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第7話 冒険者組合

 書類の上半分に僕の情報を書き終えたお姉さんは、次いで下半分に書かれた説明を読み上げた。


「さて、この書類の情報を元に身分証代わりのカードを発行したら手続きは終了ですが、その前に軽く注意事項をいくつか。


一、当組合からの指示があった場合、可能な限り従うこと。

一、当組合からの召喚命令には、特段の事由がない限り応じること。

一、其の実力をして組合及びその目的に充分に貢献する意思を常に持つこと。

一、冒険者カードは個人を特定する物であるため、管理には留意すること。

一、他の組合との重複所属は報告の義務を有すること。


以上が基本的な冒険者組合のルールになります。

解釈はかなり広めに取っていますので、ご安心ください。

冒険者カードは紛失された場合、再発行が可能ですが、その場合組合からペナルティが課せれますので、十二分に気をつけてください。

もちろん、他人のカードを拾得したら、即時最寄りの組合支部へ届けてくださいね。

それと、組合への虚偽申告や申告義務違反が判明した際は、その内容に応じた厳格な処罰が課されることになりますので、そちらもお忘れなく。」


「は、はい。」


淡々と進む手続きを、はいはいと相槌を打ちながら見守る。

一度書類を持って受付の奥へと引っ込んだお姉さんは、しばらくすると小さなカードを手に持って戻ってきた。

お姉さんが1つずつ印字された項目を読み上げてくれる。


「記載事項に誤りがなければ、カードの裏にこのインクでサインをしてください。インクは魔道具の一種ですので、偽造防止になります。」


一見すると唯の黒インクだが、どうやら魔道具らしい。

お姉さんの説明によると、体内に巡る魔力を宿すことができるインクで、魔力の質は一人ずつまったく異なっている。

それを利用し、魔力感知系のスキルや道具で、持ち主の魔力とサインの魔力の質を照会することで、本人確認をすることができるそうだ。

と、説明されてもイマイチピンとこなかったので、「へ、へぇ…、すごいですね…。」と聞き流しながらサインを書く。

因みにこのサインは自分で書かなければいけないため、お姉さんに書いてもらったお手本を頑張って写した。


「はい、これで正式に冒険者組合への、所属手続きは終了です。本日は何か活動なさいますか?」


「活動…ですか?」


「えぇ。冒険者は日々舞い込む様々な依頼をこなしたり、素材や宝を求めてダンジョンに潜って得たお金で生計を立てます。ダンジョンへ潜る際は報告の義務はありませんが、一言声をかけてくだされば、もしもの時のサポートがスムーズにいきますよ。」


「あ、その…とりあえず今日は宿に戻ろうかなって…思ってます。」


「そうですか。では、新たな冒険者ニケ様。当組合は貴方様の今後の活躍に期待しております。」


受付のお姉さんはまたニコリと笑うと軽くお辞儀をした。

よかった、無事1人でも手続できた。

僕はホッと息を吐き、踵を返すした。

周囲の強そうな人達からの視線を感じ、居心地の悪い思いをしながら組合館を出て、宿に戻るとどっと疲れが襲ってきた。

ベッドへ倒れ込むと同時に、眠りに落ちるのだった。




夜、パライさん達と一緒に夕飯を食べながら、無事に冒険者になれたことを報告する。


「俺が教えた通り、道具補助のスキルを取ったんだね。偉いじゃないか。補助系統のジョブは、成長すれば自分から闘いに参加しなくても、ミストが得られるようになるからね。ニケによく合うと思うんだ。」


「あの、本当にありがとうございます。パライさんのおかげで、僕の夢だった冒険者になれました。」


「はは、過去形にするにはまだ早いだろう?君の夢は、単に冒険者になりたいんじゃなく、冒険者として有名になることじゃないか。」



パライさんは、固くなるまで焼かれた肉をつつきながら、笑いかけてくれる。

その様子に何故か若干の違和感を覚えたが、原因に心当たりはないので気のせいかと深く考えなかった。

そんなことより、明日はパライさんと一緒に装備を整えに行くから楽しみだ。

僕はニマニマと上がる口角を抑えようともせず、食事を済ませた。






夜中、少し嫌な夢を見て目を覚ました。

内容は覚えてないのが救いで、すぐにまた寝なおすつもりだった。

ふと、隣のベッドを見ると、パライさんがいない。

トイレかな?

そう結論を出して体からズレていた布団を掛け直し、目を閉じる。


「ーーーだ。けっーーは明日のーーや。」

「目標はーーー市街ー、ーーーーですよね?睡眠薬のーーは、ーーーおります。」

「そーー。ーーーーー、殺せ。」


―殺せ?

パライさんの声だ。

冒険者組合で受けてきた依頼の話だろうか?

市街地って単語が聞こえたし、この辺りに生息する魔物の討伐依頼だろうとアタリをつけて聞き耳をたてる。

廊下から聞こえていた会話は、今は二人ともこの部屋に入ってきて明瞭に聞こえる。


「作戦はいつも通りですか?」


「あぁ、いいんじゃないかな。最低目標として、殺害だけ遂行出来ればそれでいい。念のため言っとくが、余計なことは考えるなよ。」


「心得ております。」


会話の相手は恐らくトルマリンさんだ。

声に聞き覚えがある。

そういえば、他のメンバーの声はまだ聞いたことがない。

無口な人が多いのかな?



「…この子は、寝てるのですか。」


「あぁ。そうだね。ふふ、見てよ布団を頭から被ってるよ、可愛いね。"あの日"が待ちきれないなぁ。」


トルマリンさんが僕の事に話題移した事で、どんな依頼内容だったのか聞けないまま会話を切り上げてしまった。

若干気にはなるが、僕に言わないということは、この依頼は僕無しで受けるのかもしれない。

レベル差があるうちはそういう場合も多いと、パライさんは言っていた。

ただ、それにしては妙に雰囲気が…


何かを羽織るような音がして、僕の思考は遮られる。

すぐに2人の足音は遠ざかっていった。

最後にパライさんが言った"あの日"って、なんの日だろう?

そっちの方が依頼内容より気になってしまうのだった。


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