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寄り道01 「お頭」と呼ばれたその男 


「おい! さっさと歩け!!」


「ってーな! いい加減放しやがれ! オレじゃねぇーつってんだろうがよ!!」


男は、兵士に槍の柄で小突かれ、転びそうになったことでつい悪態が口をついてでてしまう。

そんな男を、兵士はギロリと一睨みした。


「何を言うか。現行犯ではないか、白々しい。 それと、王国兵士にそんな口の利き方をするものではないぞ?

せっかく国にご奉仕させてやっても、コレが入ってこなければ酒も飲めまい。」


「クソッタレの腐ったお貴族様が。」


兵士は指で丸を作り、いやらしく男の前に掲げた。

平民で大きな罪を犯した者は、危険地帯で()()()()()()をさせられる。

鉱山で魔石採りだったり、クラーケンを狩る漁だったりと様々だが、いずれにしても残りの命は秒読みだ。

だが、それでも一応労働という(てい)を取っているので、安いながらも支給があるのだが、コイツはそれを「いくらでもピンハネできるのだから、口を慎め」と脅しているのだ。

顔をゆがめるようにして笑う兵士に対し、男は「どっちが悪人なんだか」とため息を吐いた。


「あぁ、そうそう。 この私は最近いいことがあって機嫌がよくてな。 貴様にもおすそ分けしてやろう。牢の中では、間違っても『冤罪で捕まった』だのと戯言(ざれごと)を言わない方が身のためだぞ。」


「どういう意味だ。」


「さてな。そこまで教えてやる義理はない。」


ドンッ! 


力強く押された衝撃で、男は肩から地面に激突した。

文句を言おうと体を起こすと、すでに兵士は牢のカギを閉めていた。


「ま、精々私たち王国貴族の養分として頑張ってくれたまえ。 はーはっはは!」


(ここがオレの牢ってことか。 ――チッ!高笑いなんてしやがって。)


男を地下牢に閉じ込めた兵士は、高笑いをしてカギをもてあそびながら、腹立つ背中を十二分に見せつけて去っていった。

苛立ちに任せ牢を蹴とばすが、当然そんなことで壊れるわけもない。

ひとしきり殴る蹴るを繰り返して、そのうち痛みとむなしさで大きなため息をついた。


「よお、あんた。」


ビクリと男の体が跳ねた。

まさか、同じ牢屋内に人がいるとは思わなかったのだ。

暗くて見えづらいが、どうやら奥には3人ほど他に男がいるようだ。

そのうちの1人――最も背の高いやつが話しかけてきたのだとわかると、男は警戒しながらも返事をした。


「なんだ。 同室がいたか、騒いじまって悪かったな。 てっきり俺専用のスイートルームかと思っちまってよ。」


「はは、そんなら仕方ねぇわ。 で?」


「あ゛?」


自分から話しかけておいて「で?」はないだろうと、男が睨み返すと、背の高い男はあきれたように言った。


「なんだ、ブタ箱は初めてか? 罪状だよ、お前の罪状。 何して取っ捕まった?」


「んな! 俺は……」


男は正直に「何もしてねぇ!冤罪だ!」と叫びそうになったが、ふと兵士の忠告を思い出した。

忠告を聞いて何になるかと思ったが、正直に言ったとして面倒が起きるのも避けたい。

悩んだ末に、素直に忠告に乗っかることにした。


「――強盗だ。連続強盗殺人の犯人。 ったく、とんだヘタをこいたぜ。」


嘘は言っていない。

実際、男の罪状は連続強盗殺人。 それも、ここ数か月決まって満月の日と新月の日に犯行が行われ、現場には必ず白いハンカチを1枚落としていくという、愉快犯。


男は満月の日に偶然外で酒を飲み、偶然入った路地裏で、何かにつまずいて転んでしまった。

その正体を確かめてやろうと起き上がると、そこには女の死体。

服にはべったりと血がついてしまい、恐怖と非現実感で動けずにいたところへ、衛兵がやってきてあえなく誤認逮捕というわけだ。

転んで服に血がべったりなのもよくなかった。衛兵に、それが返り血だと判断されてしまったのた。

さらに不運なことに、ポケットには白いハンカチを入れていた。男の見た目に反して意外とマメな性格が(あだ)となった。

本当の本当に偶然が重なっただけの潔白なのだが、衛兵も城の兵士も裁判官も当然信じてはくれなかった。


しかし仮に冤罪であっても、国が罪と認めたのだから男は連続強盗殺人犯なのだ。

そう、まったくもって嘘は言っていない。


「へぇ……! アンタ、見かけによらず、意外とヤるな! あれだろ?最近の連続強盗殺人って言やあ、『白の殺人』!! オレ結構好きだぜ!」


「あー、確かに、んな風に新聞では書いてやがったが……。」


強盗にキライはあれど、好きなことなどあるかと男は眉をひそめたが、背の高い男はそんなこと全く気が付かないらしい。

呼び方もいつの間にかお前からアンタに変わっている始末だ。


「すげぇー!かっけーな! そうだ、アンタ名前は? オレはサクマってんだ。よろしく。」


あとからサクマに聞いた話によると、平民の牢では慣習的に「より重い罪を犯した者が偉い」とヒエラルキーが出来ているらしい。

現状最も最悪な罪を犯した平民の罪は「禁術開発による国家転覆罪」、その次がオレの「連続強盗殺人(しかも愉快犯)罪」らしい。

他の部屋の奴らも聞き耳を立てていたのか、オレの牢での生活はそう悪くはなかった。

同室のサクマ、クライン、ジャーの3人とも仲良くやっていた。

そう、()()()生活は悪くなかったのだ。


最悪なのは「国へのご奉仕」に駆り出されたとき。

酷いときは3年ほど、灼熱の迷宮(ダンジョン)でサバイバル生活だ。

鉱山という名の迷宮に潜らされ、高位種(ハイランク)魔物(モンスター)がわんさか襲ってくる中で、食料も水も自分たちで調達しながら、魔石や魔鉱石を掘らされる。

2週間ごとに船がやってきて物資の補給と採掘した品の回収をしたが、ほんの数時間でまた本国へ戻っていく。

俺たちを過酷な環境に残したまま。


その時ばかりは何度「もう死んだ」と思ったか。




▷▷▷▷▷▷


そんな日々を過ごして、すでに15年が経過した。

サクマ、クライン、ジャーの3人はついに男のことを「アニキ」と呼ぶほどに慕っていたし、地下牢全体でも最古参の一員となった。

過酷な「国へのご奉仕」のせいで、これまでの囚人は、釈放以外には最長でも5年ほどしか生きていられなかった。

そんな中、15年も生き、同室のメンバーを欠いていない男はまさに尊敬の的で、兵士からも一目置かれるほどにまでに到達していた。

囚人同士のもめ事には基本無関心か()()を貫いていた兵士も、ここ数年は「アイツに絞めさせろ」と丸投げしていく。


ちなみに、男を投獄した兵士は近衛兵の軍資金を一部盗んで、姿をくらましたらしい。

男が投獄された直後のことだったので、あのとき「機嫌がいい」といっていたのは、この計画が実行に至るに足る何かを得られたからだろうと邪推したものだ。


男はこの段階まで、それはそれは慎重に行動していた。

どうしたら信用を勝ち取れるか、どうしたら疑われずに計画を実行できるか。どうしたらより多くの協力者を得られるか。そのためにはどう振舞うのが効果的か。

再審を求めるためなんかではない。


――脱獄だ。


その日、王国はかつてないほど大規模な脱獄を許した。

見張りの兵士は約50名が殺害され、残りの半数はいたるところで起きた爆発に巻き込まれて負傷、および死亡。

一方で、平民区画の罪人はそのほとんどが脱獄。捕らえることに成功したのは、たったの5名。

「堅牢」「厳戒」として名を轟かせていた王国の牢獄伝説は、たった一夜で崩れ去ってしまったのだ。

男はその名を、王国の歴史にしかと刻んだ。


「よし!今日からここを、オレたちのアジトとする!

ここまで長かった。長い長い道のりだった。時には兵士の暴行に耐え、時にはオレがテメェらをぶん殴ったこともあった。それを、文句の一つも言わずについてきたお前らは、本当に馬鹿だ。大馬鹿野郎だ!!

だが!!!! オレはそんな大馬鹿野郎どもが大好きだぜ!!」


「「うおぉぉぉおおおお!!!」」


野太い声が地下中に響く。

ボロボロの廃城の、もとは地下牢だった場所を占領し、これからは自分たちの力だけで生きていく。

これからはたくさんの「()()」が待っているだろう。

たとえ世間から爪はじきにされようとも、たとえ世界のすべてが敵であったとしても、オレたちは犯罪者の集団なのだから、それでいいのだ。


「脱獄か……。やっと犯罪者(お前らの仲間)になっちまった。なぁ? サクマ。」


「まだ言ってんのかよ? オレもアイツらも言っただろう。とっくに仲間だって。」


「ったく、このウスノロどもが。」


「んな嬉しそうに言ったって、仕方がねぇですぜ『お(かしら)』」


「――は?」


男は一瞬呆けた。

その呼び名が自分のことを指しているのだとわかると、背中のあたりから一気に何かがこみあげてくる。


「おぉ!そうだな! これからは全員で力を合わせて、色んなことをヤってかなきゃなんねーもんな! よっ!『お頭』!俺たちの頭領!!」


「おーかしら! おーかしら!」


「うるっせぇぞ、テメェら!! 外に聞こえたらどうすんだ!!」


「ははは、聞こえたところで周りは廃墟。人なんているはずがねぇや!」


「おぉ!こんなところに酒樽が!! どうですかい、アルコールは腐らねぇって言うし、景気づけにパーっとよ!」


宴は3日3晩続いた。

これからも過酷な仕事ばかりだろう。犯罪者に回ってくる仕事など、その内容は簡単に想像がつくはずだ。

それをわかってはいる。だけれど、あの過酷な環境を乗り越え、大掛かりな生死をかけた脱獄を成功させたこのメンバーなら。

きっと全員でうまくやっていけそうな、そんな気がしたんだ。

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