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第8話 市街地でお買い物


昨夜パライさんが言っていた"あの日"というのがどうも気になりつつも、いつも通りみんなと朝食を終えた僕は、予定通りパライさんと2人で装備を買いに出かける。


「どうしたの?元気ないね。」


パライさんが顔を覗き込んで、優しく微笑む。

考え混んでいたのがバレてしまったようだ。

いっそ聞いてしまったらスッキリするかもしれない。


「あの…昨夜…」


意を決して口に出しかけたが、昨夜という単語を出した途端、パライさんの目が変わった。

明確にこう、と言える変化ではないが、なんとなく息がつまり、続く言葉を発せない。


「ん?昨夜、なぁに?」


「あ、あの、今日装備を整えたら、いよいよ僕も魔物と戦うことが増えるのかなって…。そう思ったら、昨夜よく眠れなくて…あはは」


「あぁ、なーんだ。そんなことか。大丈夫、いきなり沢山闘うわけじゃないよ。まずは弱い敵と戦う機会を、徐々に増やしていこう。」


咄嗟にごまかしてしまった…。

不安に思っていたことはあながち嘘でもないが、誤魔化してしまったことに後ろめたさもある。

ただ同時に、さきほどのパライさんの様子に、嫌な汗をかいていた。

再び前を向いたパライを、ちらりと横目に盗み見る。

そこにいるのは普段と変わらない彼。

あの目の変化は、思い違いだったかもしれない。


パライさんが一軒の店の前に立ち止まり、扉を押しあける。

チリンチリンとドアベルが鳴ると、奥のカウンターで店主らしき男性が、気怠げに身を起こすのが見える。

店内はカーテンが半分も開いていないためか薄暗く、パライさんの紹介でなければ、入ろうともしないような雰囲気だ。


「…アンタか。今回はそのガキか?」


「あぁ、そうなんだ。いいのを頼むよ。ニケ、この人が店主さんだよ。僕のパーティにいるメンバーは、みんなここで防具を作ってもらってるんだ。」


「よ、よろしくお願いします…!」


ジロリと舐るように眺められ、爪先から頭の天辺まで視線が動く。

店主はフンっと馬鹿にしたように鼻を鳴らすと、何やら紙に書き込んでいく。

羽ペンの羽がヒラヒラと踊るのを、ボーっと眺めていると、パライさんに肩を叩かれた。


「ここの店主は、見ただけで採寸ができるスキルを持ってるんだ。出来上がりを待つ間に、武器の方を見に行こう。」


次いで連れられてきた店も、宿や先程の防具屋と同じような雰囲気。

パライさんは、明るい自身とは裏腹に、こういった陰鬱なのが好みなのだろうか。

やはりチリンチリンとベルが鳴るが、店主の姿は見当たらない。


「黒き花園、宝石の民、パライ。」


「片翼の主に。」


「鷹の翼を捧ぐ。」


パライさんが店の奥から聞こえる声と謎のやりとりをすると、やっと店主が出てきた。

腰の曲がったおじいさんで、杖をつき、右目は眼帯で隠れている。


「久し振りですね、ご老人。この子はニケというんです。僕らの新しい仲間でしてね、今日はこの子に合う武器を探しにきたんです。」


パライさんがそう告げると、片眉を上げてこちらを見てくる。

馬鹿にしてるようにも、同情してるようにも見えるその眼差しに、思わず目をそらす。


「お前さん、出身はどこだね?」


「れ、レンブラント、です。」


「兄弟は?」


「血の繋がっていない兄が1人…」


「ふん、なるほどねぇ?魔物を狩るより畑仕事の方が好きだろう。もっと言えば草花が好きだ。」


「えっ?なんでわかったんですか?」


ここまでやりとりをすると、老人はすっと目を細め、僕の疑問には答えず、また店の奥へと引っ込んで行った。

再び出てきたと思ったら、その手には3つ武器を持っていた。


「候補は3つだ。杖、短剣、弓。持ってみなさい。」


まず手渡されたのは杖だ。

とりあえず受け取ってみると、思ったより重く、鉄製のクワくらいの重さはある。

魔法を扱う者がよく使っているイメージがある杖だが、初めて自分の手で持ったので、見た目に現れない重量感に、好奇心が刺激される。


「次はこれだ。ほれ。」


特に振ったり、技を出したりしないまま、次に短剣を渡される。

ホルダーから短剣を抜いて、握り心地を確かめる。

これも特に振ったりはしないで、最後に弓を渡される。


「引いてみなさい。」


初めて指示があったので一緒とまどったが、すぐに気を持ち直して弦を引く。

想像していた何倍も硬く、頑張って力を入れたが、弓がしなるほどは引けなかった。


「そうさね、短剣がいいんじゃないかい。種類はどうする?ワシが用意するなら、手間賃を取るぞ。」


パライさんは数瞬悩むようなそぶりを見せたが、すぐに「そうですね、貴方の見立てなら間違いなさそうです。」と頷いて、後日取りに来るから適当に見繕って欲しいと老人に伝えた。


「構わないが、3日はかかるよ。」


「えぇ、お世話になります。ニケ、行こうか。」


パライさんは踵を返して、店のドアを開ける。

武器も防具も、もっとこう…。店に並んでいるものを色々見て、試着して、あれでも無いこれでもないと悩

みながら買うんだと思っていただけあって、こんなに早くあっさり終わってしまうとなんだか呆気ない。

そんな複雑な気持ちで、パライの後に続こうと振り返ると、後ろから声をかけられる。


「ニケとやら、幻影はあくまでも幻影。ソレに囚われないことだ。」


「え?どういう…」


謎の言葉をなげかけられ、その真意を問おうと店内を振り返ったが、既にそこに老人の姿はなかった。

うーん、不思議なお爺さんだなぁ。


せっかく街に出たから、ということで、パライさんの提案で露店街を散策する。

饅頭屋、イカ焼き屋、服屋に、どこかの民族の品を扱うお店など、様々な露店がひしめき合っている。

屋台を出している店もあれば、茣蓙や布を敷き、その上に商品を並べただけの店もある。

僕は初めて見るその光景に、胸が踊った。

行き交う人は活気に溢れ、飛び交う値引き交渉に様々な感情が乗る。

ここはゼノン市街地において2番目に人が多い場所だ。


「わぁ!すごい!僕、露店街は初めてです!」


「はは、ニケの場合露店街はじゃなく、露店街”も”だね。好きに見て回っていいけど、俺を置いて行かないでよ。財布は俺が持ってるんだから。」


「はい!ありがとうございます!」


眼に映るもの全てが興味を引く。

あれは?これは?とパライに質問しても、彼は嫌な顔一つせず答えてくれる。


「…これは?なにかの足…ですか?」


「あぁ、コレはハキケノガエルの足だね。唐揚げが一般的だけど、こうして串焼きにしても美味しいんだ。まぁ、戦闘においては吐き気の状態異常を付与する息を吐くから厄介なんだけどね」


「わ!あれなんです?すごい伸びてる!」


「あれは、イログモ種が出す糸だよ。イログモ種は、よく伸びて弾力性のあるカラフルな糸を吐くのが特徴で、種類によって味が違うんだ。あのピンク色の糸は、ほんのり甘いんだよ。食べてみる?ほら。」


「…甘くて…ねっちゃねちゃします……。」


僕は自分の目がキラキラ輝いているだろうことを自覚しつつも、見るもの見るもの素晴らしい物ばかりで、つい夢中になってしまう。

そうして見て回るついでに、物々交換が主だったレンブラントでは珍しい、貨幣というものについて教えてもらった。


貨幣には、角銭・丸銭の2種類があり、その中でさらに銅、銀、金、白金、魔鉱石の6段階にわかれる。つまり、計12種類が存在する。

魔鉱石は数も少なく、加工するのも難しいため最も価値が高く、最も信頼できる貨幣らしい。

価値は角銭の方が低く、角銅銭<丸銅銭<角銀銭<丸銀銭――。と上がっていく。

最後にくる丸魔鉱銭が最も高価な硬貨だ。


丸金銭までは10枚で一つ上の価値の硬貨と同じ価値だが、角白金銭は100枚で丸金銭1枚と同じ。

以降100枚で次の硬貨と同じ価値になる。

もっとも、魔鉱石自体ほとんど出回っていなきため一般人にお目にかかれる代物ではないらしい。

僕が見たことあったのは角金銭までだ。


そもそも貨幣を必要としないレンブラントの中でも、お金を持っていた人物、ブラウニーさんのヘソクリが角金銭だった。


「難しい話をしてしまったね。まぁ、自然と覚えていくさ。ただ、ぼったくられないように相場を勉強する必要があるからね。金銭に関しては、早めに教えておこうかと思ったんだ。」


「あ、ありがとうございます。その、とても勉強になります。」


そんな風にしているうちに、僕は昨夜からのモヤモヤなんかすっかり忘れて買い物を楽しんだ。

今日の夕飯は、みんなへのお土産に屋台で買った焼きまんじゅうにしよう。



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