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第76話 ジェフ師匠のヤバさ

 俺がお礼もかねて沢山お話を聞かせてほしいと、ニケの師匠をフリュネーの家に連れて行った。もちろんフリュネーに伺いをたてたが、彼女は快くOKしてくれた。

 むしろ大喜びで料理を振舞ってくれたのち、俺たちがダンジョンで死にかけた話を聞いて卒倒しかけてと、客人を迎えるよりもそちらの方が忙しそうだった。


「ヒロマサ、ちょっといいか?」


「あ、ジェフ師匠。もちろん、どうぞ。」


 ニケもフリュネーも眠りについた深夜、俺はなんだか眠れなくて屋根の上でぼんやり月を眺めていた。

 そんなとき、隣に座ってきたのはニケの師匠だった。名前はジェフティ=トートリスというらしい。

 俺も師匠とつけて呼ぶのは、なにも師事することにしたからではない。先ほどの一件でちょっとた、母親に重ねる様な感覚を持ってしまって、敬慕の念を込めて師匠と呼ぶことにしたのだ。


「どうも。」


 ジェフ師匠は俺の横にそっと腰を下ろすと、俺に視線を合わせることなくぼーっと空を見上げた。

 彼女の横顔は凛々しく、けれどどこか今にも泣きだしてしまうのではないかという危うさもはらんでいた。


 俺も視線を月に戻し、幾分か経った頃、ジェフ師匠は独り言のようにつぶやいた


「……ニケの模倣は、あの子自身を蝕んでいるんだ。」


「え……?」


「強いスキルには代償がある、と話したのを覚えているか?」


 俺は記憶を少しさかのぼり、すぐに思い至る。ニケの模倣について俺が「チートだ」といった際、ジェフ師匠はデメリットを5つほど挙げた。その中の1つが「強いスキルの代償を知らずに、安易に使うのは危険」というものだったはずだ。


「模倣というスキルは、ヒロマサも言ったように、実際相当強いスキルだ。多少の制約はあるが、他人のスキルを使えるというのは、いざという時本当に役立つ。

 中にはこちらの手の内を探るという、厄介なスキルを持った魔物もいるからな。」


「だが……。」と、ジェフ師匠は言葉を濁らせた。そして、まるで恐ろしい物でも見たかのように、フルリと小さく身を震わせると、か細い声で続きを紡ぐ。


「だがな、あのスキルはニケを()()()()()()()()()()()()()ような気がしているんだ……。

 あの明るくて人懐っこい小動物のようなニケが、時折ふと恐ろしい雰囲気を纏うことがあってな。笑顔も口調も、仕草も普段のニケのままだというのに、彼のことをとても恐ろしく感じたよ……。


 私も一時期、模倣というスキルの有用性を重視し、ニケと共にスキル研究をしていたんだが、彼にスキルを使わせるようになってから、日を追うごとにニケを『恐ろしい』と思う頻度が高くなっていった。


 あれはニケじゃない。ニケのガワを被った化け物だ。あの化け物は模倣のスキルを使用する度にニケの自我を蝕み、やがてニケはニケでなくなる……。


 そんな気がしてならないんだよ。」


「模倣を使わなくなってからは、そんな現象起きてない。それが何よりの証拠だろう?」と、困ったように、それでいて泣きそうな顔でジェフ師匠は笑った。


 俺はその話を聞いても、どう反応するべきかわからなかった。ただ、単に話を聞いただけなのに、模倣というスキルにどこか薄ら寒いものを感じた。

 だから続いてジェフ師匠に言われた「だから、今後もニケに模倣を使わせないでくれ。」という言葉には、深く頷いた。


「ま、今後とも一つ頼むよ。ニケに対しては厳しく育てているが、それでも大事な弟子なんだ。私の修行も完成に近づいている。今後もどうか、支えてやってくれ。」


 ジェフ師匠が屋根の上を去ってからも、俺はしばらくその場から動けずにいた。

 再びぼんやりと月を眺め、夜の冷え込みが頂点に達したころ、寒さから逃げるように部屋に戻ったのだった。





「おいコラ、ニケ!!テメェ、サボってんじゃねーぞ!!もっと高く跳べっつってんだろ!ラスト100回追加だオラァ!」


「ひゃ、ひゃくですか?!も、もう無理ですーーっ!!」


 なんて鬼畜な……。


 翌朝俺は、ニケの隣で腕立て伏せをしながら、彼らの鍛錬を見ていた。

 見ていたんだが……。ニケが師匠の話をする際あれだけ苦い顔を理由が判明した。ニケが今やらされているのは、普通100回どころか1回ですら不可能なレベルのトレーニングだ。

 なんと自身の膝まである大きな岩を、両足で挟んでジャンプさせられている。あんなの素人が下手にやろうとしたら、それこそ怪我をしてしまうだろう。

 それをニケは既に300回は跳んでいた。縄跳びだって300回も飛べばシンドイぞ……。加えて100回とか、どれだけ追い込むんだこの人……。


「そうだ、ヒロマサ。ついでに貴様も腕立てもう100回追加しとけ。」


「は、はぁ?!なんでだよ!」


「剣士は全身しっかり鍛えておけって。あと瞬発力と踏ん張る力も必要だな……。よし、んじゃあとでヒロマサもアレやるか。」


「いや、無理だって!!!」


 アレ、とはニケがいまやらされている岩つかみ跳びトレーニングだ。俺はごく普通の青年で、レベルだってそこまで高いわけじゃない。あんな常人離れしたこと、できるわけがない。

 というか、そもそも俺も既に腕立て伏せ100回命じられているんだが?50回でもう、それなりに辛いんだが??


「はぁ……、男どもが苦しんでる姿、ホント至福だわぁ……。」


 ついでにジェフ師匠のヤバい性癖が判明してしまいました、まる。


 ジェフ師匠は顔を赤らめ、うっとりした表情で蕩けるような吐息を漏らす。

 割とガチ目にもうやめたい。こんなのを毎朝続けてきたニケを、今まで以上に尊敬してしまった朝だった。


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