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第30話 死者の祭儀場

 「よーし!今日も稼ぐぞ!」


 リュウさんが気合を入れて(こぶし)を天に突き上げる。それに対して「はっ、はい!」と慌てて答えるが、対してアゼスさんとゴーシュさんはやや呆れ気味だ。


「ニケが一緒に来るからって、緊張してるんだよ。先輩としていいとこ見せなきゃってね。ダンジョンに一緒に潜るのは初めてだから。」


 アゼスさんが、そうこっそり耳打ちして教えてくれるが、どうやらリュウさんにもその声は聞こえていたらしい。

 振り返ったリュウさんは、ぷっくりと頬を膨らませていた。


「おい、アゼス!余計なこと言わなくていいっ!」


「ははは、聞こえちゃった?」


 いたずらに笑うアゼスさんは、恐らくわざと聞こえる声量で言って、からかっているんだろう。

 そんなじゃれ合いに静止をかけるのは、いつもの(ごと)くゴーシュさんだ。

 今日はダンジョンに行くということで、森へ行く時とは反対に位置する門を抜ける。


「都市ニュートンはゴーリー大森林と、これから行くダンジョンの間にあって、加えて両方とも距離がかなり近いんだぜ。

 だからこそ、多方面から人や物資が集まってくるだ。つっても、今のところ難易度の低いダンジョンしか確認されてないから、あんま強い冒険者は来ないんだけどな。」


 リュウさんが道すがら、解説してくれる。

 彼は新しい物が好きだから、「開発と発展の都」とまで言わしめるこの都市、二ュートンについて、そうとう詳しいらしい。

 お店の前を通るたびに、そのお店の品物や店主について解説してくれるのだが、それについては、アゼスさんやゴーシュさんも(うな)るほどの博識を見せていた。


「ほらリュウ、もう着くんだからその辺にしておいて。」


「お、そうだな。」


 アゼスさんの静止で、リュウさんの話にうんうんと興味深く聞き入っていた僕も、姿勢を正す。

 彼の言葉通り、そう時間のたたないうちに、ダンジョンの入り口らしきところにたどり着いた。

 らしき、と表現したのにはわけがある。


「あ、あの……、ここが入り口……ですか?」


「ん?そうだけど……、どうかした?」


 突然現れた巨大な岸壁。そこを沿うようにして歩いてきたわけだが、その壁に突如として現れたのが、明らかに人工物を思わせる遺跡の入り口だった。

 中をのぞき込めば、すぐに階段があって、その最下段を太陽が薄く照らしている。

 僕が知っているダンジョンの入り口と言えば、パライと一緒に行ったあのダンジョンだけだ。

 不自然に構えられた石の扉と、中を覗くことができない暗闇(くらやみ)。そしてその扉を開くためには、特殊な文言と行動が必要だった。

 だからこそ、ダンジョンの入り口と言えば、そういった不可思議な力の働くものを想像していた。

 そのことを三人に伝えると「なるほど」と、僕の疑問を理解し、解答をしめしてくれる。


「ダンジョンって、実は入り口やその入り方に何通りもあって、膨大過ぎて未だにパターン化されていないんだ。

 それでね、このダンジョンは、特に何の制約もなく入れるんだよ。」


「そうそう。例えば、専用のアイテムが必要だったり、そのニケが入ったっていうダンジョンみたいに開錠するための言葉が決められていたり、一定の動作が必要だったり……。

 まぁ、その複合なんてケースが一番多いんだけどな。」


「一般的には、難易度の高いダンジョンほど入場方法は困難かつ複雑だと言われている。」


「そ、そうなんですね……。えっ、じゃあ、どうやってみなさん、それぞれのダンジョンの入り方を知るんですか?全部覚えているとかじゃ……、ないですよね?」


 もっともな疑問だと、3人が頷く。

 どうやら冒険者から上がってきた情報を研究する、専門の組合があるらしい。

 そこから冒険者組合の各支部にもたらされた情報は、資料書や地図といった形で保管され、受付に頼めばいつでも見せてもらえるらしい。


 また、組合支部のみならず、大きい街だと図書館に置かれて誰でも自由に閲覧できたり、本屋や道具屋に情報誌が売り出されていたりと、情報の入手方法は様々だそう。


「だから、新しい街に到着したら、まず真っ先にその街の周辺情報を集めるんだ。」


 そういえば、夜に翌日の行動を決める際、必ずアゼスさんは周辺地図と小さな冊子を机に広げていた。

 あれはそういった情報を、パーティー内で共有するためだったらしい。


「依頼が無事に終わったら、ニケも購入するといい。アレは役に立つ。

 今後も新たな街に着いたとき、お金に余裕があるならば、一冊は買っておけ。」


 ゴーシュさんがアゼスさんの説明に付け足した。そうだったのか、と僕は相変わらずの無知さに恥じらいながらも、丁寧な説明にお礼を言った。


 さて、長々と話し込んでしまったが、なにもダンジョンの前で立ち話をしていたわけではない。


 【死者の祭儀場】


 そう呼ばれるこのダンジョンは、その名に(たが)い無く、主にスケルトンとマミーが出現し、時折幽霊のような魔物であるゴーストも現れるそうだ。

 時折とはいえ、ゴーストは物理攻撃が効かないため、ゴーストとの戦闘ではほとんどアゼスさんに任せきりになるのだとか。

 必然的に、魔法を主たる攻撃手段としているアゼスさんの負担が大きくなるのは、避けられない。


 その内装は砂岩の通路に、あちこちに掘られた壁画が目立つ、「遺跡」や「祭壇」といった命名がぴったりな内装だ。

 砂岩の色が明るいためか、パライさんと探索したベケット神殿跡地よりも、多少明るい印象を受ける。

 その通路を進みながら、(さき)(ほむら)の巣の解説を聞いていたのだった。


「お、聞こえるぞ。目当てのスケルトンだ。」


 聞き耳を立てるリュウさんに(なら)うと、確かにコロンコロンと小気味のいい軽い音が聞こえてきた。

 これが、スケルトンの移動する音なのだとか。


 彼らは、骨が剥き出しのせいで移動するときに、骨同士がぶつかり合い、軽い衝突音を絶えず鳴らしている。

 そのおかげで、接敵に気付きやすいという特徴がある。

 今回焔の巣が受けた依頼は、「できるだけ多くスケルトンの骨を拾ってきてほしい」という内容だった。


「スケルトンには、物理攻撃が効くからね。ここは、ゴーシュとリュウに任せよっか。」


「あ、はいっ。」


 アゼスさんが、僕を守るような位置取りをして笑いかけてくれる。

 本日初の戦闘に、身を固くして緊張していた僕は、そんなアゼスさんの行動に心底ほっとして、胸を撫で下ろした。

 スケルトンは錆びた片手剣を持っていたけれど、動きは遅鈍(ちどん)でそこに意思など感じられない。

 当然二人も余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)といった様子で、あっさり切り伏せた。


「あれなら、僕も倒せるかも……。」


 そんな呟きが自然と漏れていた。ところが、たった数瞬後には僕はその台詞を後悔した。


「あ、確かに。スケルトンは最弱の魔物の一種として数えられるから、ニケでも大丈夫かもしれない。ニケ、次は君が倒してみる?」


 独り言のつもりでぼそっと呟いただけだったが、アゼスさんの耳にはしっかり届いていたらしい。

 せっかく戦闘に参加しなくて安心していたのに、自分の余計な一言で意図せず窮地に立たされてしまった。

 あぁ……、自分の馬鹿……。


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