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第6話 レベルアップ

パライさんに貰った地図と、辺りの景色とを照らし合わせながら、喧騒の中を歩く。

誰が見てもこの街に来るのは初めてだろうとわかるその様に、しかし誰も気にもせずにそれぞれの目的地へ向かっている。

実は元々の予定では、パライさんたちみんなと来るはずであったが、昨夜予定が変更になり、メモだけ握らせれて、宿を送り出された。

何度か人にぶつかりそうになりながらも、なんとか見つけたそれらしき建物の前で立ち止まりる。

数瞬正面ドアを見つめると、徐に手を添え押し開けた。


中へ入るとまず感じたのは木の香り、そして仄かに暖かな空気。

内装を見上げた僕は、大きさと芸術性を多大に主張する窓を目にする。ここからの採光によって温められた空気が、この広い空間に充満していたのだとすぐに理解できた。


「おぉ、これは小さき者よ。神より加護を賜りしゼノン教会へようこそ。」


物珍しく芸術的な窓を見つめていた僕に声をかけたのは、ローブを身に受けている男性。

初めてみる大きく美しい窓に、そしてその場に誰より映えるであろう神官の男性に、意識を吸われていると、再度男性から声がかけられる。


「それで、小さき者よ。本日は何用かな?そして、君のお名前は?」


「は、はい。えっと、ニケ・オッドウィンです。僕、ミストを還元したくて…」


予めパライさんに教わっていたとおりに言葉を紡ぐ。

すると神官はにっこりと人のいい笑顔を浮かべ、僕を奥の祭壇へと促す。

そこで、神官は一枚の紙を渡してきた。


「どうやら、見た感じミスト還元は初めてのようだからね。ミストを還元した後のことについて軽くだけど説明させてもらうよ。」


僕は文字が読めなかったが、どうやら口頭で説明してもらえるようだ。

彼の説明を要約するとこうだ。


僕らが体内に集めたミストを神に受け渡し、それが一定以上たまると、神はレベルという形で僕らに還元する。

すると、その時点のジョブでのレベルが、上がるらしい。

またジョブとは、自身の得たスキルに応じて神から授かると同時に、ジョブによって取得可能なスキルが決まるという、相互干渉が存在する。


なぜ、ここでその話をするかと言えば、最低ランクのモンスターでも、倒していれば最初のミスト還元で間違いなくレベルが上がる。

そしてレベルが1でもあれば、まず第一のスキルを習得でき、同時にジョブがきまる。

つまり、最初のミスト還元は同時に最初のジョブ選択の時でもあるのだそうだ。


この時選べる道は2つ。

1つは、剣士やハンターなどの戦闘向きなジョブ系統の前段階である『戦士見習い』。

スキルは攻撃する際に威力補正がかかる『攻撃強化』を取得する。


そしてもう1つは、鍛治や道具作成なんかの、補助系に特化したジョブ系統の前段階『道具屋見習い』で、取得するスキルは、道具を使用する時威力補正がかかる『道具補正』だ。


「補助系を選んだからといって戦闘に参加できないスキルやジョブばかりではないが、これから冒険者としてやって行くならオススメは戦士系統だね。」


そう、神官は締めくくった。

神官の言う通り、僕としては戦士系統を選びたい。

けれど、パライさんからは補助系統を選ぶよう言われている。

何か意図があってのことだと思うし、今は役にも立たない僕を、チームに置いてもらっている身だから、その意向を受けて僕は補助系統を選ぶことにした。

今後もこのパーティでやっていくだろうと考えたら、初心者の僕がリーダーの考え方を否定するなんてできない。


「ふぅむ、本当にいいんだね?」


神官が確認をとってくるが、僕の答えは、はいだ。


「まぁ、君は確かに戦士系統より補助系統の方が向いていそうだ。」


屈託ない笑顔が、悪意なくそう言っていると物語り、少しばかり恥ずかしい。

僕だって、本当は兄さんみたいにカッコいい戦士に憧れてるんだ。

女顔でひょろっちぃからみんな僕を戦わせようとはしないけど。

…できれば僕も、戦いたくはないのだけど。

そう考えると確かに、神官の言ったこともわかる。

僕は、戦闘に向いていない。


「さ、ミストの還元を始めるよ。そんなに緊張しないでも大丈夫。祈りをこめて、ゆっくり神に呼びかけるんだ。」


僕は、 指示されたとおりに片膝をつき、両手を胸の前で組み、祈りを捧げる。

――神様、僕に力をください。


「スキル発動『還元』。

『汝、力を欲す者。神の御前に、魔の物を討しその証明を献上せよ。』」


神官の声が聞こえた。

体から何かが抜けていく感覚がある。

それが、ミストなのだとボンヤリとした頭で理解する。


「神よ、ニケ・オッドウィンに恩恵を。」


ブワッと背筋を何かが駆ける。

ただしそれは、悪寒のような気味の悪いものではなく、熱を帯びていた。

ぐっと叫び声が喉まで出掛かり、スッと体に落とし込まれる。

高揚、興奮、それ以上の何か。

形容しがたいその感覚は正に、神からの恩恵に違いなかった。


「まずはレベルアップおめでとう、小さき者ニケ。次はスキル選択だね。次に使うスキルは『祝福』というんだ。神官というジョブも補助系統だからね、もし気が向いたら貴方も神官を目指してみるといい。」


「あっ、えっと…その、そうですね…考えておきます…。」


そういえばパライさんも馬車で、戦闘系統を取る人が急増したせいで、補助系統、特に冒険者になりづらい神官ジョブの不足が問題になっているとかって言ってたっけ。

神官がいないと冒険者はやっていけないのに、冒険者をやりたいから神官にはなりたくない。

難しい問題だ。


「それじゃ、スキル『祝福』を行使するよ。神のお声が聞こえたら『道具補正』を選択すると宣言するんだ。」


「は、はい!」


神官がスキルを発動させると何処からともなく声が聞こえる。


――貴方のレベルは2です。選択可能なスキルは「攻撃補正」または「道具補正」です。どちらを選択しますか?――


ぼ、僕は、道具補正を選択します。

心の中でそう呟くと、


――よいでしょう、『道具補正』を獲得したので『道具屋見習い』のジョブを与えます。――


と一言聞こえた。

けれど、それだけで特に変化は感じられない。

レベルアップの時のような高揚もないし、体にも変化はない。


「大丈夫かい?宣言に応えが返ってきたら終わりだよ。」


そう神官に言われるまで、終わったのか分からず目を瞑ったままだった。

は、恥ずかしい。

因みに後から聞いた話だと、選択を保留することもできるらしい。

今回はこの後すぐ冒険者登録に行く予定なので問題ないけれど、そういうことは先に言ってておくべきではないかと思う。

神官さんに冒険者組合の簡単な行き方を教えてもらい、教会を出た。


ゼノン市街地を俯瞰して正しく中心に、それはある。

【冒険者組合ゼノン市街地支部】

毎朝その正面扉が開け放たれて以降、日が沈んだ後の閉館まで、その場所は街一番の賑わいを見せる。

世界で最も活気ある職業とまで言われる冒険者達。

自由で奔放な彼等の集う場となれば、当然の賑わいである。

その周辺はさることながら、勿論館内も相応の活気を見せつける。

その大多数が大なり小なり体に傷跡をつけ、或いは武器を携帯し、或いは特殊なアイテムを身に纏う。

そんな中、1人のいかにもひ弱な子供が、只の布切れ同然の服装でキョロキョロと辺りを見渡していた。


ともすれば少女とさえ思われるその子供は、荒くれ者の多い中、奇異の目に晒されることは避けようがない。

まして其の相貌は、目を惹き十二分に余りあるほど、整っている。

今はまだ可愛らしいが、年数は片手の指ほども待たず、きっと美人になる。そんな確信が得られる程度には、子供ながら魅力的だった。

依頼でも出しに来たんだろうと、早々に目線を切る者も少なくはないが、それでも半数以上は目敏く、子供の腰に巻かれた短剣に目を止める。

まさかあんなガキが、冒険者になろうなんて言わないよな?

何人か異口同音の呟きは、本人に届くことはなかった。


「あ、あの、僕…冒険者になりたいんです!登録お願いします!」


其の一言で、周りの空気はさっと変わる…という事もなく。

ある者は口笛を吹き茶化し、ある者は思わしげに眉をひそめ、またある者はただ「はんっ」と煩わしげに鼻を鳴らした。

そんな事は彼らにとって日常なのだ。

何人もの若く有望な命が、この世界に憧れ、入り、そして散っていく。

散りゆく中にほんの一握り、生き延び、諦めず、命を燃やして成長を遂げた者こそが、やっとそれなりの冒険者として扱われるような、厳しい世界だ。

もっとも、意識を向けたその大半は、この子供が成長し、活躍する様など想像してはいない。

その瞳に宿るのは純然たる憐憫か、そうでなければ奇異である。


「はい。新規の冒険者登録ですね。こちらの用紙に記入をお願いするのですが、読み書きは可能ですか?代筆料は角銅銭1枚でございます。」


「だ、代筆で…」


パライさんが言っていた通り、受付の人は新しい登録者に慣れているようで、ニコリと笑って応えてくれた。

僕は周りからの視線に縮こまりながらも、何とか声を絞り出す。

予めパライさんから受け取っていた、銅銭を1枚差し出す。

受付のお姉さんは、やはりニコリと笑ってそれを受け取ると、ペンを手にして僕に質問をする。

名前と年齢、性別、現在のレベルとジョブ。


「ニケ・オッドウィン。年齢は14で、男です。ジョブは、えっと、道具屋見習いです。レベルは…2です。」


僕の言葉を聞きながら、お姉さんは淀みなくペン先を紙面に走らせる。

ちなみに、男だと言ったところで館内の面々が少しざわつき、受付のお姉さんにまで、やや懐疑的な視線を向けられてしまった。


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