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勝利の女神は微笑まない~最弱だった僕が神になるまでの軌跡~  作者: あろ
第4章 ジェフティ・トートリス
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第86話 そのアイテム危険につき

賢者の石とは。


物語の中に登場する、特殊な石のこと。

その存在は伝説上のみで語り継がれ、とても希少で世界に影響を及ぼすほどの価値を秘めている。

かつての錬金術師は賢者の石を用い、今この世に存在している様々な薬品・道具・技術を世界に創造したともいわれており、錬金術師系統のジョブであれば喉から手が出るほど――いやむしろ全身が手になってでも欲しい代物だ。


「賢者の石、ねぇ。……チッ、実在してほしくはなかったな。」


「全く持って同意見。しかし見つけてしまったものは仕方があるまい。」


師匠は心底腹立たしそうに舌を打ち、組合長もしゃがれた声で同意した。


「あの……、みんなが欲しがってる物なんですよね?それがあるってわかったら、嬉しいんじゃないんですか?」


僕がそう聞くと、組合長は鬱陶しそうに師匠に視線を投げ「説明してやれ」と訴える。

師匠は状況が飲み込めない僕に対して、嫌な顔はせず普段の授業と同じ声色で(さと)してくれた。


「いいかニケ、だれもが欲しがるほどの力があるということはな、悪意ある者の手に渡ればそれだけ危険だということに他ならない。

強すぎる力はな、存在する方が不都合な場合もあるんだよ。」


納得したところで、組合長がさらに補足を付け足す。


「賢者の石は、()()()()に干渉する。」


「えっと……?世界の理、ですか?」


「あぁ。世界の大原則と言うものを、根底から覆しかねない力を秘めている道具。それが、賢者の石だ。」


いきなりスケールの大きな話になり、再びついていけなくなるが、師匠が説明を入れてこないあたり、この辺の話は理解する必要がないか、あるいは今の僕には理解できる範疇を超えた話なのだろう。

そう解釈した僕は、二人の会話を邪魔しないよう、再び沈黙を選んだ。


「それで、手紙には『どうやら賢者の石の存在を知り、狙っている者がいるらしい』とあったが?」


え、それって今の話的には、あんまり良くないんじゃ……。


「事態はより悪い。むしろ『賢者の石を狙っている者がいる』という情報の裏付け調査の過程で、賢者の石の存在が確認された。

 加えて言えば、その狙ってるという人物が一体どこの誰なのか、単独か複数か。皆目見当もついとらん。

 そういうわけで、賢者の石の回収。これが急務だ。」


「はぁあ?!じぃさんアンタなぁ……。ウチの組合だけで何とかなる案件か?冒険者組合に依頼出して、腕利きの冒険者雇うべきだと思うんだが。」


僕も師匠の言葉に同意したい。しかし、組合長は首を横に振る。


「依頼を出すなら信頼のおける者に指名依頼で出す必要があるが、生憎(あいにく)この付近に依頼できる冒険者は現在いない。」


「はぁ……、その状況で緊急だって?ったく、私は戦闘専門じゃないんだけどな。」


それに関しては同意しかねる。師匠は錬金術師組合の中でも、かなりの武闘派だと聞いている。

あの特訓内容、戦闘スタイルを見ても、補助系ジョブにおいて戦闘が可能と言えるまで身体能力を上げているのは、間違いなく少数派だろう。


「謙遜だな。今の錬金術師組合に、お前以上の適任者はおらん。それはお前もわかっているはずだ。」


師匠はその言葉に、しばらく眉を寄せて悩んでいたが、ついに観念したようにため息を吐いた。


「はぁ、仕方ないな。ただし個人的な用心棒を連れてくくらいのことは、許してほしいね。」


「その子か?いや、そういえば先程ヒロマサとかいう名前も出していたか。

詳細を秘匿できるのであれば、多少は大目に見よう。」


「それで、肝心の賢者の石の在処は?」


師匠はどうやら引き受けることにしたらしい。……半ば強制的だったけれど。

そうして必要な情報を、師匠と一緒に組合長に確認していく。


師匠の家に戻ると、ヒロは素振りをしていたらしく庭で剣を片手に、あごから滴る汗を拭いていた。

ヒロは意外と着やせするタイプらしい。服を着ているとわからなかったが、引き締まったバランスのいい体格をしている。

師匠はそんなヒロを見ても、顔色を変えない。師匠は女性らしい面をみたことがないな、とふと思った。

師匠は恥ずかしがるどころか悪戯(いたずら)材料を見つけたように怪しく笑い、忍び足で近寄ると背中から声をかけた。


「ほう、ヒロマサ。精がでるじゃないか。」


「んわっひょい?!お、おう、おかえり……。」


「ははははっ!『んわっひょい』って言ったぞいま!あっはっはっは!」


ヒロは僕らが帰ってきたことにも気付いていなかったらしく、飛び上がるほど驚いていた。しかも変な声が出た。

ヒロには悪いが、僕も師匠と一緒に吹き出してしまった。


「あーったくもう!やめろよ、恥ずかしい!

 ……んで、大事な話は済んだのか?なんか急ぎだとか言ってただろ?」


ヒロはさっさと話題を変えたいようで、真っ赤になりながら目線を泳がせて聞いてきた。

僕と師匠は二人ともそれに気が付いていたけれど、(ひと)(しき)り笑わせてもらったのでその話題転換に乗ることにした。


「あぁ、それなんだが、ニケとヒロマサでちょっとした修行もかねて、あるアイテムを探しに行こうと思うんだが、どうだ?」


「えぇ、なんかそういう系の依頼か?どうせ拒否権無いんだろ、行くぜ。」


さすがヒロ、師匠のことをよくわかっている。そう、師匠はどうだ?と疑問符をつけつつ、僕らに拒否権なんてないのだ。


そういうわけで、ヒロも含めた3人で賢者の石の回収に向かうことになったのだけど……。


「そういえばニケ、レベル上限まで行ったきり、教会にはいってなかったな?」


師匠にそう確認され、間違いなく行っていないので「はい」と答える。

その返事を聞いた師匠はしばらく悩んでいたかと思うと「よし」と声を出して、指をぱちんと鳴らした。


「目的地に一番近い街はバニパルを東に出て、徒歩で3日ほどかかる場所にある。その街に到着するまでに、修行を完成させるぞ。」


「え、えぇ?!ちょっと師匠!急すぎないですか?!」


僕が驚いてそう訴えても、師匠は愉快そうに笑い一言「ま、がんばれ!」とだけ残して自身は就寝してしまった。

ヒロはいつの間にか服も着ていて、無言で僕の肩を軽く叩くと、苦笑いを浮かべたまま就寝。

取り残された僕は頭の痛みを覚えて、その晩は満足に眠れなかった。


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