ローストビーフ丼、まるでバラの様な美しさ。
今回あっさり短めです。
「・・・というわけで、納品は来週の末にでもお持ちしますね。」
「ええ、お願いします。」
良し、今日の午前中の依頼は終了した。
が、この後は別の用事がある。
それは、例の祭り。
こんな短期間にポンポンやるものではないと思うんだが。
しかしギルドマスターや周りにつっつかれてはしょうがない。
今のうちから準備しておかないと・・・。
「では、これで・・・。」
「あ、そういえば魔術師さん。」
「はい。」
「祭りの調子はいかがです?」
おっと、ここでも突かれた。
「ええ、正にその準備を今からするところなんですよ。」
「そうですか、そうですか・・・。実は、少し折り入ってお願いがありましてね?」
「お願い、ですか?」
何だろう、お願い。
店の場所とかを譲れ、そんなお願いは無理だぞ。
「ええ、いや、あまり大したことではないんですが・・・。」
何だ、早く。
「実は・・・うちの店、もう出店登録したんですが。」
「ええ。」
まさか取り消しか?
「もう1つ出店したいんですよ。」
何だ、そんなことか。
「でしたら大丈夫かと思いますよ。ただ、出店する際の商品を多少変更していただきますが。」
「おお、そうですかそうですか!商品の変更は大丈夫です。いや、実はね。そろそろ息子夫婦にも経験を積ませてやりたいと思いまして。いつまでも私が窓口じゃあ、後が心配でねぇ。」
「経験の為、ですか。」
「ええ。もうすぐここも息子に引き継ぐし、早めに現場に出させないと。とはいってもここで待ち続けるのもどうかと。」
「そうですねぇ・・・。実際に販売してこそ分かることもありますから。分かりました。一度担当に連絡しておきますね。」
「ああ、頼むよ。」
「では、失礼しますね。」
「ありがとうね、魔術師さん。」
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あー、疲れた。
飲食街の屋台広場、その真ん中にて。
色んな屋台を巡って話をするだけなんだが、これがまた思いのほか疲れる。
だがおかげで屋台のリストアップもかなり進んだ。
それに、これ。
・豚肉の串焼き
オーソドックスなバラ肉の串焼き。シンプルに塩コショウでどうぞ!
ついつい屋台で買ってしまった。
・・・うん、これ、ここで食っちゃおう。
いただきます。
そうだな、この串焼き。
これはもう、そのまま齧り付くしかないでしょう。
いざ。
―――うん、シンプルな塩と胡椒、そして豚肉の綺麗で美味しい三角形。塩で飛び、胡椒が回転し、豚が着地する。
シンプルに美味い。
豚肉の串焼き、こういうのも偶には良いじゃないか。
豚のバラ肉、凄くジューシー。
しかも分厚いから食べ応えもばっちりだ。
そして噛んだ時に出る豚の脂、ジューシー感。
そこに塩と胡椒が躍り出て、もうたまらん。
今もう片方の手にエールがない事が凄く悔やまれる。
こう、外で食う串焼き、何でこんなに美味しいんだろう。
私の食欲にも火がついてきた・・・が。
ぺろりと食ってしまった。
ああ、食欲の火が燻っている。
このまま不完全燃焼でいいのか?
いや、良くない。
どうせ今飲食街にいる、ならば。
―――このまま、店を探そう。
丁度仕事も終わったんだ。
このまま飯にしても大丈夫だろう。
屋台。
屋台は・・・串焼き食べたし、パス。
カフェ。
軽食って気分でもないんだなぁ。パス。
居酒屋。
・・・やってないな、ここ。
夜からの営業だ。
こうなるともはや、候補は。
レストランや食堂、そのあたりになるんだが。
と、発見。
「食堂 ルリーラ」。
何だかルンルンしてきそうなこの名前。
うん、私の食欲も少しルンルンしてきた。
ここだ、ここにしよう。
「いらっしゃいませ~!」
「1人ですが。」
「大丈夫ですよ~。お席にご案内しますね~!」
さて、席に着いたが。
改めて見るとこの店内、凄くお洒落だな。
華やかなカーテン、テーブルマット。
そして花瓶には瑞々しい花が飾られてる。
照明もよく見れば・・・中々お洒落。
あれも花を模しているのか。
さて、そんな店で食べる料理を決めなければ。
何があるか・・・お。
壁のポスター。
何々、肉フェスとな。
肉料理のキャンペーン中か。
いいな、肉。
肉はいつ食べても美味しい。
となれば、メニューにも書いて、ある。
・肉野菜炒め
・唐揚げ定食
おお、オーソドックスな料理。
お洒落感は感じられないが、それが良い。
他には・・・お?
・ローストビーフ丼
へぇ、ローストビーフ丼。
いいね、これ。
何だかお洒落そうだ。
お洒落感が無い料理も良いが、偶にはお洒落感があってもいいだろう。
うん、これに決定だ。
「お待たせいたしました!ローストビーフ丼です!」
おお、これは綺麗な・・・!
ローストビーフ丼、まるでバラの様な美しさ。
・ローストビーフ丼
薄切りのローストビーフ、それが綺麗なバラの様に並んでいる。上からかけられたタレはまるでバラの蜜。食い応えもありそうだ。
・スープ
ふわふわの卵が入ったコンソメスープ。スープの香りはやはり、落ち着く。
では、いただきます。
まずはこのバラが咲いたようなローストビーフ。
綺麗に円状に重ねられた肉、良い見た目だ。
そしてそこに箸を突っ込んで。
こう、上手く肉と食えば・・・。
―――肉の花園、食い応え抜群。タレの蜜が肉という花弁をこれでもかと彩ってる。
ライスにもしっかりタレがかかってて、いやはや、美味しい。
ローストビーフとライス、こんなにも合うんだな。
というか、前に食べた定食では厚切りだったな。
でも丼だと薄切りの方が良いんだろうか?
でも厚切り、薄切り、どっちのローストビーフでも。
今まさに肉を食ってる、そんな気分はどっちも感じる。
結局のところ、美味い肉料理。
そこは厚さに関係なくジューシーさがあるよね。
そしてそんなローストビーフ。
気兼ねなく追いかけライスができるように、丼にしてあるから、もう。
バクバクと食い進めてしまう。
またこのタレも良いんだ。
肉にもライスにもピッタリ合う、このタレ。
酸っぱいのに結構グッとくるこの味。
自家製のタレなんだろうか?
あっさり過ぎず、かと言ってくどすぎず。
丼もののタレ、しかもローストビーフ丼だから尚更味付けが難しいのに。
そんな中このタレ、凄く良い所を突くというか、美味くて上手いタレだ。
もうこのタレとライスだけでも余裕で行ける。
さぁ、もう一度掻き込めば。
―――ああ、肉とライス、幸せ。丼には定食にない、全力でおかずをライスで追いかける幸せがある。
肉、ライス、肉、ライス。
これを延々と繰り返せる、この丼。
その中でも肉の綺麗な赤、そしてライスの魅惑的な白をのぞかせる。
綺麗と食べ応え、その両方を兼ね備えた機能的な丼。
これは肉フェア、大当たりだな。
おっと、忘れていないスープの存在。
コンソメスープ、こいつの働きも大きいからな。
ローストビーフ丼一色になったこの口の中。
それをこのスープがどう癒してくれるか、楽しみだ。
では、早速・・・。
―――ああ、ほっとする。食卓の休憩所、ローストビーフ丼を花咲かせる魅惑のスープだ。
ローストビーフ丼がバラならば。
このスープはバラを花咲かせる水といったところか。
凄く深い、このコンソメ味。
どうやったらこんなに美味しいスープになるんだ?
しかも嬉しい存在、卵。
このふわふわの卵って、汁物に入ってると少しうれしくなるよね。
コイツをスプーンで掬って、と。
―――ああ、ふわふわが口の中に。スープを纏った卵の美味しさ、口の中でほどけていくようだ。
いやぁ、美味しい。
でも一回掬っただけで卵が3分の2ほど減ってしまった。
少し悲しい。
このスープにこのふわふわ卵、たまんないね。
口の中を優しくリセットしてくれる。
そしてまた、ローストビーフ丼に行く訳だ。
スープで綺麗さっぱり、コンソメの余韻を残す口。
ここで再びローストビーフ丼、よーいドン。
―――ああ、美味い。肉とライス、古より続くこの黄金の組み合わせ。そこにタレがかかって、もうバッチリ。
これだよ。
スープからの、これ。
もう美味しいったらありゃしない。
お洒落なメインと名わき役のスープ。
そこに食べ応えもプラスされてる。
この店お洒落なだけじゃない、確かな美味さがここにある。
これはもう、ガツガツ行くしかないでしょう・・・!
「ありがとうございました~!」
ああ、美味しかった。
肉とライス、心おきなく掻き込んだ。
そこに華やかさも足されて、もう大満足だ。
コンソメスープも美味しかったなぁ。
心も体も温まる、良いスープだった。
ここでとりあえず煙草を1本。
ふぅー、ああ、良い余韻だ。
さて、いったん帰るとするか。
屋台のリスト、再チェックしないとな。
願わくば、次も美味い店に会えるように。
主人公(男)・魔術師。お洒落には無頓着。普段着はローブ。
「食堂 ルリーラ」の給仕(女性)・実は店長。料理ができないので給仕として働いている。