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雨の日の牛タン定食

遅刻しました。

「おお、いい匂いだ・・・。」


この肉が焼ける音、そして香り。

これだけでもう、腹が減ってる人にとってはごちそうだ。

ああ、肉の香りの破壊力、たまらん。


右を向けば、牛タン定食。

左を見ても牛タン定食。


私の分はいつできるんだろうか。

凄く楽しみだ。


・・・お、そろそろか。

そんな予感がする。


もうすぐ、もうすぐ私の牛タンが・・・!


「はい、牛タン定食売り切れでーす!」


・・・は?

いや、注文したじゃないか。

なのになぜ私の分だけ来ないんだ?


これは少し確認せねば。


「すいません、私も注文したんですが「では皆さん、さようならー!」はぁ?」


何だ、いきなり店主が消えた。

これはいったいどうなっている?


あれ。

いつの間にか周りの人もいないじゃないか!


・・・あ、そうか。

分かったぞ。


これ、夢だな・・・?




「・・・さん、魔術師さん。」


「うーん・・・。」


「魔術師さん!!」


おおっと!

びっくりした。


「やっと起きましたね、魔術師さん。もうすぐ生徒が来ますよ?」


「ああ、すいませんね、先生。つい寝ちゃった・・・。」


ああ、それにしても変な夢だった。

そして物凄く牛タンが食べたい。


あー、これも全部インテリア工房のアイツのせいだ。

美味い牛タンの店をわざわざ自慢しに来やがって。


「では、私はこれで失礼しますが・・・大丈夫ですか?」


「ええ、大丈夫です。ご迷惑おかけしました。」


いや、今は牛タンじゃない。

目の前の仕事に集中せねば。


さて、待つとしよう。


―――――――――――――――――――――――――


「わかりました!魔術師さん、よろしくお願いします!」


「いえいえ、こちらこそお願いします。」


「よーし、がんばるぞ・・・!」


おお、凄く気合が入ってる。

元気ちゃんとは違う感じの、そんな元気があふれ出てる。


そうだな・・・この子は根性ちゃんとでも呼ぼうか。


「では、学院が終わった後私の工房まで来てくださいね。そこで実際に加工をしてもらうので。」


「はい!任せてください!」





あの後持ち物等を確認し、そこで解散。

私はそのまま学院を後にした、が。


忘れられない、もはや脳裏にこびりついているあの記憶。

思えば思うほど、その思いが強くなってしまう。


そう、それは。


―――牛タン定食、食べたい。


雨が降り、少し肌寒いというのに。

この思いは、食欲はどんどんと熱を持っていく。


あんな夢見たから尚更だ。


となれば、もう。

飲食街へ行くしかないでしょう。


どうせ生徒の手伝いが来るまでにはまだまだ時間があるんだ。

生徒が来たときにきっちり仕事ができるよう、しっかり腹に牛タンを入れに行こう。




さて、到着、飲食街。

今日は牛タン、1点狙いだ。


しかし今思えば何を食べるか決めて飲食街に来るの、初めてじゃないだろうか。


まぁ、だから何だという話だが。

とっとと牛タンの店を探そう。



食堂。

今回はパス。


焼肉。

近い、けど・・・パス。

牛タン定食無いみたいだしな。


レストラン。

残念、パスだ。



うーん、そもそも牛タンの店ってどこにあるんだ?

あまり見かけたことないから、そもそもの場所が分からない。


どうにか、こう、ポッと店が建ってないものか・・・あ。


あった、建ってた、「牛タン 瑠璃紅」。

名前も凄い、歴史を感じるというか。


良し、決定。

私の牛タン腹、それをここで思い切り解消しようじゃないか。




「いらっしゃいませ!奥の座敷にどうぞ!」


お、元気のいい女将さん。

じゃあ遠慮なく座敷席へ座るとしよう。


座敷席がいくつかと、カウンター席のみの小さいお店。

でも壁に貼ってあるメニューの古さ、そして何より。

牛タンを焼いているこの音と香り、こいつらがこの店の歴史、そして確かな腕を語り掛けてくる。


そもそもメインメニュー、牛タン定食しかない。

ああ、でもその文字にそそられる私がいる。


うん、とっとと注文しちゃおう。


「すいませーん。」




「お待たせいたしました!牛タン定食になります!」


おお、これだよこれ。


・牛タン焼き

薄すぎず、厚すぎず。ちょうどいい厚さ。軽くついてるこの網目、こいつがもうタンの美味しさを見た目で伝えてくる。


・麦飯

ライスの変わり種、しかし牛タンには麦飯と相場が決まってる・・・らしい。何故かは知らない。


・とろろ

とろとろしてる山芋からできた料理。これを麦飯にかけるかどうかはあなた次第。私はかけちゃう。


・テールスープ

澄んだスープ、浮かんでるネギ、そこから除くテール肉。牛タン定食にはやはりテールスープが無いとな。


では、いただきます。



まずは牛タン焼き、メインディッシュ、私がいま最も求めているもの。

箸で持てば、ほら、柔らかい。

この程よい弾力がもう・・・。


いただきます!


―――おーほほほ・・・ほら、これは美味しいタンだ。思わず笑いがこぼれる、そのくらい美味しいタン。


もう、さっき箸で感じてたあの弾力、柔らかさ。

こいつらを口の中で思い切り堪能できる。

この体験、これは人生で1度は体験しておきたい美味しさ。


牛タンの絶妙な厚さ、こいつがまた良いんだ。

この厚さを追求するために、いったいこの店はどんな歴史を歩んできたんだろう。


分厚いコリコリタンも良いが、こういう上品な牛タン、これもまた良し。

きっとこの厚み、店の自信の現われなんだろう。


そしてそれだけじゃない、このタンの秘密。

そう、この味。

ピシッと決まっているこの塩味が、またタンの美味しさを引き上げている。


ああ、私の食欲に、牛タンの美味さが刻まれていくようだ。



こんな牛タン、こいつを食えば。

やはり麦飯でアレをやらねばなるまい。


そう、肉で麦飯を巻いて食う、巻き食い!


―――おー、おお!これもまた素晴らしい美味しさ!麦飯、納得の味!


この感じ。

美味いおかずで美味い主食を食べる幸せ。

これを思い切り堪能できる、この牛タン定食。


本当に素晴らしいじゃないか・・・。


何といっても、こう。

麦飯の麦の感じ。


最初普通のライスでもいいんじゃないかとは思ったが、この麦が。

牛タンの食感と、こう、ベストマッチしてる感じ。



さて、麦飯に行ったならば。

もう1つ試しておかねばならぬ。


そう、とろろ。


コイツの味を調味料で整えて。

麦飯の上へぶっかけるのさ!


おお、麦飯の上が一気に賑やかになった。


じゃあ、1口頂きます。


―――トロトロと、麦飯の味、融合し。調味料が、また良い働き。


これは、この感じは。

新しい発見、新鮮な美味しさ。


麦飯の素朴な味ととろろの素朴な味。

こいつらが組み合わさって凄く素朴かと思いきや、一気に美味い主食の飯に大変身だ。


おかずがいらない、もうこれだけでバクバクいける。

こいつは驚きの変貌を遂げたじゃないか・・・。


とろろ、その破壊力。

牛タンにも負けず劣らず、素晴らしい。



だが、このまま食べると一気に麦飯ととろろが枯渇してしまう。

かといって肉に行けばそれもまた、勢いで一気に食べてしまうだろう。


そうと決まれば、やはり。

テールスープ、こいつで場をつなげなければ。


牛タン定食、そう聞けば牛タンは勿論だが大体はコイツがいる。

影の主役、テールスープ。

さて、ここの味はいかがだろうか。


まずは、スープだ。


―――ああ、五臓六腑、全てにジーンとしみるこの味。一緒に口に入ったネギがまた、凄く良い仕事をしてる。


こう、ネギが具材なんだけど、具材じゃないというか。

スープと一緒に食べると、こう、口の中で後味の余韻を引き締めてくれる。


ネギ自体もしっかりスープの旨味を吸っていて、もう。

控えめに言って、たまらん。



テールのうま味がじっくりでたこのスープよ。

ならば、その肉はいかがなものか。


スープが美味いからもう美味いのは確定しているんだが。

確認せずにはいられない。


肉を掬って、いざ。


―――テール肉、スープの底で眠る怪物。まさにモンスター級の美味さ。


この柔らかさ、牛タンとはまた違って凄く美味しい。

こっちの柔らかさは、そう、言うなればホロホロ。


噛んだ瞬間にほぐれて、その味を口の中で爆発させる。

その爆発にはこのテール、そしてスープの美味さが混ざってるから、もう。


やはりテールスープ。

こいつは牛タン定食の陰の主役だった。



さぁ、がんがん行こうか。

牛タン定食、まだまだ私は味わいきれていない。


温かい麦飯、に牛タン、そしてテールスープ。

この店の歴史と経験、それを確かに伝えてくれるこの美味さ。


これをまだまだ掻き込める、そんな幸せがここにはある。


麦飯を食べ、牛タンを食い、テールスープに舌鼓。

ほら、食べれば食べるほど。

私の知らない、新しい一面と美味しさが出てくるじゃないか。


牛タンととろろ麦飯、凄く合う。

テールスープの肉、ネギと一緒に食えば新しい美味しさ。


そんな程度の新しい一面、しかし私にとっては大きな発見。

ああ、素晴らしき牛タン王国。

この幸せよ、永遠なれ・・・!




「ありがとうございました!」


あー、美味しかった。

食べたいものを食べたいときに、食べたいだけ自由に食べれる。

この幸せは、本当に何物にも代え難いものだ。


そしてそんな中食べたもの、それが牛タン。

この圧倒的満足感、牛タンじゃないと感じれなかっただろう。


さて、この充実感を。

煙草の一服で、味わいつくそうじゃないか。


・・・ふぅー、沁みるな。


さて、家に帰ろうか。

この後加工の用意もしておかないとな。


願わくば、次も美味い店に会えるように。

主人公(男)・魔術師。牛タンを食べれて満足。



根性ちゃん(女性)・美少女。元気ちゃんとクールちゃんの間くらいの発育。とにかく気合いがある。

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