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勝利の女神は微笑まない~最弱だった僕が神になるまでの軌跡~  作者: あろ
第4章 ジェフティ・トートリス
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第94話 ダンジョンで一泊

「ダンジョンの中で寝るのは、初めての経験だな。」


僕の横で上着を枕に寝そべるヒロは、どこか緊張した声で言った。

イロカエルの大群に遭遇して以降、結局第1層に繋がる階段を発見することが出来ず、体力の限界を迎えた。

ダンジョン内で無理を通そうとすれば、それだけ命の危険に晒されることになる。

仕方なく、僕らは一時体力回復のためのキャンプを行うことにしたのだ。


僕は拾ってきた木材を焚火くべながら、努めて明るく返事をする。


「そっか、ヒロは初めてなんだね。僕は何度か経験あるよ。その時は独りだったから、すごく心細かったなぁ。」


「……なんかあったら、すぐ起こせよ。」


「わかってるって。魔力の壁も張ったし、ここは袋小路で滅多に魔物も来ないから、大丈夫だと思うよ。」


そこまで聞いてやっと決心がついたのか、ヒロは静かに瞼を閉じた。

恐らく意識はまだあるだろうけれど、声を発さなくなったことで火の爆ぜる音だけが、薄暗い空間に響く。


こうしていると、沢山のことを思い出す。


パライ・マリンによって村を出たあの日。その彼に裏切られた恐怖。仲間を失った無力感。そして焔の巣と過ごした楽しい日々に、ゴーリー大森林での巨大オオカミとの戦闘。

初めて師匠に、ダンジョンの中で放置されたときは、しばらく動き出すことが出来ずに蹲って泣いていた。

それが今では、こうして信頼できる相棒がいる。交代で見張りも出来るから、魔物に怯えて眠れない夜を過ごすこともない。


「本当に、ヒロには感謝しかないよ。」


「…………。」


寝てしまったのか、意図的に返事をしなかったのか。こちらに背を向けて寝ているヒロからは、読み取ることはできなかった。






「んーーーっ!やっぱり、寝袋もテントもないんじゃ、体中が痛いね。」


「あぁ、しかも土の地面が体温吸っていきやがる。ったく、せめて毛布の一枚くらい、入れておいてくれっつーの。」


すぐ隣で焚火をしていなければ、冷えで眠れなかったかもしれないと思うくらいには、地面はヒンヤリとしていた。

それでも睡眠を摂ったからか、多少体は軽いし、疲労感も薄らいだように感じる。


「それじゃあ、火を消す前にニワトリのお肉でも焼こうか。それを食べてから出発にしよう。」


「そうだな!」


朝食後にヒロが寝ている間に作っておいた薬品類を分配し、火を消してから探索を再開した。

前日と同じように、ニワトリは可能な限り戦闘し、音や風景の違和感に注意しながら進んでいく。


「やっぱり、昨日と同じ……。」


「だな。一周して来ちまった。」


僕らはキャンプをした袋小路に、再び戻ってきてしまっていた。実は昨日も全く同じ現象に悩まされ、第2階層を隅々まで探し回ったにも関わらず、上層への階段を発見することができなかったのだ。


「またイロカエルの擬態か?今度は第3層とは逆で、壁に擬態して階段隠してるとか。」


ヒロはそう言うが、僕はその意見には否定的だ。


「うーん、どうかな。あのカエルたちって、基本的には地面とか壁にくっついて過ごしてるよね。

ドアを隠すとかならわかるんだけど、壁じゃない階段を隠すなんて、できるのかな……?」


「難しいか。体の色を変えられるのは、背中だけっぽかったしな。もし大量のイロカエルが積み上がってたとしても、腹の白い部分が見えて完全な擬態はできない……か。」


「うん、僕はそう思う。」


それに加えて、実はイロカエルの擬態は完璧ではない。遠目で見ればわからないが、ある程度近くまで行くと違和感を感じる程度のことはある。

今回は僕もヒロも、互いに反対の壁に手をついて歩いてみたのだけれど、特におかしな点は見当たらなかった。


「あと考えられるのは、ダンジョンのギミック……かな。一定の条件を満たさないと、そもそも階段が出てこないとか。

もしくは第3層で上り階段が複数あって、それぞれ違う第2層に出ちゃうとか?」


「間違えた階段を上ると、その先は行き止まりってことか。けど、ダンジョンは奥へ行くほど広くなるのが普通だろ?

俺たちが探索した限り、ここの第2層と第3層の広さはほぼ一緒だぞ。」


そう。ダンジョン奥へ行くほど広くなるのが普通。逆に言えば、第2層が第3層と同定のどの広さを持っている時点で、階層が複数構造になっているとは考えにくい。

師匠がせめて地図だけでも置いて行ってくれていれば、こんなに悩まされることはなかったのに。

本当に、なんて師匠だ。


「さて、どうすっか。一旦第3層に戻ってみるか?」


このまま徒歩で帰ろうとするならば、ヒロの提案に従って第3層に戻り、発動していないギミックが無いか探る必要もある。

それは確かだ。けれど、僕はもう一つの手段を試してみたいとも感じていた。


「あ、あのさ。もしヒロがやってくれるなら、なんだけど。一角馬……、戦ってみる?」


「……俺は一角馬の強さはわかんねぇけど、ニケがヤバいって言うから避けてたんだろ?」


「うん。一角馬の討伐難度は確か、三日月の次に強い上限の月なんだけど、その中でもかなり難しい方だって、師匠は言ってた。」


「上弦の月の上の方っていえば、第4ジョブ以上が推奨されてる難易度だよな。俺は第2ジョブだし、ニケに至っては第2ジョブのなりたて……。

レベルブースト剤使っても全然届かねぇぞ。」


「うん。だから、ちょっと辛い戦闘になるかもしれない。だけど、もし質の良いレベルブースト剤が作れたら、もう少しだけ底上げできるよね。

それに僕が覚えた瞬発のスキルも、もしかしたら役に立つかも。」


ヒロはしばらく眉間に皺をよせ、目を瞑って考え込んでいた。腕を組み、難しい顔をしている。

それなりに長い時間そうして悩んでいたため、僕が不安になってきたころ。ヒロは溜息をついて、ニッと笑った。


「――ったく、しょうがねぇ。やってみるか!

後ろで壁張ってるだけじゃなくて、自分がどこまで成長したのか試したいんだろ?」


「ヒロ、ありがとう!!って、バレてた……?」


小躍りしそうなほど飛び上がって喜んだ僕に、ヒロは仕方ないといった風に笑った。


「ま、俺も気持ちはわかるからさ!でも無茶は絶対にダメだぜ。危なくなったら魔物忌避剤使って、即撤退だからな。」


「うん、もちろん!ふふ、なんだか兄さんみたい。」


ヒロは一瞬キョトンとしていたが「実際俺、アニキだしな。」と僕の頭を軽く撫でた。

しかし浮かべる微笑みはどこか寂し気で、以前故郷のことを思い出していた時と、似た顔をしていた。


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