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第32話 リュウさんは新しい物好き

翌日は休息日にして買い物に出かけるというので、僕も連れて行ってもらうことにした。

 ゴーリー大森林には相変わらず規制がかけられているし、死者の祭儀場(ダンジョン)には魔法が使えない僕では、手も足も出ないゴーストが出没する。

 そういう理由で単独行動するわけにもいかず、なおかつ昨日の限定依頼で多少懐に余裕ができたこともあり、僕も買い物についていくことにしたのだ。

 都市ニュートンを滞在5日目にして、やっと散策することになった。


  「うひょーーーー!!見ろ見ろアゼス!これ、つい最近開発された、全自動無限魔製水生成器だぜ!

  あっ、アレは!!おわぁぁぁ!見てくれゴーシュ!この革袋、最新技術で作られた、拡張空間式の大容量サックだ!

 いーなぁ、欲しいなぁぁ!」


  彼が口にする商品名は、もはや僕にとって呪文の域に達していたが、それは僕だけではなく、アゼスさんとゴーシュさんも同じらしい。

  呆れたため息を吐き「こうなるとは思っていた……。」と半ばあきらめている様子だ。


  「しばらく我慢していてたんだし、多少は許してあげようか……。」


  アゼスさんがそう言ってから、もはや()()なんて言葉はどこかに消え去るほどの時間、こうしてはしゃぎまわっている。

  あれで疲れないのだろうか……。

  休息日とは?と思わず疑問を抱いてしまうほど、リュウさんは生き生きと走り回っていた。


  数刻後、僕らは道具屋に来ていた。初めて入る道具屋に僕は興味津々で。

 所狭しと並べてある品物に、服をひっかけたりしないよう気を付けながら、店内を順番に眺めていた。

  リュウさんはと言うと、いい加減に耐えかねたらしいアゼスさんの拳骨(げんこつ)をくらい、伸びてしまったまま、ズルズルと引きずられて強制的に道具屋まで連行されていた。


  今は意識を取り戻し、アゼスさんの近くで「頭が痛い」とぶつくさ文句を言っている。

  用途のわからない沢山の道具たち。そのどれを見ても、最大で手のひらサイズまでしかなく、冒険者の荷物がかさばらないよう、開発されてきたことが(うかが)える。

  会計カウンターのすぐ隣には大きめの戸棚があり、そのなかには回復薬や解毒薬といった薬品類が整然と並べられていた。

  残念ながら、僕にはどれがなんの薬品なのか、まったく見当もつかないが。

  というか、薬品屋は別であったのに、どうして道具屋でも売っているんだろうか。


  「そりゃ 道具屋に来れば、基本的な冒険者用の道具は揃うぜ。 けど、専門性ってやつがあるだろ?

 より高い効果のある回復薬が必要だったり、あとは自分で調合するような奴らは、道具屋より薬品屋に行った方が、必要な物が揃うんだ。あっちなら薬品用の素材も売ってるしな。」


  アゼスさんが一切取り合わないので愚痴を言うのを諦めたのか、リュウさんが僕の疑問に答えてくれる。

  そのアゼスさんはというと、店主に値引きの交渉を行っている様子だ。


  「逆に、丈夫なロープが欲しいとか、ダンジョンから緊急脱出できる【帰還の笛】が欲しいってときは、薬品屋なんかには売ってなくて、道具屋に来た方が手に入る。大体わかったか?」


  「は、はい!ありがとうございます。」


  「うんうん、ニケは素直でいい子だな。どっかの口うるさい青髪(アゼス)とは大違いだぜ。」


 「リュウ。今日の夕飯、リュウだけ無しだからね。」


 「えっ、ちょっ!聞いてたのかよ!悪ぃって、な?許してくれよ。なぁ、アゼスってば!」


 道具屋の次は、防具と武器を見に来た。

 パライさんと行った武器屋や防具屋とは大違いで、大通りに面した明るくて大きな店だ。

 ガラス張りのショーケースの中には、甲冑や籠手など、様々な防具が並べられている。

 その隣の武器屋も同様だ。


  「ニケは、何か新調する?」


  「い、いえ……、そんなに戦闘もしてなくて、壊れたりとかしてないので……。」


  「ニケは育ち盛りだろう。すぐにサイズは合わなくなる。体に合わない防具を身に着けるのは、(かえ)って危険だ。

  もし違和感を感じたら、壊れていなくてもすぐに買い替えた方がいい。」


  「な、なるほど……。でも、今のところ、その……、問題は、なさそうです。ありがとうございます。」


  彼らはタンク役のゴーシュさんの防具だけを新調し、防具屋を出た。どうやら、金銭的に余裕がなかったらしい。

  リュウさんの剣を、より強い物に買いなおす予定らしく、他の防具はあきらめていた。

  防具屋の隣に店を構える武器屋は、それはもう厳つい店員さんが店番をしていた。

  アゼスさん曰く、強盗などに入られると大問題になるので、腕利きの冒険者を雇ったり、元傭兵を雇ったりして店番をさせるのが普通らしい。

  あまりにも恐ろしかったので諦めそうになったが、僕は今日、目当ての物があった。


 「あれ?ニケ、あんなに強そうな短剣持ってるのに、もう一本買うの?もしかして、スケルトンとの戦闘で、刃こぼれしたとか?

  直せそうな鍛冶屋さん、連れて行ってあげようか?」


  厳重に保管された短剣を繁々(しげしげ)と眺めていたら、アゼスさんに声を掛けられた。

  リュウさんは自分の剣を買うのだからと、ゴーシュさんに意見を聞きつつ、しっかり吟味(ぎんみ)しているようだ。


 「あ、いえその……。実はこの短剣、貰い物なんですけど、強力な毒を持ってるんです。

 レベルの低い僕じゃ、掠ったらほんの数分で死んじゃうんだそうです。それが怖くて……。」


 「そうだったのか 諸刃(もろは)(つるぎ)ってやつだね。よし、それなら僕も一緒に選んであげるよ。」


  アゼスさんは、自分やリュウさんの買い物よりもいくらか楽しそうに、僕の短剣選びを手伝ってくれた。

  途中からはゴーシュさんと、自分の剣を選び終えたリュウさんも混ざり、ついには(いか)つい店主まで協力してくれて、一本の短剣を購入した。

  購入費用は今日の夕飯代を(ほむら)の巣に甘えて、やっと捻出(ねんしゅつ)した金額だった。けれども初めて自分のお金で、自分のために買った装備は、とても輝いて見えた。

  今日みんなが一緒に選んでくれたという事実も合わさって、思い出の一本となったのだった。


  エリスさんの宿に戻り、今日の宿泊代を払ってから、いつもの部屋でベッドに座り込む。

  窓から見える夜空は、村で見ていたのよりいくらか瞬きが減っていたが、それでも僕の目にはより美しいものに見えた。

  今日購入した短剣を、すらりと(さや)から出してみる。

  両刃の小さな短剣は、その身に深い夜の様な紺青(こんじょう)(たずさ)えている。対照的な赤いグリップと、シンプルなガードがお気に入りだ。

 月明かりに照らすと、鋭く光を反射する。

 僕はこの街に来た初日のように、素振りをしてみた。何度も何度も、この短剣が僕の手に馴染むまで。

 集中しすぎて時間を忘れていたらしい。

 いつの間にか街の喧騒はすっかり消え失せ、深夜特有の静けさが漂っていた。

 散々素振りをしたが、やはり何かが足りないという気分は、晴れなかった。いったい、兄さんの動きと僕の動きは、何が違うのだろうか。

 たしかに兄さんの動きをなぞっていると思うのだが、それでも()()()が足らなかった。

 やめよう。いくら考えても、答えは出る気がしない。

 僕は暑くて開けていた窓を閉め、硬いベッドへ潜り込むと、静かに目を閉じた。


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