第82話 お礼の品は
冒険者組合で達成報告を終えたデュアルとドランは、その報酬の全額を僕らに差し出した。
けれども僕らはそれを受け取らず、代わりに討伐したボスの頭部以外を譲り受けることにした。
ボスの頭部は2人が討伐依頼達成報告に証拠として提出する。
そうすることで、分配について揉めずに欲しい素材を手に入れることに成功したのだ。
しかし2人はというと、それでは納得いかないらしく、後日組合経由で謝罪とお礼の言葉が認められた手紙と、とある品を受け取った。
「アイツらがこんな物を持ってたなんてな。3人連んでた頃は、案外稼いでたんだな。」
「たしかにね。僕も意外だったかなぁ。」
「ん?なんだ、お前ら。こんな高価なものを、本当に奴等の実力で持っていたと思っているのか?」
ヒロと僕の会話に口を挟んだのは師匠だ。
ボス討伐完了の日に合流し、今は3人でフリュネーさんの家に間借りしている。
ボス討伐後も、ヒロのレベル上げと食費を稼ぐのを兼ねて、ダンジョンには潜り続けている。
そのため、素材を組合に売りに行った際、受付にて2人からの預かり品を渡されたのだ。
「え、ってことはジェフ師匠は、コレはアイツらが買ったもんじゃ無いって言うのか?」
「あぁ。恐らくだがな。モノはそれなりだが、最新技術のつまったコレは、まだ市場に出て間もない。つまり、まだまだ到底、気軽に購入できる額では無い。
まともに買えるほど稼ぐ力は、正直奴等からは感じなかったな。一番戦闘力の高そうだった刺青の野郎でさえ、推定上弦の月程度。
対してこのアイテムの値段は、満月レベルの魔物を狩れる実力者が、それなりに節制してやっと買える程度には高価だ。」
師匠が呆れたように言う。
「じ、じゃあ返した方がいいんじゃ……?裏ルートで仕入れたとか、呪われてたりするかも……。」
「ふーむ。うむ、ニケちょっと貸してみろ。」
汚れ物をつまむようにして持っていた僕から、師匠はソレを奪うようにさらった。
軽く手を叩かれた僕は、驚きと痛みで師匠を睨むが、彼女は一切意に介さずソレを眺めている。
裏返したり揉んでみたりと、色々いじくり回していたが、突然興味を失って机の上に放り投げた。
「ま、問題ないだろう。
製作者も錬成組合に登録されている者だし、品質もその作者の他作と同等。
変なスキルが付与されているわけでも無いし、冒険者組合にもらった証書の譲渡人欄もあの2人で証明されている。
お古が嫌だと言うんなら突き返しても構わないが、せっかく便利な物を送りつけて来たんだ。ありがたく貰っておいたらどうだ?」
師匠がツラツラと並べ立てるが、僕らはそれに対して驚きを隠せない。
「し、師匠……って、もしかして鑑定スキル持ってるんですか!?」
僕が椅子を蹴り飛ばす勢いで立ち上がると、師匠はその食いつきに若干引き気味で「あ、あぁ。まぁな。」と肯定した。
「はぁ!?おい、なんで早く言わないんだよ!
だったら俺の剣鑑定してくれ!」
「いや、したぞ?うむ……したんだがな。
店内では"錆びた剣"としかわからなかったし、今の状態でも精々片手剣だというくらいしかわからん。
いいか、ヒロマサ。物には得意分野というものがあってだな……。」
ヒロの主張は尤もだが、師匠はそれを「すでに行った」と言って突っぱねる。
さらについでにとばかりに、唐突な授業が始まってしまった。
師匠曰く鑑定スキルは同じスキルでも、人によって専門分野が分かれるらしい。
農民が授かれば植物系に、斥候スキル持ちならモンスターに。
聖職者ならステータス系に、薬師なら薬品系に。
道具製作者ならアイテムに。
それぞれ特化するといった具合だ。
その法則に従い、錬金術師である師匠は、薬品やアイテムは詳細に鑑定できる。
その一方で、武具は名前程度しかわからないということらしい。
「他にもレベルや、対象の質と私自身のレベルで開示される情報も変わってくるんだが……。その辺りは、詳しくはわからん。
わかる物だけわかる。わからないことはわからん。それだけだな。」
師匠はそう言って、やや乱暴に話を切った。
僕らは顔を見合わせ、互いに「そんな大雑把な理解でいいのかな……」と呆れを共有した。
そんな雰囲気を察した師匠は、軽く咳払いをして空気を入れ替える。
「ま、ともかく。それは貰っていいと思う。特にニケは今、戦闘はほぼ道具頼りなんだから、持てるアイテムが多いに越したことはない。」
そう、僕らがいまアレだのコレだの言っていた贈り物は、拡張空間式の大容量サックだ。
開発と発展の都:ニュートンにて、焔の巣のリュウさんが大興奮で語っていた最新技術だ。
どういう物かというと、簡単にいえば魔法の袋だ。
袋の口さえ通せれば、どんなに長い物でも、袋の見た目容量を超えても、自由にそして大量に入れることができる。
上限は大容量サック自体の品質や、製作時に設定した量によって決まる。そして価格は、容量と袋そのものの大きさに左右される。
「質がそれなりってことは、あんまり入らないんですか?」
僕が質問すると、師匠は呆れた顔で盛大にため息を吐いた。
そして眉間にできた皺を揉みほぐしながら、僕の質問に答える。
「いいか、ニケ。それなりといっても、そもそもが大量に持ち運ぶことを目的に作られているんだ。
お前の今持ってる革袋、全てをポーションで満たせば、どんなに詰めても10本が限度。
そんでこっちの大容量サックは裕に50本は入るぞ。」
「ご、ごじゅ……!?」
僕とヒロの驚きは、重なって発せられた。
実際には他のアイテムを入れるスペースも必要なので、50本も持ち歩かないだろう。
それでも、十分すぎるほどの容量に驚きを禁じ得ない。
「大きさは同じくらいなのに……。どういう原理なんだろ?」
僕がボソリと呟く。独り言のつもりだったけれど、大して声量を落としていなかった。
そしてそれを問題なく聞き取った師匠は、ニンマリと笑う。
「よくぞ聞いたな、ニケ。よしよし、それじゃあ今日から、道具制作と薬品調合についての修行に入ろうか。
で、手始めにコレの製作理論からな?」
師匠のその寒気すらする輝かしい笑みは、加虐心に塗れていた。
僕はやっとの思いで引きつり気味に頬を上げ、それを見たヒロはサッと目を逸らしたのだった。
ちなみにヒロは師匠のしごきから逃れられたと思って安堵していたが、翌日から始まった修行は、ヒロの筋トレも監督され、一日が終わるころには二人とも気絶するように眠る羽目になっていた。




