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タイムイズアップ



『こんぶ』の言う通りその部屋は不思議な部屋だった。

部屋の真ん中には太い柱があり、そこには不思議な模様が刻まれいる。

そして柱を囲むようにして、ドーナッツみたいな形をした台があり、幾つもの燭台が置かれている。


ユラユラと炎が揺らめきながら柱を照らすさまは、不気味で異様で幻想的でもある。

壁は上半分くらいは石のようなものが交互に積み重ねられており、下半分には何処かの民族的なタペストリーが隙間なく何枚も吊るされるように飾られていた。


「なるほどね、確かに何かを祈る場所なのかもしれないわね」


天井までかなりの高さがあり、そこには天窓が開いている。

天窓から時折風が吹いて、それが外の明かりと炎の明かりを混ぜるように、柱を照らしていた。


「ここで風に祈れば、何か起きるのか?」


『レタス』の言葉に、『モモ』が反応して両手を合わせて祈りだす。

『タマゴ』のことを『モモ』は真剣に想い、目を閉じて祈りを捧げる。


その光景に、周りは黙って優しく見守る。






だが、何もおきない。


「どーして……私、真剣に祈ったよ……」


そう言って『モモ』は項垂れる。


「……ここじゃなかったのかも」


フォローのつもりなのか、『こんぶ』が『モモ』に声をかける。


「だなー、他を探しみようぜ!」


それに『レタス』も合わせてきた。

なるべく『モモ』が元気になるように、明るく声をかけている。


「うーん。何か引っかかるのですが、なんでしょうか?」


『大根』はこの部屋に違和感があった。

あのヒントとこの部屋は合ってる気がするのに、何かが違うような漠然としたものだ。


なるべくこう言った事は言わないつもりだったのに、それでも『大根』はこれがとても大切な事に感じて、誰かに伝えるべきだと思っていた。


「そーね。私も何か気になるわ」


『ウメ』が『大根』に同意する。


「だがよ、ここで祈っても何も起きなかったじゃないか」


『レタス』は『モモ』のことを考えて、代わりに2人に言った。


「……カタカナだから、区切る場所が違うとか?」


カゼタチイノリソトヘノミチの言葉を思い出しながら、『こんぶ』が言う。


「分かりやすく漢字と平仮名で書いて欲しかったですね」


「ナイフで壁に漢字は時間かかりそうだがな」


『大根』の希望は『レタス』が却下した。


「…………分かったかもしれない」


『モモ』が呟くように言った事は、皆んなに期待を持たせた。


「なにかしら?」


「ずっと不思議だった、なんで風を複数形みたいに風達って言ってるのか。でも、複数形じゃなくて風と断ちなら、風を防ぐ事が重要なんじゃないかな?」


「それだ!」


「ああ、多分それが答えなんだ」


「です!」


「えー。それで合ってると私も思うわ」


皆んなが『モモ』の言葉に応える。

そして見上げる場所には、遥かな高さにある天窓だ。


「あーいうのって、普段の開け閉めをどーやってしてるのでしょうね?」


『大根』の疑問点がそのまま希望への道標となる。


「生憎、天窓のある家には住んでなかったな」


「俺だってそーだ」


「私にもさっぱり分からないです」


『モモ』と『ウメ』だけ何か考えている。


「おい、なんか知ってるのか?」


「……電動スイッチだった」


『モモ』の答えは多分外れなんだと、皆んな思う。

それよりも、天窓のある家に住んでいたのかの方が気になっていた。


「とりあえずタペストリーをめくりながら、スイッチとか探してみるか」


「おう!」


「ですねー」


「うん」


4人は壁にいくと、次々とタペストリーをめくりながらスイッチを探す。


「あったか?」


「こっちには無いな」


「こちらもダメです」


「無いわね」


そんな4人を見ながら、『ウメ』は入り口まで歩くと、扉の両脇にあるロウソク立ての1つを持って倒した。



ガチャ



なにかの歯車が噛み合わさる音がして、そこから何かが動く音がし出す。

そしてゆっくりと天窓が閉まっていった。


その光景を見た『レタス』が4人の想いを代弁して言う。


「知ってるなら、初めからしてくれ!俺たちがバカみたいだろ」


「その可能性もあったもの。玄関の取っ手部分が明らかに通電してたから、他にも電動のものが有っても不思議だとは思わないわ」


そんな事をすっかり忘れていた4人だったが、とりあえず目的を達成した事を喜ぶことにした。


「この後、どうなるのでしょう」


「なんか機械的な音がしたし、天窓だけじゃなく別の何かも動いたのかも」


「別の何かって?」


「なんでしょうか?」


「ハッキリ言ってくれ」


『こんぶ』の曖昧さに、段々慣れてきた皆んなは次々とツッコミする。


思わず冷や汗をかきそうになった『こんぶ』だったが、その頬を優しく風が触れた。


「……ん?」


「なんだよ?」


『こんぶ』の不思議そうな顔を見ながら、皆んなは呆れていた。


「ねえ、今風を感じなかったかしら?」


『ウメ』の言葉で冷静さを取り戻した皆んなは、直ぐに辺りを見回した。


出入り口の扉は閉めてある。

天窓も閉まっている。


なのに風を受けたなら、何処かにあるばすだと。


「あ、あそこ!」


『モモ』がそう言って指差した場所は、タペストリーの一枚が風に揺れていた。

そこに皆んな駆け寄りタペストリーをめくりながら見ると、壁が外へと倒れて幅の広いプールのジャンプ台みたいなっている。


ある程度のゆとりをもって、5人ともそこに立つ事が出来る広さだ。

そこから上に壁に沿って螺旋状に階段がある。


誰ともなく皆でそこを上がった。


屋根の上に登ると、滑りおちないように慎重に天辺を目指した。

そこには太いワイヤーが何処かに繋がっている。屋根の天辺から森の上を通っており、ロープウェイみたいに見えるが、その方向は霧が出ており真っ白な中にワイヤーは姿を消してしまう。


「これを使って向こうにいけるんじゃないか?」


『レタス』は言う。

足を絡ませ、手の力で進めば何とかなると思ったのだ。


「私なら途中で力尽きて落ちる自信ならあるんだけど!」


『モモ』がクレーム気味に『レタス』に言った。


「私もです」


『大根』もここは見栄を張る場面ではなかったらしく、素直に言う。


「あのカーテン使えないかしら?」


『ウメ』が何を言ってるのか理解した『こんぶ』は、「ちょっと持ってくる」と言い残して、直ぐに取りに行く。


かなり距離がある為、皆んなはそこで暫く待っていると、若干息を切らしてる『こんぶ』がカーテンを畳んで、それを身体に縛り付けながら屋根に戻ってきた。


「カッコイイわ」


その姿を見て『ウメ』は思わず口にしていた。

あまりそう言う事を言われてこなかった『こんぶ』は、どう反応して良いのか分からず、とにかく照れ臭そうにしていた。


「はいはい。で?それを使ってどーするのよ?」


その空気を読んだ『モモ』が聞いた。


「そうね。これをワイヤーを通した状態で結べば、何人か乗って行けるんじゃないかしら?」


早速言葉通りに作業をした『レタス』と『こんぶ』は、完成したそれを満足そうに見る。


ロープウェイに見えなくもない。

かなりお手製な物だったが。

ただ問題は、多分乗れても3人って事だった。


「ここは、女3人で良いんじゃねーか?」


「ああ、そーだな」


『レタス』がした提案に『こんぶ』も同意見だった。


「それなんだけど、私は残るわ」


『ウメ』が言う。


「は?なんでだよ。せっかくここまで来たなら、皆んなで脱出しようぜ!」


「そーです」


「ええ、ここは私たち3人で乗って、男共には頑張って貰うべきね」


「ああ。俺たちなら大丈夫だぞ」


最後に『こんぶ』が精いっぱいカッコつけて言う。

その様子に、少し微笑みながら『ウメ』は話しを続けた


「可能性の話なの。もしコレで逃げれたならそれで良いし、ダメだとしても別ルートがあるかも知れないでしょ?だから、ここで全員一緒にってのは避けるべきだと思うわ」


その『ウメ』の言葉に何も言う事が出来なかった。

『こんぶ』を除いて。


「ならこれには『モモ』と『大根』と『レタス』が乗るべきだな」


「なんでよ?」


「ここから下に伸びたロープの先がガスっているせいで先がどうなってるか分からない。もし途中から上に上がってたとき『レタス』になんとかしてもらう」


「だったら……いや、分かった」


『レタス』は反論しかけたのをやめた。

『こんぶ』がなんでそんな事をわざわざ言ったのか、それを考えたら『こんぶ』の気持ちを無碍には出来なかった。


『レタス』も『モモ』も『大根』も、そして『こんぶ』も皆んな短い時間だが一緒にいて思ったことは、『ウメ』は多分、別の何か言えない事情があって、わざとそう言う言い方をしてる気がしたのだ。


そしてその『ウメ』の側に『こんぶ』がいると言うなら、任せるべきだと『レタス』は感じた。


「なら、一足お先にここからおさらばするぜ!」


「ちょ、なんでフラグみたいな事を言うのよ!」


「あり得ないです」


そんな3人を見ながら、2人は笑顔で見送る。


念のため何重にも結んだカーテンは、太いワイヤーを滑りながら徐々に加速して、アッと言う間に真っ白な景色の中に消えていく。


「このロープをつたって貴方も逃げていいのよ?」


「ははは。それだと、リスクの分散にならないな。で、本当はなんで残ったんだい?」


『こんぶ』のツッコミに思わず『ウメ』はやってしまったと顔にだす。

まさかこの土壇場で、整合性の合わない発言をうっかりしてしまうとは。


どうやら『こんぶ』が残ってくれた事が、思った以上にとても嬉しかったらしい。


「ここじゃなんだから、とりあえずおりましょう」


慌てて聴くのも変なので、『こんぶ』は言葉に従ってジャンプ台の場所まで降りてきた。


色々と疲れが溜まっていたのか、『こんぶ』はそこにしゃがみ込み、胡座をかいて座る。

その様子を見て、『ウメ』も一緒になって座った。


なんとなく見つめ合う2人。


ローケーションだけなら幻想的で、いいムードなんだろうが、2人にはとてもそんな気分には、なれなかった。


ただどちらから言葉を発するか、それをお互いに見ながら決めようとしていたのだろう。


そして『ウメ』が話し出した。


「私ね、実は年の離れた姉が居たんだけど随分と昔に姉と一緒に遊んでたら、突然姉が消えたわ。神隠しって言うのかな……でも、もしここが原因だとしたら、私にはそれが許せないの。だからね、どーせならここを燃やしてしまおうかと思ったの。でも、時間は多分ほとんど無いから、皆んなにはちゃんと逃げて欲しいって気持ちもちゃんとあるわ。だから、その……」


「いーんじゃないかな」


『こんぶ』はそれも良いと本当に思った。


「やっぱりあの壁の文字かな?」


せっかくなので『こんぶ』は聴くことにした。


「どーして分かったの?」


「んー、なんとなく」


「フフフ。なんだか気が抜けてしまうわ。でも正解ね。あの文字を見て、昔見た姉の文字を突然思い出したの。もちろんアレが本当に姉が書いたとかは分からないけど、やっぱりなんかね」


姉がどうなったかは聴く気がなかった。

戻って来ないなら、そう言うことなんだろうと『こんぶ』は思った。


「燃やすとして、何処から火を付けるか?」


「フフフ。なんだか放火犯になった気分ね。炎の特性を活かすなら、一階からつけるべきなんだけど、時間を考えたら二階からって感じかしら。御誂え向きに、沢山の炎が灯った燭台がここにあるもの」


「ならコイントスで決めてみるのも一興だな」


『こんぶ』は財布から硬貨を取り出すと、表と裏を『ウメ』に見せた後に、親指で弾いて宙に放った。



2人はクルクルと回転しながら落ちてくる硬貨を見つめている。



その時だ





ゴーーーーーン





ゴーーーーーン








鐘の音が聞こえ続ける。

どうやら時間切れだ……



【レタス】

サンドウィッチやハンバーガーなど、肉系やトマトなどとはかなり相性がいい奴。

もちろんサラダにも欠かせない存在だが、主役にはならない。

むしろメインを引き立てる、名脇役的な奴。一人ぼっちは似合わない。


【大根】

すりおろす事で、焼き肉や焼き魚との相性抜群になる。

ツマとして刺し身にも欠かせないし、サラダにも合わせることが出来る。

おでんならメインとも言えるかもしれない奴。

ただし、時期によって辛い時と甘い時に分かれる面もある。


【モモ】

単独でメインになる我儘なお姫様。

ありとあらゆる食材とは、かなり相性が悪い。

だが例外もある。

桃のカスタードタルトみたいに、何かのきっかけがあるとタマゴとの相性が抜群に変化する。

だからこそ、モモにとってタマゴはどこまでも特別な存在だったりする。

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