1: 少女の心を盗む
俺の名前はジャッカル。世界で最も有名な盗賊だ。俺の名前を知らない奴はこの世にはいない。……なんて、そんな事を思ってた時期が俺にもあった。俺は見つけてしまったんだ。この世で俺の名前を知らない奴を
「おじさん……誰?」
……それは、首に首輪を付けた子供だった。
そう、奴隷の子供だった。
―――――時を遡って数時間前!!――――
盗賊のジャッカルは今日も今日とて盗みをしっかりと働いていた。目標は王都にある貴族の屋敷に飾られてある宝石。価値はなんと金貨何千はくだらないと言われるお宝だった。
ジャッカルはサッと貴族の屋敷に潜入し、サッとお宝を盗んで帰る途中だった。
そんな彼の帰り道に目にした光景は、飲んだくれの男に蹴られている泥にまみれた汚い少女だった。
ジャッカルはすぐには助けようとしなかった。何故なら、彼女の首には奴隷の首輪が着いていたからだ。
彼は奴隷の少女をずっと見ていた。男に蹴られ続けて血を吐いて倒れ込む少女をずっと見続けた。そして、男が蹴り飽きて少女から離れるのをずっと待った。
暫く待つと、男がこちらに気づいた。男は、少女の首を掴み上げてこっちに寄ってきた。
「あんちゃん!そんな所で見てないで一緒に蹴ろうや!コイツ、いい声で泣くから蹴るのが病みつきになるんだぜ!へっへっへっ!」
男の口から出てきたのは酒臭い口臭と汚らしい豚の言葉だった。それを聞いた途端、彼の中で何かが壊れた音がした。
「ハハっ!そいつは面白そうだな!じゃあ、俺も蹴らせてもらおうかな?」
「おう!あんちゃんわかってんねー!!ほら蹴ってみろよ!」
そう言って、男は少女を地面に投げ捨てる。
ジャッカルは男を見つめたまま少女の方には目を向けない。
「どうした!あんちゃん!まさか怖くなっちまったか?大丈夫だ!相手は奴隷だぞ、気にしなくても捕まりはしないぞ!」
「ん?あぁ、いや。そうじゃないんだ。俺が蹴りたいのは……」
そう言ってジャッカルは男に向けて殺意を込めた目で見つめた。
「てめぇの柔らかそうな身体の方だよ!」
「……!?カハァッ!」
ジャッカルは靴の裏に刃が着いた靴で思いっきり男の腹を蹴った。スパッと腹が切り裂かれて血が溢れ出る。
「おぉ!いい声で泣くじゃねぇか!最っ高だなこりゃ!病みつきになる!」
その後もジャッカルは男の腹を蹴り続けた。
男の命が尽きたとしても彼の心の中で壊れた何かは暫くの間治ることはなかった。
暫く蹴り続けた後、落ち着きを取り戻したジャッカルは男の顔を見る。いや、男だった物はもう顔を残していなかった。一つの肉塊へと変わっていた。
「へっ、ザマァみろや。クソ豚が」
最後にぺっと唾を男に吐き、彼は少女の元へと向かった。
少女は、虫の息だった。今にも死んでしまいそうな程に弱っていた。そんな少女の最後を見届けようと、彼は少女の近くに座って見つめ続けた。少女は震えている。何故、震えているのかは彼にも分からなかった。ただ、一つだけ言えることがあった。少女は最後の力を振り絞って、何かを伝えようしていた。
「お……ねが……い……」
弱々しい声で少女は言う。
「…………なんだよ」
彼は少女の言葉に耳を傾けた。その言葉には、とても小さな愛があった。
「み……みん……なを……買ってあげて……」
その言葉に男は驚いた。少女は、自分を助けてと言わずに他の奴隷を助けてと言った。その言葉を聞いた彼……ジャッカルはニヤリと笑って少女に手をかざしてボソボソと何かを呟いた。
「偉大なる神の癒し」
彼がそう呟くと、少女の身体からは傷が消えた少女は一瞬驚いたが、すぐにクタリと眠ってしまった。
「これを使うのも何年ぶりかね。もう使うことも無いって思ってたんだどねぇ……人生ってのは分からないもんだな……ケッ!」
そう呟いた彼は、少女を背負って自分の家に帰宅した。少女を背負った時、彼の中ではとある一つの事を決意していた。
帰宅した後は、家の布団で少女を寝かせてその傍で座って少女が起きるのをひたすらに待った。
――――数時間後―――――
「んぅ、うぅ……ん?」
「よぅ、気分はどうだ?」
少女が眠りから覚めた。彼は元気そうな姿を見て少しだけ安堵した。
「おじさん……誰?」
起きたばかりの少女はこちらを見てそう呟く。
彼はその言葉を待っていた!と言わんばかりの表情で少女の前で自己紹介をした。
「俺の名前が知りたいか!いいだろう!
俺の名前はジャッカル!ジャッカル・トレイナーだ!世界で有名な盗賊様だぞ!」
腕を組んで少女に自己紹介をする。少女はポカン……とした表情をしていた。
「ごめんなさい……誰ですか?」
「はぁ!??」
少女の言葉に彼は困惑した。自分の名前を知らない奴がまだこの世にいるなんて彼は思ってもいなかったからだ。
「お、俺の名前を知らないってんのか……?」
「ご、ごめんなさい!お、覚えますから!殺さないでください!何でもします!死ぬ以外なら何でもしますから!」
早口で少女は言う。少し動揺していた彼が少女の顔を見ると、少女の顔からポロポロと涙が零れていた。それを見た彼が、慌ててハンカチで涙を拭おうとすると少女は「ひっ……」っと怖がって後ずさる。
「く、首絞めなら自分でやります!出来ます!手間は掛けさせません!だから、どうか……!」
「お、落ち着け!俺は、お前みたいなガキにそんなイカれた考えは持ってねぇ!何より俺はお前を奴隷として扱うつもりはない!」
彼の発言に少女は一瞬固まる。少女は言われた言葉の意味に理解出来ず固まってしまったようだ。
「奴隷として……扱わない?」
「そ、そうだ。とにかく落ち着け。後、涙拭いてくれ。」
怯える少女から少し距離を取り、彼は手に持っていたハンカチを少女の近くに置いた。
「あ、貴方がそこまでしてくれる意味は……何なんですか?私みたいな奴隷を奴隷として扱わないなんて、どういうつもりなんですか……?」
少女は怯えた声で男に向かって聞く。それを聞かれたジャッカルは「はぁ。」っとため息を吐いて少女にゆっくりと近づき、頭に手を置いてそっと撫でた。
「ガキは尽くすのが仕事じゃねぇ。笑うのが仕事だ。てめぇみたいなガキはこの世にはいらねぇ、それが俺の考えだ。文句あるか?」
少女を撫でながらジャッカルはそう答える。
それを聞いた少女は、ジャッカルの目を見る。目付きは怖い。だけど、瞳の奥を除けば優しさがとても詰まっているように感じた。
「………………ないです」
そう呟いた少女をジャッカルは鼻で「ふんっ」と笑った。
「よく分かってんじゃねぇか。賢いガキは嫌いじゃないぞ」
その後、少女は再び眠りについた。泣き疲れてまた眠ってしまったようだ。
少女を寝かせ付けた後、その安心したような寝顔を見てジャッカルは決意した。
「俺が生きている間は誰にも俺の名前を知らないなんて言わせねぇ……。特に、世のガキ共に教えつけてやるぜ。このジャッカル様がどれだけ恐ろしい盗賊なのかってことをよ!」
自分の名前を再び世に知らしめること。そして……
「そして、世の中のガキ共を幸せにしてやるぜ!!」
ジャッカルの手が届く中で苦しんでいる子供を幸せにすることを彼は決意した。
こんばんちゃ!書いてる中で楽しくなってしまい、とてもごちゃごちゃした文になってしまいましたごめんなさい。とはいえ、自分では満足しちゃってるのでこんな感じで進めていこうかなと思います!二日……いや、三日に一つあげれるように頑張ります!