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勝利の女神は微笑まない~最弱だった僕が神になるまでの軌跡~  作者: あろ
第4章 ジェフティ・トートリス
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第92話 師匠は師匠

「〜〜〜〜!!!し、師匠の、ばかーーーー!!」


ばかー…………

ばかぁ……


瓦礫(がれき)が積み上がるばかりの巨大な空間に、僕の悲痛な叫び声がこだまする。

足元ではヒロが、大きく絶望のため息をついて、体育座りに顔を埋めていた。


数刻前のこと。

僕は無事に転職を果たし、その足で()()()()に目的のダンジョンへ入った。

道中は本当に危険で、僕らの入ったことのあるダンジョンでは見たことがない罠も沢山仕掛けられていたし、魔物は僕らでは相手にならないほど強い。

師匠が薙刀をビュッと鋭い音がするほどの速度で薙ぎ払い、いっそ小気味いいほどに殺戮されていったので、僕らに危害が及ぶことはなかったが。

それでも、危険なことに変わりはない。


そんなわけで道中はずっと師匠の背中に隠れていたわけだが、あの鬼師匠がそれだけで許すはずがなかった。


「んー、この辺りでいいか」


出口間際、師匠は突然呟いたかと思うと、薙刀の柄を思い切り地面に叩き込んだ。

するとどうでしょう、地面に亀裂が走り、一気に崩れたではありませんか!!


唐突な落下運動にパニックになりながらも、師匠に助けを求めようと周りを探したが、その姿は見当たらない。

僕もヒロもやっとの思いで着地すると、上から聞き慣れた声が降ってきた。


「おー、随分と落っこちたな。ざっと3階層分ってところか?よしよし、2人とも自力で帰ってこい!

私は肩慣らし終わったし、あとお前らだけだもんな!

あ、そうそう預かってたコレ、返しとくわ。大容量サック。

んじゃ、先に村まで帰ってるからなー」


そして冒頭に戻る、というわけである。


「ここの魔物達に僕が勝てるわけないじゃないか…。

地図も持ってないし、どうしたら……」


「はーーぁー……。

ま、いつまでもウジウジしてるわけにもいかないよな。

とりあえずニケ、大容量サックになんか入ってないか、確認しとこうぜ。」


暫く沈んでいたヒロだったが、一度大きくため息を吐いて、うまく切り替えたらしい。

スッと立ち上がると、師匠が放り投げてきた大容量サックを拾い上げた。


「あー、回復薬と、魔力回復薬が殆どだぜ。

あとは空き瓶がいくつかと、魔物忌避剤、長めの縄、解毒剤、食料と水が少量、」


ヒロは言いながら次々と取り出しては、地面に並べていく。


ちなみに既に瓦礫は謎の力で戻っていき、上部の穴は塞がっている。

そして周囲は僕の杖で生成した(バリア)に囲まれている。

魔力を無駄に使う訳にもいかず、かと言って一枚では強度に問題ありなので、薄いのを3枚重ねにして接敵に気づく為のセンサー扱いだ。


「そんで、最後にコレとコレな。」


「あーーー、そういう……。師匠って本当、無茶苦茶というか、スパルタというか……。」


「同感だな」


最後に取り出された2つの品。

一つは簡易錬金セットで、二つ目は師匠直筆のレシピ本だった。

師匠からの試練は全部クリアしたのに……。


「冒険者でいる限り、修行に終わりはないぞってメッセージなのかな。」


「いや、伝え方。もうちょい、どうにかなんねぇ?」


要するに、今回の「置き去り肩慣らし」は錬金術師としての修行の一環だ。

ついでに言えば、ヒロと僕のレベル上げだろう。


僕は転職してレベル上限もあがり、レベル1からの再スタート。

転職前の上昇値が、維持されることだけは救いだ。

ヒロは次のレベルアップで上限。ここで上げておかない手はない。


そして極め付けの錬金セット。

ご丁寧に添えられたレシピの内容は、"レベルブースト剤"と、大容量サックに入れていた各種薬品類に加え、最後のページにはなんと『帰還の笛』のレシピ。

しかも素材は、このダンジョンで獲れるものばかりらしい。


「逃げに徹して、コレを練金して帰ってこいってことか……?」


「うんん、多分、レベルブースト剤で魔物を狩るのが本命だと思う……。

笛はどうしても帰れない時の保険、かな。」


ヒロはゲッと苦い顔をして僕を見た。

どちらにしてもまずはレベルブースト剤の入手からだ。


僕らは師匠の書いたレシピメモを頼りに、ダンジョン内でひたすらに素材を探し歩くことになった。


素材探索中の魔物への対処は、以前闘牛3頭に追われたときの方法を取って、逃げに徹した。

追われたら魔力の壁(バリア)を張って、それを壊されるまでの間で距離を取る。

幸い出現する魔物は、素早さや攻撃力は高くないらしく、比較的簡単に撒くことが出来たので、あの時に比べれば余裕があった。


「どうだ?出来そうか?」


再び3枚重ねの空間を作って、その中で初めての錬金を試していると、大容量サックに入っていた干し肉をしゃぶったヒロが手元を覗き込んできた。


「うーん、準備の段階でまず調合が必要だったりして複雑だけど、スキル無しの状態より断然楽かも。

感覚でわかるっていうのかな……、時間とか量とかで確認してたものが、色味とか混ぜる重みで分かるようになるって感じ。」


「ふーん?」


師匠が口酸っぱく言っていた「初級スキルは補助」「初級くらい自力で作れ」と言っていた意味がよく分かる。

いうなれば特訓の過程をすっ飛ばして体が覚えるのがスキルで、理論や過程を理解していなければレシピの意味を理解できないのだ。

すると応用が利かない。


師匠が書いたレシピは完全にオリジナルで、このダンジョン内でとれるものに限定されている。

こういったことが出来るのは、師匠がスキルに頼らない錬金や調合を繰り返した、その結果なのだろう。


高レベルになるほど、レベルに依存した戦い方をしている人と、修練を積んだ同レベルの人とでは、その戦力差は比較にならないらしい。

それと同じことだ。


「ふぅー……。よし、できた!」


完成した薬品をそっと空き瓶に流しいれ、集中を途切れさせた。そこでやっと緊張して体が強張っていたと知覚する。

ヒロは途中から飽きて、武器の手入れをし始めていた。


「お疲れ。ってか、今は何を作ってたんだ?」


ヒロの手入れも丁度終わったのか、光にかざして眺めていた刀身を鞘に納めた。


「うん、まずはレベルブースト剤をね。これは調合の方のスキルで作れるし、帰還の笛を造るには魔物から採れる素材が必要だから。」


「……えっ、マジか?」


どうやらレシピの中身をしっかり読んだわけではなかったらく、僕の言葉にギョッとする。

次いでため息をついて、ジェフ師匠って、やっぱちょっとやべーな……。と(なか)ばあきらめの境地だ。

かくいう僕も、彼の言葉には同意せざるを得なかった。


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