表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/102

第84話 勘違いの、その先に

「はぁ?!もう出発した?!」


「はい、そうなんです。ヒロ様のことは説明しようとしたのですが、お師匠様が待っていらっしゃるからと慌てた様子で行ってしまわれて……。」


「ニケのやつ、何考えてんだよ?!」


 俺が鍛冶屋から足早に帰ってきたところ、フリュネーから受けた伝言に驚愕した。

 確かにここ数日避けられている気はしていたけれど、まさかここへ来てまで避けられるとは思わなかった。


「あの、ヒロ様。もしかして、ニケ様は何か勘違いなさっているのではないでしょうか?」


「……?勘違い?」


 問い返す俺にフリュネーが語った仮説は、あまりにもあり得てしまう話で。


「あんのバカ!!」


 俺はフリュネーへの挨拶もそこそこに、ニケを追うべく彼女の家を飛びだした。




 乗合馬車に長いこと揺られ、次の街についた。日が傾きかけていたので、宿を借りて一泊することにする。

 師匠の伝手で部屋を取ってもらった宿にお金を渡し、師匠は一人居酒屋に出かけて行った。

 一方僕は道中の修行を受けて、師匠から言い渡された課題をこなすべく宿に引きこもりだ。

 理不尽を感じずにはいられないが、課題に集中することで他を忘れることができるのはありがたい。

 何をといえば、もちろんヒロのことだ。


「そういえば、文字、だいぶ読めるようになったなぁ……。」


 挿絵などなく文字ばかりが羅列する専門書を眺めながら、以前お世話になったパーティーを思い返す。

 常にどっしりと構えて安心感のあるゴーシュさん、知識人で物腰の柔らかも兼ねそろえたアゼスさん、そして快活で力強いリュウさん。

 僕に最初に文字を教えてくれたのは彼らだった。その後は師匠にスパルタで叩きこまれたのだが。


「そういえば、ヒロは3人を足して割ったみたいな感じだったなぁ……。

 って、違った!!課題、課題っと。」


 実は似たようなくだりを、先ほどから何度も繰り返していて課題は一向に進んでいない。

 ヒロに一言もなく出てきてしまったためか、どうにも後ろ髪を引かれてならないようだった。

 それから何度目かの繰り返しで、僕はやっと諦めて気分転換に休憩することにした。


「あ、そうだ。ロビー横の食堂で、ミルクでも貰ってこようかな。」


 思い立ったが吉――、というやつだ。僕は休憩と称して寝そべっていたベッドから跳ね起きて、部屋にはしっかり施錠し、気分良く階段を降りていく。


 もうすぐロビーという所で、なにやら言い争っている声が聞こえてきた。その声に聞き覚えがあり、思わず身を隠して固まる。

 見つからないように気を付けながら様子を伺うと、そこにはいるはずのない人物がいたのだった。


「だーかーら、部屋に案内できないなら、呼び出して貰えればいいって言ってんじゃんか!

 冒険者組合でここを紹介したって話は聞いてんだけど!」


「ですから。なんども申し上げている通り、知り合いを名乗っているのに自らコンタクトを取ることが出来ないような方に、大切なお客様をお呼びすることなど、当宿では出来かねます。」


「あーーくっそ、もういい!なら、勝手に探させてもらうぜ。」


「ちょっ、お客様困ります!いい加減になさってください。組合に訴えますよ!」


 ヒロだ。ヒロがいる。


 僕は信じられない思いで、これは夢か?と疑い始めていた。

 だって、ヒロが追ってくるはずがないから。

 けれども彼は誰かを探している様子で、それは恐らくきっと状況的に僕らのことで。

 でもでも、ヒロに僕らを追ってくる理由はなくて。

 再びロビーの様子を伺うと、ヒロはさらにヒートアップして宿の主人と言い争っている。


 バチッ


「……あっ」


 目が合った。慌てて口を押えたけれど、そんな行動に意味なんてまるでない。

 宿屋の主人の制止を振り切って、ヒロがこちらに向かってくる。

 緊張によってその一時がとても長く感じたが、嫌な時間もいつまでも待ってくれはしないらしい。

 僕の目の前で止まったヒロは肩で息をして、真っ赤にした額には汗がにじんでいる。


「ニケ!やっっっと見つけた!!ったく、なんで俺を置いていくんだよ!」


 ……?…………???


「……へっ???」


 状況と言葉の意味が全く理解できず、僕は随分と考え込んだ後、間の抜けた声で聞き返すのが精いっぱいだった。


「だから、俺も一緒に行くつもりだったんだけど!ニケと!!」


 普段の、穏やかかつ快活でカッコいいヒロの声とは真逆の、焦りと若干の怒りが滲んだ声。

 その声で紡がれる言葉たちに、僕はさらに疑問符を増やす。


「え、っと……。ヒロもバニパルに用事?だったら先にそう言ってくれれば――「違げーよ!!!」


 ヒロの聞いたこともない怒声に、僕はびくりと肩を揺らす。


 周囲には野次馬が集まり、どうやら本当に知り合いらしいと認識した宿屋の従業員たちも、遠巻きに眺めている。ただし、その表情はかなり迷惑そうだ。


「あーっもう!!ちょっと来い!」


 ヒロもそんな雰囲気に耐えかねたのか、人の壁をかき分けて、僕を宿の外に連れ出す。

 しばらく腕を掴まれたまま走り、街の端にある小さな沢に掛かった石橋にたどり着いた。そこで息を切らした僕とヒロは、どちらともなく座り込んだ。


「はぁ、はぁ……。それでヒロ?僕、何が何だかサッパリなんだけど?」


 さっき怒鳴られた仕返しに、若干恨めしげな声を意識してだすと、ヒロは「うっ」とバツが悪そうな顔をして俯いてしまった。

 でも僕はその後も訳が分からないまま走らされたのだ。ちょっとくらい意地悪してもいいだろう。


「……悪かったよ。怒鳴りこむような真似して。

 けどな、ニケ!俺もお前と一緒に街を出るつもりでいたのに、なにも俺が鍛冶屋に行ってる間を見計らってまで、置いていくことないだろ?!」


「一緒にって、だからバニパルまででしょ?僕に言いづらいなら師匠に言えば、待ってくれたと思うし……。」


「だから、ちげぇーっての!」


「むっ!なにが違うのさ?!ヒロが何を言いたいのか、僕全然わかんないんだけど!!!」


 ヒロが再び怒鳴り始めたことで、僕もつい釣られて声を荒げる。

 僕が怒鳴りつけたことにびっくりしたのか、今度はヒロが黙り込んでしまった。


「……。俺、フリュネー達に、街のみんなに、別れの挨拶してきたんだ。」


「えっ??」


 気まずい静寂が流れる中、ヒロがポツリと小さく零した。


「次はいつ会えるか、わかんねーって。世話になった、元気にやってくれって。」


「なに、それ……。なんでそんな、まるで長い旅に出るみたいな……。」


「ニケが言ったんだろ。『兄さんを探してるんだ。そのために、強くなって有名な冒険者になるんだ。』って。

 だから、俺もその旅に着いて行こうって。もう()()()()()は卒業しようって。

 人を探す旅だし、もしかしたら、もうこの街には戻らないかもって。そう思って……。


 なぁ、もしかして俺、邪魔だったか?


 いや、まて。そりゃそうか。あー、なんだ。わざわざ置いて行ったのに、追っかけてきて悪かったな。

 フリュネーが『ニケ様は、ヒロ様がこの街に残るつもりなのだと、勘違いなさっているのでは?』なんて言うから、ついそうだと思い込んじまって……。」


 ヒロは矢継ぎ早に言葉を紡ぎ、途中で何かを、自分の中で納得してしまったらしい。自嘲気味に笑って俯いた後、急にくるりと背を向けて、走り出してしまった。


「ヒロ待って!!!」


 今度は、僕がヒロの腕を掴む。


「……なんだよ。」


「あの、えっと、その……。」


 こういう時に、咄嗟に言葉が出なくなるのは僕の悪い癖だ。それでもヒロは、怪訝な顔をしつつも僕の言葉を待ってくれている。


「僕、ヒロはあの街での生活があるから、『僕と一緒に来て』なんて誘えないって、そう思ってて……。」


「いや俺は、最初からお前と行くつもりだったんだぜ。そんで、ニケもそう考えてくれてると思ってた。」


 どうやら、僕らの間には言葉が足らな過ぎたらしい。

 加えて言えば、僕が勝手に思い込んで、一方的に話を聞かないで……。


 俯く僕とは対照的に、ヒロは深呼吸をすると、僕の目をまっすぐと見て問う。


「なぁ、ニケ。俺はお前と一緒に、この世界を旅してまわるつもりでいた。

 ニケはどうなんだ?本当のことを言ってくれ。俺も一緒に行っていいのか?それとも、俺はいたら邪魔か?」


「……邪魔じゃないよ。むしろ、ヒロと一緒にだったら、この先もうまくやっていけると思ってる。

 だから、その……。」


 言いたいことをまとめることが出来ず、しどろもどろになる僕。

 そんな僕を、ヒロはひたすら黙って待つ。


 ……違う。そうじゃない。今更取り繕った言葉で、何を言うというのか。


 僕は一度頭を空白にし、深く息をすう。


「――っっ!!僕にはヒロの力が必要です!

 僕と一緒に……、世界一の冒険者を目指そう!!」


「は……、はははっ!!いいな!世界一か!言いやがったなニケ!

 いいぜ、なろう。世界一の冒険者に!!!」


 紅く大きな夕陽に照らされて、僕らは互いの手を強く取り合った。

 川の水面に反射する光が、ひどく眩く輝いていたことを、僕は……。

 僕()はきっと、いつまでも忘れないのだろう。


今話で第3章完結となります。

長い間お付き合いありがとうございました。


第4章は不定期更新になりますが、お読みくださるとうれしいです。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ