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勝利の女神は微笑まない~最弱だった僕が神になるまでの軌跡~  作者: あろ
第4章 ジェフティ・トートリス
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第96話 見えない敵

「おう、やっと帰ってきたか!いやー、お前ら――」


村の前で師匠が大きく手を振っている。そしてその表情は見事なまでの笑顔だ。

その時点で既に僕たち二人の中にくすぶっていたものが、ボッと増え上がったのを感じた。

しかしそんなこと、しったか知らずか。次いで師匠の口から出てきた言葉に、僕の我慢は限界を迎えた。


「随分、遅かったな?」


ブツン――


何かが、切れる音がした。


「し、し、ししし、しーーーーぃしょーーーーー!!!!!

なんですか?!なんなんですか!!!師匠ってもしかして、バカなんですか?!バカ師匠なんですか?!

格上の魔物ばっかりのダンジョンに放置だなんて、全然余裕で死ねますよ!」


「お、おいニケ……?」


先ほどまで一緒に怒っていたヒロの、戸惑う声が聞こえる。しかし、僕の口はもう止まらない。


「一体どうしたんだ馬鹿で――」


「もーーう我慢の限界!師匠っていっつもそう。大体、レベルブースト剤だってくれてのは質の悪いものだけで……」


「あ、お、おう。悪かった、悪かったって!わかったよニケ、私が悪かった!だから一回落ち着け。な?な??」


「いいーえ、師匠。師匠は全くわかってません!いいですか、そもそも格上の魔物に遭遇した時にセオリーは、撤退です!

仮に戦闘になってもその最終目的は、撤退!撤退、撤退、撤退!!師匠の教えですよ!

なのにレベルブースト剤ってなんですか?!帰還の笛を作るには、一角馬の討伐が必須ってなんですか?!死にます!いつか死にます!

しかも徒歩で帰れないし!!なんでですか!!地図くらい残してくださいよ、なんなんですか?!

加えて言わせてもらえば……」


「ちょっと待てニケ。徒歩で帰れないってなんだ?」


「――え?」


一瞬頭が空白になる。僕の変化にオロオロしていた師匠が、突然真面目な顔と緊張した声で問いかけたからだ。

雰囲気が変わり、気圧される。


「なにって……、だから第2層から第1層に行く道がわからなくて……。」


師匠はスッと目を細める。何やら難しい顔で地面を睨みつけていたかと思えば、無言で踵を返し、独り言をこぼしながら井戸の下の部屋に降りていく。

僕はその様子にすっかり怒りが削がれ、ヒロと共に黙って着いて行くしかなかった。


降りていくと、師匠はダイニングテーブルの上いっぱいに資料を広げ、何かを書き込んだり悩んだりしていた。


「あ、あの師匠……?」


「あぁ、ほったらかして悪いなニケ、ヒロマサ。とりあえず座れ。」


顔を見合わせるも、師匠のただならぬ雰囲気に素直に従って、師匠と向き合う形で椅子に座る。

師匠は資料の中からいくつかをピックアップし、僕らが読みやすい向きに変えてから話を始めた。


「まず一つ言っておくぞ。あの迷宮はほぼ一本道だ。特に罠やギミックもない。だからフロア中探し回って上層への階段が見つからないなんてことは、通常ありえないんだ。

だからこそ、私はお前たちを放置しても問題ないと判断した。逃げ回っていれば、簡単に出口にたどり着けるからな。」


師匠の言葉に異を唱えようとして、けれど師匠の持っている地図を見ると、その言葉に嘘がないことがわかってしまう。


「帰還の笛をレシピに入れたのは、今回脱出に使うためじゃない。私が狩りで取った角を使って、この拠点でニケに作らせる予定だったんだ。

今回は、危険な魔物をいち早く察知して逃げる訓練をしたかった。」


そうか、それでレベルブースト剤を……。レベルが上がれば、いくらか聴力や走るスピードなどの能力も上がる。

つまり魔物を討伐するためではなく、逃げるために渡された物だ。よく考えてみれば、ブースト剤は採取品のみで調合できる。

もし地図通りの地形ならば、魔物を倒す必要は確かになかった。


「で、でもジェフ師匠。この地図の場所には行ったぜ。っていうか、たぶん俺らはここでキャンプをしてたし……。」


ヒロの言う通り、地図上袋小路は階段のある一か所のみで、あとはすべてつながった通路になっている。

これはつまり、僕らが最も長い時間を過ごしたあの場所に、階段はあったことになる。


「師匠、これってまさか、錬金組合の組合長が言ってた……。」


「あぁ、恐らくな。今回のことは私の失態だ。今後は一切私から離れず、行動は常に共にしてもらう。

それからニケ、これを見ろ。私たちの目標地点は、ダンジョンボスのすぐ手前。フロアは第18階層。最近の出版物によると、ここに隠し通路が発見されたらしい。最終的にはここを調べに行く。」


「はい、わかりました。」


師匠と資料を覗き込んで、情報をすり合わせていく。

僕は納得できたのでそれ以上文句を言わなかったが、ヒロは前提の情報が足りていないためかひどく混乱して、僕らに説明を求めた。


「ちょ、ちょっと待ってくれよ。一体何がなんだかサッパリなんだけど!ちゃんと説明してくれって。」


「……わるいな、ヒロマサ。上からの命令で細部を説明することはできないんだ。

だが、そうだな。行動を共にする仲間だ。多少は話しておくべきか。」


師匠はそう言って、組合長から託された指令について語っていく。

もちろん、探しているものが賢者の石だということは避けて。


極秘の指令でとあるアイテムを探しに来たこと、それを狙っている第3勢力があること、その第3勢力こそ今回僕らが徒歩で帰還できなかった原因の可能性があること。


「なるほどな……。師匠が何事もなく出れたってことは、その第3勢力ってやつは、俺たちを狙ってるのか?」


「そこまでは、わからないな。 私たちが入ったのを見ていた第3勢力が、私と入れ違いにダンジョンに入り、先に入った私たちに持ち逃げされないよう工作をしたのかもしれん。」


「どっちにしても、その第3勢力がどう行動するかわからない以上、僕らは師匠から離れない方がいいのは確か……。そうですよね、師匠。」


「そうだ。 それに、奴らがどこまで情報を掴んでいるのかもわからん……。 アイテムを回収しない選択肢はないが、行動には慎重になる必要があるな。」


師匠はそう締めくくった。



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