表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

なんで僕が異世界に!?

「とうとう今日だ…今日に今までのすべてがかかってる」

 寝ぼけ眼をこすりながらスマホに目を向ける。SNSのTLを目では追ってはいるものの内容はまったくもって頭に入ってこない。というのも今日2月20日は大学の合格発表の日だ。僕は昨年の失敗を糧にこの一年ずっと…ちょっとは遊んだけど、それは許される程度のものであって勉強に集中するには必要なものだった…まあ一年間ずっと受験勉強にいそしんでいたわけだ。母さんや父さんにこれ以上迷惑をかけないためにもやはりここで合格してしまわないといけない。手ごたえはあるし自身もある、だけどなぜか心に残る不安を理由に僕は布団からでられないでいた。

「さっさと起きて発表前に朝ごはん食べなさい」

階段の下からいつも通りの母さんの声が聞こえる。どこか僕の心は安心し、寝起き姿のまま階段を下った。ただ今日は合格発表という一大イベントをこなし、合格証書を片手にみんなに祝ってもらって幸せな大学生活への期待に心躍らせながら一日を終えるはずだった…はずだったんだ。



「…ハァ…ハァ…うっ…痛い…割れる…」

 今までに感じたことのない頭痛によって、地面と空とがはっきりしないほどに入り混じった視界によって吐き気を催し僕は倒れた。さっき食べたばかりの寿司が食道のあたりにいることがわかる。今にも出てきそうだ。サーモンかな鮪かな死ぬのかな…思考がまとまらない、状況が整理できない。

「大丈夫か…!おいキビ!キビ助!」

 誰かの声が頭の中で強く響く。ぐるぐると溶けているのは視界なのか脳なのか。口から何か出てきた。止めようがない。不可逆的嘔吐である。それが原因かはわからないが少し落ち着いた気がした。たぶん鮪だしどこかもったいない気がしたのでそ口から出た個体を残り僅かな体力で握りしめた。手がべたべただが仕方がない。

「キビ助!死ぬなよ…くそっ」

あぁやっとわかった。この声はイヌワシの声だ。

「僕は死んだのか?死んでいるのか?」

僕は絶え絶えの息の中から言葉を繰り出した。

「死んでねぇよ馬鹿野郎。起きれるか?」

この声、彼は泣いているのだろうか。泣いてくれる友を持ったことがこれほど心強いと知れたのは一生ものの経験だ。だが彼には伝えないでおこう。調子に乗るからだ。

「しゃあねぇ、担いでやるから吐きたくなったら言えよ。だけどくれぐれも俺の背中で吐くなよな」

彼はそういって俺を担いだのだった。安堵からか僕は眠気に襲われた。

 僕はどれほど眠っていたのだろうか。僕の起床に彼も気づいたようである。

「やっと起きたか寝坊助のキビ助。動けるか?少しまずいことになった」

あたりを見回して僕はこの状況は理解した。

「ありがとうイヌワシ、おろしてくれ」

「お前が無事になったのならよかった」

「無事かどうかはここをこの状況からどうやって抜け出すかだけどな」

頭痛が消えた安堵により少しの冷静さを取り戻した一方、今の状況に対して焦りを覚えている。オオカミのような生き物が僕らをじっと睨みつけている。数にして1匹だがオオカミだ。

「あっそうだイヌワシって生物学専攻だっけ?オオカミからの逃げ方って教わらないの?」

「教わんねーし生物学専攻だけど基礎的なことしかしてないって。そうだ、お前動画でサバイバル術みたいなの見てただろ、何とかしてくれよ!」

「オオカミなんて犬みたいなもん…か。オーケーやってみよう」

「まじかよ。でも危なくなったら全速力で逃げるからな」

僕はずっと握りしめていた手を開いた。この匂いで逃げてくれるなら上々だ。

「まじかよ。お前それ…」

「この際、吐瀉物だろうが使えるなら使うしかない。もったいないけどやってやるよ」

「もったいないってお前それ食べる気だったのか?」

彼の怪訝な人ならざるものを見る目を横目に僕はオオカミに近づいた。どうか神様この獣を追い払ってください。

「グルルルル…」

オオカミは一歩後ずさりしたが、何を思ったのか僕の方に近づいてきた。僕はオオカミの彼と見つめ合った。

「キビ助…逃げるぞ!危険だ!」

イヌワシは僕に叫んでいるようだった。だけど不思議な感覚である。彼に対する敵意が突然失われた。彼はこの吐瀉物…鮪を食べたいのだろうか。

「おいキビ助!…くそっ」

イヌワシが走って近づいてくる。僕はなぜか感じ取ったこの好機を逃すまいとして彼のもとに近づいた。一歩また一歩と彼と僕との距離が近くなる。

「キビ…お前」

イヌワシは何かを悟ったのか立ち止まった。

「…クンクン」

彼の鼻息が手に当たる。生暖かい。そう思っていると彼はその鮪に口を付け始めた。彼にとってまぐろフレークなんだろうか。おいしそうに食べる。食べ終わると彼は僕を見つめる。

「すまないな。もうないんだ」

僕もなぜか彼に謝っていた。よくよく見ると犬みたいだ。彼はその場に伏せた。無性に撫でたい欲望が抑えきれず撫でてしまった。かわいいのだ。

「お~いイヌワシ!かわいいぞ~」

僕がイヌワシに呼び掛けた。

「どんな虫ついてるかわからないし触るのはやめておけよ」

遅い。もう触ってしまったと言おうとした時である。森の中から子供の声と大量の足音が聞こえた。

「子供の声と…四足の動物だな。かなり多い」

神妙な面持ちでイヌワシは推測する。

「グルゥ…」

オオカミの彼もまた警戒色を発している。

「追われているのかな。助けに行く?」

「バカ言え、こっちはここがどこかもわかんねぇし、この狼だってどうするんだ」

イヌワシの言うことも当然である。しかし事態は急を要した。足音がこっちに向かってきているのだ。

「これってもしかして…まずい」

「まずい!」

イヌワシと意見が一致した。珍しいことだ。と思った矢先、森の中から二人の子供と大勢のオオカミが出てきた。

「ワン!」

オオカミの彼は真っ先に群れの中に突っ込んでいった。

「くそ!子供を守るぞ」

同意である。イヌワシは少女を、僕は少年を覆うようにしてかばった。しかしかばったのは果たして正解だったのだろうか。手を引っ張って逃げた方が安全だったのではないかと思考を巡らしていると、彼であろうオオカミがこちらに飛んできた。いや飛ばされたのである。

多勢に無勢では勝ち目がない。

「君だけでも逃げてくれ」

オオカミの彼にそう言ってみたはいいもののかれは一向に動こうとしない。動物に人語は伝わらないものなのだ。当然だ。しかも彼は僕をかばおうとしてくる。その行動は恩を返すつもりなのだろうか。しかしもう駄目である。諦めかけた、いや諦めていたその時であった。

―銃声が響き渡った―

威勢の良かったオオカミたちが一歩また一歩と後退していく。

―銃声が響き渡った―

二度目の銃声が響くや否や腰抜けたオオカミたちは散り散りに逃げ去った。安堵には新たな不安がつきものなのだろうか。どうしてか彼が逃げないでいる。オオカミの彼だ。困ったものだここで再びの銃声とともに死なれてしまっては後味が悪い。僕は少年の代わりに彼を撃たせまいと庇った。

『ボッツ~無事か?』

銃声の方面から低いおっさんの声が響いた。

『無事だ!ガロン!無事だ!』

ポッツと呼ばれた少年は大きい動作をして無事であることを表現した。僕には彼の言っていることがわからないが、僕は彼に対し視線を送り続けた。ポッツ君は賢い。理解したようである。

『もう撃たなくていい!』

『撃たなくていいたぁどういうことだ?後ろにもう一匹オオカミがいるじゃねぇか』

『とにかく撃たなくていい!事情は後で話す!』

ガロンという男と集団は首をかしげながら銃を下した。

「ポッツ君、ありがとう」

僕は感謝の意を示した。

『「ありがとう」…?』

ポッツ君は何かひっかる反応をしたが、僕はイヌワシに近づいた。

「大丈夫かイヌワシ?」

「大丈夫だ。少女にもけがはない」

僕たちは安堵から緊張が解けどっと疲れた気がした。

「村、きて。休む」

ポッツ君はなぜか日本語を知っていた。

「ありがとう」

僕はうなずく動作とともに感謝の意を述べた。

「けがはないか…」

聞き覚えのない声とともにオオカミの彼が足元にやってきた。僕は彼を見た後、イヌワシを見た。彼もまたそうであった。話したのである。動物が言語を。怖い.






はじめまして~


ハーレム物の異世界もいいですが、たまには人間臭い物語なんてどうでしょうか。

週1ペースで上げていくのでぜひブクマしてくださいね('ω')


この世界は謎だらけ。異世界は現世とは異なるのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ