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勝利の女神は微笑まない~最弱だった僕が神になるまでの軌跡~  作者: あろ
第4章 ジェフティ・トートリス
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第97話 魔石と魔鉱石

――第18階層。


そこはこれまで経験したダンジョンとは異なり、ヒンヤリと冷えた空気が漂う洞窟だ。


あちらこちらに水晶らしき物が突き出ていて、魔物ですらも、生物と無生物の堺が曖昧になってくる階層。

空気が冷えているのは、空気中に露出した魔鉱石と魔石によって魔力に循環が起こり……なんとやら、と師匠は説明していたが、正直話半分で聞いていなかった。


なぜなら僕は、魔物の攻撃を避けることと、さらには師匠の攻撃を避けることに必死だったからだ。

師匠は僕らの存在ガン無視で薙刀を振るいまくるものだから、僕とヒロは師匠の攻撃が当たりそうになるたびに、ひぃひぃ言いながら必死で避けていた。


「お、おっかねぇな……。魔物の攻撃よりジェフ師匠の薙刀がこえーよ……。」


「ヒロはいいよね、盾があるんだから。僕なんて当たったら一瞬で真っ二つだよ。」


「あのな!俺はニケみたいにヒョイヒョイ避けらんねーの!!防御より当たらない方がいいに決まってんだ――」


「ヒロ危ないっ――『障壁よ(バリア)』!」


バリンとおなじみの音を立てて、魔力の壁が崩れる。


「お?なんだヒロマサ、まだそんなとこに突っ立てたのか。」


壁を破壊したのは師匠だ。

破壊エフェクトの後ろで悪びれもせず宣う師匠に、僕らは頬を引きつらせた。


「なぁ、俺の命日は今日なのかもしれない。」


「安心してヒロ。そのセリフ7回目だから。」


そんな会話をしているとは知らず、師匠は鼻歌交じりに魔物を蹴散らしている。

最初は師匠も多少気を使ってくれていた。

転職したばかりの僕に加えて、新たにヒロも転職したため、僕やヒロの新しいスキルを試してくれてもいた。

しかしダンジョンに潜り始めてしばらくすると、『そんな優しさははなから持っていない』とばかりに暴走を始め、3人で潜り始めてたった数時間でこのありさまだ。


「守備力上がってなかったら、もう何回か死んでるぜ……。」


ヒロの第3ジョブは戦士系統の上位、「騎士見習い」だった。攻守ともに戦士の上だけれど、武器ごとに分かれた系統と比較すると、攻撃より守りに比重が傾く。

転職前のスキル獲得で、【挑発】を選んだらそうなった、と彼は言っていた。


師匠から「攻撃力が上がるスキル選んどきゃ、武器系統に行けたかもな」と後から言われ、ヒロ自身気づいていなかったようで、多少ショックを受けていた。


そんな経緯から、師匠が僕らを巻き込んでいるのは、それぞれの新しいスキルを使わせて伸ばすためだと思う。

僕は瞬発を使っての回避行動を。そしてヒロは「騎士見習い」になったことで自動的に取得した、防御力が上がるというスキルを。


スキルは使い込むと、より上位の物を取得候補に挙げることができるようになる。

だからそのための訓練なのだ。


「って、理屈ではわかるけど、ちょっと無茶だと思うですよ!師匠!!」


井戸の下の隠し部屋に戻ってきた僕は、食事をしていたスプーンの柄を机に叩きつけながら叫んだ。


「いやー 途中から楽しくなっちまってな?すまんすまん。」


「あははー」と陽気に笑いながらお道化る師匠は、謝罪の言葉を口にするものの、全く悪びれる様子などない。

そんな師匠を僕は「ガルルルル」と声が出そうなほど睨みつけ、ヒロはと言えば筋肉を酷使したせいで震えている腕で、四苦八苦しながらスープを飲むことに集中していた。

机をたたいた衝撃でせっかく掬えたニンジンを取りこぼし、ジロリと睨みつけてきた彼に、僕は無言で「ごめん」のポーズをとった。


「あぁ、そうだニケ。コレやるよ。」


師匠が取り出したのは、青色の石だ。一見すると青い宝石のようにも見えるが、中心が淡く発光している。


「……?なんですか、コレ?」


再び行儀よく座り、師匠がくれた石を手に取ってみるとヒンヤリと冷たい。


「魔石だよ。魔力の結晶みたいなもんだ。って、ダンジョンの中でも話したはずなんだが?」


「あ……。いやー、あはははは」


そう言えば「突出した水晶がどうちゃら」と、18階層の空気が冷たい理由を話していたときに「魔石」という単語が出ていた気がするが、正直ちゃんと話を聞いていなかった。

師匠にジロリと非難の目を向けられるが、笑って誤魔化すと「仕方ない奴だ」と再度説明をしてくれる。


「魔石は魔力が結晶化した物だ。その魔力の持つ性質によって色が変化する特徴があって、ここのダンジョンで採掘できるものは、青色――つまり、水の魔石だな。

他に身近なものでいえば、光や炎、風、氷などの魔石で、特に光や炎は我々の生活に直結している、無くてはならない魔石だ。

この部屋の天井にもあるだろ?」


師匠の言葉に、僕とヒロは同時に天井を見上げる。そこにあるのは、天井に打たれた杭からぶら下がる魔石灯(ませきとう)だ。


「魔石灯はその名の通り、光の魔石を使用した魔道具で、発明されて以来、我々の夜を明るく照らし続けている。

ダンジョンの中には、暗闇の中を進まねばならない物もあり、様々な場面で私たちを助けてくれているんだぞ。」


二人して天井を見上げたまま「へぇー」と声を漏らす様子は、少し間抜けだ。

目線を楽な位置に戻したところで、僕は浮かんだ疑問を口にする。


「でも師匠、魔石と魔鉱石(まこうせき)って何が違うんですか?」


「はぁ?! ニケお前、話聞いてないにしても程があるだろ……。」


師匠は再び呆れ、ため息をつきながら続きを話す。


「いいか? 今渡した透明なのが魔石、そしてこれが魔鉱石だ。」


机に置かれた魔鉱石は、卵の表面のような外見をしており不透明で、特に発光している様子はない。

見た目の違いは一目瞭然である。


「魔鉱石は、魔力を伝えたり増幅したり、あるいは変質させることができる特殊な鉱石。そして魔石は、魔力そのものが結晶化したものだ。」


「なるほど。魔鉱石が銅線とか家電で、魔石は電気そのものが固まってるみたいなもんか。」


ヒロは納得した顔で「なるほどなー」と食事に戻ったが、僕はいまいちピンときていないし、ヒロの出した例えも知らない単語ばかりでよく分からない。

その後、師匠の懇切丁寧な説明によって、なんとか理解することが出来たころには、食事も終わってヒロに至っては3人分の食器を洗い終えた後だった。


「あの18階層がジメっとしていて寒い理由は、この水の魔石から漏れ出る魔力が、所々に露出した魔鉱石によって水蒸気に変換されているからだな。」


「むぅ……。難しいです師匠。」


「ヒロマサは随分早く理解していたようだがな?」


師匠の意地悪な視線を受け、突然話を振られたヒロは苦笑いをしながら「まぁ、俺の方が年上ですし……」と頬を搔いていた。


「で、やっと本題なんだが」


師匠のその言葉に、僕は思わず跳ね上がる。


「えっ?!今からが本題ですか?!」


僕の頭はもう既にパンクしそうなのに、今からまた何かの知識を詰め込まれるのだろうか。

そう思って絶望の表情をしているのに、師匠は「構うことか」といった態度でツラツラと話したてる。


「この水の魔石を使って、なにか作ってみろ。『錬金術師』は薬と魔道具の両方に長けているのが利点だが、その両方で魔石は役に立つ。魔石の扱い方も覚えていて損はないぞ。」


そう言った師匠は、僕に渡していたレシピと教科書を広げ、いくつかのページに丸を付けていく。


「んー、ま、この辺りだろうな。魔石を扱う上で役立ちそうな所に印をつけておいたから、あとは自分で試行錯誤を繰り返していきなさい。」


印のある所を軽く確認すると、確かに師匠の言うように魔石を活用した錬金や、魔道具や薬類の素材として加工しているページもある。

本当に幅広く使われるんだなぁ、と考えながら師匠自作の教科書をめくっていると、ふととある記述が目に付いた。


――近年の研究においては、その外見的特徴から魔石の一種であるという説も浮上しており……。


ページの端に小さく描かれた絵は、確かに一見赤い魔石のようだ。

もしや賢者の石のことではないかと、その周辺の文章を読み込むが、あとは魔石の種類やその特徴などが記されているだけで、小さく縁取りされた賢者の石らしき記述は、ほんのコラム程度の扱いだった。


師匠に聞こうにも、彼女は既にヒロのために、筋肉疲労による痛みを緩和する薬品を調合し始めていた。

仕方なく僕も、ほかのページやレシピと睨めっこすることにした。


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