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第61話 後日談

 今回の新種オオカミ騒動は、多くの犠牲者を出した。

 中には組合の判断ミスを指摘し、責任を問う声も上がっていたが、特に大きな暴動に発展することもなく収束していった。


 アゼスさんが言うには、組合の自作自演でわざと多少の騒ぎを起こした上で鎮静化することで、必要以上に組合の信用を下げないように操作しているらしい。


 葬儀に関しては街と教会、冒険者組合の3者が協力して大規模なものが執り行われた。


「……最初こそ私たちを襲ってきたとはいえ、あのオオカミを倒せたのは貴方が弱らせていてくれたおかげよ。礼を言わせていただくわ、ありがとう。」


 賊にお頭と呼ばれていた、あの男の遺体に花を手向けながら、アセナは呟いた。

 彼は僕らと別れたあの場所で発見された。その遺体は食い荒らされ、ほぼ骨だけになっていたそうだ。

 その現場はあまりにも凄惨で、岩は割れ、地面は抉られて木々は円形に燃え尽きていたそうだ。

 それをやったのは彼のスキルだろうという調査結果が出て、葬儀では彼とその手下たちは犠牲者の中でも英雄に近い扱いを受けることになった。


「ブートレスト卿は結局見つかってないんだって。組合のガヴァンさんが教えてくれたよ。」


「その名前を聞くだけで虫唾が走るようだわ。いいのよ、あんな人供養される価値すらないもの。」


 葬儀の会場から出て、僕はブートレストの行方についてアセナに報告する。

 しかしアセナの、もうヤツのことは口にしないでほしいといわんばかりの表情に、僕はそれ以上彼の話題に触れなかった。


「そういえば、ハティは?宿に置いてきたの?」


 僕はいつも一緒にいた彼女の相棒が足元にいないことに気が付き、思いつく居場所を上げてみる。

 するとアセナは呆れたようにため息をついた。


「当然でしょう?オオカミ種の被害にあった方々の葬儀なのよ?連れてこられるわけないわ。

 しばらくはオオカミ種そのものに、相当な恨みが向けれられるもの。ハティを外出させるのは必要最低限に抑えるべきよ。

 街の人たちにとっても、ハティにとっても、その方がいいわ。」


「そっか、そうだよね……。変なこと聞いてごめんね。」


 寂しそうな笑顔を見せたアセナに、つい咄嗟に謝る。するとアセナは、下を向いてしまった僕の肩を軽く叩き、にっこりと明るく笑った。


「そんな顔するものではなくてよ!あなたは今、街を騒がせていた惨劇に終止符を打った英雄の一人。しっかり前を向き、堂々としているべきだわ。

 あ、そうだわ!はやく組合からの呼び出しを終えて、そのあとランチでもいかがかしら?」


「うっ、えっと……。」


 確かに早いところ組合の要件を終わらせてしまうのは賛成だけど、そのあとのランチには少々問題がある。

 僕は以前アセナと昼食をともにしたときのことを思い出した。

 あの時の居心地の悪さといったら……。「二度と高級店になど行きたくない」と思わせるには十分だった。


「あら、レディに誘われたデートを断るだなんて、そんな無粋な真似なさいませんでしょう?」


「えっ?!で、デー……?!」


 予想外の単語に顔が真っ赤になるのを感じて、熱くなってしまう。

 ちらりとアセナの様子を見ると、悪戯が成功したように口元を抑えて上品に笑っていた。その笑顔がまぶしくて、守れてよかったと心の底から思ったのだった。






 あの日。夜が明けてから組合に戻った僕らは、質問攻めにあった。それもそのはずで、あの巨大オオカミの死体をブートレスト達が乗ってきた馬車にロープで括りつけて、組合に運び込んだのだ。

 その時の組合の様子はまさに半狂乱。


 まず誰しもが半信半疑だった巨大な新種のオオカミが、本当に存在したという事実に大混乱。そして次に、討ち取ったのは誰かとまくしたてられる。

 ガヴァンさんが一喝して、組合の防音室に入れてくれなければ、あのまま揉みくちゃにされて、圧死していたかもしれない。

 街の中をスムーズに通れたのは、早朝でまだみんな寝ていたからという理由だけだったと思い知った。


 最初は、僕の冒険者としてのランクや歴を鑑みて、詳細は公にはされないこととなった。"三日月"にも達していない初心者が討伐したといえば、他の冒険者や組合の信用に傷がつく可能性があり、加えて他の冒険者から目を付けられるかもしれないから、とのことだ。

 焔の巣の3人はそれに対して怒ってくれたが、アセナも同意見だったことと、僕もアセナに賛同したことから、不服そうではあったが一応納得してくれた。

 本当の弟のようにかわいがってくれていて、僕らの窮地に駆け付けくれた。さらにこうして僕の名誉のために怒ってくれる。そのことが本当にうれしい。


「その分かけられていた懸賞金以上の額を出すし、口止め料も払うさ。」


 そうガヴァンさんに言われたが、僕はあえてその提案を蹴った。その代わりにとお願いしたことがある。


「あの……、口止め料は必要ありません。ですが、その代わりにお願いを聞いてください。先ほども話した通り、僕らがあのオオカミを仕留めることができたのは、一人の男性のおかげなんです。

 彼を探し出して、彼の功績として話を広めてはもらえませんか?」


「そうか、わかった。当組合支部の総力を挙げて、実現すると約束するぜ。」


 そうしてガヴァンさんは、約束通りに彼の遺体を発見し、彼とその手下を英雄として立派にたたえてくれた。

 そのストーリーでは、僕はあの男が虫の息まで弱らせた巨大オオカミにトドメを刺しただけで、僕らが負った怪我は、その配下にいた上位種の群れにやられたものだということになった。

 その筋書きならば、報酬を受け取ることも僕らがオオカミの死体を運んできたことも、ごまかす必要がなくなるからだ。

 そしてそれは殆ど事実と言っても過言ではない。


 ついでに僕らも、少しばかりの名誉も得る。


 ガヴァンさんは「我ながらいい仕事をしたぜ!」と満足げに胸を張っていた。

 そんな経緯で、もちろん亡くなったあの男が一番の英雄だが、僕らもそれなりの評価は得られたというわけだ。


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