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第62話 ゴーリーウルフ

 冒険者組合からの呼び出しは、例の巨大オオカミが突然変異個体であったという研究結果が得られたことを報告するためだった。


「とつぜんへんい……?あの、それってどういう……?」


「突然変異個体というのは、既存の種の中でも個体差というには、あまりに突出した特徴が表れ、なおかつそれが新たな種として認められた個体を差す言葉だよ。

 あるダンジョンにしか存在しない固有種とか、そもそも個体数があまりに少ない派生種が、ここに分類されることが多いね。」


 僕の疑問に対し、一緒に話を聞いていたアゼスさんが答えてくれた。すると報告を任されたというガヴァンさんも、続いて解説をする。


「あぁ、その通りだ。そもそもこれまでに発見されていた巨大なオオカミ種は、ダンジョンのボスとして確認された”神殺しの狼(フェンリル)”が唯一。

 そいつはまだ討伐成功者の出てねぇほどの、圧倒的討伐難易度だ。いくらテメェの連れにいた英雄様が手練れでも、そんな強者(つわもの)を討伐できたとは思えねぇ。

 案の定、やつの体躯や素材の質、身体能力や報告から推測される使用スキル。そのどれを取っても、フェンリルどころか、配下にしていた月下狼にすら及ばねぇと判断された。

 つーわけでだ。専門の組合との共同調査の結果、あの巨大オオカミは、オオカミ種のなかでも基本種が突然変異的に巨大化した個体である――、そう結論付けられたわけだな。」


「な、なるほど……?」


「要するに、ただオオカミが大きくなっただけだった……。という認識でよろしいかしら?」


「ま、そういうこった。」


 いろいろ小難しく説明していたが、アセナの要約に対してガヴァンはあっさりと頷いた。

 なら最初からそう言ってくれればよかったのに。そう思わなくもなかったが、どうやらあの説明をわかっていなかったのは自分だけだったようなので、黙っておくことにした。


「けれど、妙だわ。」


 アセナがそう呟くと、ガヴァンも「あぁ。」と神妙な面持ちで同意した。焔の巣も、これには疑問符を浮かべている。

 耐え切れなかったのか、リュウさんが代表して口を開く。


「妙って、一体なにが?」


「突然変異個体は、ダンジョンの中に出現するのが一般的なのよ。

 ダンジョンから抜け出してきた()()()の個体なら、納得も行くのだけれど……。ゴーリー大森林に、そのようなダンジョンは確認されていないわ。

 ダンジョンの魔物は突然変異個体も含めて、基本的に再発生するのだから、今回の個体がゴーリー大森林に再発生する可能性も捨てきれないのよ。」


「あぁ。その後複数の冒険者に要請すると同時に、一応俺らの方でも調査に入ったが、新しくダンジョンが出現したということもねぇ。

 加えて、未だに再発生の兆しもなけりゃ、発見報告もねぇ。

 だからこそ、不気味でならねぇな。」


「えぇ。もしかしたら、誰かが別の場所から意図的に連れてきたという可能性も……。」


 二人は深刻そうに話しこみ、眉間に皺を寄せて黙ってしまった。

 僕らにとってそれがどれほどの事態なのか理解できず、ただ「もしかして、大変なことなんだろうか?」と顔を見合わせるばかりだ。


「ま、こっからは俺たち組合員の領分だ。いくら"魔笛の金糸"とあっても、これ以上首を突っ込むと、場合によっちゃ危険だぜ。あとの調査は任せな。

 んでよ、テメェらを呼び出したのは、こっちが本題でな。」


 そう言ってガヴァンさんが取り出したのは、目を疑うほどの大金だった。

 質の良い革を張ったトレイに、貨幣の種類ごとに細かくまとめて積まれている。貨幣といっても、僕にはまるで縁のなかった丸銀銭、角金銭、なかには丸金銭まで数枚が混じっている。


「あ、あの、あの、これは一体?!」


「あぁ、今回の巨大オオカミ――"ゴーリーウルフ”と命名されたんだが、コイツに掛かってた懸賞金と、丸々一頭分の買い取り賃、それから入場規制中の坊主への補償金だ。

 おい坊主!お前さん俺があんだけ言ってやったのに、結局申請に来なかっただろ!」


「ひゃいっ!あ、ええっと、すみません!」


 ガヴァンさんが急に声を荒げ、僕を怒鳴りつける。反射的に思わず謝ったが、その表情や声色から感じるのは怒りというより、心配してくれていたといった方が近いだろう。


「ガヴァンさん、あの、ありがとうございます。」


「……チッ、今回は俺が都合つけてやったが、次回はねぇからな。」


 そう言ってぶっきらぼうに()()()()()をするガヴァンさんの気遣いがうれしくて、思わず頬が緩む。

 すると「なに笑ってやがる!」と頭にげんこつが飛んできた。

 意外と痛いのだった。


「んで、これが明細だ。テメェらは1個のパーティじゃねぇから、正式に一括で支払いは出来ねぇ。その明細から各自相談して、受取金額を決めてくれ。

 決まったら3枚の受領書を書いちまわねぇとだから、はやめに頼むぜ。」


「同じパーティだったら、いっぺんに受け取れるんですか?」


 僕がガヴァンさんに問うと、彼は怪訝な顔をした。


「なんだ坊主、んなことも知らなかったのか?

 パーティっつぅのは、組合からしたら()()の冒険者として取り扱うんだぜ。だから依頼や冒険者ランクはパーティ単位で認定を出してっし、もっと言えばパーティーリーダーの決定がそのパーティの総意と捉えるんだ。

 だから、坊主も安易にパーティを組まず、メンツはしっかり見極めた方がいいぜ。気づいたら搾取されてる、なんつーことも、珍しくはねぇからな。」


 そう言ってガヴァンさんは、僕の頭にそっと手を乗せた。その硬くて重い武骨な手が、彼の優しさを語っているようで、どこか(くすぐ)ったかった。


 僕らは話し合いの末、アセナが2割、僕が4割、焔の巣が残りの4割を貰うことになった。アセナは「私はあなた達を巻き込んでしまった身なのだし、報酬は貰えないわ。」と最初は拒絶したが、以前助けられた恩もあるし、なにより冷静で体力もあり、ずっと僕らを守ってくれていたアセナとハティがいなかったら、あの窮地は乗り越えられなかった。

 僕たちはそう信じていた。


 だから少なくなってしまったとしても、貰ってほしいと進言したのだ。






「意外だったわ。いつもボーっとして碌に常識も知らないようでいるあなたが、報酬の授与はしっかりしてるのだもの。」


 焔の巣とは一旦別れて、アセナと食事を摂っていた時に、本当に以外そうに彼女は言った。


 先日のあの高級店ではなく、焔の巣が受けた手紙の配達依頼でお世話になった、テテさんと女将さんが経営している居酒屋だ。

 昼は軽い食事を提供するだけだそうだが、あの日の約束を果たすためにこの店を選んだ。女将さんの「感謝しているなら、次はちゃんと食事しにきな」という言葉に、僕は「はい」と返したのだから。


 僕は飲んでいた水を置いて、アセナのもっともな疑問に苦笑いを返す。


「えへへ。前に教えてくれた人がいたから……。」


「あら、そうだったのね。……でも、ニケったらここ数日で本当に頼もしくなったわ。焔の巣の代理で手紙を届けに来た時なんて、生まれたての小鹿にだって勝てなそうだったもの。」


「……へ?あれ?なんでアセナがそれを知ってるの?」


「なんでって……?あ、あなたまさか、気づいていなかったの?!」


 これまで見せていた上品な所作を忘れたように、驚愕に逆らわずアセナのコップはテーブルに叩きつけられた。

 身を乗り出して僕に投げかける問いの意味が分からず、僕は混乱してしまう。


「えっと……?」


「はぁ……。鈍いのは相変わらずなのね。

 あの日、焔の巣が受けた依頼はブートレストからの手紙を私に渡すというものよ。てっきり気が付いていて、私とブートレストの話を聞いてくださったのだと思っていたのに……。」


「え……?えぇーー?!そ、そうだったの?!えぇ、全然気づいてなかった……。」


 僕が焔の巣の代理で届けたあの手紙はブートレストからのもので、その内容は「ボクのものになれ」という(たぐい)のもの。

 アセナも「しつこい」「毎回同じ内容」と言っていたように、あれこれと手を変え品を変え、彼女を誘っていたそうだ。


「去り際にハティを見て怖がっていたでしょう?ハティの存在を伝えていなかったのだから、私に落ち度があるという認識があったのよ。

 だから、わざわざ罠部屋に入ってまで貴方たちを救出したのだけれど……。その様子ではそれも知らなかったのね。」


 倉庫の暗がりからこちらを見つめていた、あの底冷えする視線はハティのものだったのか。


「うん、全くわからなかったよ。えっとさ、アセナはもう少し考えてることを言葉にした方がいいと思う……。」


「あら?言うようになったじゃないの!」


 アセナはそう言うが怒っている様子はなく、むしろ少し嬉しそうだ。


「ま、実際私はハティ以外とのコミュニケーションを放棄してきたのだから、言葉が足らないところもある。そのことは否定しないわ。」


 確かに、ハティとアセナは言葉なんてなくても、お互いの考えていることがよくわかっているのだろう。

 それに加えて他人に対して、あれだけ否定的な態度をとっていた彼女のことだ。その言葉に嘘はないのだろうが、同時に「改善する気はない」と言っているように思えて、苦笑いを返すしかなかった。


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