第78話 新しい刀を入手
ヒロは師匠から顎で指示され、困惑の色を浮かべている。
「お、俺が?」
素っ頓狂な声を上げたヒロはしばらく百面相していたが、意を決したのか震える手で、店主から錆びた片手剣を受け取った。
「……。」
「……。」
「……。」
「……何も起きないな。」
僕らは緊張と期待の滲んだ目でその様子を見ていたが、師匠のその一言で一気に力が抜けた。
ドッと疲れが押し寄せてくる。なんだか、緊張して損した気分だ。
「ははは、まぁ、そうでしょうな。私も過去に何人か、ソレが気になると言ってきた冒険者に同じ話をさせていただいたのですが、ただの一度も剣が反応したことはございません。」
「なんだ、そうなんですね。じゃあ、やっぱり偽物なんですかね?」
一連の流れで疲れてしまい、この店でこれ以上剣を見る気になれなかった僕らの足は、店の外に向いた。
店主も僕らを見送る気満々でドアを押し開けた。
しかし、ヒロが来るだろうと予想して振り返った先で、ヒロは微動だにせず剣を見つめていた。
「どうした?」
脚を止めた僕に気が付いた師匠も、いぶかし気にヒロに声をかける。その声にハッとしたヒロは、「いや、その……。」とモゴモゴ言葉を探して口を動かしている。
僕と師匠はヒロの言葉を待ったが、どうやらしばらく頑張っても見つからないらしい。次第にヒロに焦りに近い物が見え始めたころ、初老の店主は穏やかな声で言った。
「よろしければ、差し上げますよ。」
え?と僕らは驚いて店主を見る。
「先にも申し上げました通り、可能であるならば処分したいというのも事実でしてね。もし気になるようでしたら、タダで差し上げますよ。
私はこの老いた体ですから、そこまでひどい状態ですと磨いてやることもできませんが、それでもよろしければ。」
「いや、しかしタダというのもな。呪われた品とも限らない。」
師匠がグッと眉間に皺を作る。けれども初老の男性は穏やかに笑うばかりで、勧めることも制することもなかった。
再びヒロの言葉を待つだけの静寂が訪れる。
「ジェフ師匠は、どう、思う?」
「はぁ……。んなこと私に聞かれてもな。私の師匠ならば、何か見解があるかもしれんが……。
ただまぁ、ヒロマサが気になるのならば、どこぞの鍛冶屋に持ち込んで磨いてみればいい。造りはそう悪くないからな。もしなにかヤバい物でも、それはそれで経験だろう。」
師匠らしい意見だ。どうやら師匠はリスクとリターンは常にセットで考える癖があるらしく、考えてもわからないなら突っ込んでみろ精神が焼き付いているのだ。
そのくせ、「考えなしに突っ込むな」と怒られて理不尽を感じるところではあるが。
ヒロは頷き、店主が適当に見繕った鞘と共に受け取った。
「……あの、師匠?その手は何ですか?」
そのやりとりをしている隣で、正面にいる師匠は僕に手のひらを上にして手を突き出している。
まるで何かをよこせと言っているかのようなその姿勢に、僕は引きつった笑みで疑問を投げかける。
「何って、金だよ金。ほら、ヒロマサの剣壊したのはお前みたいなものなんだし、お前が払うのが道理ってやつだろ?」
「だ、だから師匠手ぶらだったんですね?!それはその……、その通りなんですけど!師匠に言われるのは何か納得いかないです!!というか、もしやお昼ご飯もたかる気でいるんじゃないですよね?!
弟子なんですよ!僕一応、師匠の弟子です!!いっつも僕のお金ばっかりアテにして、師匠なら一度くらいご馳走してくれてもよくないですか?!
というかその前に、居酒屋のツケ払った分、まだ返してもらってないの思い出しました!」
「ビービー騒ぐな!この馬鹿弟子が!」
「ひんっ?!」
僕は師匠の頭頂部に拳骨を食らってしまい、涙目で頭を押さえる。
い、痛い!!泣きそう!!納得いかない!!
「はっはっは、先ほど申し上げた通り、代金はいりませんよ。恐らくは、剣自身があなた方を呼んだのでしょう。貰ってやってください。」
初老の店主に、にこやかにそう告げられれば、それ以上支払いに関する話題を続けるのは気が引けた。
そこで、鞘代だけ支払うと言って色を付けた金額を手渡し、僕らは錆びた剣を手に武器屋を出た。
もちろんそのお金は、僕の懐からでたものだ。ヒロに出させるわけにもいかず、かといって師匠は手ぶらなのだから。
「となると、次は鍛冶屋だな。」
「あ、悪ぃ。鍛冶屋は俺、世話になってるとこがあんだ。」
恐らくは自身の知った鍛冶屋に向かって歩き出した師匠に、ヒロは遠慮しながら返した。ヒロの言う鍛冶屋とはきっと、彼の愛剣を手入れし続けた人のところだろう。
師匠と僕は「そうだった」と思いながらヒロと共に鍛冶屋に行くつもりで、歩を進めた。ところが、ヒロはどこか申し訳なさそうに困った笑みを浮かべている。
「あー、悪ぃな……。実はその鍛冶屋のおっちゃん、結構頑固っつーか……。あんま知らない人連れてくんなって感じでな。」
言葉を濁すが、要は一人で行きたいのだろう。ヒロが無意識に愛剣の柄を撫でているのを視界の端に捉え、僕は納得した。
そうだよね、大事な相棒とのお別れだもんね。
ヒロもきっと思うところがあるだろう。僕らが悪戯に構って、邪魔するわけにはいかない。
「そうなのか?なんで職人ってのは頑固な野郎が多いかねぇ。ま、そういうことなら私らは先に飯でも食いに行くか。」
僕は師匠の提案に頷くと、ヒロに一旦の別れを告げた。




