ここは、そうだな。
迷ったら端に座っておけば間違いないだろう。
さて、座れば、おお。
目の前に鉄板。
というか、カウンター席の前、ずっと鉄板が続いている。
こういうの何というか、良いよね。
見てるだけでワクワクするというか、特別感があるというか。
そしてカウンターの奥に見えるは、酒瓶。
色々な酒瓶が並んでて、昼でも酒を飲みたくなっちゃう。
まぁ、今日は・・・我慢しよう。
休肝日だ、休肝日。
おっと、そろそろメニューを決めないと。
ここは・・・メニューの冊子は1つだけ、か。
昼も夜も内容は変わらないのか。
だったら今度来たときは昼から酒をここで飲もう。
さ、今日食べるメニューは何にしようか。
・お好み焼き。
うん、鉄板だな、鉄板焼きだけに。
でも、もう一ひねり欲しい所。
・焼きソバ。
うん、これも鉄板だが・・・。
・オムソバ
ほう、オムソバ。
オムソバとは、また新しい。
しかも中々普段食べることが無いメニュー。
いいね、オムソバ。
今日はこれだな。
あとはサイドをいくつか頼もう。
「お待たせ致しました!オムソバとライス、肉吸いです!ごゆっくり!」
おお、これはまごうことなきオムソバ。
・オムソバ
珍しく太麺の焼きソバ、そこにオムライスのオム、鮮やかな卵にメッシュケチャップ。青海苔がチャームポイントだ。オムが包んでるんじゃなく、乗ってるだけなのがまた、良い。
・ライス
ついつい頼んでしまうこの白い粒。焼きソバ定食があるし、オムソバにライスも間違いじゃない…はず。
・肉吸い
コイツも見かけたから頼んでしまった。スープに薄切りの牛肉が入って、食べ応えもありそうだ。
では、いただきます。
しかしオムソバ、コイツは。
どう攻略すれば良いんだ。
美味そうな焼きソバ、そいつを覆うオムの威圧感よ。
まるで黄金の鎧、堅固なオムソバの防御力。
・・・いや、落ち着くんだ私。
臆することなかれ、捕食者はこっち、オムソバは獲物なんだ。
良し、オムソバ。
思い切り箸を突っ込んじゃえ。
卵を切り裂いて。
ソバと一緒にいただきます!
―――美味い、美味いぞオムソバ君。焼きソバに卵、凄く相性が良いじゃないか。
なるほど、こうなるのか。
これは新しい発見。
そして素晴らしい美味しさ。
この組み合わせ、良いじゃないか。
こう卵焼きと焼きソバ、これを一緒に食べただけに見えるかもしれないが。
これが口の中で、凄く良い感じに絡まって、美味い。
美味いヤキソバと美味いオム、それを足すと足し算じゃなくて掛け算になる、そんな感じ。
オムにかかったケチャップ、こいつがまたいい仕事するんだよなぁ。
焼きソバのソース味と口の中で良い感じにコラボしてくる。
その後続く、この太麺よ。
オムソバのオムだけじゃなく、ソバまでしっかり美味しいんだ。
モチモチ、食べ応え抜群のソバ、しっかり焼かれて、ソースを纏って。
それをケチャップと卵が良い感じに拾って、うん。
強靭な美味さ、正に見事。
オムもソバも両方美味い、改めてそう感じる私がいる。
改めて、もう一口・・・。
―――あー、美味い。オムとソバ、それぞれが美味しくて、オムソバ。
今後、鉄板焼き屋に来たら。
メニューをみたら、まず最初に私はこのオムソバの文字を探すことになるんだろう。
見逃したら後悔する、そんな魅力がこいつにはある。
お好み焼き、焼きソバ、そしてオムソバ。
これはもう、私の中で鉄板メニューだ。
そんなオムソバ。
私はある確信を持った。
こいつ、絶対にライスに合う。
焼きソバでさえライスのお供になったんだ。
それにオムを足したこの美味さのオムソバ、ライスのお供にならないはずがない。
さ、オムとソバをライスの上にバウンドさせて。
追いかけライスを行えば・・・。
―――美味い、美味いぞ!オムソバ、見事なおかずになった。ライスを主役に引き立てるソースとケチャップ、この頼もしい働きよ。
うん、間違いなかった、この美味しさ。
ライスを頼んで大正解だ。
麺とライス、この組み合わせに間違いはないのかもしれない。
・・・いや、よく考えたらパスタ類は無理か?
カルボナーラとライスとか、どんなことになるんだろう。
ま、まぁとにかく。
このオムソバとライス、こいつは正に大当たりだ。
オムソバ、こいつが見事に良いおかずになる。
そのまま食えば主食、一緒に食べれば主菜。
食卓のダブル主役を制覇してる。
麺の食べ応え、ソース。
そしてオムとケチャップ。
こいつらが本当に、ライスをサポートするというか。
次の一口、それを思い切り後押ししてくれるんだ・・・!
―――ああ、食べれば食べるほど、食べる速度が速くなる。
一口食べたのに、もう次の一口が恋しい。
これがソース、そしてオムの魅力なんだろうか。
だが、ここで一旦オムソバを置く。
断腸の思いだが、仕方ない。
だってここに、凄く良い香りのしてる肉吸いがあるんだ。
コイツはアツアツのうちに行かないと、失礼というもの。
ほら、今も湯気で私に美味しさをアピールしてくる。
あー、良い香りだ・・・。
では、まずはスープから。
―――深い、奥深くて優しいこの味。肉の脂が良い感じにスープに溶けて、コクがある。
ああ、美味い、このスープ。
オムソバを食べてガツガツ感の出てた私の食欲、それを見事に制止させた。
このスープ、凄いじゃないか・・・。
こう、あっさりとしたスープ。
だけどどこか奥深さがある、この味。
牛肉が入ってるのに、全く開くも感じない。
これは一朝一夕でだせる味じゃないぞ。
そして、肉吸いといえば。
このスープも美味しいが、目の前に映る、この肉。
肉が浮かぶこの姿、見れば見るほど魅了されるような・・・。
これはたまらん、早く肉を食ってみよう。
―――肉、薄いのに、肉を食ってる感が十分ある。スープとの相性も抜群だ。
肉のちぢれた部分、ここにスープがしっかり絡んで。
確かに肉を食っているのに、どこか優しさと奥深さを感じる。
これはこれは・・・もしかして私、凄い肉吸いに出会ったのかもしれない。
凄い、優しい肉が口の中で大行進だ。
一通り肉吸いを楽しんだら。
またオムソバとライスへ戻るんだが。
この目の前が鉄板なの、嬉しい。
保温が効くからいつでもホカホカだ。
食べてる途中でも冷めないの、地味に嬉しいよね。
しかも店主がオムソバを作っているとき。
鉄板が続いてるもんだから、ソースの焦げる、あの良い匂いがしてきたんだよな。
いかん、それを思い出したら。
今飯を食っているのに、また腹が減ってきた。
よーし・・・ここからはガツガツ行こう。
強靭な美味さのオムソバ、優しい肉吸い。
それを受け止めるライスをもって、いざ。
オムソバ、美味い。
卵がほんと、いい仕事してる。
その下のソバをライスと一緒に行って。
合間合間に肉吸いを挟む。
あー、オムソバライスを肉吸いで〆る、この幸せ。
美味い、食べれば食べるほど元気も出てくる。
今日の仕事の不調っぷり、この美味い飯で覆した気分だ。
さぁ、いっぱい食べて、明日につなげよう。
「ありがとうございましたー!」
いやぁ、美味しかった。
オムソバ、また私は新しい料理を見つけてしまった。
そして鉄板焼き屋、そこにはいるときはカウンター席が正解なのかも。
あの鉄板が並んでる光景、普通の飲食店じゃ味わえない。
さて、煙草を取り出して。
火をつけて、吸う。
・・・ふぅ。
良い気分だ。
何だか、今日の営業も。
美味い飯を食った後だと特に気にならないな。
明日への元気、確かにオムソバで補充した。
さ、帰るか。
願わくば、次も美味い店に会えるように。
主人公(男)・魔術師。鉄板焼き屋の鉄板にワクワクする20代。
「鉄板焼きと酒 苦楽」・夜は常連客でにぎわう居酒屋。屋台から店にまで昇りつめた、確かな味が売り。