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第16話 花園の裏切り者

 暖かい紅茶を出してくれて、一口飲むとやっと体が震えてきた。

 逃げるのに必死で、体が恐怖を忘れていたらしい。


「……怖い思いをしたのですね。もう大丈夫ですよ。 

 この場所は、ゼノン市街地で最も安全な場所と言っても過言ではないですから。なにせ普段から戦闘ばかりしている、冒険者たちが一番集まっている場所ですもの。」


 女性職員は、暖かい笑みを浮かべてくれた。

 もう間も無く支部長が到着するので、一緒に詳しい話を聞くらしい。

 それまでになんとか話せるまでには落ち着かないと……。


 なんて考えていたら、すぐに支部長が来てしまったらしい。

 控えめなノックの後に「支部長がお戻りです。」の声と共に、ドアが開かれる。

 入ってきたのは白いハイウェストのスキニーに白いブラウス、白いレイピアを携帯した全身白の男性だ。

 

「初めまして。私が冒険者組合ゼノン市街地支部長を任されているハロ。ハロ・ウイリーだ。君がニケ・オッドウィンだね。

 挨拶もそこそこで申し訳ないが、一刻を争う事態だ。早速本題に入らせていただく。」


 ハロ・ウイリーと名乗った支部長は、どかっと音がするほど荒く彼女の隣に腰掛けながら言った。


「ホルン、例の手紙を見せてくれ。」


 お茶を入れてくれた女性職員は、ホルンというらしい。

 名前を呼ばれた彼女は、僕が持ってきたトルマリンさんの手紙を、ウイリー支部長に渡す。

 顔色を変えずに静かに読みきった支部長は、手紙をホルンさんに返した。


「ニケ君は、文字が読めなくて内容を認知していないのだったね。ホルン、読み上げて。」


「かしこまりました。それでは。

『冒険者組合の職員に宛る

 

  この手紙を持つ者――ニケ・オッドウィンは、黒の花園のメンバーであるパライ・マリンに追われているため、保護を要請する。

 また、裏3番街の【宵闇の雲】は黒の花園が運営する宿屋であることをここに告発し、冒険者の派遣を同時に要請する。

 我々花園の裏切り者が、パライ及びその他花園のメンバーと交戦している可能性が高い。

 可能であれば、救援を求む。


 黒の花園 ジュエリー所属 トルマリン』

 以上が、手紙の内容でございます。」


 ホルンさんが読み上げてくれた手紙には、簡潔に僕の保護と彼らが交戦している場所、救援要請が書かれていた。

 ジュエリー?



「ご苦労。ニケ君。手紙の内容は以上だ。この手紙に書かれていることについて、何か知っていることはあるかな?」


「えっ……と、あの……。す、すみません、僕は何も……というか、黒の花園ってなんですか?どうしてあんなにみんな取り乱していたんですか?」


「……黒の花園を知らないのかい?そうか。黒の花園っていうのはね、とても有名な犯罪組織だよ。」


 曰く、太古の昔からある犯罪組織で、起源は不明。

 そのトップも、構成も、所属人数も、目的も、その全てが不明。

 ただし、彼らは犯行現場を去る時に必ず【黒の花園】が行なった犯行内容を告げてから、去るそうだ。

 理由はわからない。彼らの力を誇示するためか、存在を主張するためか、または他に目的があるのか。

 全てが謎に包まれている。


「ただね、今回君が持って来た手紙のように、組合や公的機関に直接知らされるようなことは、一度もなかった。

 民間人や冒険者を介して、後から判明するというパターンが常でね。それに、手紙の内容を見るとトルマリンと名乗る人物は、自分を『花園の裏切り者』だと称している。

 加えて言えば、この手紙では今回犯した犯行について触れていない。異例な事態だよ。」


 ウイリーさんは表情を硬くして、僕へ問いかけてきた。


「よければ、彼らに出会った所から、今回の事件に至った経緯を聞かせてくれないか。」



「は、はい。えっと、僕は、レンブラントの村出身で――」


 支部長さんに、これまでのことをすべて話した。

 村で出会って「冒険者にならないか」と誘われたこと。

 彼らのおかげで、初めてミストを吸収できたこと。

 市長の死を知ってから、パライさんの動きを不審に思っていたこと。

 パライさんに防具と武器をもらったこと。

 彼の目的が「僕を奴隷化すること」だったと判明したこと。

 トルマリンさんが手紙を渡してきたときの様子。

 そして、


「その、僕は、みんなに逃がされたんです。みんなが……宿の人とか、パライさんとかを必死に止めてくれて……。

 あ、あのっ!み、みんなはどうなるんでしょうか……?」


 僕は正直、走っているときの記憶が曖昧だ。逃げることに集中しすぎていたんだろう。

 ただ、トルマリンさんを筆頭に、パーティのメンバーたちが命がけで僕を逃がしてくれたこと。

 それだけは鮮明に焼き付いている。

 どうか、生きていてほしい。

 あのパライさんの大喝を思い出すと、もしかしたらもう……なんて考えてしまう。


「ニケ君、落ち着いて。今は連絡をまとう。

 この街にいる実力派の冒険者たちが皆、【宵闇の雲】に集結している。そんなことがあってすぐで辛いだろうに、話してくれてありがとう。

 しかし、()()()()()()()()()()()()()か……。

 ジュエリーというのは、組織の構成単位の可能性が高いな。いままで全く情報がなかった組織だが、これはもしかしたら、組織を暴く糸口になるかもしれない。」


「そうですね。報告書にまとめて、組合の上層部に提出しておきます。」


 二人は少し難しい表情を見せたけれど、今はそんなことよりも、僕を逃がしてくれたみんなが無事かどうか、それだけが気になっていた。

 そのまま3人とも無言になり、僕が沈黙に耐えきれずそわそわし始めた頃、支部長さんが身につけていた腕輪の宝石が光りだす。

 すると、そこから声が聞こえてきた。


「支部長、こちらはダム。報告します。数分前に我々は【宵闇の雲】に到着。ただし、建物内部は、既にもぬけの殻でした。人も、死体も、家具類もありません。

 裏庭には手紙にあった『花園の裏切り者』と思われる、女2、男1の計3名が丸太に縛られ、(さら)されていました。

 到着後は救護活動を優先しておりましたため、報告が遅くなり申し訳ありません。

 現在容体は安定しています。また調査班の報告によると、至る所に戦闘の痕跡が見られるそうです。

 追跡班からの連絡は未だなし。現時点での報告は以上です。」


 その内容に僕は、思わず立ち上がった。3人が無事だったことに喜んだからか、少なくとも2人犠牲が出た可能性に、血の気が引いたからかは、僕自身にもわからない。

 支部長さんは短く「わかった。次の連絡を待つ。」とだけ言って、宝石の発光は止まった。


「生存者がいたのは朗報だが……。果たして、吉と出るか凶と出るか。」


 ウイリーさんが視線を天井に移してため息をつく。

 そしてホルンさんも、不安げな面持ちでうなずいた。



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