第90話 転職とスキル
「逆に言えば『スキル・ジョブ相互作用の法則』でこのスキルさえ持っていれば、錬金術師になれるんだよ。」
「――はぁ?!なんだそれ、飛び級ってことか?!?!
ってか、なんだその法則聞いたことねぇ。」
師匠の言う凄さに、ヒロだけは気づけたらしい。珍しく食い気味に声を出した。
僕が頭の中を「???」だらけにして2人の顔を交互に見ると、師匠はため息を吐いてから説明してくれる。
「順番に説明する。長くなるが、よく聞けよ。
まず大前提として通常、錬金術師になる為には『道具師』の系統と、『調合師』の系統の両方を極める必要がある。
そして両方を極める為には最多で8回の転職が必要。つまり、第9ジョブに転職して、やっとなれるジョブだ。」
師匠が左右の人差し指輪立て、くっつける。その説明に目をむいた。
転職は回数を重ねるほど、肉体的にも強くなりジョブもまた、強力な物を選択できるようになることが、世間一般の常識だからだ。
そんな中、2系統を極めないとなれないジョブに、すぐなれる可能性が提示されているなら、確かに笑ってしまう。
「だが、別に飛び級自体は珍しい事ではない。
錬金術師というジョブも、あくまで最多で8回目というだけだ。
その道で普通に仕事をこなしていれば、5回やそこらでなれる。
現に私も、転職4回目の第5ジョブでなった。」
「そう…なのか?」
「そうだ。そして飛び級に関係してくるのが、さっきの『スキル・ジョブ相互作用の法則』だ。
例えばの話な。ジョブの名前が『剣士』なのに、剣を使えない、なーんて奴がいたら世界の理に反する。
それを世界は修正しようとし、影響を与える。つまりジョブには"最低限必要なスキル"という物があるんだ。
剣士の場合だと、ジョブが剣士になった時点で勝手に習得済みになる【剣技】というスキルがそれにあたる。
コレは『スキル・ジョブ相互作用の法則』の一側面だがな。」
「なるほど……。けど師匠、普通は、"剣技のスキルを持ってるから剣士になれる"んじゃないんですか?」
僕は普通の感覚と事実にズレを感じて指摘してみる。
すると師匠は否定せず、頷いた。
「そういう風に考えるよな。そしてそれも勿論可能。
今回の場合なら【錬金初級】のスキルを取れば錬金術師になれる可能性があるってことだ。
だからこそ『スキル・ジョブ相互作用の法則』なんだよ。
要するに、必須のスキルとそれに対応するジョブは、どちらが先でも良いってこった。」
「はーい、トートリス先生質問でーす!」
「なんでしょう、ヒロマサ君」
2人は突然ふざけた様に呼びかけ合うが、どうやら質問の内容は真面目なようだ。
「そんならなんで、"なれないジョブ"なんて物あるんだ?
というか、次のジョブって神様が勝手に決めちまうんだろ?
俺、転職するときに【剣技】のスキル持ってたのに、決まったジョブは戦士なんだけど!」
「なんだ、ヒロマサ。お前転職のシステム知らないのか?
いいか、『転職時点でのスキル構成によって、次の転職先が決定する』んだ。
ヒロマサ、盾を装備し始めたのはいつ頃だ?」
「えっ、最初っからだけど…」
「だからだよ。転職する時に、【剣技】と同時に盾系のスキルを持ってたんだろ。
そんで結果、スキル構成が戦士寄りになって、転職先は戦士が選ばれたってこった。
そんで戦士の必須スキル【武器効力上昇・微】は、転職した時勝手に覚えてただろ。」
師匠の言葉に「あー、そーいや確かに」とヒロは納得がいった様子だった。
「つまり、必須のスキルを持っていても、他のスキルと組み合わせると別のジョブになるかもしれない……ってことですか?」
「あぁ、その通り。御名答だな。」
ジェフ師匠は、ポンポンと僕の頭で手を弾ませる。
褒められ慣れていない僕は照れくさくて、若干視線を落とした。
どうやら師匠は随分ご機嫌らしい。
一通りの疑問が解決したところで、師匠は改めて僕のスキルが書かれた紙を持ち出す。
「話を戻すぞ。
現在習得可能なスキルの欄に、【錬金初級】のスキルがある。
いいかニケ、コレは絶対に取れ。
うまくいけば、史上最少回数での錬金術師誕生だ。
もし今回ダメでも、現状最少回数の記録は3回目だ。次に錬金術師になれれば、その記録を塗り替える事になる。
しかもだ。ひょっとして、もしかしたら……、本当に万が一の確率だが、未知のジョブ系統を歩むことになるかもしれない。」
ゴクリ
生唾を飲んだのは、僕だけじゃない。ヒロマサも、そして師匠もまた、異様に緊張していた。
「そしてもう一つ。このスキルも取っておくといいぞ。」
そう言って師匠の指が差したのは【瞬発】というスキルだった。
一体どういうスキルなんだろうか?
「脚力を瞬時に強化して、爆発的なスピードで飛び出すスキルだな。
普通は戦闘系のジョブに発現するスキルなんだが……。まぁ、ニケはちょっと特殊だからな。
瞬発のスキルは、回避と攻撃の両方で使い所がある上、単純故にリスクは少ない。無いとは言わないがな。」
僕が頷くのを確認すると師匠は、「あとはま、テキトーに好きなものとりゃ良いさ」と言って、僕に紙を手渡した。
この中からよく選べ、という事なのだろう。
「そんじゃま、ニケがスキル選んでる間にヒロマサの還元やってしまおうかね。」




