表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/102

第63話 別れ

「本当に行っちゃうんだね……。ねぇ、今からでも僕らのパーティに入らないかい?」


 アゼスさんが名残惜しそうに僕の目を見つめる。数日前にもされたその提案はとても魅力的だったが、僕の答えは変わらず「いいえ」だった。


 この街にはガヴァンさんに、エリスさんそれにテテさんや女将さんといった、顔なじみが出来て居心地がいいのは確かだ。

 それに”焔の巣”も、しばらくはこの街を拠点にして活動するといっていた。彼らとパーティーを組まないまでも、一緒に行動していれば多くのことを学べるだろう。


 それども僕が首を横に振る理由は、エリスさんに教わったとある街に行くためだった。


「はい。やっぱり僕は、【バニパル】に行ってみようと思います。」


 バニパルは巨大な図書館が特徴的で、「知識の都」と呼ばれるほど様々な情報が集まる街なんだとか。

 僕がそこに行く目的は3つある。


 一つは、図書館でアイテムや魔物、ダンジョンについて勉強して、自分だけでも戦略を建てられるようになること。

 二つめに、各地の図書館にのみ置いてあるという「スキルの書」を読み、今後どんなスキルを取得するかを考えること。

 三つめが、エリスさんの紹介にあった”薬師”に会いに行くことだ。”薬師”というジョブは、高度な薬品づくりを行える補助系統のジョブ。

 同じく補助系統である、僕の力になってくれるだろうとのことだった。


 ちなみにアセナは、つい三日ほど前に僕との師弟契約を終えると、翌日には何も言わずに街から去っていた。

 ガヴァンさんに後から聞いた時はなかなかに驚いたが、彼女も彼女なりに考えがあってのことだったのだと思う。

 いずれまた出会えることを願って、しばしの別れだ。


「あの、リュウさんたちには、本当によくしてもらって……。ありがとうございました。また会えたら嬉しいです!」


「あぁ。俺たちも、ニケには色々助けられたぜ。ありがとな!」


 あぁ、駄目だ。一生会えないわけでもないのに、涙が溢れてきた。

 冒険者なんて命がいくつあっても足りないような職業じゃ、どうしても「次はないかも」という思いが頭をかすめる。

 でも今日の別れは、そんな辛気臭くちゃいけないよね。


 僕は袖で乱暴に涙をぬぐうと、ニッと笑って見せた。


「それじゃあ、また会いましょうね!」


 彼ら三人の眼にも涙が浮かんでいるのをみて、また泣きそうになった僕は慌てて踵を返し、ずんずんと進んでいく。

 この先の分かれ道で右に曲がれば、ゴーリー大森林だ。3人と一緒に狩りをして、みんなで窮地を乗り切ったあの森。

 けれども今日は、その道を曲がらずまっすぐ進んでいく。


「――っニケ!!

 体に気を付けて!!無茶をしないんだよ!道中休憩するときはトレントにも気を付けて!それから、それから……!!」


 背後から投げかけられる言葉は、かつて兄に言われたような優しい気遣い。

 けれど決定的に違うのは、その声色に「まだ一緒にいてほしい」という気持ちがにじみ出ていること。

 それをわかっていながら……、いや。わかっているからこそ、僕はそれを振り払う。


「――はいっ!皆さんもお元気で!!」


 笑顔で振り向き、大きく手を振ると、口元に両手を上げて声を張っていたアゼスさんが、力なく手を振り返すのが見えた。

 その顔は諦めたような、それでいて嬉しそうな表情で、まるで独り立ちする我が子を見送る父親のようだ。


 僕は今度こそ、笑顔で道を駆けたのだった。






ーーーーーーーーーー


「あーらら。ちょっと弱すぎたんじゃなーい?せっかく()に憎悪を燃やす個体だったのにー。ちょーっと勿体なかたんじゃなくて?」


 目深にかぶるフードから除く白肌に、一筋に引かれた紫色の紅が挑発的に笑う。


「ふんっ、所詮はただのオオカミか。多少力を分け与えたからと言って、使い物にはならないな。知恵もなければ、統率力もなしか。

 復讐に憂き身をやつし、獲物を(なぶ)ることを楽しむから負けるのだと、理解できぬのだろうな。

 だが最低限、我らが主の目的は果たせただろう。ひとまずそれで()()とするか。」


 同じくフードを被る男は、木の上から見下ろす女に一瞥もくれず、独り言のようにつぶやいた。

 それが気に入らなかったのか、女はわざと男の頭に落ちるよう、手にした巻物を手放した。

 ちらりとも見ることなく的確に受け取った男が中を確認すると、再び丁寧にまかれた巻物は、男の手元から上へ向かって不自然に燃え、灰となって落ちた。


「私たちはしばらく別のお仕事よ。アンタと一緒っていうのは癪だけど、中々楽しそうではあるわよねー?」


「はぁ……。我が主は一体何をお考えなのか。」


「すべては鷹の翼を捧ぐためよ。」


 男は女の言葉に不承不承といった様子で頷き、一陣の風が吹く。巻き上げられた葉が落ちる前に、その姿は忽然と消え去っていた。


これにて第2章完結となります。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ