第79話 師匠の提案
「それで、どうするつもりだ?」
僕が大きな肉に噛り付き、骨から外すのに苦戦していると、師匠の口から脈絡もない言葉が発せられた。
「ふぉえ?はんほほほへふは?」
「何言ってるかわからん。」
「ング、モグモグ……、ゴクッ。えっと、何のことですか?」
「ヒロマサだよ。」
僕はヒロの名前が出てきても、やはり疑問符が浮かぶばかりで、師匠が何を言おうとしてるのか図りかねていた。
「ニケお前、ヒロマサとパーティーを組むつもりじゃないのか?
ずっと一緒にいるもんだから、てっきりそうなんだと思ってたんだが。」
僕は目が点になってしまった。
パーティー、パーティーか。全く考えてなかった。というのも、僕は一度も誰かとパーティーを組んだことが無いからだ。
……いいように利用されていたことなら、何度かあるんだけども。
「それにヒロマサの前衛系スキルは、補助スキルメインのニケと相性がいいだろう?
ヒロマサがお前を守りながら、敵を攻撃する。そしてお前はヒロマサの補助に回る。
2人ならいい具合に連携が取れそうじゃないか。」
「あー、えっと、それはそうなんですけど……。でもほら師匠、ヒロはこの街でもう生活があるから……。」
僕がそう言うと、師匠は片眉を上げて胡乱気な顔をした。
でも、本当にそうなのだ。
ヒロは故郷を離れてからずっとこの街にいると言っていたし、この街に沢山の知り合いや恩人がいて、それなりに楽しく暮らしているとも言っていた。
もうこの街が新たな故郷になりつつあるだろうと、僕には思えている。
一方で僕は、ヒロでなくても前衛を担うジョブやスキル持ちならば、師匠のいうような連携は可能だ。
たしかに彼とならば居心地もよく、今回の一連の事件で命を預けられるだけの信頼関係を構築できたと思っている。
けれども、いやだからこそ。僕の夢を追うのに、彼を無理矢理巻き込むわけにはいかない。
「うむ……。実を言うとな、お前の修行が終わったら私の元を離れる前に、所属するパーティーを見つけさせようと考えていたんだ。
ニケや私の様な補助系ジョブは、ソロで行動するのは難しい場合が多いからな。
ヒロマサならばそれなりに信頼関係も築いているようだし、安心だと思ったんだがなぁ……。」
師匠は納得いっていない表情を浮かべ、どこか寂し気な声で言った。
「お、いたいた。って、どうした?なんか雰囲気暗いぜ?」
僕の背後から聞こえた声に振り向けば、ヒロが軽く手を挙げて入り口から向かってきていた。
「あ、ヒロお疲れ様。うんん、何でもないよ。それより鍛冶屋さんどうだった?」
訝し気な表情で隣に座ったヒロに、飲み物を勧めながら訪ねた。
「あ、そうそう。そのことなんだけどよ。コレを見てくれ。」
ヒロがテーブルの上に先ほどの剣を取り出した。僕らはそれを見て目を疑った。まさに「見違えた」といった様子で、その柄から切っ先まで眩いばかりに輝いていた。
「ふむ。これは当たりかもしれんな。素材がいい。見た目感じプラチナのようだが……いや、魔鉱石か?」
「魔鉱石ですか?でも師匠、魔鉱石だったら錆びたりしないんじゃ……。」
美しく光る白銀の刃を繁々と眺める師匠のつぶやきに、僕は疑問を呈する。魔鉱石は非常に希少な鉱石で、ダンジョンからしか採掘されない。加えて加工も難しい。
その一方で、錆びない上に強度も高く、加工の仕方によってその性質を大きく変化させることから、非常に重宝されるのだと、他でもない師匠から習ったのだ。
「いや、そうとも限らん。魔鉱石の純度が低かったり加工の仕方がわるかったりした場合は、その品質が一気に落ちるからな。
あるいは魔鉱石自体が死んでいると、青銅より脆く鉄より錆びやすい、粗悪な金属となることもある。」
初めて聞かされる魔鉱石の性質に、僕は驚きを隠せない。「ダンジョンからしか採れない、貴重で質の良い金属」というのが魔鉱石の普遍的な認識だ。
「だが一度死んだ魔鉱石は、二度と蘇らないはずだ。恐らくは、長らく剣として使われなかった所為で魔鉱石が休眠状態だったんだろうな。
しかし魔鉱石を扱えるとは……ヒロマサの行きつけという鍛冶師、相当な腕を持っているな。」
「ジェフ師匠やっぱすげぇな。鍛冶屋のおっちゃんも全く同じこと言ってたぜ。使われてる魔鉱石が休眠状態だから、起こしてやればいいって。」
それを聞いた師匠はとても自慢げに「そうだろう」と何度も頷いていた。
ヒロはその剣をとても大事そうに鞘に納めると、再び腰に戻した。
「でも、魔鉱石の剣なんてすごいよ!無料で貰えてラッキーだったね!あれ、そういえば古い方の剣はどうしたの?」
僕がそう言って笑いかけると、ヒロは「あぁ」と声を零して、ふと表情を崩した。
「鍛冶屋のおっちゃん、あの壊れた剣を混ぜ込んで打ち直してくれたんだ。だからさ、ちょっと見た目は変わったけど、俺の中じゃこの剣も相棒だってことに変わりねぇんだ。」
愛おし気に目を細めて柄の宝飾を撫でるヒロ。その小さな石が、一瞬きらりと光ったように見えた。
「そうなんだ。よかったね、ヒロ。」
「おうよ。あのおっちゃんには感謝しかねぇな。」
そう言って笑うヒロは幸福に満ちていて、やはり僕のわがままで「一緒にきてほしい」とはいえないよな、と思えてしまった。
「そんじゃあ、ヒロマサも来たことだし、飲みなおすか!!」
「えっ?!ちょっ、ちょっと師匠!!僕のお金なんですよ?!少しは遠慮ってものはないいんですか!!」
「はははっ!いーな!飲むぜ飲むぜ!」
「んなっ!ひ、ヒロまで!!」
僕は全力で止めたが、二人はケラケラとご機嫌に笑うばかり。けれど楽しそうな二人を見ていたら「少しくらい、いいか」と思えてしまったのも事実で。
……だからって、路上で胃の内容物を戻すまで飲むのは、さすがにどうかと思った僕だった。




