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勝利の女神は微笑まない~最弱だった僕が神になるまでの軌跡~  作者: あろ
第4章 ジェフティ・トートリス
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第101話 はじめての魔族

「――っ!!私の魔力を込めた壁を!?」


師匠は大きく薙刀(なぎなた)を振り抜き、女を遠く飛ばして距離を取る。


重力が少ないかのように、フワリとやわらかく降り立った女は、四肢を地面に付きまるで獣の様な構えで僕らを()め付けた。


師匠が咄嗟(とっさ)に手放した杖を、僕は慌てて拾いあげて、震える手を誤魔化すように強く構える。

遅れてヒロも、剣を鞘から引き抜いた。


女のフードが風に煽られ、素顔が(あら)わになる。

女はーー 人間ではなかった。

耳は獣のそれが頭頂部に生え、手足には異様に鋭い爪を携えていて、白磁の肌からは要所要所に毛が生えている。


「フーーーーーッッ!!!!

 コレだから人間は!!!!!! 平気で嘘を吐いて(おとし)める!

 もういい……! いいわ、八つ裂きして喰ってやる!!アタシの養分になれこのゴミクズドモめが!!!!」


ガチンッ!!

ドドドド!

バキンッッ!!!


四方から音()聞こえて来る、だというのに女の姿が見えないーーいや、追えない。

僕の目では、その動きを捉えきれていないんだ。

それはヒロも同じの様で、師匠だけが唯一、獣の女の攻撃を防いでいる。


女は脚力が高いのか、四方の壁や床を蹴るたびに ゴッ! ドゴッ!! と鈍い音を響かせているが、その音が聞こえる頃には既に次の床に手足を付いている始末だ。


バリッ


「いっっつ……」


嫌な音と共に、師匠から血が噴き出る。


「師匠!!??」


「ちょっと引っ掻かれただけだ! それよりお前ら、私の道具袋からありったけの薬を出せ!

 ニケは効能がわかるはずだ、バフを掛け(ステータスを底上げし)ろ! 早くしないと死ぬぞ!!」


「は、はい!」


師匠の声は焦りに満ちていた。

師匠が敵の強さを見誤った……? いや、違う。

例え100%負けると分かっていたとしても、賢者の石を他人に渡すわけにはいかないんだ。


『賢者の石は、世界の理に干渉する』


それがどれほどの大事かはわからないが、錬金術師としての誇りと執着心だけは人一倍に高い師匠に、「実在してほしくなかった」とまで言わしめた存在だ。

師匠としては自分もまけ、弟子二人を失う可能性と天秤にかけても、賢者の石を奪われないことの方が重要だということ。


そして一か八かを狙って奇襲をしかけた。


奇襲が失敗した今、この脅威を前にして僕らに出来ることは無いに等しい。

(わら)にもすがる思いで、師匠の道具袋をひっくり返し、あらゆる薬を僕とヒロに振りかけていく。


その間にも女の猛攻は続き、師匠も息を切らしてきた頃、ようやく僕らも自分の身を守る程度には反応できる様になった。


それを警戒してか、女は再び距離を取る。


「はぁ、はぁ……。

 その見た目、この強さ、そして何よりより残忍な方法で殺してやりたいと思わせる嫌悪感。

 テメェ、まさかとは思うが、――()()、だな?」


魔族


その単語に僕とヒロは疑問符を浮かべる。

魔物(モンスター)とは違い、聞き慣れない単語だった。


「あら、よくご存知ね。 ほんっと、人間ドモのその知識への貪欲さだけは尊敬するわ。 嫌気がするほどに。」


女は愉快そうにクスリと笑い、外套(がいとう)を脱ぎ捨てる。

その下から現れたのは、人間よりも獣に違い体躯と、毛に覆われた腕と脚、そして腰からは人間にはない長い尾が生えていた。


「おいおい、もしかしてこの世界って獣人は全部、敵な感じ?」


「師匠、魔族ってなんですか? 魔物とは違うんですか??」


「ん、授業はあとで、なっ!!」


再び向かってくる猫女を薙刀で弾き飛ばし、師匠はそう答える。

けれども、僕らは防戦一方で、対して魔族の女は余裕があり、どこか痛めつけて弄んでいるような雰囲気さえある。


自分たちを薬漬けにドーピングしてこの力量差。

薬やアイテムの効力が切れた時のことは、あまり考えたくない。


その後も杖で防壁(バリア)を貼り、短剣で攻撃を逸らし、ヒロもなんとか盾と剣で身を守る。

師匠もスキルを使いすぎたのか、動きが鈍くなっていく。


「くっ……『風雷刃(ふうらいじん)』!!」


「んふっ、甘いわねぇー。 当たらないと意味無いわよ?」


間合いは師匠の方が広いはずなのに、女は(ことごと)く攻撃をかい潜り、逆にこちらは致命傷とまではいかずとも、傷が増えていく一方だ。


「師匠……! このままじゃ、どうしようも……。」


弱音を吐く僕に、師匠は怒鳴りつける様に答える。


「っせぇぞ馬鹿弟子!手を動かせ!

応援は呼んであるんだ、助けが来るまで耐えろ!!」


いつの間に呼んだのか、と思ったがそれを認識していなかったのは魔族の女も同じらしい。

耳を一瞬ヒクつかせると再び距離を取り、なにやら思案しはじめた。


それを好機(チャンス)と捉えたのか、ヒロが走り出してしまう。


「っ――! バカ!!!!」


キンッ、と短い金属音。


次いで聞こえたのは、液体の溢れ出る音。


「ゴフッ……。」


「――っっ??!!し、師匠ーーっ!!!!」


僕は『瞬発』のスキルで詰め寄り、(ほう)けているヒロと師匠を、魔族の女から引き離す。

直後彼らのいた所に、女の蹴りが炸裂して彼女の足が地面にめり込んでいた。


「師匠、師匠!!」


「ゴフッ、ゴポポ」


師匠は肺を片方やられたらしい。

喋ろうとするたび、詰まった排水溝のような音と共に、口からも胸元からも血が(あふ)れ出ていた。

女を見ると、師匠の体を突き刺したその右手から、大量の血が滴っていた。


「あっ、あ…… じ、ジェフ、師匠……」


ヒロはフラフラと揺れる瞳で、顔を真っ青にして立ち尽くしている。

その体は情けなく震え、嫌な汗をだらだらと流していた。


「ふぅん……?心臓を刺したと思ったのにねぇー。

 薙刀の柄で軌道を逸らすなんて、中々やるじゃない。

でももうお遊びは終いよ。応援とやらが来る前に、殺してあげるわ。」


「――っ、ヒロ! ヒロしっかりして!!

 僕が師匠の回復をする間、アイツを足止めして!」


「むり、ムリだニケ……!無理だ……!!」


ヒロはガタガタと震えだし、自身の体を抱いて(うずくま)ってしまう。


「もう遊びは終わり」と宣言した通り、先ほどと打って変わって急所を執拗(しつよう)に狙って来る女を、なんとか短剣で弾いていく。ヒロが立ち直ってくれなければ、全滅まで時間の問題だろう。


「ヒロ!!! 師匠は今ならまだ助かるかも!ヒロってば!!」


「ムリだ、俺には出来ない……むr――」


ゴッッ

 

無理だ無理だと連呼していたヒロは、鈍い音を立てて地面に這いつくばった。

一瞬目をチカチカとさせていたが、その攻撃の出ところを知るなり、驚いて固まった表情のまま()()()に目をやる。


「ジェフ……師匠……」



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