異世界要素全開ワイン蒸
誤字、脱字とかあったら教えてください。
この話は短編版の加筆修正になります。そしてこの作品唯一のオリジナル食材の回かもしれない・・・。
毎日色々な仕事をこなすフリーの魔術師。
それが私の正体だ。
魔道学院を中心に栄えたこの都市で今日も私は仕事をこなす。
まぁ、いろいろやってるから偶に便利屋と間違えられたりするんだが。
「・・・というわけでして、明後日この授業で是非教鞭を振るってはいただけないかと。」
しかし、今回の依頼。
これはまた面倒な依頼が来たな。
こんなもの一介の魔術師が手に負えるような依頼ではないんだが。
―――というより非常にめんどくさい。
「申し訳ありませんが、この依頼は少々・・・。」
「そこを何とか!他の先生に聞いてもフリーの魔術師さんを探してもみんな予定埋まってるって・・・!お願いします!私を助けると思ってどうか!」
そんな叫ばれて頭を下げられてもどうにもならない。
・・・というよりあなた今私と会ったばかりでは?
しかし同情もする。
ここ第一魔道学院、通称「イチ」では現在来月の魔王生誕祭に向けて着々と準備が進んでいる。
そんな中いきなり魔術の授業、それも座学ではなく実技を教えるとなると非常に労力がかかる。
というかそもそもここでは魔術の実技指導に2人教員、もしくは魔術師が必要だ。
しかも先ほど教員が言っていたように他の教員やフリーの魔術師は祭りの準備で忙しい。
大手の魔術ギルドに手伝いを依頼する方法もあるが、そちらも同様に忙しいはず。
そうなれば依頼料の割り増しになるのはもちろん、大手では1人ずつの派遣などはしてくれない。
この教員意志弱そうな上新任の様だし、大方他の教員に押し付けられたのだろう・・・。
だが、ここで流されては面倒なこと必須・・・。心を、鬼にするッ・・・!!
「お力になりたいのは山々ですが・・・その・・・。」
「その・・・?」
「あーっと・・・強く、生きてください・・・。」
ふぇっ?と言っている先生を横目に扉へ近づく。
私にはこれが限度だ。
今にも泣きそうな女性の涙に断固たる意志を発するなど私にはできないのだ。
ちょうどお昼時、お腹も減っているし美味いものでも食べてこの罪悪感をわすれることに
「待って!!お願いします!!!まってくだざいいいい!!」
うわぁ・・・。泣きながら足にしがみつかれてしまった・・・。
・・・ていうか
「あの、離してください!このローブ結構高いんですよ!」
「おねがいしますううう!先輩にたのまれて、ことわりきれなくてぇぇ・・・。同期の人たちも忙しいって、たすけてくれなくてぇぇ・・・。おねがいじますうううう!!」
「とりあえず、ローブを、離してください!!」
なんだこの力、全然引きはがせんぞ・・・!
身体強化でも使ってるのか・・・?
「おねがいじまずうううおねがいじまずううう!!!」
くっ、私は新任教師なんかには屈しないぞ!!!!
――――――――――――――――――――――――――――――
新任教師には、勝てなかったよ・・・。
まぁ依頼料は通常の相場より大幅に上げてもらったし、触媒とかも全部向こうで用意してくれるとの事だし、最悪突っ立ってりゃいいだろう・・・。
しかし引き受けるとなった時のあの笑顔、まだまだ若いなぁ。
ローブもクリーニングに出したし(クリーニング代はもらった)、これから何を・・・。
「そういえば、お腹、減っていたんだった・・・。」
第一魔道学園では魔道学園を中心に街が作られている。
その中でも飲食店や宿屋が立ち並ぶ飲食街に私は来ていた。
来たのはいいが、何を食べるか定まらない。
それが今の私の心情だ。
腹が減ったはいいが何を食べようか、何を食べたいのかがなかなか定まらない。
適当に食えばいいと思うかもしれないが、どうせなら美味いものを食いたいのは誰でも思うことだろう?
街並みを適当に歩く。
時たま、目が惹かれるメニューや香り、色、音がある。
そこで立ち止まり、入るかどうか悩み、旨いものを食べる。
これが私のこだわり、といってもいいかはわからないがこだわりなのだ。
歩く、歩く、街並みを歩く。
なんか、こう、インスピレーションがわくというかなんかいい感じの店はないのだろうか・・・。
「いらっしゃいませー!」
「1人ですが、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ!奥のカウンターへどうぞ!」
結局さまよった挙句、私が見つけたのは路地の角にあるこじんまりとした店「ジーニアス」。
入った理由?・・・店名からなんとも偉大さを感じるからだ。
そんな理由かと思うかもしれないが、なんともインスピレーションがわいてきそうだろう?
「こちらメニューになります!」
どれ、メニューは・・・何々、薬草と魚の料理が中心か。
しかし薬草の料理とは、また珍しい。
薬草なんて魔術師がポーションの原料にするくらいしか口に入ることはないぞ。
「魚と薬草で頭の回転を早めましょう」、なるほど、これがこのジーニアスのキャッチコピーか。
まさに、上手な言い訳が出来なくて結局依頼を引き受けた私にピッタリだな。
ここの料理で頭の回転を早めて、目指せジーニアス。
「すいません、注文をお願いします。」
「はーい。」
「お待たせしました!カルとシキラ草のワイン蒸、薬草パン、ダラのスープ、カネラ草のサラダです!パンは1度までお代わりできますので是非!」
「ありがとうございます。」
さて、今回の注文のおさらいだ。
・カルとシキラ草のワイン蒸
本日のおすすめの1品。カルと呼ばれる淡水魚と疲労回復に効果のあるシキラ草を白ワインで蒸しあげた。カルはよく食べられる大衆魚だが、シキラ草と一緒に食べたことはないな。
・薬草パン
その名の通り、様々な薬草をペーストにして練りこまれているパン。緑と白のマーブル模様が見ていて楽しい。
・ダラのスープ
これまた大衆魚であるダラ、この一般的な平凡さが素晴らしい。体もあったまる。
・カネラ草のサラダ
滋養強壮に効果のあるカネラ草のサラダ。見つけた時一瞬びっくりした。物珍しさでチャレンジ。
この中々癖のあるラインナップ、まずは何から攻めるべきか・・・。
いやここはやはりメインディッシュ、ワイン蒸から攻めるべきだろう。
そもそも魔術師であっても、薬草を食材として食べるということはほとんどない。
特にシキラ草なんてポーションでしか飲んだことがない。
徹夜の日、疲れた日、様々な日にお世話になってます。
っと、とりあえず食べるか。
折角ならシキラ草とカルを一緒に食べたいし、シキラ草を乗せて、と・・・。
―――うむ、美味い!森林の中、魚が悠々自適に泳ぎ回る!
薬草のフレッシュな香り、魚とまさにベストマッチ。
そしてその魚、こいつも身がしっかりしてて、こう、良い感じだ。
魚と薬草、この意外な組み合わせ、まさに天才の発想なのかもしれない。
そしてそこに組み合わせられた・・・ワイン。
この芳香な香りがまた、私の食欲を進めてくれる。
こいつはもう、薬草パンにも合うこと間違いなし。
ということで薬草パンをここらへんで・・・。
まずはそのまま、1口。
―――ザ・薬草。しかしそれでいて、パン。薬草の香り、確かに薬草、でもそれが、美味い。
薬草の香りがすごい、が、先ほどのワイン蒸と同じく嫌な香りでは全然ない。
むしろ、そう!
ハーブティーとか、紅茶の様な、あんな香り。
この香りこそが薬草パンの存在感、この香りがあるからこそこの美味さ!
しかも焼きたてなんだろうか、ふわふわのこの感触がまた・・・良い。
そして見た目の緑のマーブル。
こいつがまた見た目で楽しませてくれる。
緑色の所だけ食べると・・・ほら、薬草の香り。
見た目、味、そして健康に良い、まさに料理の3種の神器。
こいつはもう、お代わり確定。
パンの味も確かめたし・・・良し、スープへ移動。
ダラ、大衆魚を使用したスープは珍しいものではないが、店や場所によってその味付けは多少異なる。
優しい味の物もあれば、スパイシーな感じのものもあり家庭の味の様な物もあるからな。
さて、ここのスープ、ジーニアスのスープはどんなものかな・・・?
―――優しく、しかししっかりと。大衆魚として愛されるその理由、このスープでしみじみとわかる。
何といってもこのダラの身。
こいつパンに負けないほどふわふわしてる。
それでいて味もしっかりその身に溶け込んで・・・疲れた時、頭を使ったとき、きっとその人はこのスープで癒されるだろう。
薬草、魚で試行錯誤を繰り返す頭、ならばそれを癒すのがこのスープ。
その永久機関、マッチポンプ、今の私には大歓迎だな。
あとは・・・このスープにパンをつける浸しパン。
ついついやっちゃう、けど止まらない。
―――スープ、それを吸い成長した薬草。その力強さ、大森林級。
ああ、凄い。
力強い薬草、そして癒されるそのスープの味。
まるで矛盾しているかのような、そんな気分にまで錯覚させる。
・・・いかん、まだ私にはサラダが残っている。
薬草のサラダ、中々食べれる機会なんてない。
だが、こう、見た目は普通だな。
まぁいい、1口いこう。
―――美味い、本当にこれが薬草?君もしかして野菜の仲間だった?
美味い。
薬草なのに、薬草じゃないくらい、美味い。
みずみずしさ、そのシャキシャキ感、まるで野菜。
でも野菜特有の青臭さとか、えぐみ、ゼロ。
そしてそこに吹き抜ける、薬草独特のスッとする香り。
これはもう、サラダ界の帝王を名乗った方が良いんじゃないか。
更に、このサラダにかかっているドレッシング。
こいつがまた・・・ああ、いい仕事してるじゃないの。
このカネラ草、こいつに食べ応えをしっかりと付け加える、その味。
このドレッシング売ってないかな、そしたら私薬草採取のときにそのまま食うんだが。
ワイン蒸、そして薬草パンで頭を使い、スープで癒す。
ならばきっとこのサラダ、こいつは1筋のひらめき、発見といったところだろうか。
どれもこれも今まで経験したことのない、薬草の世界。
その世界を十分に堪能していく私。
パンをお代わりし、ワイン蒸と一緒に食べる。
もしくはスープにつけて、サラダを挟んで・・・。
そしてその都度、新しい美味さと発見を繰り返していく。
私の知らない新たな世界、薬草の可能性。
未知なる体験、ああ。
―――ごちそうさまでした。
「ありがとうございましたー!」
ふぅ、美味かった。
出入口の横に用意してあった喫煙所で一服しながら、今日1日を振り返る。
この食後の一服が、また、たまらん。
薬草独特のあのスッとした香り、それとは正反対の煙。
どちらも私にとっては素晴らしい、癒される余韻だ・・・。
さて、明日はローブを回収して、明後日の授業に備えますかね。
・・・クリーニングで、きっちり綺麗になるよね?
うん、大丈夫、なるはず。
願わくば、次も美味い店に会えるように。
主人公(男)・魔術師。長身。髪黒い。ローブかぶってる時が多い。
教師(女性)・身長低い。かわいい。